人手不足が深刻化する日本企業にとって、特定技能インドネシア人材の採用は有効な解決策として注目されています。
若く活力に溢れ、親日的な国民性を持つインドネシア人は、日本の職場環境に馴染みやすいと評価されています。
本記事では、インドネシア人特定技能者の採用から雇用までの具体的なステップと、宗教・文化面での配慮ポイントを解説します。
- インドネシア人特定技能者の採用手続きと「IPKOL」「SISKOTKLN」システムの活用法
- イスラム教徒が多いインドネシア人の宗教・文化への配慮ポイントと職場環境整備の実践方法
- 特定技能インドネシア人材の活用による人手不足解消と多様性ある職場づくりの具体的戦略
1.特定技能インドネシア人が注目される理由と現状
近年、日本の深刻な人手不足を背景に、外国人材受け入れが加速しています。
特に製造業、介護、農業、建設などでは人材確保が急務となり、2019年に創設された「特定技能」制度は即戦力となる外国人労働者の受け入れ枠を拡大しました。

この流れの中でインドネシア人材が注目されています。
出入国在留管理庁のデータでは、特定技能在留外国人のうちインドネシア人は上位の比率を占め、増加傾向です。
背景には、インドネシアの若年層人口の多さ、日本との友好関係、そして「SISKOTKLN」や「IPKOL」などの労働者管理システムを通じた政府の送り出し体制の整備があります。(「SISKOTKLN」や「IPKOL」などの労働者管理システムについては後述します)
さらに、インドネシア人の日本文化への理解の深さや勤勉さも高く評価されています。
2.インドネシア人特定技能者の採用メリットとは?

インドネシア人を特定技能として採用することには、他国籍の人材と比較して独自の強みがあります。
文化的な親和性の高さから職場適応力に優れ、若い労働力の豊富さと政府の積極的な支援体制も魅力です。ここでは主要な3つのメリットを詳しく解説します。
親日的で柔軟な価値観と日本文化への適応力
インドネシア人採用の大きなメリットは、親日的な姿勢と日本文化への高い適応力です。
インドネシアには多くの日系企業が進出し、日本のアニメや漫画、食文化が広く浸透しています。そのため、日本に対して良い印象を持ち、日本語学習への関心も高い傾向にあります。
仕事面では、日本の働き方に類似した価値観を持つことも特徴的です。指示に対して真摯に取り組む姿勢や、地道な作業に向き合う忍耐力は日本人との親和性が高く、職場コミュニケーションもスムーズに行われやすくなります。
また、インドネシアは異なる民族・宗教・言語が共存する多様性のある環境のため、インドネシア人は異文化への適応能力が高いとされています。
この柔軟性により、日本の職場環境にも比較的早く馴染み、文化的・社会的側面でも貢献しています。
インドネシア人の国民性や生活習慣などの特徴について、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事がおすすめです。
若く活力ある人材が多い労働人口構成
インドネシアは人口約2.7億人の世界第4位の人口大国で、その特徴は若年層の割合の高さです。平均年齢は29.7歳と若く、総人口の約半数が30歳未満という若い国です。
この若い労働力は、少子高齢化が進む日本にとって大きな魅力となっています。特に製造業や介護分野など、体力を必要とする業種では、活力あるインドネシア人材の受け入れが人手不足解消に有効です。
さらに、インドネシアは2040年まで「人口ボーナス期」が続き、生産年齢人口は2030年に2億人を超える見込みです。
この豊富な若年労働力は、長期的にも日本の労働市場を支える存在となるでしょう。
送り出し体制と好事例に見る安心感
インドネシア政府は日本への特定技能人材派遣に積極的で、2019年6月には日本との間で協力覚書(MOC)を締結し、制度面での連携を強化しています。
また、日本語能力試験への支援も行い、日本企業へのインドネシア人材送り出しを促進しているのです。この政府レベルのサポートにより、即戦力となる人材の送り出し体制が整備され、企業は安心して採用できます。
特筆すべき点は、インドネシアはベトナムなどと異なり、特定技能人材が現地送り出し機関を経由せず直接雇用契約を結べる点です。
これにより余計な手数料が発生せず、ベトナムやフィリピンと比較して低コストでの採用が可能となり、中小企業にとっても導入のハードルが低くなっています。
3.採用から雇用までの具体的なステップ

インドネシア人特定技能者の採用プロセスには、他国とは異なる独自のシステムやルールがあります。
ここでは、海外・国内それぞれのケースにおける採用手続きのステップと、特有の申請システムの活用方法を解説します。
インドネシア特有の仕組み「IPKOL」と「SISKOTKLN」の理解
インドネシア人特定技能者を採用する際には、インドネシア特有のオンラインシステムを理解し活用することになります。
主要なシステムとして「IPKOL」(労働市場情報システム)と「SISKOTKLN」(海外労働者管理サービスシステム)の2つがあります。
IPKOL(労働市場情報システム)
「IPKOL」はインドネシア政府が管理する求人・求職のためのオンラインシステムで、海外からインドネシア人を雇用したい企業はこのシステムに登録することが推奨されています。
登録自体は無料でオンラインで行えますが、入力は英語またはインドネシア語となっているため、必要に応じて翻訳サービスなどを活用するとよいでしょう。IPKOLに登録することで、求職中のインドネシア人とのマッチングが円滑になります。
IPKOLサイトURL:https://imw.kemnaker.go.id/auth/login
SISKOTKLN(海外労働者管理サービスシステム)
「SISKOTKLN」は海外労働者管理システムで、雇用契約を結んだ後にインドネシア人労働者自身が登録を行います。この登録により、インドネシア政府より移住労働者証(E-KTKLN)が電子発行され、これをもって在日インドネシア大使館に査証を申請するという流れになります。
SISKOTKLNサイトURL:https://siskop2mi.bp2mi.go.id/
これらのシステムへの登録は法的義務ではありませんが、インドネシア政府が強く推奨しているため、円滑な手続きのためにも対応するのが望ましいでしょう。
これらのシステムを活用することで、以下のメリットが得られます。

ビザ取得と送り出し機関の連携のポイント
インドネシア人特定技能者を採用する際のビザ取得の流れは、「海外在住者を採用する場合」と「日本国内の在留者を採用する場合」で大きく異なります。
それぞれのプロセスを理解することが、スムーズな受け入れの鍵となります。


インドネシアは他のアジア諸国と異なり、特定技能人材採用時に現地の送り出し機関を経由する必要がないため、余計な仲介手数料がかからず、コスト面でのメリットがあります。
ただし、送り出し機関を通さない分、日本語教育や生活指導などのサポートは受入企業側でしっかりと行う必要があります。
これらの手続きは複雑で時間がかかることが多いため、特に初めて外国人材を採用する企業は、行政書士や登録支援機関などの専門家のサポートを受けることをお勧めします。
登録支援機関についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
■登録支援機関への委託を検討されているなら…
1号特定技能外国人支援・登録支援機関なら株式会社バックエンドにお任せください。経験豊富な専門の行政書士がトータルでサポートいたします。
4.イスラム文化と配慮が必要な場面とは

インドネシアはイスラム教徒が多数を占める国で、特定技能者として来日するインドネシア人の多くもイスラム教を信仰しています。
彼らの宗教的習慣や文化的背景を理解し、適切な配慮を行うことは、良好な職場環境を構築する上で非常に重要です。
配慮項目 | 具体的な対応策 |
---|---|
礼拝(サラート)への配慮 | • 短時間(5〜10分程度)の礼拝時間を確保する • 清潔で静かな礼拝スペースを提供する(小さな個室や会議室の一角でも可) • 礼拝前の身体の清めのための設備(洗面所など)へのアクセスを確保する |
食事制限への配慮 | • 豚肉・豚由来成分を含む食品の提供を避ける • アルコールを含む食品や調味料を使用しない • 社員食堂や社内イベントでハラール対応メニューを提供する、または代替食を用意する • 食材の調理器具や食器の区別など、調理環境への配慮 |
ラマダン(断食月)への理解 | • 体力的な負担を考慮し、可能であれば業務内容や勤務時間の調整を検討する • 断食中の同僚の前での飲食を控えるようチーム内で理解を促す • 日没後の食事(イフタール)や早朝の食事(スフール)のための配慮をする |
これらの宗教的習慣への配慮は法的義務ではありませんが、インドネシア人材が安心して働ける環境を整えることで、彼らのモチベーションや定着率の向上につながります。
また、イスラム教の価値観には「相互扶助」や「奉仕の精神」が含まれており、特に介護などの対人サービス分野では、これらの価値観がプラスに働くことも多いです。
文化的背景の違いへの配慮
インドネシア人は「面子」を重んじる文化があり、人前で間違いを指摘されることに敏感な場合があります。指導や注意は個別に行い、彼らの自尊心を傷つけないよう配慮することが重要です。
また、インドネシア人は基本的に親しみやすく社交的な国民性を持つため、職場での良好な人間関係構築にも積極的に取り組むと良いでしょう。
5.雇用時の注意点と企業がとるべき対策

インドネシア人特定技能者を雇用する際には、文化的背景の違いを理解し、法令を遵守することが重要です。
ここでは、職場での摩擦を予防し、長期的な人材戦略を構築するための具体的な対策を紹介します。
文化的摩擦の予防と法令順守の重要性
インドネシア人特定技能者を雇用する際には、文化的な摩擦を未然に防ぐとともに、関連法令を厳格に順守することが不可欠です。
これらの取り組みは、円滑な職場環境の構築と法的リスクの回避につながります。
文化的摩擦の予防策
事前研修の実施
- 日本人社員向けにインドネシアの文化や宗教的習慣に関する研修を実施
- インドネシア人向けに日本の企業文化や社会慣習についての事前教育
- 双方の認識ギャップを埋めるためのクロスカルチャー研修
コミュニケーションの工夫
- インドネシアでは直接的な批判が失礼にあたる場合があるため、指摘や改善要求は婉曲的に伝える
- 「面子」を重んじる文化であることを理解し、公の場での叱責を避ける
- 定期的な意見交換会や個別面談での本音の引き出し
異文化理解の促進
- 職場内での文化交流イベントの開催
- 相互理解を深めるためのバディ制度やメンター制度の導入
- 誤解や問題が生じた際の仲介役となる文化コーディネーターの設置
法令順守の重要ポイント
労働関係法令の厳守
- 日本人と同等の労働条件の提供(同一労働同一賃金の原則)
- 適正な労働時間管理と残業代の支払い
- 年次有給休暇の適切な付与と取得促進
特定技能制度特有の要件遵守
- 支援計画の作成と実施(登録支援機関に委託する場合でも内容把握は必須)
- 定期的な活動状況の報告と記録保持
- 制度変更への迅速な対応と情報収集
インドネシア特有の手続きの理解と対応
- IPKOL(労働市場情報システム)への登録
- SISKOTKLN(海外労働者管理システム)登録のサポート
- インドネシア大使館・領事館との連携
雇用契約における注意点
- 契約書はインドネシア語または英語の翻訳版も提供
- 業務内容、労働時間、給与、休暇等の明確な記載
- 解約条件や満了時の取り扱いの明示
文化的摩擦と法令違反は、どちらも企業とインドネシア人材の双方に不利益をもたらします。
特に法令違反は行政処分や受け入れ停止などの深刻な結果を招く可能性があるため、専門家や行政機関の最新情報を常に確認し、適切に対応することが重要です。
また、問題が発生した際の相談窓口や解決プロセスを事前に確立しておくことで、小さな問題が大きなトラブルに発展することを防ぐことができるでしょう。
6.特定技能インドネシア人材の活用で企業の未来を拓く

特定技能インドネシア人材の活用は、単なる人手不足対策を超えた企業成長の機会です。
IPKOLやSISKOTKLNといったシステムを理解し、イスラム文化への適切な配慮を行うことで、インドネシア人材の能力を最大限に引き出すことができます。
言語や文化の違いを乗り越え、互いを尊重するパートナーシップを構築することが、多様性ある職場づくりと企業の持続的発展につながるでしょう。