「ネパール人を採用したいが、言葉の壁が心配」という企業担当者の方へ。
ネパールの公用語はネパール語ですが、実は日本語と語順が原則として一致するため、他国籍と比較して習得が驚くほど早いという特徴があります。
本記事では、特定技能や技人国でのネパール人採用を検討中の企業向けに、関連する法制度や言語的背景に基づき、実務的な受け入れのコツまで解説します。
- ネパールの公用語と多言語国家としての言語事情、英語教育の実態
- ネパール人が日本語を習得しやすい5つの言語学的理由と採用メリット
- 採用前の言語能力評価方法と採用後の効果的な受け入れ・研修のポイント
1.ネパール人が話す言語:公用語と基礎知識

ネパール人採用を検討する際、まず知っておくべきは「ネパール人は何語を話すのか」という基本的な言語事情です。
このセクションでは、ネパールの公用語や多言語国家としての背景、そして英語教育の実態について解説します。
ネパールの公用語はネパール語で約45%が母語として使用
ネパールの憲法で定められた公用語はネパール語です。
ネパール語はデーヴァナーガリー文字を使用するインド・アーリア語族に属する言語で、ビジネスや公的な場面では標準的に使用されています。
2021年のネパール国勢調査によると、ネパール語を母語とする人は人口の約45%です。
母語話者は半数以下ですが、第二言語として学習し使用する層も多く、国民の大多数がネパール語を理解し、コミュニケーションに使用できます。

採用担当者の視点からすると、ネパール人求職者のほぼ全員がネパール語を理解できるため、ネパール本国でのやり取りや書類確認の際は、ネパール語が共通言語として機能すると考えて問題ありません。
124の言語が存在する多言語国家で英語教育も盛ん
ネパールは実は124もの言語が話される多民族・多言語国家です。
ネパール語以外の主要な言語としては、マイティリ語(全人口の11.58%)、ボジュプリー語(6.24%)、タルー語(5.87%)、タマン語(5.11%)などがあり、民族や地域によって母語が異なります。
このような多言語環境で育つため、ネパール人は幼少期から複数言語の学習に慣れており、言語習得に対する抵抗が少ないという特徴があります。
さらに注目すべきは、英語教育の普及度の高さです。ネパールでは初等教育(5歳)から英語が必修科目となっており、特に都市部の私立学校では国語以外の科目を英語で教えるケースも珍しくありません。
インドとの経済的・文化的つながりが強く、出稼ぎ労働者が多い国柄から、若い世代ほど英語能力が高い傾向にあります。
採用への示唆
- 出身地域により母語が異なる場合があることを理解しておく
- 採用初期段階では英語での説明や研修資料の提供も有効な選択肢
- 多言語環境で育った背景から、日本語学習へのハードルも相対的に低い
2.ネパール人が日本語を習得しやすい5つの理由

ネパール人採用を検討する企業にとって最大の朗報は、ネパール人が日本語を習得しやすいという事実です。
言語学的な観点から見ても、ネパール語と日本語には驚くべき共通点が多く、他国籍の外国人労働者と比較して圧倒的に短期間での日本語習得が期待できます。
ここでは、その具体的な理由を5つ解説します。
【理由1】語順が日本語と完全に一致する「SOV型言語」
ネパール語の最大の特徴は、主語(S)-目的語(O)-動詞(V)という語順が日本語と完全に一致している点です。
例えば、「私は りんごを 食べる」という日本語の文をそのままネパール語に置き換えると、「म (私は) + स्याउ (りんごを) + खान्छु (食べる)」となり、語順は一切変わりません。
一方、他の主要な外国人労働者の母語を見てみましょう。英語・中国語・ベトナム語・フィリピン語はいずれもSVO型で、「私は 食べる りんごを」という語順になります。
この語順の違いは、日本語学習において非常に大きな壁となります。

文の組み立て方そのものを学び直す必要がないため、基本的な会話や業務指示の習得スピードが格段に速く、早期戦力化が実現できます。
【理由2】助詞に相当する後置詞があり文法構造が似ている
日本語には「は」「を」「に」「で」といった助詞が存在し、これが文の意味を明確にする重要な役割を果たしています。
実は、ネパール語にも後置詞という日本語の助詞と類似の文法要素があり、文法の骨格が共通しています。
例えば、日本語で「学校で」と表現する場合、ネパール語でも「विद्यालयमा (学校・で)」と、名詞の後ろに格を示す要素が付きます。
この文法的類似性により、業務マニュアルや作業手順書の理解が他国籍と比較してスムーズです。

複雑な業務指示や安全マニュアルの理解が早く、現場での教育時間とコストを大幅に削減できます。
【理由3】敬語表現が存在し上下関係を重視する文化
日本の職場文化で重要な「敬語」ですが、ネパール語にも敬語システムが存在します。
年長者や目上の人に対して異なる言葉遣いをする習慣があり、例えば挨拶の「ナマステ」は目上の人には「ナマスカール」と使い分けます。
この言語文化的背景により、日本の職場における上下関係や礼儀作法への適応が非常に早いという特徴があります。
「敬語が難しい」と感じる外国人が多い中、ネパール人にとっては母語にも存在する概念のため、理解のハードルが低いのです。

職場の人間関係構築がスムーズで、日本的な組織文化への適応が早く、定着率が高い傾向にあります。
【理由4】発音体系が日本語と近く聞き取りやすい
ネパール語の発音は、日本語にない複雑な子音や母音が比較的少なく、日本人にとって聞き取りやすい音韻体系を持っています。
逆に、ネパール人にとっても日本語の発音は習得しやすく、発音矯正に多大な時間を要することがありません。
例えば、英語のthやrの音、中国語の四声、ベトナム語の六声といった日本人にとって難しい発音要素は、ネパール語には存在しません。

現場での口頭コミュニケーションの障壁が低く、電話対応や接客業務なども比較的早い段階から任せられます。
【理由5】実際の習得速度が他国籍と比較して早い
理論だけでなく、実際の受け入れ企業からも「ネパール人は日本語習得が早い」という声が多数報告されています。
日本語学校関係者や技能実習・特定技能の受け入れ実績のある企業からは、日本語能力試験(JLPT)の合格率の高さや、入国後6ヶ月〜1年での実用レベル到達といった具体的な成果が聞かれます。
多言語環境で育ってきた背景から言語学習そのものへの抵抗が少なく、学習意欲も高い傾向にあります。

教育投資の回収期間が短く、採用後3ヶ月〜6ヶ月で基本的な業務遂行が可能となり、採用コストの早期回収が実現します。
3.採用前に確認すべき言語能力のポイント

ネパール人の日本語習得が早いことは大きなメリットですが、採用段階で適切な言語能力を見極めることが、その後の円滑な受け入れの鍵となります。
ここでは、実務的な視点から確認すべきポイントを解説します。
日本語能力試験(JLPT)のレベルと業務遂行能力
日本語能力の客観的な指標として最も一般的なのが日本語能力試験(JLPT)です。N5からN1までの5段階があり、特定技能ではN4以上が要件となっています。
各レベルで可能な業務内容の目安
レベル | 認定の目安 | 業務遂行能力 |
---|---|---|
N5 | 基本的な日本語をある程度理解できる | 単純作業のみ。指示は絵や実演が必要 |
N4 | 基本的な日本語を理解できる | 日常的な簡単な会話が可能。ゆっくり話せば業務指示が理解できる |
N3 | 日常的な場面の日本語をある程度理解できる | 日常会話は問題なし。業務マニュアルも読解可能 |
N2 | 日常的な場面に加え、より幅広い場面の日本語を理解できる | ビジネス会話が可能。複雑な業務指示も理解できる |
N1 | 幅広い場面で使われる日本語を理解できる | ネイティブに近いレベル。専門的な業務も遂行可能 |
実務アドバイス
- 製造業・建設業などの現場作業であれば、N4レベルで十分に業務遂行が可能
- 接客業や事務職など言語使用頻度が高い職種では、N3以上が望ましい
- 技人国(技術・人文知識・国際業務)では、実務上N3以上が推奨される
- 同じN4合格でも、180点満点中90点ギリギリと160点では実力差が大きいため、可能であれば点数も確認
参考:日本語能力試験 JLPT
▼あわせて読みたい
特定技能外国人を採用するには、N4以上の日本語能力が求められます。こちらの記事では特定技能の制度についてより深く理解したい方のために、在留資格の要件や対象となる業種、採用までの流れを分かりやすく整理した記事をご用意しました。
英語能力と採用面接での評価方法
前述の通り、ネパール人は英語教育が盛んなため、英語でのコミュニケーションも選択肢となります。
特に都市部出身者や20〜30代の若年層は、日常会話レベル以上の英語能力を持つケースが多くあります。
実務アドバイス
- 面接時の日本語レベルと資格レベルにズレがないか確認(証明書の確認も必須)
- 日本語が不十分でも、英語能力が高ければ、初期段階での研修資料を英語併記にする選択肢も
- 「分かりました」だけでなく、理解した内容を復唱してもらうことで真の理解度を測る
4.採用後の受け入れとコミュニケーションのコツ
採用が決まったら、次は円滑な受け入れとコミュニケーション環境の整備です。
言語的な共通点を活かしながら、文化的な配慮も加えることで、ネパール人従業員の早期定着と戦力化を実現できます。
効果的な日本語研修とマニュアル作成
ネパール人の日本語習得の早さを最大限に活かすには、業務に直結する日本語から優先的に教える実践的アプローチが効果的です。
分かりやすい業務マニュアルの作成


社内研修で基本を固め、より専門的な日本語習得には外部の日本語学校や登録支援機関のサポートを活用するハイブリッド型が効率的です。
明確な指示と定期的なフィードバックを習慣化する
日本人同士では「察する」「空気を読む」といったコミュニケーションが機能しますが、外国人従業員には明確で具体的な指示が不可欠です。
「適当に」「いい感じで」
など曖昧な表現「分かりましたか?」
だけで済ませる
最初の3ヶ月は特に丁寧なフォローを心がけ、日報や週報などで双方向のコミュニケーションを確保しましょう。
宗教・文化的背景への配慮が職場定着のカギ
ネパール人の約81%はヒンドゥー教徒、約9%が仏教徒です。
宗教的・文化的な配慮を怠ると、思わぬトラブルや早期離職につながります。
「ナマステ (こんにちは)」
「ダンニャバード (ありがとう)」
「ラムロ (良い)」
など、管理職が率先して使うことで心理的距離が縮まります。
採用前に本人の宗教や食事制限を確認し、チェックリストを作成して全従業員で共有することで、トラブルを未然に防げます。
文化的な違いを「面倒なこと」ではなく「多様性の強み」として捉える組織風土の醸成が、長期定着の鍵となります。
5.ネパール人採用に関する言語面でのよくある質問

企業担当者から実際によく寄せられる、言語面に関する質問とその回答をまとめました。実務的な判断の参考にしてください。
Q:日本語が全くできない状態で採用しても大丈夫ですか?
結論:可能ですが、受け入れ後の研修体制が重要です。
特定技能の場合、N4以上の日本語能力が在留資格の要件となっているため、「全くできない」状態での入国は制度上困難です。
しかし、N4レベル(基本的な日本語を理解できる)は、決して流暢に会話ができるレベルではありません。

成功のポイント
- 入国前に現地で基礎的な日本語研修を受けさせる(送出し機関や日本語学校を活用)
- 入国後3ヶ月間は集中的な日本語研修期間とし、業務と並行して学習時間を確保
- 先輩ネパール人従業員がいれば、メンター制度を導入して母語でのサポートも

在留資格申請では日本語能力の証明が必須です。当事務所では、現地日本語学校との連携や、来日後の日本語教育支援も含めたトータルサポートが可能です。
▼あわせて読みたい
特定技能外国人を採用する場合、登録支援機関によるサポートが不可欠です。彼らがどのような役割を担い、どのような支援を提供してくれるのか、そして自社に合った機関を選ぶためのポイントは何か。こちらの記事で詳しく解説しています。
Q:日本語教育のコストと通訳の必要性は?
結論:日本語教育の費用は、社内研修なら月5〜10万円程度、外部日本語学校で月3〜5万円/人が相場です。
通訳は入国直後〜3ヶ月間は複雑な説明時に有効ですが、専属通訳は不要で、先輩ネパール人従業員やオンライン通訳サービスの活用で十分対応できます。
日本語教育の一般的な費用相場
研修タイプ | 費用目安 | 特徴 |
---|---|---|
社内研修 | 講師人件費のみ(月5〜10万円程度) | 業務に特化した内容が可能 |
外部日本語学校 | 月3〜5万円/人 | 体系的なカリキュラムで学習できる |
eラーニング | 月1,000〜5,000円/人 | 自習型、コスト最小 |
登録支援機関の研修 | 支援委託費に含まれる場合が多い | 特定技能の場合は活用可能 |
コスト削減のポイント
コスト削減のポイント
- 助成金の活用
人材開発支援助成金(特定訓練コース)で研修費用の一部が助成※される場合がある - 社内リソースの活用
日本人従業員によるOJT型の日本語指導 - 複数名同時研修
同時期に複数のネパール人を採用することで、研修コストを効率化
※助成金の対象要件や内容は変更される可能性があるため、最新の情報は厚生労働省のウェブサイトや管轄の労働局にてご確認ください

研修コストは「投資」と捉えることが重要です。ネパール人は習得が早いため、他国籍と比較して投資回収期間が短く、長期的にはコストパフォーマンスが高い選択となります。
Q:日本語能力試験の受験をサポートすべきですか?
結論:積極的にサポートすることを強く推奨します。
日本語能力試験の上位級取得は、企業・従業員双方にメリットがあります。
具体的なサポート内容
項目 | 具体的なサポート内容 |
---|---|
受験費用の補助 | 受験料は約6,000円、合格時は全額補助などの制度設計 |
学習時間の確保 | 勤務時間内に週1〜2時間の学習時間を設ける |
学習教材の提供 | 参考書やオンライン教材の購入費用を会社負担 |
合格祝い金 | N3合格で3万円、N2合格で5万円など、インセンティブ設定 |

6.ネパール人採用で言語面の不安を解消するために
ネパール人の日本語習得の早さは、語順の一致という言語学的優位性と、敬語文化など日本の職場との親和性の高さに支えられています。
適切な準備とサポート体制があれば、言語面の不安は十分に解消可能です。
教育投資の回収期間が短く、長期定着率も高いネパール人採用は、人手不足に悩む企業にとって有力な選択肢です。
特定技能や技人国での採用手続きは、専門の行政書士にぜひご相談ください。