人手不足が深刻化するビルメンテナンス業界において、外国人材の活用は持続的な事業運営のための重要な経営課題となっています。
本記事では、特定技能「ビルクリーニング」の制度概要から業務範囲、受入企業の要件、採用費用、長期定着のポイントまで詳しく解説します。
- 特定技能「ビルクリーニング」で任せられる業務の境界線と注意点
- 受入企業が満たすべき3つの厳格な要件(営業所登録・協議会加入・支援体制)
- 採用にかかる費用相場と特定技能2号を見据えた長期定着・キャリアパス構築法
1.特定技能「ビルクリーニング」とは?人手不足を打開する制度の基本

ビルメンテナンス業界では高齢化と人材不足が深刻な課題となっており、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れが急速に進んでいます。
制度の基礎知識と活用メリットを解説します。
ビルメンテナンス業界における人手不足の現状
ビルメンテナンス業界における労働力不足は、単なる一時的な求人難ではなく、構造的な問題として急速に深刻化しています。
厚生労働省の統計によると、ビル清掃員の有効求人倍率は2.34倍(令和6年度)に達しており、全職種平均と比較して突出して高い水準にあります。
さらに、現場に従事する労働者の高齢化も進んでおり、平均年齢53.27歳という実態があります。
全国ビルメンテナンス協会が実施した調査においても、売上原価に占める人件費率が約80%に達する中で、人手不足による受注機会の損失や現場負担の増大が報告されています。
このような厳しい環境下において、政府は特定技能制度におけるビルクリーニング分野の受け入れ見込み数を設定し、人手不足解消に向けた大規模な外国人材の受け入れを推し進めています。
出典
出入国在留管理庁 ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針
ビルメンWEB 令和5年賃金構造基本統計調査結果の概況(厚生労働省)
全国ビルメンテナンス協会「第55回ビルメンテナンス企業経営実態調査」
特定技能1号と2号の違い
特定技能制度は、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2階建て構造となっています。
ビルクリーニング分野においても2023年の制度改定により、2号への移行が可能となりました。両者の大きな違いは、求められる技能水準と在留条件にあります。
特定技能1号は、相当程度の知識または経験を有する外国人を対象としており、通算での在留期間は最長5年間と定められています。
1号では家族の帯同は原則認められておらず、受入企業または登録支援機関による手厚い生活・就労支援が義務付けられています。
これに対し、特定技能2号は、現場の複数作業員を指導・管理する「インスペクター(現場管理者)」相当の熟練した技能を持つ外国人を対象としています。
2号に移行すると在留期間の更新上限がなくなり、要件を満たせば配偶者や子供などの家族を日本に帯同することが可能となります。また、2号に対しては1号のような法定の支援義務は免除されます。
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技能実習生との違いと移行のメリット
ビルクリーニング分野における特定技能制度は、従来の「技能実習制度」と混同されやすいですが、制度の目的や運用面で大きな違いが存在します。
最も大きな違いは、制度の目的にあります。技能実習制度は、開発途上国への技術移転による「国際貢献」を目的とした研修制度であるのに対し、特定技能制度は、日本国内の深刻な「人手不足の解消」を目的とした直接雇用制度です。
そのため、業務の現場における即戦力性が重視されます。
雇用形態においても、技能実習生には厳格な実習計画と配属先の制約があるのに対し、特定技能外国人には同一分野内での転職の自由が認められています。
また、技能実習生から特定技能1号へ移行する場合、3年間の実習を良好に修了していれば、技能試験および日本語能力試験が全面的に免除されるという大きなメリットがあります。
自社で受け入れた技能実習生を特定技能へ移行させることで、慣れ親しんだ現場で継続して長期的に活躍してもらうことが可能になります。
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2.特定技能「ビルクリーニング」で任せられる業務範囲

特定技能外国人を受け入れるにあたり、現場でのトラブルや不法就労を防ぐためには、法令で認められた業務範囲の境界線を正確に理解しておくことが不可欠です。
主業務(建築物内部の清掃作業)
特定技能「ビルクリーニング」において、主たる業務として認められているのは「建築物内部の清掃」です。
具体的対象となる施設は、オフィスビル、官公庁、商業施設、病院、銀行、ホテル、レストランなど、多角的な建築物が含まれます。
清掃作業の範囲としては、建物内部の床、天井、内壁、階段、トイレ、洗面所などの清掃作業全般が該当します。
作業にあたっては、掃除機や床みがき機(ポリッシャー)、ワックス塗布機器などの各種資機材を適正に使用し、建築物の利用者の安全と衛生環境を維持するための日常清掃および定期清掃に従事させることができます。
関連業務(ベッドメイキング・用品補充など)と注意点
主業務に付随して行う作業として「関連業務」が行政ガイドライン上認められています。
具体的には、ホテル等の客室におけるベッドメイキング、客室用品の補充、リネン類の整理、さらには建物の敷地内における外周部(犬走など)の清掃、清掃用資機材の点検・手入れなどが含まれます。
ただし、関連業務を行わせるにあたっては厳格な条件が設けられています。関連業務は、あくまで「日本人が通常行う清掃作業に付随して行うこと」「主業務と平行して、または全体の作業時間の一部として実施すること」が必須となります。
したがって、「一日中ベッドメイキングのみを行わせる」「客室用品の搬送作業のみを担当させる」といったように、専ら関連業務のみを行わせる運用は不法就労助長罪にあたる恐れがあり、絶対に行わせてはなりません。
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対象外となる業務(戸建て住宅・高所窓ガラス清掃など)
特定技能「ビルクリーニング」の在留資格において、明確に対象外として除外されている業務についても十分な注意が必要です。
まず、個人宅(戸建て住宅・アパートの居室内)における家事代行的な清掃業務や、分譲マンションの専有部内部の清掃は対象外となります。ただし、分譲マンションの共用部清掃は建築物清掃として認められます。
また、ゴンドラやブランコ作業を伴うような高所の外壁・外窓ガラス清掃作業、建築物の設備機器(空調ダクトや給排水設備)そのものの保守点検作業なども特定技能の範囲外とされています。
現場への配属時には、契約内容と実際の作業内容がこれらの対象外業務に抵触していないか、詳細に確認しなければなりません。そして雇用形態が「直接雇用のみ(派遣不可)」である点にも注意が必要です。
3.受け入れ企業(特定技能所属機関)が満たすべき3つの要件

ビルクリーニング分野で特定技能外国人を受け入れる企業(特定技能所属機関)には、他業種にはない業界特有の厳格な要件が課されています。
要件1:建築物衛生法に基づく「営業所登録」を受けていること
ビルクリーニング分野特有の最も重要な受入要件が、建築物物衛生法(建築物物における環境衛生の確保に関する法律)に基づく事業登録です。
受け入れを行う営業所単位で、以下のいずれかの登録をあらかじめ受けていなければなりません。
- 建築物清掃業(1号登録)
- 建築物環境衛生総合管理業(8号登録)
この登録を受けるためには、営業所ごとに法律に定められた清掃用資機材(真空掃除機、床みがき機等)を自社で所有していることや、資格を有する「清掃作業監督者」を適切に配置していることが求められます。
登録を受けていない営業所では、特定技能外国人を受け入れることができませんので、自社の登録状況と有効期限を事前に必ず確認する必要があります。
要件2:申請前に「ビルクリーニング分野特定技能協議会」へ加入すること
受け入れ企業は、厚生労働省が設置する「ビルクリーニング分野特定技能協議会」の構成員になることが義務付けられています。
協議会は、特定技能制度の適正な運用や地域の労働需給調整、構成員間の情報共有を図るために運営されています。
ここで最も実務上注意すべきポイントは、加入のタイミングです。
以前の制度運用では、外国人材の入社後(受入後)一定期間内の加入が認められていましたが、制度変更により「在留資格認定証明書交付申請(または変更申請)を行う前に加入手続きを完了しておくこと」が必須となりました。
協議会への加入申請から加入証明書の発行までには一定の日数を要するため、採用手続きのスケジュールを組む際には、出入国在留管理庁への申請より前に協議会手続きを済ませておく必要があります。
要件3:適切な支援体制の確保(登録支援機関への委託など)
特定技能1号外国人を受け入れる企業は、外国人が日本で生活および就労を円滑に行えるよう、「1号特定技能外国人支援計画」を作成し、10項目の義務的支援を実施しなければなりません。
支援内容には、入国前の事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(賃貸契約の保証人等)、生活オリエンテーションの実施、行政手続きへの同行、日本語学習機会の提供、定期的な面談(3ヶ月に1回以上)などが含まれます。


過去2年間に中長期在留者の受け入れ実績がない企業や、社内に多言語対応可能な生活相談員がいない企業は、自社で支援を行うことができず、出入国在留管理庁の登録を受けた「登録支援機関」へ支援業務の全部を委託しなければなりません。
登録支援機関の月額委託料相場は2万〜3万円程度になります。
4.外国人材側が満たすべき要件と試験概要

特定技能外国人として就労するためには、企業側の要件だけでなく、外国人求職者本人も国および業界が定める試験や技能水準をクリアしている必要があります。
技能評価試験(1号)と日本語能力試験
国外から新規で呼び寄せる場合や、国内の留学生等を直接採用する場合、外国人は以下の2つの試験に合格しなければなりません。
ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験(技能試験)
公益社団法人全国ビルメンテナンス協会が実施する試験です。CBT方式による学科試験と、実際の清掃資機材(ポリッシャーやモップ等)を使用した実技試験によって評価されます。建築物内部の基本的な清掃作業を安全かつ適切に実施できる知識と技能が判定されます。
日本語能力試験(日本語試験)
「日本語能力試験(JLPT)」のN4以上、または「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」の合格が必要です。日常会話や現場での基本的な作業指示を解釈できるレベルの日本語力が求められます。
出典:全国ビルメンテナンス協会「在留資格特定技能ビルクリーニング分野」
技能実習2号からの試験免除ルート
ビルクリーニング分野の技能実習2号を良好に修了(通算3年間の実習を完了)した外国人材は、上記で解説した「特定技能1号評価試験」および「日本語能力試験」の双方が免除されます。
これは、3年間の実習期間を通じて、ビル清掃に関する実務経験と日本での生活に適応できる日本語能力をすでに身につけていると評価されるためです。
技能実習生として自社で受け入れてきた人材を特定技能へ移行させる場合、試験の手続きや合否待ちのリスクなく、スムーズに在留資格の変更申請へ移行できるため、採用実務において極めて有効なルートとなっています。
5.特定技能「ビルクリーニング」の採用から就労までの流れと費用相場

特定技能外国人を受け入れるにあたり、計画的な採用スケジュールの策定と、発生するトータルコストの把握は経営上の重要なポイントです。
採用から現場配属までの実務ステップ
特定技能外国人を採用し、現場に配属するまでの標準的なフローは以下の通りです。
募集開始から実際の就労開始までは、海外からの呼び寄せの場合で約4ヶ月〜6ヶ月、国内在留者(留学生や技能実習生からの移行)の場合で約2ヶ月〜3ヶ月の期間を要します。

- 募集・選考・面接:
人材紹介会社や自社募集を通じ選考を行い、内定を出して雇用契約を締結します。 - 協議会への加入手続き:
出入国在留管理庁への申請前に、ビルクリーニング分野特定技能協議会への加入申請を行います。 - 支援計画の作成・事前ガイダンス:
登録支援機関等と連携し、支援計画を作成し外国人本人へ説明を行います。 - 在留資格認定証明書交付申請(または変更申請):
出入国在留管理庁へ申請書類を一式提出します。 - ビザ発給・入国・現場配属:
在外公館でビザを取得後に入国し、生活立ち上げ支援(住民登録・口座開設等)を経て現場に配属します。
採用にかかる初期費用と月額ランニングコストの目安
特定技能外国人の受け入れには、採用時(初期)にかかる費用と、就労後に毎月発生するランニングコストが存在します。
日本人と同等以上の給与支払い義務に加え、以下の費用を見込んでおく必要があります。
初期費用(イニシャルコスト)の目安
・人材紹介手数料:年収の20%〜35%程度(約20万円〜50万円)
・在留資格申請費用(行政書士報酬):約10万円〜20万円
・特定技能評価試験合格証明書発行手数料:約1万4,000円
・渡航費・渡航前検診費(海外呼び寄せの場合):約5万円〜10万円
月額費用(ランニングコスト)の目安
・登録支援機関への委託料:外国人1人あたり月額2万円〜3万円程度
・協議会費:年会費等の企業負担分
なお、法定の支援計画に基づく費用や在留資格申請にかかる費用を外国人本人に負担させることは法令で禁止されています。
すべて企業側のコストとして適切に計上しなければなりません。
6.特定技能2号へのキャリアパスと長期定着のポイント

外国人材を採用コストをかけて受け入れる以上、5年間の特定技能1号で終わらせるのではなく、2号へのステップアップを通じた長期定着を推進することが自社の持続的成長につながります。
2号取得に必要な要件(現場管理者・インスペクター経験)
特定技能2号を取得するためには、1号よりも一段高い技能水準と実務経験の立証が求められます。ビルクリーニング分野における2号移行の条件は以下の通りです。
試験要件
全国ビルメンテナンス協会が実施する「ビルクリーニング分野特定技能2号評価試験」への合格、または「ビルクリーニング技能検定1級」の取得。
実務経験要件
ビル清掃の現場において、複数の作業員を指導・管理しながら、作業品質の点検や顧客との調整を行う「インスペクター(現場管理者)」としての実務経験が2年以上あること。
企業側としては、1号の在留期間(5年)の中で、単に清掃作業をこなさせるだけでなく、2〜3年目以降は小グループのリーダーとして作業指示や品質チェックを担当させるなど、2号要件を満たすための実務経験を積ませる計画的な育成プログラムを用意することが求められます。
外国人材が安心して働ける職場環境づくりと定着支援
外国人材の早期離職を防ぎ、エンゲージメントを高めるためには、制度上の義務的支援を超えた丁寧なコミュニケーションと定着支援が重要です。
まず、文化や言葉の違いに配慮した「やさしい日本語」による指示や、動画・図解を用いた清掃マニュアルの整備が有効です。
また、人前で感情的に注意・叱責することは、多くの文化圏において強い屈辱感を与え、離職の直接的な原因となります。指導を行う際は、個別に落ち着いた環境で具体的な改善点を伝える配慮が必要です。
さらに、生活面や人間関係の悩みを気軽に相談できる定期的な1on1面談を実施し、心理的安全性を確保することが欠かせません。
昇給制度や2号へのキャリアパスを明確に示すことで、「この会社で長く働き、成長したい」というモチベーションを引き出すことができます。
7.まとめ:準備と定着支援が特定技能成功の鍵
特定技能「ビルクリーニング」は、深刻な人手不足に悩むビルメンテナンス企業にとって、非常に有効な解決策となります。
しかし、その活用にあたっては、建築物衛生法に基づく営業所登録や出入国在留管理庁への申請前の協議会加入、さらには主業務と関連業務の明確な切り分けなど、業界特有の実務ハードルが存在します。
単なる「足りない労働力の補充」という短期的な視点ではなく、適切な法的手続きと生活・就労支援を行い、2号へのステップアップを見据えた育成を行うことが重要です。
外国人材を自社の現場を支える大切なパートナーとして温かく迎え入れ、共に成長していく環境を整えることこそが、特定技能活用を成功させる鍵となります。