2024年問題で深刻化する運送業界の人手不足。その解決策として注目されているのが、2024年に新設された特定技能「自動車運送業」です。
しかし要件が複雑で、採用に踏み出せていない企業も少なくありません。
本記事では、外国人側・企業側それぞれの要件と採用の流れをわかりやすく整理します。
- 特定技能ドライバーに必要な試験・日本語・免許の要件
- 受け入れ企業が満たすべき認証・協議会加入などの条件
- 採用開始から就労までの具体的な流れと注意点
1.特定技能ドライバーとは何か、制度の基本を理解

特定技能ドライバー制度は、運送業界の深刻な人手不足を解消するために2024年に新設されました。
採用を検討する前に、まず制度の全体像と対象となる業務区分、受け入れ規模の見通しを正しく理解しておくことが重要です。
特定技能「自動車運送業」は2024年に新設された最新の在留資格
特定技能とは、深刻な人手不足が続く特定産業分野において、一定の専門性・技能を持つ外国人材の就労を認める在留資格です。
2019年4月に創設されて以来、段階的に対象分野が拡大され、2024年3月の閣議決定で「自動車運送業」が正式に追加されました。
参考:出入国在留管理庁 特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)
制度創設から5年を経て追加された分野であり、物流業界にとっては「開国」とも言える歴史的な転換点です。2024年12月から試験・申請受付が段階的に開始され、2025年3月から本格運用が開始されました。
同年6月時点での在留外国人数はわずか10名に留まっており、制度の空洞化が課題となっています。
現時点では特定技能1号のみが認められており、在留期間の上限は通算5年です。特定技能2号(在留期間の上限なし・家族帯同可)への移行はまだ認められていませんが、今後の追加が期待されています。
なお、雇用形態は直接雇用のみで、派遣での受け入れは認められていません。
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対象となるのはトラック・タクシー・バスの3区分
特定技能「自動車運送業」では、以下の3つの業務区分での受け入れが認められています。
運送事業の区分と主な業務内容
| 区分 | 事業の種類 | 主な業務内容 |
|---|---|---|
| トラック運送業 | 貨物自動車運送事業 |
|
| タクシー運送業 | 一般乗用旅客自動車運送事業 |
|
| バス運送業 | 一般乗合・貸切・特定旅客自動車運送事業 |
|
いずれの区分においても、外国人ドライバーは運行管理者等の指導・監督のもとで業務に従事します。
また、その会社に雇用されている日本人ドライバーが通常行う関連業務であれば、外国人ドライバーも付随的に従事することができます。
今後5年で最大2万4,500人の受け入れ見込み
国土交通省の運用方針によると、自動車運送業界全体では2024年度からの5年間で約28万8,000人の労働力不足が見込まれています。
内訳はトラック運送業が約19万9,000人、タクシー運送業が約6万7,000人、バス運送業が約2万2,000人です。
DX化や労働環境整備などによる国内人材確保の取り組みを行ってもなお不足するとされる最大2万4,500人を、特定技能外国人の受け入れ上限としています。
参考:国土交通省 自動車運送業分野における特定技能外国人の受入れについて
こうした制度整備の背景にあるのが「2024年問題」です。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が適用され、一人当たりの稼働量が減少したことで輸送力の不足が顕在化しています。
経済産業省の調査によると、1割の事業者がドライバー不足を理由に実際の輸送を断られた経験があると回答しており、人手不足の深刻さは数字に表れています。
特定技能制度は、こうした構造的危機を乗り越えるための国家的施策の一つです。
参考:経済産業省 物流の2024年問題による輸送力不足の実態調査を実施しました
2.外国人ドライバーに求められる要件は区分によって異なる

外国人が特定技能ドライバーとして日本で働くためには、
- 評価試験の合格
- 日本語能力
- 運転免許の取得
という3つの要件を満たす必要があります。ただし、要求水準はトラック・タクシー・バスの区分によって異なるため、自社が雇用しようとしている区分の要件を正確に把握することが重要です。
特定技能1号評価試験への合格がすべての区分で必要
外国人が特定技能「自動車運送業」分野で働くためには、「自動車運送業分野特定技能1号評価試験」への合格が必須です。
この試験は一般財団法人日本海事協会が実施しており、2024年12月から申請受付が開始されました。
2024年12月の試験開始以降、累計合格率は70%前後で推移しており、人材の供給可能性は十分に見込める状況です。試験の概要は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 一般財団法人日本海事協会(ClassNK) |
| 試験形式 | 学科試験および実技試験 |
| 実施方法 | 出張方式(会場でのペーパーテスト)・CBT方式(テストセンターでのコンピュータ試験)の2種類 |
| 試験言語 | 日本語 |
| 受験料 | 国内:5,000円(税抜)/海外:37米ドル |
| 合格証明書発行手数料 | 14,000円(税抜) |
| 出題内容 | 運行業務・荷役業務等に関する内容 |
出張方式の場合は、受験料に加えて試験監督者1名分の旅費・宿泊費が申請者側の負担となります。複数名をまとめて受験させる場合に向いている一方、CBT方式は個人で柔軟に受験できる利点があります。
試験の最新日程や詳細は、日本海事協会の公式サイトで確認してください。
日本語能力の要件は区分ごとに水準が異なる
特定技能ドライバーに求められる日本語能力は、業務区分によって以下のように異なります。
| 区分 | 必要な日本語レベル | 備考 |
|---|---|---|
| トラック運送業 | N4以上 | 変更なし |
| タクシー運送業 | N3以上(N4への緩和を検討中) | 2025年6月に有識者会議で緩和案が提示 |
| バス運送業 | N3以上(N4への緩和を検討中) | 同上 |
タクシー・バス区分でN3以上という高い水準が設定されているのは、乗客との直接コミュニケーションが業務の中核を占めるためです。
一方で、2025年6月の有識者会議では、合格者ゼロの現状を打破するため、N3からN4への緩和案が提示されました。
これは2025年4月末時点でバス・タクシー運転手の評価試験合格者がゼロという状況を受けた措置で、採用に消極的な企業が64%・懸念理由1位が「日本語力(66%)」という現場の声への対応でもあります。
N4レベルで就労する場合は日本語サポーターの同乗が義務付けられる予定で、早期のN3取得が促されます。制度改正の最新動向は随時確認するようにしましょう。
日本の運転免許の取得が必須であり、特定活動ビザで準備できる
特定技能ドライバーとして就労するには、日本の運転免許証の取得が必須です。
来日時点で日本の免許を持っていない外国人には、「特定活動(特定自動車運送業準備)」という在留資格を活用することで、免許取得の準備をしながら日本に在留する道が用意されています。
これは実務上の非常に重要な「橋渡し制度」であり、知らずに見落とすと採用計画が大幅に狂う可能性があります。
| 区分 | 特定活動ビザの在留期間 | 期間中に行えること |
|---|---|---|
| トラック運送業 | 6か月(更新不可) | 教習所への通所・運転免許取得手続き・車両清掃等の関連業務 |
| タクシー・バス運送業 | 1年(更新不可) | 教習所への通所・運転免許取得手続き・新任運転者研修の受講・関連業務 |
特定活動での在留期間は特定技能1号の通算在留期間には含まれないため、免許取得後は速やかに特定技能1号への在留資格変更申請を行う必要があります。
また、母国で運転免許を取得済みの外国人は、外国免許切替(外免切替)手続きで日本の免許に転換することも可能です。
第二種免許(タクシー・バスに必要)の試験は2024年から20言語に対応しており、2025年からは教習時間の短縮により最短3日での取得も可能になっています。
これはスリランカやインドネシアなど、日本と同じ左側通行・右ハンドル国の出身者は適応が早い傾向にあるためです。
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3.受け入れ企業に求められる独自の上乗せ条件

特定技能外国人を受け入れるには、どの分野にも共通する基本要件(法令遵守・適切な雇用契約・支援体制の整備など)に加えて、自動車運送業分野特有の上乗せ要件を満たす必要があります。
これらの要件を満たしていなければ、いかに優秀な外国人ドライバーを見つけても採用することはできません。
道路運送法に規定する自動車運送事業者であることが前提条件
特定技能「自動車運送業」の外国人を受け入れられるのは、道路運送法第2条第2項に規定する「自動車運送事業」を経営している事業者に限られます。
道路運送法第2条第2項 定義
この法律で「自動車運送事業」とは、旅客自動車運送事業及び貨物自動車運送事業をいう。
参考:e-Gov
具体的には、日本標準産業分類において「43.道路旅客運送業」または「44.道路貨物運送業」のいずれかに該当していることが必要です。
運送事業を営んでいれば通常は該当しますが、自家用輸送みを行っている企業などは対象外となるため注意が必要です。また、雇用形態は直接雇用のみが認められており、派遣での受け入れは不可です。
「働きやすい職場認証」またはGマークの取得義務
自動車運送業分野では、受け入れ企業が以下のいずれかの認証・認定を取得していることが義務づけられています。
| 認証・認定名称 | 実施主体 | 利用できる区分 |
|---|---|---|
| 運転者職場環境良好度認証制度(働きやすい職場認証) | 一般財団法人日本海事協会 | トラック・タクシー・バス全区分 |
| 安全性優良事業所認定(Gマーク) | 全国貨物自動車運送適正化事業実施機関 | トラック運送業のみ代替可 |
この認証・認定は、事業用自動車の運行管理と従業員の労務管理が適切に行われていることを証明するものです。
特に重要なのは、この認証・認定を取得していなければ、特定技能協議会への加入申請自体ができないという点です。
採用を検討している企業は、まず自社の認証取得状況を確認し、未取得であれば最優先で申請手続きを進める必要があります。
自動車運送業分野特定技能協議会への加入は在留資格申請前に
国土交通省が設置する「自動車運送業分野特定技能協議会」への加入は、在留資格の申請前までに完了させておく必要があります。
協議会は、特定技能制度の適切な運用を図るために設置された機関であり、受け入れ企業はその構成員として制度の趣旨遵守・情報共有・調査への協力などの義務を負います。
加入手続きは国土交通省のWebサイト上のGoogleフォームから行うことができます。
ただし、届出内容の確認・受理には最大1か月程度かかる見込みのため、採用スケジュールに余裕を持って早めに申請することが不可欠です。
加入が認められると担当者メールアドレス宛に「協議会構成員資格証明書」が送付され、この証明書が在留資格申請時の必要書類の一つとなります。
入力ミスや不備があるとさらに時間がかかるため、登録番号や担当者情報は慎重に確認してから送信しましょう。
タクシー・バス区分では新任運転者研修の実施は企業の義務
タクシー運送業およびバス運送業で特定技能外国人を受け入れる場合、受け入れ企業は「新任運転者研修」を実施することが義務づけられています。
研修では日本の交通ルール・サービスマナー・乗客対応などを習得させ、外国人ドライバーは研修修了後に初めて実務に就くことになります。
トラック運送業では新任運転者研修の義務はありませんが、入社後の継続的な安全運転指導を計画的に行うことが強く推奨されています。
参考:出入国在留管理庁 自動車運送業分野の「特定技能1号」になるための準備活動(日本の運転免許取得又は新任運転者研修の修了)を希望する場合(「特定活動」(特定自動車運送業準備))
4.外国人ドライバーを採用するまでの具体的な流れ

特定技能ドライバーの採用は、準備から就労開始まで最短でも4〜6か月を要します。
手続きを滞りなく進めるためには、全体の流れを把握した上で、逆算してスケジュールを組むことが不可欠です。
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外国人採用には特有の法的手続きが伴います。募集から入社後の届け出まで、企業が辿るべき5つのステップと最新の注意点を、2026年度の最新情報を踏まえてこちらの記事で詳しく解説します。確実な採用活動の指針としてご活用ください。
採用準備4〜6か月を要することを前提に計画を立てる
特定技能ドライバーの採用は、準備開始から就労開始まで4〜6か月程度を見込む必要があります。
外国人が日本の運転免許を未取得の場合は特定活動ビザの期間(トラック:6か月、タクシー・バス:1年)がさらに加わるため、早ければ早いほど有利です。
協議会の加入証明書の発行だけで最大1か月かかることを考えると、「採用したい時期」から逆算して動き出すことが必須です。
現在2025年から本格運用が始まったばかりで、制度を活用している企業はまだ少数です。今が先行者優位を確保するチャンスといえます。
採用フローは「企業要件の整備→人材探し→在留資格申請→就労開始」の順で進む
特定技能ドライバーの採用は、以下のステップで進めます。
Step1:企業側の要件整備
「働きやすい職場認証」またはGマーク(トラックのみ可)を取得し、自動車運送業分野特定技能協議会への加入申請を行います。この2つが揃わないと次に進めないため、最初に着手すべき最重要ステップです。
「働きやすい職場認証」等の取得は、協議会への加入申請そのものの前提条件になります。
Step2:人材の探索・選考
人材紹介会社や現地の教育機関を通じて候補者を探します。初めて外国人を採用する場合は、外国人採用に精通した人材紹介会社の活用が効率的です。左側通行・右ハンドルの国(スリランカ、インドネシア、マレーシアなど)出身の人材は日本の交通ルールへの適応が早いため、特にドライバー職では優先的に検討する価値があります。
Step3:雇用契約の締結
採用する外国人ドライバーと雇用契約を締結します。雇用契約においては、日本人の正社員と同等以上の待遇を確保することが法的義務であるため給与・各種手当・昇給・休暇など、日本人の正社員と同等以上の労働条件が必要です。
条件を伝える際はやさしい日本語やビジュアル素材を活用し、認識のズレが生じないよう丁寧に説明しましょう。
Step4:在留資格の申請支援
運転免許をすでに保有している場合は「特定技能1号」の在留資格認定証明書交付申請を、未取得の場合は先に「特定活動(特定自動車運送業準備)」の申請を行います。
書類の準備・申請手続きは複雑なため、登録支援機関や行政書士のサポートを積極的に活用することを推奨します。
Step5:研修実施と就労開始
タクシー・バス区分は新任運転者研修を実施してから就労を開始します。トラック区分でも、近距離・シンプルなルートから始めて徐々に業務範囲を広げるステップアップ計画を立てることが、安全管理と早期戦力化の両立につながります。
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外国人採用では、パスポートや在留カードの確認から雇用契約書、行政への届け出まで、準備すべき書類が多岐にわたります。こちらの記事では入社前後の各フェーズで必要となる書類をリスト形式で網羅しました。漏れのない準備のためにご活用ください。
5.受け入れにあたって事前に知っておくべき注意点

要件を満たして採用を進める中でも、支援体制の整備や費用負担、入社後の指導方法など、見落としがちな実務上の注意点があります。
トラブルを未然に防ぐために、採用前に確認しておくべきポイントを解説します。
外国人ドライバーへの支援体制を自社で整備できない場合は登録支援機関を活用
特定技能外国人を受け入れる企業には、外国人への生活支援・相談対応・行政手続きサポートなど幅広い支援業務の実施が義務づけられています。
この支援を自社で行う「自社支援」と、専門機関に委託する「登録支援機関への委託」の2つの選択肢があります。
直近2年間に外国人労働者の受け入れ実績がない企業は、自社支援が認められず、登録支援機関への委託が必要です。初めて外国人を採用する運送会社のほとんどがこのケースに該当します。
登録支援機関への委託費用(月額2〜5万円程度)を採用予算に事前に組み込んでおくことが重要で、書類作成・ビザ申請サポート・生活支援など幅広く対応してくれます。
採用コストの一部として予算に組み込んでおきましょう。一
方、すでに外国人雇用の実績があり社内体制が整っている企業は、自社支援を選択することでコストを抑えることも可能です。
運転免許の取得費用は受け入れ企業が負担することが望ましい
外国人ドライバーが日本の運転免許を取得する際の費用(自動車教習所の費用など)は、受け入れ企業が負担することが望ましいとされています。
明確な法的義務ではありませんが、外国人材にとって免許取得費用は大きな経済的負担です。
企業が費用を負担することは、採用競争力の向上と定着率の改善に直結します。
普通免許で20〜30万円程度、第二種免許ではさらに費用がかかるケースもあるため、採用予算の計画段階から組み込んでおくことを推奨します。
外国人ドライバーが日本の交通文化に慣れるまで段階的な業務移行が重要
外国人ドライバーの母国と日本では、交通ルール・道路標識・運転マナーが大きく異なる場合があります。
左側通行・右ハンドルの国(スリランカ、インドネシア、マレーシアなど)出身の人材は比較的適応が早い傾向がありますが、それでも日本独自の習慣(歩行者優先意識・細い路地での運転作法など)への慣れには時間が必要です。
入社直後から長距離ルートや難易度の高い業務を任せるのではなく、近距離・シンプルなルートから始めてステップアップしていく段階的な業務移行計画を立てましょう。
入社後も継続的な安全運転研修と個別指導を行い、運転技術とリスクマネジメント意識を高める取り組みを継続することが、事故リスクの低減と職場定着の両面で重要です。
6.まとめ:特定技能ドライバーの要件を整理して採用準備を始めよう
特定技能「自動車運送業」は2025年から本格運用が始まったばかりで、制度を活用している企業はまだわずかです。
今動き出せる企業には大きな先行者優位があります。
まずは認証取得状況の確認と協議会加入の準備から始め、不安があれば登録支援機関への相談が最短ルートです。