農業分野の深刻な人手不足に直面する中、特定技能「農業」制度への注目が高まっています。
2025年には特定技能2号の農業分野拡大や受入れ見込み数の大幅増加が予定され、制度活用の機会はさらに広がります。
本記事では、制度の基本から採用手順、費用対効果、リスク対策まで、農業事業者が知るべき最新情報を網羅的に解説します。
- 特定技能「農業」と技能実習の違い:制度選択の判断基準が明確になる
- 採用から定着までの具体的な5ステップ:実務手順と注意点を体系的に理解できる
- 費用対効果とリスク対策:投資判断に必要な情報と法的トラブル回避方法を習得できる
1.特定技能「農業」とは?2025年の最新動向

特定技能「農業」は、深刻な人手不足に対応するため2019年に創設された外国人材受入れ制度です。
2025年には制度拡充が予定されており、農業分野での活用機会がさらに広がっています。
制度の基本概要と創設背景
特定技能「農業」は、2019年4月に創設された就労系在留資格「特定技能」の対象12分野の一つです。
この制度は、日本国内で深刻化する人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有する外国人材を即戦力として受け入れることを目的としています。
従来の技能実習制度が「国際貢献」を目的としていたのに対し、特定技能制度は明確に「労働力確保」を目的としており、この根本的な違いが制度設計の柔軟性に大きく影響しています。
学歴や関連業務経験を問わないため、外国人にとって取得しやすい在留資格となっており、農業事業者にとってもより実用的な人材確保手段となっています。
特定技能の他の分野に関しては、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
2025年の変更点と今後の見通し
2025年における最も重要な変更点は、特定技能2号の農業分野拡大です。
2023年6月に閣議決定され、2023年秋から試験が開始されています。特定技能2号では家族帯同が可能となり、在留期間の更新回数に上限がないため、長期的な人材確保が実現できます。
参考:出入国在留管理庁 特定技能2号の各分野の仕事内容(Job Description)
また、今後5年間の受入れ見込み数も大幅に見直され、従来の36,500人から78,000人へと倍以上に拡大される予定です。
これは農業分野での外国人材ニーズの高まりを反映しており、制度活用の機会がさらに広がることを意味しています。
さらに、技能実習制度の見直しに伴う「育成就労」制度の創設も予定されており、外国人材活用の選択肢がより多様化する見通しです。
育成就労制度の詳しい制度内容に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
農業分野の人手不足と受入れ見込み
農業分野の人手不足は極めて深刻な状況にあります。2023年10月末時点で農業分野で働く外国人は51,423人となっており、この5年間で1.65倍に増加しています。
しかし、基幹的農業従事者の68%が65歳以上、49歳以下はわずか11%という高齢化の現実があり、日本人労働力だけでは到底追いつかない状況です。

特定技能「農業」で働く外国人は14,616人(2023年10月末現在)と、全体に占める割合はまだ少数ですが、制度開始以来着実に増加傾向にあります。
12分野中で2番目に多い在留者数を誇り、国内外での試験実施により合格者も順調に増加しています。
今後の受入れ見込み数拡大を考慮すると、特定技能「農業」は農業分野の人手不足解決における中核的な役割を担うことが期待されています。
2.技能実習との違いと制度選択のポイント

技能実習制度と特定技能制度には根本的な違いがあり、農業事業者にとって最適な制度選択をしなければなりません。両制度の特徴を比較検討し、自社に適した制度を見極めましょう。
目的・在留期間・転職可否の違い
技能実習と特定技能の根本的な違いを理解することで、自社に最適な制度選択が可能になります。目的・期間・転職の観点から両制度を比較します。
項目 | 技能実習 | 特定技能 |
---|---|---|
目的 | 国際貢献(技術移転) | 労働力確保 |
在留期間 | 3年(最大5年) | 1号:5年 2号:無制限 |
転職可否 | 原則不可 | 同一分野内で可能 |
雇用形態と業務範囲の比較
特定技能「農業」は技能実習と比べて雇用形態の選択肢が広く、業務範囲も大幅に拡大されています。農業経営における柔軟性の違いを確認しましょう。
項目 | 技能実習 | 特定技能 |
---|---|---|
雇用形態 | 直接雇用のみ | 直接雇用・派遣雇用 |
業務範囲 | 6職種に限定 | 耕種農業・畜産農業全般 |
受入れ人数 | 常勤職員数による上限あり | 制限なし |
特定技能「農業」では直接雇用に加えて派遣形態も選択可能で、繁忙期のみの活用や複数農家での労働力シェアなど、農業特有のニーズに柔軟に対応できます。
技能実習では「施設園芸」「畑作・野菜」「果樹」「養豚」「養鶏」「酪農」に限定されていましたが、特定技能では稲作や肉牛飼育なども含まれ、業務範囲が大幅に拡大されています。
どちらを選ぶべきかの判断軸
技能実習と特定技能のどちらを選ぶかは、労働力確保の緊急性、雇用の柔軟性、長期戦略、コストなど複数の要素を総合的に検討すしなければなりません。
制度選択時の主な検討要素
- 労働力確保の緊急性:即戦力が必要な場合は特定技能が有利
- 雇用の柔軟性重視:季節変動対応なら特定技能の派遣形態が適している
- 長期的な人材戦略:段階的アプローチか、最初から特定技能での受入れか
- コスト比較:監理団体費用 vs 登録支援機関費用の検討
現在の人手不足の深刻度と今後の事業展開計画を総合的に勘案して、最適な制度を選択することが成功の鍵となります。
3.特定技能「農業」で可能な業務と注意点

特定技能「農業」では耕種農業・畜産農業の幅広い業務に従事できますが、「栽培管理」「飼養管理」業務の包含が必須です。
違法就労を防ぐため、認められる業務範囲を正確に理解し、適切な労務管理は必須といえます。
耕種農業・畜産農業での作業範囲
特定技能「農業」では
- 耕種農業全般
- 畜産農業全般
の業務に従事できます。

また、これらの主要業務に加えて、農畜産物の集出荷作業、選別作業、品質管理なども業務範囲に含まれており、農業経営に必要な一連の作業を任せることができます。
関連業務の定義と違法就労の防止策
特定技能「農業」では、主要業務に付随する関連業務にも従事可能ですが、関連業務はあくまで付随的なものであり、栽培管理・飼養管理が業務の中心でなければなりません。
違法就労を防ぐための具体的な対策を確認しましょう。
認められていない業務を行わせることは不法就労となり、外国人労働者だけでなく受入れ企業も処罰の対象となります。
業務内容の記録を適切に保管し、定期的に業務範囲を見直すことで、法令遵守を徹底するようにしましょう。以下は具体的な防止策の例になります。
4.採用成功の5ステップと実務ポイント

特定技能外国人の採用を成功に導くには、体系的なアプローチが重要です。法的要件の充足から定着促進まで、5つのステップに分けて具体的な実務ポイントを解説します。
ステップ1:受入れ体制の整備と要件確認
特定技能外国人の受入れには法定要件の充足が必須です。農業特定技能協議会への入会など、農業分野特有の要件も含めて確実に準備しましょう。
農業特定技能協議会への入会は農林水産省設置の無料制度で、オンラインから申請可能です。
また、受入れに関する誓約書作成、労働環境確認、住居確保、日本語学習支援準備も重要なポイントとなります。
ステップ2:人材の選定と採用ルートの決定
特定技能外国人の採用には複数のルートがあります。以下は主な採用ルートです。
採用ルート | 対象者 | メリット |
---|---|---|
技能実習からの移行 | 技能実習2号修了者 | 実務経験あり、即戦力として期待 |
試験合格者の新規採用 | 国内・海外在住の試験合格者 | 多様な人材プールから選択可能 |
採用時の面接では以下の内容を確認することをお勧めします。
ステップ3:登録支援機関の選定と契約
法定支援業務の多くは登録支援機関への委託が一般的です。農業分野への理解と充実したサポート体制を持つ機関選定が成功の鍵となります。
主な支援内容は以下の内容です。


契約時は支援範囲、費用、緊急時対応、契約解除条件などを書面で明確に取り決めることが重要です。
ステップ4:在留資格申請と手続き
在留資格申請は外国人の状況により手続きが異なります。必要書類の準備と審査ポイントを理解し、確実な申請手続きを進めましょう。
申請パターン別の手続きは以下を参考にしてください。
外国人の状況 | 申請種類 | 審査期間 |
---|---|---|
海外在住 | 在留資格認定証明書交付申請 | 1〜3ヶ月 |
国内在住 | 在留資格変更許可申請 | 1〜3ヶ月 |
申請書類では雇用条件が日本人同等以上であることを明確に示し、業務内容が特定技能の範囲内であることを詳細に記載することが重要です。
審査期間は通常1〜3ヶ月程度ですが、書類に不備があると大幅に延長される可能性があります。行政書士などの専門家に依頼することで、申請手続きの確実性と効率性を高めることができます。
行政書士が具体的にどのような事をしてくれるのかなど、行政書士についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事で詳しく解説しています。
ステップ5:受入れ後の支援と定着促進
外国人材の入国後は継続的な支援と定着促進が重要です。初期対応から長期的なキャリア支援まで、体系的なサポート体制を構築しましょう。
初期段階の必須対応
- 職場でのオリエンテーション
- 作業手順の説明
- 安全教育の実施
- 地域社会への適応支援(近隣住民紹介、公共施設案内、医療機関案内)
定着促進のための継続的取り組み
- 定期的な面談による悩み相談
- 日本語学習の継続支援
- キャリアアップ機会の提供
- 特定技能2号への移行サポート
- 労働条件の適正管理
- 文化的配慮の実践 など
長期的なキャリアパス提示により、モチベーション維持と定着率向上を図ることが重要です。
5.費用の目安と投資対効果

特定技能外国人の受入れには様々な費用が発生します。適切な投資判断を行うため、初期費用・継続費用の詳細とROI計算方法を理解しましょう。
初期費用と継続費用の内訳
特定技能外国人の受入れに必要な費用は、初期費用と継続費用に大別されます。
■初期費用
項目 | 費用目安 | 備考 |
---|---|---|
人材紹介費用 | 50〜100万円 | 紹介会社による |
在留資格申請関連費用 | 10〜30万円 | 行政書士費用含む |
渡航費・入国手続き費用 | 10〜20万円 | 海外招聘時のみ |
■継続費用(年間)
項目 | 費用目安 | 備考 |
---|---|---|
登録支援機関委託費用 | 30〜50万円 | 法定支援業務全般 |
給与 | 180〜300万円 | 日本人同等以上が原則 |
社会保険料・住居費補助等 | 30〜50万円 | 福利厚生関連 |
外国人材への給与は日本人同等以上が原則で、農業分野では月額15〜25万円程度が相場です。
その他、社会保険料、住居費補助、日本語学習支援費用なども継続的に発生する費用として考慮する必要があります。
ROI試算方法とコスト回収の考え方
投資対効果を測定する際は、外国人材1人当たりの年間総費用と、その人材による売上貢献・コスト削減効果を比較します。
例えば、年間総費用を400万円(給与300万円+支援費用等100万円)とした場合、その外国人材が担当する作業量や品質向上による売上増加が年間500万円以上であれば、十分な投資効果があると判断できます。
また、日本人採用の困難さや教育コストとの比較も重要な判断材料です。日本人の新規採用が困難な地域では、外国人材の受入れが事業継続の唯一の選択肢となる場合もあります。
さらに、特定技能2号への移行により長期雇用が可能になることで、教育投資の回収期間も延長され、より高い投資効果が期待できます。
繁忙期の労働力確保による機会損失の回避効果も含めて、総合的なROIを評価しなければいけません。
6.派遣形態の活用方法と注意点

特定技能「農業」は12分野中で唯一派遣雇用が認められており、農業の季節性に対応した柔軟な労働力確保が可能です。派遣活用のメリットと法的注意点を理解しましょう。
派遣のメリットと注意点
派遣活用の主なメリットは、必要な時期にのみ労働力を確保できる柔軟性です。
派遣契約締結時のチェックポイント
項目 | 確認内容 |
---|---|
業務内容 | 特定技能「農業」の範囲内、栽培管理・飼養管理業務を含む |
派遣期間・場所 | 明確な期間設定と就業場所の特定 |
労働条件 | 労働時間、休日、安全衛生措置の詳細 |
派遣元選定時は農業分野での実績、特定技能外国人の管理体制、緊急時対応能力を重点評価し、契約期間中は定期的な労働条件確認と法令遵守の徹底が不可欠です。
7.よくあるリスクと対策

特定技能外国人の受入れには様々なリスクが伴います。事前にリスクを理解し、適切な予防策を講じることで法的トラブルを回避し、円滑な受入れを実現しましょう。
違法就労・トラブル事例と予防策
特定技能外国人受入れで最も多いトラブルは、業務範囲の逸脱による違法就労です。
また、農繁期に長時間労働を強いる、適切な休憩を与えない、残業代を適正に支払わないといった労働基準法違反も頻発しています。
予防策として最も重要なのは、業務内容の明文化と定期的な確認です。
労基法・入管法への対応方法
労働基準法違反を防ぐためには、日本人労働者と同等以上の労働条件確保が基本です。
最低賃金の遵守はもちろん、同一労働同一賃金の原則に基づき、経験・技能に応じた適正な処遇を行います。
有給休暇の付与、社会保険の加入、安全衛生教育の実施なども法定義務として確実に履行する必要があります。
万一、法違反が発覚した場合は、速やかに是正措置を講じ、関係機関への報告を行います。
また、外部専門家(社会保険労務士、行政書士等)との連携体制を構築し、定期的な労務監査を実施することで、予防的な対応を強化することをお勧めします。
法令遵守は外国人材の安心・安全な就労環境確保と企業リスク回避の両面で不可欠な要素です。
8.試験対策と合格者の採用方法

特定技能1号「農業」の取得には試験合格が必要です。試験制度を理解し、合格者採用時の注意点を把握することで、優秀な人材の確保につなげましょう。
技能測定試験・日本語試験の概要と対策
農業技能測定試験は全国農業会議所が実施し、耕種農業と畜産農業の基本的な知識・技能を測定します。
農業技能測定試験(全国農業会議所実施)
試験区分 | 試験時間 | 出題内容 |
---|---|---|
学科試験 | 60分 | 栽培管理、病害虫防除、農業機械操作、飼養管理 |
実技試験 | 30分 | 実際の農作業技能の測定 |
日本語試験では以下の合格が必要です。
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
- 日本語能力試験N4以上
JFT-Basicは日常生活や職場での基本的なコミュニケーション能力を測定する試験で、農業現場でよく使われる語彙や表現も含まれています。
対策として、全国農業会議所のホームページで公開されている学習用テキストの活用が有効です。実技試験対策では、実際の農作業体験や農業機械の操作練習が重要になります。
合格者の採用時の注意点
試験に合格した外国人材を受け入れる際に押さえておくべきポイントを以下に記します。
採用プロセスでの重要チェック項目
- 合格証明書の確認徹底(偽造防止のため試験実施団体への照会推奨)
- 面接・実技テストによる実務能力確認
- 農業に対する意欲・適性の見極め
- 日本での就労に対する理解度確認
定着性を左右する確認要素
- 農業の季節性・労働環境の厳しさへの理解
- 配偶者・家族の状況
- 住居確保状況
- 長期定着の意思
海外在住合格者採用時の注意点
- 在留資格認定証明書交付申請に要する時間を考慮
- 余裕を持った採用スケジュール設定
- 入国後の職場実務研修計画策定
- 地域社会への適応支援体制構築
9.今後の展望と戦略的活用

外国人材活用における制度変更と将来展望を理解し、長期的な人材戦略を構築することが重要です。2025年以降の制度拡充を見据えた戦略的アプローチを検討しましょう。
特定技能2号や育成就労への対応
2025年以降の外国人材活用において、特定技能2号の農業分野拡大は大きなゲームチェンジャーとなります。
特定技能2号では家族帯同が可能になり、在留期間の更新回数に上限がないため、外国人材の長期定着が現実的になります。
これにより、技術継承や農業経営の中核人材としての活用が期待でき、投資回収期間の延長によるROI向上も見込まれます。
また、技能実習制度に代わる「育成就労」制度の2027年創設も控えており、外国人材の受入れルートがさらに多様化します。
育成就労では転職制限が緩和される予定で、特定技能制度との連携がより円滑になることが予想されます。農業事業者としては、これらの制度変更を見据えた中長期的な人材戦略の策定が急務となります。
現在の特定技能1号外国人についても、2号移行を前提とした教育投資やキャリアパス設計を行うことで、優秀な人材の長期確保が可能になります。
長期的人材戦略と地域連携
持続可能な農業経営を実現するためには、外国人材活用を含む包括的な人材戦略が不可欠です。
包括的人材戦略の構築
- 日本人後継者育成との両立
- 外国人材の段階的スキルアップ計画
- 農業技術の体系的継承システム
- 特定技能2号移行を見据えた長期教育プログラム
地域レベルでの連携も今後の重要なトレンドです。
連携形態 | 効果・メリット |
---|---|
複数農家での雇用シェア | コスト分散と効率的人材活用 |
JA・自治体・登録支援機関連携 | 地域ぐるみ受入れ体制構築 |
外国人材ネットワーク活用 | 新たな人材確保ルート開拓 |
さらに、外国人材のネットワークを活用したグローバル展開への活用も期待できます。
- 外国人材の母国での農産物販売チャネル構築
- 国際展開パートナーとしての位置づけ
- 農業技術の海外展開支援
外国人材を単なる労働力ではなく、長期的な事業パートナーとして捉える戦略的思考が成功の鍵となるのです。
10.特定技能「農業」が開く、農業経営の新たな可能性

特定技能「農業」は、深刻な人手不足に直面する農業分野において、技能実習制度を上回る柔軟性と実用性を持つ外国人材活用制度です。2025年の特定技能2号拡大により、長期的な人材確保がより現実的になります。
成功のポイントは適切な受入れ体制整備、信頼できる支援機関との連携、法令遵守の徹底です。今から準備を始めることで、持続可能な農業経営の基盤を築くことができるでしょう。
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