ベトナム人の採用を検討している企業にとって、ビザ手続きは最も重要な課題の一つです。
しかし、複雑な制度や多様な在留資格の中から最適なものを選択し、確実に取得するのは容易ではありません。
本記事では、ベトナム人雇用で活用される5つの主要ビザの特徴から具体的な申請手続き、よくある失敗パターンまで、人事担当者が知っておくべき実務情報を網羅的に解説します。
- ベトナム人雇用で使える5つの主要ビザの種類と要件
- 企業が行う具体的な申請手続きの流れと必要書類
- 申請失敗を避けるための注意点と成功のコツ
1.ベトナム人雇用で知っておくべきビザの基本知識

ビザと在留資格の違いを正しく理解する
まず、法的な定義を明確にしておきましょう。「ビザ(査証)」とは、外務省が発行する日本への入国許可証のことで、海外にある日本大使館や総領事館で発給されます。
一方、「在留資格」とは、法務省(出入国在留管理庁)が付与する、日本に滞在して特定の活動を行うための資格です。
具体的には、ビザは「日本に入国するための推薦状」のような役割を果たし、入国審査が完了すると効力を失います。
これに対して在留資格は、日本での滞在期間中に継続して効力を持ち、外国人が行える活動内容を規定するものです。
一般的に「就労ビザ」と呼ばれているものは、正確には「就労が認められている在留資格」のことを指します。
この混同が起きる理由は、実務上の便宜性から同じ意味で使われることが多いためですが、企業としては正確な理解が重要です。
実際の手続きでは以下のような流れになります。
- 企業が出入国在留管理局で「在留資格認定証明書」を申請
- 交付された証明書をベトナム現地の本人に送付
- ベトナムの日本大使館・総領事館でビザ(査証)申請
- ビザ発給後、3ヶ月以内に来日
- 入国時に在留カードを受領

ベトナム人の就労に必要なビザの種類
ベトナム人が日本で就労するためには、原則として事前にビザ(査証)を取得する必要があります。
ベトナムは日本のビザ免除国ではないため、どのような目的であっても入国前にビザの取得が必須となります。
就労目的で使用される主なビザの種類は以下の通りです。
ビザの種類 | 対応する在留資格 | 主な用途 |
---|---|---|
就業査証 | 技術・人文知識・国際業務、技能等 | オフィスワーカー、エンジニア |
高度専門職査証 | 高度専門職 | 優秀な専門人材 |
一般査証 | 特定技能、技能実習等 | 人手不足分野の労働者 |
短期滞在ビザとの大きな違いは、就労ビザでは継続的な雇用関係と専門性が求められる点です。
観光や短期商用を目的とした短期滞在ビザでは、原則として報酬を伴う活動は禁止されており、違反すると不法就労となります。
また、在留資格には就労制限の有無による分類があります。

ベトナム人雇用で企業が負う責任と義務
ベトナム人を雇用する企業が最も注意すべきなのは、不法就労助長罪のリスクです。
この罪は、出入国管理及び難民認定法第73条の2に規定されており、外国人に不法就労をさせた企業に対して厳しい処罰が科せられます。
現在の罰則は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」ですが、2025年6月からは「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」に厳罰化されることが決定しています。
さらに重要なのは、「知らなかった」では免責されないという点です。

企業側の具体的な法的責任としては、以下が挙げられます。
1. 在留資格の確認義務
- 雇用予定の職種と在留資格の適合性確認
- 在留カードの真正性確認(偽造対策)
- 就労制限の有無の確認
2. 継続的な管理義務
- 在留期間の更新手続きのサポートと期限管理
- 従事業務が在留資格の範囲内かの定期確認
- 転職・昇進時の在留資格変更対応
3. 労働条件の適正化義務
- 日本人と同等以上の給与・労働条件の確保
- 外国人であることを理由とした不当な取り扱いの禁止
- 適切な労働環境の整備
またビザが適切かどうかをしっかりチェックする必要があります。具体的な確認方法としては以下のことが挙げられます。
✔在留カードの原本確認と写真照合
✔在留期間の確認(有効期限内であることの確認)
✔就労制限欄の確認(「就労制限なし」または「在留資格に基づく就労活動のみ可」)
✔資格外活動許可の有無確認(該当する場合)
企業としては、単にビザの種類を理解するだけでなく、継続的なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。
これには、人事担当者の研修、外部専門家との連携、定期的な在留状況の確認システムの導入、緊急時の対応マニュアル整備などが含まれます。
また、労働環境の整備についても、近年の技能実習生の問題を受けて、より一層の注意が求められています。
適切なビザ管理は、企業の社会的責任の一環として、長期的な企業価値向上にも寄与する重要な要素となっています。
2.ベトナム人雇用で活用される5つの主要ビザ
ベトナム人の雇用において、企業が選択できる在留資格は複数ありますが、実際に多く活用されているのは以下の5つです。
それぞれ対象となる職種や要件が大きく異なるため、自社の採用ニーズに最適なビザを選択することが重要です。
①技術・人文知識・国際業務ビザ(最も一般的)
技術・人文知識・国際業務ビザ(通称:技人国ビザ)は、ベトナム人雇用で最も多く活用されている在留資格です。現在、約10万人のベトナム人がこの資格で就労しており、全体の過半数を占めています。
対象となる職種と業務内容の詳細は以下の3分野に分かれます。
技術分野
- システムエンジニア、プログラマー:ソフトウェア開発、システム設計
- 設計士、CADオペレーター:機械設計、建築設計、電気回路設計
- 研究開発職:技術研究、製品開発、品質管理
人文知識分野
- 経理・財務:財務管理、経理処理、税務業務
- 企画・マーケティング:商品企画、市場調査、広報・宣伝
- 営業:国内営業、海外営業、顧客管理
国際業務分野
- 通訳・翻訳:会議通訳、文書翻訳、語学指導
- 海外取引業務:貿易事務、国際契約、海外拠点との連絡調整
大学卒業以上の学歴要件が原則として必要です。
ただし、日本の専門学校を卒業し「専門士」の学位を取得した場合も申請可能です。重要なのは、大学等での専攻分野と従事予定業務に関連性があることです。
例えば、情報工学を専攻した場合はシステムエンジニア、経済学を専攻した場合は企画・営業業務などが該当します。
②特定技能ビザ(人手不足分野の即戦力)
特定技能ビザは2019年に創設された比較的新しい在留資格で、人手不足が深刻な特定の産業分野において即戦力となる外国人材の受け入れを目的としています。
現在、ベトナム人が特定技能外国人の約60%を占めており、急速に拡大している分野です。
16分野の対象業種と要件
分野 | 主な業務内容 | 試験要件 |
介護 | 身体介護、生活支援 | 介護技能評価試験 + 介護日本語評価試験 |
建設 | 土工、内装仕上げ、とび | 建設技能人材機構の技能試験 |
製造業3分野 | 機械加工、電気・電子組み立て | 製造分野特定技能1号評価試験 |
宿泊 | フロント、企画・広報、レストラン | 宿泊業技能試験 |
外食業 | 調理、接客、店舗管理 | 外食業技能試験 |
農業 | 栽培農業、畜産農業 | 農業技能試験 |
技能実習からの移行パターンが最も一般的で、技能実習2号を良好に修了した場合は試験免除で特定技能1号に移行できます。
この移行により、同一企業での継続雇用が可能になり、企業にとっては投資した教育・訓練の効果を継続して享受できるメリットがあります。
③技能実習ビザ(技術習得目的)
技能実習ビザは技術移転を通じた国際協力を目的とした制度で、最長5年間の雇用が可能です。
現在約18万人のベトナム人が技能実習生として就労しており、最も多い在留資格となっています。
最長5年間の雇用が可能な制度の仕組み
技能実習1号(1年間) | 入国後講習、基礎的技能習得 |
技能実習2号(2年間) | 実践的技能習得、技能検定基礎2級取得 |
技能実習3号(2年間) | 指導的技能発揮、技能検定3級取得 |
企業は直接ベトナムから技能実習生を受け入れることはできません。
必ず監理団体と呼ばれる非営利組織を通じて受け入れる必要があります。監理団体は以下の役割を担います。
監理団体とは、技能実習生の受け入れを検討する企業などからの依頼に基づき、海外での技能実習生の募集や受け入れに関する調整や各種手続きを行うことや、受け入れ先に対する指導や受け入れ後の監査などを行う組織として、主務大臣(法務大臣、厚生労働大臣)によって認められた非営利の団体のことを呼びます。
外国人採用サポネット「監理団体とは?」

技能実習1号・2号・3号の段階的要件としては、 各段階で技能検定の合格が求められ、段階的なスキルアップが制度の特徴です。
ただし、近年労働環境の問題が社会的に指摘されており、適切な労働条件の確保と技能実習計画の履行が厳格に求められています。
④高度人材ビザ(優秀な人材向け)
高度人材ビザは、特に優秀な外国人材を対象とした優遇制度です。
高度専門職1号と2号があり、学歴、職歴、年収、年齢、日本語能力等を総合的に判定するポイント制による評価基準を採用しています。
ポイント制の詳細な評価基準
評価項目 | 配点例 |
---|---|
学歴 | 博士:30点、修士:20点、学士:10点 |
職歴 | 10年以上:25点、7年以上:20点、5年以上:15点 |
年収 | 1000万円以上:50点、800万円以上:40点、600万円以上:30点 |
年齢 | 29歳以下:15点、30-34歳:10点、35-39歳:5点 |
日本語能力 | N1級:15点、N2級:10点、N3級:5点 |
通常10年の在留が必要な永住申請が、高度専門職では最短1年(80点以上)、最短3年(70点以上)で申請可能となり、高度専門職2号では活動制限がほぼなく、転職も自由となっています。
家族帯同などの優遇措置としては、
- 配偶者の就労許可(学歴等の要件緩和)
- 一定条件下での親の帯同許可
- 家事使用人の帯同許可
- 5年の在留期間付与
- 永住許可要件の緩和
となっています。
⑤経営・管理ビザ(経営者・管理職向け)
経営・管理ビザは、日本で事業を経営したり管理業務に従事したりする外国人向けの在留資格です。
ベトナム人起業家や、ベトナム企業の日本法人で管理職に就く場合に活用されます。事業所の確保と以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 資本金500万円以上の投資
- 常勤職員2名以上の雇用
- 上記に準ずる規模の事業運営
事業計画については、実現可能性、収益性、継続性が重要な審査ポイントとなります。単なる名目的な投資ではなく、実質的な事業運営が求められます。
また 在留期間更新時には、事業の継続性を証明する必要があります。
- 売上実績と利益確保
- 従業員の雇用維持
- 事業の発展性と将来計画
- 税務申告の適正な実施
これら5つのビザはそれぞれ特徴が大きく異なるため、企業は自社の採用ニーズ、候補者のスキルレベル、長期的な雇用戦略を総合的に考慮して最適な選択を行うことが重要です。
また、ビザの種類によって申請手続きや必要書類も大きく異なるため、事前の十分な準備が成功の鍵となります。
特定技能でベトナム人を採用する方法や、雇用後のポイントをもっと詳しく知りたい方は、「特定技能でベトナム人を採用!」の記事をご覧ください。
3.ビザ申請できない職種と対応策

ベトナム人の雇用を検討する際、全ての職種で就労ビザが取得できるわけではないことを理解しておく必要があります。
特に、単純労働に分類される業務や、該当する在留資格が存在しない職種では、ビザ取得が困難または不可能となります。
就労ビザ取得が困難な職種の特徴
単純労働に該当する業務の定義として、技術性や専門性が要求されず、特別な知識や技能を必要としない業務が該当します。
就労ビザの基本的な考え方として、日本人では代替が困難な専門的・技術的な業務に従事することが前提となっているためです。

これらの職種は「技術や学歴が必要なく、また特定技能にもあたらないため就労ビザの取得は不可」とされています。
また専門性がありながらも、現在の在留資格制度では対応する資格が設けられていない職種があります。

対象外職種でのベトナム人材活用方法
就労ビザ対象外の職種であっても、以下の方法でベトナム人材を活用できる可能性があります。
特定技能制度での活用可能性が最も有効な手段です。
分野別の活用例
製造業
特定技能「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」で機械加工、電気機器組立て
飲食業
特定技能「外食業」で調理、接客、店舗管理業務
清掃業
特定技能「ビルクリーニング」で建築物内部の清掃
業務設計の見直しによる対応も重要な対応策です。
例えば、小売業務でも以下のような工夫により技人国ビザでの雇用が可能になる場合があります。
◆小売業での業務設計見直し例◆
- 店舗管理業務への特化(売上分析、在庫管理システム運用)
- POSシステムの運用管理・データ分析
- 商品企画・マーケティング業務の追加
- ベトナム語通訳・翻訳業務の組み込み
- 海外商品の仕入れ・調達業務
製造業であっても、開発のように特定の技能が必要な職種であれば就労ビザの申請ができます。
◆製造業での業務設計見直し例◆
- 製品設計・開発業務
- 品質管理・品質改善業務
- 生産技術・工程改善業務
- 海外
技能実習制度の活用検討では、77職種154作業で技能実習生の受け入れが可能です。単純労働に見える業務でも、技能実習の枠組みでは技術習得を目的とした雇用ができる場合があります。
対象外職種であっても、創意工夫により合法的にベトナム人材を活用できる可能性があるため、行政書士等の専門家との相談を通じて最適な方法を検討することをお勧めします。

4.企業が行うビザ取得手続きの完全フロー

ベトナム人の雇用における実際の手続きは、企業側が主導的に進める必要があります。企業が代理人として重要な役割を担います。
申請前に確認すべき必須ポイント
ビザ申請を開始する前に、企業は以下のポイントを必ず確認し、準備を整える必要があります。
雇用する職種とビザ種類の適合性確認
最も重要なのは、雇用予定の職種が取得予定のビザで認められた活動範囲内であることの確認です。
就労ビザの種類をしっかり確認し、自社の職種にあっている就労ビザを取得、もしくは取得できるかをチェックしなければなりません。
ビザ種類 | 対象職種例 | 確認ポイント |
技人国 | システムエンジニア、営業、通訳 | 大学専攻と業務の関連性 |
特定技能 | 製造業、建設業、介護業 | 対象分野内での具体的業務 |
技能実習 | 機械加工、建設、食品製造 | 技能実習計画との整合性 |
企業の財務状況・安定性の証明準備
申請企業の経営安定性は審査の重要な要素です。以下の書類を事前に準備しておく必要があります。
- 直近3年分の決算書類(損益計算書、貸借対照表)
- 法人税納税証明書
- 登記簿謄本(発行から3ヶ月以内)
- 雇用保険・社会保険の加入状況証明
必要書類の事前収集と準備期間設定
企業側で準備する書類と、ベトナム人本人が準備する書類を明確に分け、適切なスケジュール管理を行います。


準備期間の目安設定
- 書類準備期間:1-2ヶ月
- 在留資格認定証明書交付申請:1-3ヶ月
- ベトナム現地でのビザ発給:5営業日
全体として3-4ヶ月程度の期間を見込んでおくことが重要です。
在留資格認定証明書交付申請の詳細手順
「地方入国管理局に『在留資格認定証明書』の交付を申請することから手続きが始まります。
申請は、企業の所在地を管轄する地方出入国在留管理局で行います。申請者は企業の代表者または委任を受けた職員が代理人として手続きを行います。
◆申請時の基本的な流れ◆
- 申請書類の準備・確認
- 在留資格認定証明書交付申請書の作成
- 必要書類の準備と内容確認
- 申請手数料の準備(無料)
- 申請書類の提出
- 管轄の出入国在留管理局窓口での提出
- 受付番号の取得と控えの受領
- 追加書類の提出指示があった場合の対応準備
- 審査期間中の対応
- 追加書類請求への迅速な対応
- 進捗状況の適切な管理
- ベトナム人本人との連絡調整
オンライン申請システムの活用
条件を満たす場合はオンライン申請の利用が可能です。オンライン申請の利用条件としては、以下の通りです。

標準的な審査期間は1-3ヶ月です。結果通知の方法は
- 許可の場合→在留資格認定証明書の交付通知
- 不許可の場合→不許可通知書の送付(理由は非開示)
となります。
※在留資格認定証明書の交付後、就労者となるベトナム人に送付する必要があります。
ベトナム現地での査証発給手続き
企業から在留資格認定証明書を受け取ったベトナム人本人が、現地の日本大使館・総領事館で査証申請を行います。
ベトナムには以下の日本の外交公館があり、居住地域により管轄が分かれています。
- 在ベトナム日本国大使館(ハノイ):ハーティン省以北
- 在ダナン日本国総領事館:クアンビン省からザーライ省・ビンディン省
- 在ホーチミン日本国総領事館:ダクラク省・フーイエン省以南
◆査証申請に必要な書類◆
- 査証申請書(英語で記入)
- パスポート(残存有効期間6ヶ月以上)
- 在留資格認定証明書(原本)
- 写真(4.5cm×4.5cm、背景白)
- その他領事館指定書類
当館の受理翌日から最短で5業務日とされており、通常は1週間程度で査証が発給されます。

3ヶ月以内の渡航期限管理
就労ビザ取得から3ヵ月以内に日本へ渡航する必要があるので、企業は以下の点に注意してスケジュール管理を行う必要があります。


この一連の手続きを適切に管理することで、ベトナム人材の円滑な受け入れが可能になります。企業としては、各段階での注意点を理解し、計画的に進めることが成功の鍵となります。
5.ビザ申請に必要な書類と準備期間

ビザ申請の成功は、適切な書類の準備にかかっています。企業側とベトナム人本人がそれぞれ準備する書類を明確に分け、効率的なスケジュール管理を行うことが重要です。
企業側で準備する必須書類チェックリスト
企業が準備する書類は、会社の信頼性と雇用の適正性を証明するための重要な資料です。以下のチェックリストに基づいて確実に準備しましょう。
基本的な企業証明書類
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書):発行から3ヶ月以内、法人の基本情報確認用
- 決算報告書:直近年度分、企業の財務安定性証明用
- 法人税の納税証明書:直近年度分、税務コンプライアンス証明用
- 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表:従業員の給与水準証明用
企業規模に応じた追加書類
企業カテゴリー | 追加必要書類 |
---|---|
上場企業等 | 四季報の写し、有価証券報告書 |
大企業 | 雇用保険・社会保険加入状況確認表 |
中小企業 | 会社案内・パンフレット、事業概要説明書 |
新設法人 | 事業計画書、資本金証明書 |
雇用契約書・労働条件通知書を作成する際は、雇用条件を明示した正式な契約書の準備が必須になります。
雇用契約書に必須の記載事項としては、
- 契約期間の定め
- 就業場所と従事する業務内容
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日
- 賃金の決定・計算・支払い方法、締切日・支払日
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
これらの項目の記載漏れがないように注意して作成しましょう。
労働条件設定においては、
- 給与水準⇒日本人と同等以上の水準設定する
- 労働時間⇒労働基準法の遵守する
- 社会保険⇒雇用保険・健康保険・厚生年金に加入
- 福利厚生⇒住宅手当、交通費等の適正な設定をする
これらが重要ポイントとなります。

ベトナム人本人が用意する書類一覧
ベトナム人本人が準備する書類は、学歴・職歴・身分を証明するための重要な資料です。企業は準備をサポートし、適切な指導を行う必要があります。
大学・大学院の場合
- 卒業証明書(学位記のコピー)
- 成績証明書(全期間の成績が記載されたもの)
- 学部・学科・専攻分野が明記された証明書
専門学校の場合
- 卒業証明書
- 専門士学位証明書(日本の専門学校の場合)
- 履修科目・時間数が記載された証明書
学歴証明書の注意点!
- 原本またはオリジナルから作成された謄本
- 学校長の署名・学校印の押印があるもの
- 英語翻訳文の添付(必要に応じて)
在職証明書の必要記載事項
✔雇用期間(入社日から退職日まで)
✔従事した業務内容の詳細
✔役職・職位
✔雇用形態(正社員・契約社員等)
パスポート・写真などの基本書類
パスポート関連
- パスポートの写し(全ページ)
- 残存有効期間6ヶ月以上の確認
- 査証欄の余白確認
写真の仕様
- サイズ:4cm×3cm(申請用)、4.5cm×4.5cm(査証申請用)
- 背景:白色無地
- 撮影時期:申請前3ヶ月以内
- 服装:正装(スーツ等)
ベトナムでの公証・認証手続き
ベトナムで発行される書類は、日本での使用のために公証・認証手続きが必要です。
公証手続きの流れ
- 地方公証役場での公証:書類の真正性証明
- 外務省での認証:公証の真正性証明
- 在ベトナム日本領事館での領事認証:日本での有効性確保
効率的な書類準備スケジュール管理
書類準備から申請完了までの期間を適切に管理することで、スムーズな手続きが可能になります。
全体スケジュールの目安
段階 | 期間 | 主な作業内容 |
---|---|---|
事前準備 | 2-4週間 | 企業書類準備、雇用条件決定 |
書類収集 | 4-6週間 | ベトナム側書類準備、公証・認証 |
申請準備 | 1-2週間 | 書類チェック、申請書作成 |
審査機関 | 1-3ヶ月 | 在留資格認定証明書交付申請 |
査証取得 | 1週間 | ベトナム現地での査証申請 |
月別スケジュール例(4月入社予定の場合)
- 12月:企業書類準備開始、雇用条件確定
- 1月:ベトナム側書類準備、公証・認証手続き
- 2月上旬:在留資格認定証明書交付申請
- 3月下旬:証明書交付、ベトナムへ送付
- 4月上旬:査証取得、来日
適切な書類準備とスケジュール管理により、ビザ申請の成功率を大幅に向上させることができます。企業は計画的な準備を心がけ、ベトナム人本人との密接な連携を図ることが重要です。
6.ビザ申請の失敗パターンと確実な成功方法

ビザ申請において不許可となるケースには共通するパターンがあります。
これらの失敗要因を事前に理解し、適切な対策を講じることで、申請成功率を大幅に向上させることができます。
不許可になりやすい3つの典型的要因
ビザ申請の不許可要因は多岐にわたりますが、特に頻度が高く、企業が注意すべき典型的なパターンは以下の3つです。
1.職種とビザ種類のミスマッチ事例
最も多い不許可要因の一つが、申請する在留資格と実際の業務内容の不一致です。
技術・人文知識・国際業務ビザでの典型的ミスマッチ
- ケース1:大学で経済学を専攻した人を単純な製造ラインの作業者として雇用
- ケース2:文学部卒業者をコンビニの店員として雇用
- ケース3:IT系の学歴がない人をシステムエンジニアとして申請
特定技能ビザでの典型的ミスマッチ
- 「外食業」の特定技能で事務作業をメインとする業務
- 「建設業」の特定技能で設計業務のみを行う職種
- 対象分野外の業務を含む複合的な職務内容
◆対策法◆
- 申請前に業務内容とビザ要件の詳細な照合
- 業務内容書の具体的かつ正確な記載
- 必要に応じた業務設計の見直し
2.学歴・職歴要件の不足パターン
在留資格の要件を満たさない学歴・職歴での申請も頻繁に不許可となります。
学歴要件不足の典型例
- 高等学校卒業者の技人国ビザ申請
- 専門学校卒業者で専攻と業務内容の関連性不足
- 学位の真正性に疑義がある場合
職歴要件不足の典型例
- 必要な実務経験年数の不足(通訳業務で3年未満の経験等)
- 従事していた業務と申請業務の関連性不足
- 職歴証明書の信頼性に問題がある場合
学歴・職歴証明の信頼性問題
- 偽造された証明書の使用
- 公証・認証手続きの不備
- 翻訳内容の不正確性
◆対策法◆
- 申請前の要件適合性の厳格な確認
- 信頼できるルートでの証明書取得
- 適切な公証・認証・翻訳手続きの実施
3.給与水準・労働条件の不適切性
労働条件が日本人と同等でない場合や、最低賃金を下回る場合も不許可となります。
労働条件での不許可例
- 労働基準法に違反する長時間労働
- 社会保険未加入での雇用計画
- 不明確な雇用契約内容
書類不備による審査遅延の防止策
書類の不備は申請遅延の最大要因であり、場合によっては不許可につながります。
事前確認で見落としがちなポイント
1.書類の有効期限確認
- 各種証明書の発行日から3ヶ月以内の確認
- パスポートの残存有効期間(6ヶ月以上)の確認
- 在留資格認定証明書の有効期限(3ヶ月)の管理
2.書類の記載内容確認
- 申請書の記載漏れ・記載誤りのチェック
- 日付、金額、名称等の統一性確認
- 企業情報と個人情報の整合性確認
3.書類の形式要件確認
- 指定サイズでの印刷(A4サイズ等)
- 必要な署名・押印の確認
- 写真の規格(サイズ、背景色等)の確認
再申請を成功させるための改善策
一度不許可となった場合でも、適切な改善により再申請で許可を得ることは可能です。
不許可理由の分析と対応方法
不許可理由は開示されませんが、以下の方法で推定可能です。
- 申請内容と一般的な許可要件の照合
- 同様の事例での不許可要因の分析
- 専門家による申請内容の客観的評価
典型的な不許可理由と改善策
推定される不許可理由 | 具体的な改善策 |
---|---|
業務内容の専門性不足 | 業務内容の見直し、専門性の明確化 |
学歴と業務の関連性不足 | 関連性の詳細証明、補完資料の追加 |
給与水準の不適切性 | 給与水準の見直し、同等性の証明 |
企業の信頼性の不足 | 追加の企業証明資料、事業実績の提示 |
専門家(行政書士)活用のタイミング

再申請時において
再申請での改善ポイント
- 前回申請との差別化の明確化
- 改善された点の具体的な説明
- 追加の補強資料の提出
- より詳細な説明資料の作成
成功率向上のコツ
- 申請前の十分な準備期間確保
- 複数の角度からの要件適合性確認
- 保守的な申請内容での確実性重視
- 継続的な専門知識の習得
適切な準備と対策により、ビザ申請の成功率は大幅に向上します。
企業は失敗パターンを理解し、計画的な申請を心がけることで、優秀なベトナム人材の確実な採用を実現できます。
就労ビザは行政書士に頼むべきかどうか、申請に掛かる費用と選び方など、行政書士の活用の仕方についてもっと詳しく知りたい方は、「就労ビザは行政書士に頼むべき?申請に掛かる費用と選び方を解説」の記事をご覧ください。
7.ベトナム人ビザ申請成功の鍵は適切な準備と継続的な管理

ベトナム人の雇用成功は、適切なビザ選択と確実な手続きにかかっています。
技人国ビザから特定技能まで、それぞれの特徴を理解し、自社のニーズに最適な選択を行うことが重要です。
また、不法就労助長罪などの法的リスクを回避するため、継続的なコンプライアンス体制の構築も欠かせません。
本記事で紹介した手続きフローと注意点を参考に、計画的な準備を進めて優秀なベトナム人材の確実な採用を実現してください。
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