トラックドライバーの平均年齢は50.9歳で、全産業の平均より6.8歳高くなっていると言われています。
2024年に残業規制が強化され、人手不足にはさらに拍車がかかりました。野村総合研究所の試算によれば、2030年度には全国でドライバーの約36%が不足するといいます。
「運べない物流」は、もはや絵空事ではありません。 そんな危機感を背景に、物流業界が注目しているのが特定技能制度です。
2024年3月、自動車運送業がこの制度の対象分野に追加されたことで、外国人ドライバーの採用が一気に現実的な選択肢になりました。
本記事では、ドライバーの人手不足が進む中、特定技能人材に注目が集まっており、各社で動きが出ています。今回は、その事例を5社ご紹介します。
- 2024年に自動車運送業が特定技能制度の対象に追加された背景と、外国人ドライバー採用が広がる理由
- サカイ引越センターやヤマトグループなど5社が実践する、来日前から入社後までの具体的な育成モデル
- 国の受け入れ目標2万4500人は不足数の約8.5%にすぎず、制度だけでは解決しない構造的な課題
特定技能ドライバーの採用を進めている5社の事例
① サカイ引越センター

「来日する前から、サカイの人を育てる」という姿勢
サカイ引越センターは、5年後に特定技能ドライバー300名体制の構築を目指し、「引越業界初」となる来日前育成モデルを打ち出されました。
インドネシア・西ジャワ州に人材育成拠点「サカイアカデミー」を今年6月に開講予定です。日本語教育から引越業務の技能・接遇・安全教育までを現地で一体的に行っています。
すでに41名が就業中で、今後は年間60名ペースの採用を目標としています。
② ヤマトグループ(ナカノ商会)

ヤマトグループ初の外国人ドライバー誕生 —特定技能1号でベトナム人3名が入社
ヤマトホールディングス傘下のナカノ商会は2026年2月2日、特定技能1号を活用したベトナム人中型トラックドライバー3名の入社式を実施しました。ヤマトグループとして外国人ドライバーを採用するのは今回が初めてとなります。
今回採用されたのは、日本語能力試験N4相当の日本語能力と自動車運転免許を持ち、いずれも日本での就労経験を持つ人材です。
候補者への研修にとどまらず、配属先である厚木営業所の日本人社員に対しても、在留資格・労働条件・異文化コミュニケーションに関する研修を実施しました。受け入れ側と外国人社員の双方が準備を整えた体制が特徴的です。
育成は来日前から段階的に進められました。2025年2月から約1年間、ベトナム国内で日本語学校と連携した読解・聴解講習や中型トラック免許の取得講習を実施し、月1回のオンライン面談で日本での生活や働き方への不安を解消しながら、特定技能評価試験の合格を目指しました。
入社後も研修は続きます。日本人社員とベトナム人社員が共同作成したマニュアルを活用した生活・文化のオリエンテーション、外国免許から日本免許への切り替え講習、そして日本人ドライバーの車両への同乗実習を経て、2026年6月からは厚木営業所で企業間輸送業務への本格従事が予定されています。
また、生活面では同社で働くベトナム人社員が中心となってサポートする体制も整えており、地域社会への定着を後押ししています。
同社は今後も特定技能制度を活用したベトナム人中型トラックドライバーの採用・育成を継続し、運行効率の向上と持続可能な物流サービスの提供を目指します。将来的にはインドネシアやカンボジアなど、採用対象国の拡大も検討しています。
③ 福山通運

インドネシア人30名の内定が決定。「人間教育」まで踏み込んだ育成モデル
パッションジャパン株式会社は、福山通運のトラックドライバーとしてインドネシア人30名の採用支援を実施しました。
特定技能制度を活用した外国人ドライバーの採用は福山通運として初の試みで、国内物流業界の深刻なドライバー不足の解消と、インドネシアの若者に就労機会を提供することを目的としています。
採用された30名は現地の「パッションアカデミー」で日本語(N4相当)や日本式運転技術、礼儀・マナー教育などを受けており、10名ずつ3チームに分かれてリーダーの指導のもと来日準備を進めています。
今後はインドネシアに加え、ネパールやバングラデシュにもアカデミーを展開し、物流業界における外国人材受け入れモデルの確立を目指すとしています。
④ ネクスト(札幌)

4カ国の若者4名で、北海道の物流を支える今後
北海道の物流会社ネクストは、韓国・インドネシア・ベトナム・タイ出身の20〜30代ドライバー4名を特定技能1号として採用しました。2月から4月にかけて順次入社します。
採用を支援したのは、外国人雇用支援のキャムグローバルと人材派遣のバイトレ(ともにキャムコムグループ)です。
キャムグローバルが制度運用と受け入れ体制の構築を、バイトレが在留資格の手続きから新生活のセットアップまでを担い、ネクストの現場教育と組み合わせる三社一体の育成モデルを構築しました。
特徴的なのは、採用を意図的に複数国の混成チームとした点です。特定の国に依存しないことでカントリーリスクを分散しつつ、同郷同士の依存関係を生みにくくし、日本語と統一された安全基準を軸にしたプロ集団としての規律を保ちやすい環境を狙っています。
教育面では、トレーラの運転技術や荷積み・固縛といった専門技能に加え、日本式の接客マナーや報連相、緊急時対応までをシミュレーション形式で習得させます。
将来は後続の外国人ドライバーを束ねる指導員への成長も視野に入れており、「採用して終わり」ではない中長期育成が今回のモデルの核心といえます。
⑤ 広島県内の中小運送事業者
「前例が少ない」を乗り越えて——広島の運送各社、外国人ドライバー受け入れへ
物流業界の人手不足が深刻化する中、広島県内の運送会社が特定技能制度を活用した外国人ドライバーの確保に動き出しています。2024年3月に自動車運送業が特定技能の対象に追加されたことが背景にあります。
広島市のクボックスでは、カンボジア人2名が9月に特定技能・自動車運送業の試験に合格しました。準中型免許取得の教習費用や特定技能2号進学のためのオンライン講座費用も会社が負担しています。
食品物流の河野(安佐北区)は11月に特定技能の中国人ドライバーを初採用し、写真を多用した中国語マニュアルも整備しました。
大手の福山通運はベトナムの専門学校にドライバーコースを設け、免許を持たない若者の段階的な育成・受け入れを強化しています。
一方、特定技能1号での自動車運送業就労者は全国でまだ40人(2024年8月末時点)にとどまり、国が見込む2万4500人との差は大きい状況です。
広島県トラック協会の森井専務理事は「中小事業者は前例が少ないと踏ん切りがつきにくい」と指摘し、研修会を通じた事例共有の重要性を訴えています。
野村総合研究所は2030年度に中国地方で39%、全国で36%のドライバーが不足すると推計しています。外国人材の受け入れ拡大に向け、ノウハウの共有が急務となっています。
まとめ:「採用」ではなく「共に働く仕組みをつくる」時代へ
5社の事例を並べてみると、共通するひとつの方向性が見えてきます。
単に外国人を「雇う」のではなく、来日前から入社後まで、一貫したサポートと育成の仕組みをつくることに各社が本気で取り組んでいるということです。
国は2024年度からの5年間で、最大2万4500人の特定技能ドライバー受け入れを見込んでいますが、現状との差は依然として大きい状況です。
制度は整っています。2024年3月の閣議決定により、特定技能の対象分野に自動車運送業(トラック・バス・タクシー)が追加されました。
しかし、この数字は業界が直面する課題の大きさと比べると、あまりに小さいといえます。同期間に予測される人手不足は約28万8000人にのぼり、2万4500人はその約8.5%にすぎません。
しかも、この数はあくまで「生産性向上や国内人材の確保策を講じてもなお埋まらない残余の不足分」として設定されたものです。つまり、制度をフル活用したとしても、業界の人手不足はほとんど解消されない計算になります。
さらに深刻なのは、制度の「中身」がまだ現場に届いていない点です。評価試験の実施体制や受け入れ後の育成ノウハウは十分に整っておらず、外国人ドライバーを実際に迎え入れた経験を持つ企業はごく一部にとどまっています。
制度という「器」はできましたが、それを機能させる「運用の仕組み」と、異文化の人材を受け入れる「職場文化」が根づいていないのが現状です。