外国人労働者の約89%が取得する技人国ビザは、企業の国際競争力向上に不可欠な制度です。
しかし申請の複雑さと審査の厳格化により、不許可率は約20%に達しています。一度の失敗が再申請時のリスクを高めるため、初回申請での成功が極めて重要です。
本記事では申請要件から不許可対策まで、企業が知るべき実務知識を網羅的に解説します。
- 技人国ビザの申請要件と審査ポイントの詳細
- 不許可になる主な理由と具体的な対策方法
- 企業が守るべき法的義務と適切な管理体制
1. 技人国ビザとは?制度の全体像

外国人雇用を検討する企業にとって、技人国ビザの正確な理解は成功の前提条件です。
正式名称や適用範囲、他の就労ビザとの違いを明確に把握することで、適切な人材選定と申請戦略の立案が可能になります。
まずは制度の全体像から詳しく見ていきましょう。
正式名称と定義(技術・人文知識・国際業務)
技人国ビザの正式名称は「技術・人文知識・国際業務」在留資格です。
これは、日本の公私の機関との契約に基づき、専門的・技術的分野で活動する外国人に付与される就労資格で、外国人労働者の約89%がこのビザを取得して働いています。
このビザは、以下の3つの分野に分かれています。

2015年の入管法改正により、従来の「技術」と「人文知識・国際業務」が統合され、現在の形となりました。
この統合により、理系・文系の境界を越えた柔軟な審査が可能になり、複合的な業務に従事する現代の職場環境により適合した制度となっています。
各分野の職種例
分野 | 対象学問領域 | 具体的職種例 |
---|---|---|
技術 | 数理科学、物理学、化学、生物科学、情報工学、機械工学、電気工学、建築学、農学など | ・システムエンジニア ・プログラマー ・設計技術者 ・研究開発職 ・品質管理技術者 など |
人文知識 | 法律学、経済学、社会学、経営学、商学、会計学、語学、文学、歴史学など | ・営業職 ・事務職 ・経理・財務 ・マーケティング ・人事・総務 など |
国際業務 | 外国文化、国際関係、外国語等の分野 | ・通訳・翻訳 ・海外営業 ・貿易業務 ・語学教師 ・国際業務コーディネーター など |
重要な点は、これらの分野は排他的ではなく、現代の職場では複数分野にまたがる業務が一般的であることです。
例えば、IT企業の営業職では技術的知識と営業スキルの両方が求められ、「技術」と「人文知識」の両方の要素が含まれる場合があります。
他の就労ビザとの違い
技人国ビザと特定技能ビザの主要な違いは以下の通りです。
企業にとって技人国ビザは、長期的な人材確保と幹部候補育成に適した制度と言えます。
2. 技人国ビザの申請要件と審査ポイント

技人国ビザの審査は多面的かつ厳格に行われます。外国人本人の学歴・経験、専攻と業務の関連性、雇用企業の要件、雇用の必要性、在留歴など、複数の要素が総合的に判断されます。
各審査ポイントの詳細を理解し、適切な準備を行いましょう。
学歴または実務経験の要件(日本/海外卒含む)
技人国ビザ取得には、以下のいずれかの学歴・経験要件を満たす必要があります。

専攻と職務の関連性証明
専攻分野と職務内容の関連性は、技人国ビザ審査における最重要ポイントです。この関連性の判断基準は教育機関によって異なります。
大学卒業者の場合: 比較的緩やかに判断され、直接的な関連性がなくても広義の関連性が認められる場合があります。例えば、
- 経済学専攻→IT企業の営業職(経済知識を活用した営業戦略立案)
- 工学専攻→金融機関のシステム部門(技術的知識を活用したシステム運用)
専門学校卒業者の場合: 厳格に審査され、専攻内容と業務内容のほぼ完全一致が求められます。例えば、
- ホテル専門学校→ホテル業界での宿泊サービス業務(○)
- ホテル専門学校→一般企業の営業職(×)
関連性を強化する方法
- 履修科目と業務内容の具体的対応関係を明示
- 業務で活用する専門知識の詳細説明
- 企業の事業内容と申請人の専門性の連関性を論理的に説明
雇用企業の要件(カテゴリー・財務状況・報酬水準など)
出入国在留管理局は、受入企業を以下4つのカテゴリーに分類し、それぞれ異なる審査基準を適用します。
カテゴリー | 企業規模・種別 | 主な提出書類 |
---|---|---|
1 | 上場企業等 | 登記簿謄本、カテゴリー証明書類 |
2 | 前年分給与所得の源泉徴収票総額が1,500万円以上 | 登記簿謄本、前年分給与支払事務所等の源泉徴収票等の法定調書合計表 |
3 | 前年分給与所得の源泉徴収票総額が1,000万円以上1,500万円未満 | 登記簿謄本、前年分給与支払事務所等の源泉徴収票等の法定調書合計表、会社案内等 |
4 | 上記以外(新設会社含む) | 登記簿謄本、決算書類、事業計画書、会社案内等 |
財務状況による特別な対応が必要な企業については、赤字決算企業の場合は事業計画書の提出により審査が可能です。
債務超過企業の場合は専門家による再建可能性の疎明が必要となり、中小企業診断士や公認会計士による詳細な報告書が求められます。
新設会社については詳細な事業計画書と資金計画書の提出が必須となっています。
カテゴリーに関しては、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
雇用の必要性・業務量の妥当性
企業が外国人を雇用する合理的理由と十分な業務量の存在を証明する必要があります。
雇用必要性の判断基準
- 外国人の専門性を活用する具体的業務の存在
- 日本人では代替困難な理由の明確化
- 事業戦略上の必要性の論理的説明
業務量妥当性の確認ポイント
- 専門業務が主たる職務となっているか
- フルタイムでの業務量が確保されているか
- 技人国に該当しない業務(単純労働)の比率は適切か
不許可となりやすい例
例1:ホテルのネパール人通訳者雇用
不許可となりやすい具体例として、雇用必要性に欠けるケースでは、大学の日本語学科を卒業したネパール人をホテルで通訳翻訳として雇用したい場合などです。
宿泊客の大半が中国人であるなどネパール語を話す外国人客がほぼいないような状況では、ホテルがネパール人を雇用することの必要性を疑問視され不許可となる可能性が高くなります。
例2:コンビニ店長雇用
十分な業務量が見込まれない例では、経理と経営学を専攻したベトナム人をコンビニエンスストアの店長として雇用したい場合、技術・人文知識・国際業務ビザで雇用した外国人はレジ打ちや接客業務に従事することができません。
また、経理業務については本部の一括管理であることが大半なので、外国人材がするべき業務量が少なすぎるとして不許可となる可能性が高くなります。
つまり、空いた時間に何をするのかという疑問を持たれ、接客をするのではないか、レジを打つのではないかという疑問を払拭できないため、現在はコンビニエンスストア1店舗の店長として外国人が技人国ビザを取得することはまず不可能とお考えください。
外国人本人の在留歴・素行
申請人の過去の在留状況と素行は厳格に審査されます。

素行で問題となる事項
- 犯罪歴・逮捕歴
- 退去強制歴
- 税金・年金等の滞納
- 交通違反の累積
企業が事前確認すべき事項として、特に留学生採用時は課税証明書等でアルバイト収入を確認し、オーバーワークの有無を必ず確認してください。オーバーワークが発覚した場合、ほぼ確実に不許可となります。
複数のアルバイトを掛け持ちしている場合は、全ての勤務時間を合計して28時間以内であることを確認し、課税証明書から年収を逆算してオーバーワークの可能性を検証する必要があります。
これらの在留歴・素行に関する問題は、企業が見落としがちでありながら不許可に直結する重要な要因であるため、採用決定前の段階で必ず詳細な確認を行うことが不可欠です。
3. 技人国ビザの申請手続きと必要書類

技人国ビザの申請手続きは、外国人の現在の状況により大きく異なります。
海外からの呼び寄せ、留学生の就職、転職時の対応など、それぞれ異なる手続きと書類が必要です。適切な手続きの理解と書類準備が申請成功の鍵となります。
認定申請(海外人材)と変更申請(留学生)
技人国ビザの申請は、外国人の現在の状況により手続きが異なります。
更新申請・転職時の対応
必要書類(本人・企業別)
カテゴリー別追加書類
カテゴリー | 追加必要書類 |
---|---|
1 | 四季報掲載ページ等のカテゴリー証明書類 |
2・3 | 前年分源泉徴収票等の法定調書合計表(税務署受付印要) |
4 | ・決算書(貸借対照表・損益計算書) ・法人税確定申告書(税務署受付印要) ・事業計画書 ・会社案内・パンフレット |
記入の注意点と書類作成のコツ

4. 技人国ビザが不許可になる主な理由と対策

技人国ビザの不許可率約20%という現実を踏まえ、失敗を避けるためには不許可理由の正確な理解が不可欠です。
学歴と業務の関連性不足、単純労働への従事、在留歴の問題など、主要な不許可要因とその具体的対策を詳しく解説します。
学歴・業務の関連性不足
学歴と業務内容の関連性不足は、技人国ビザ不許可の最も多い理由です。
よくある不許可パターン
成功事例から学ぶ対策

単純労働・業務内容の誤解
技人国ビザでは単純労働への従事が厳格に禁止されており、この理解不足による不許可が多発しています。
禁止される単純労働の例
工場での組立・検査・梱包作業、建設現場での肉体労働、飲食店での調理・配膳業務、店舗での単純接客・レジ業務、清掃・警備業務などが該当します。
適用の境界線
- 宿泊業では、ベッドメイクや荷物運搬は禁止ですが、外国人客の通訳・翻訳や予約管理システム運用は認められます。
- 小売業では、商品陳列やレジ操作は禁止ですが、商品企画や海外仕入先との交渉は可能です。
実務研修の条件として、入社初期の現場研修は認められますが、研修期間の明確設定(通常6か月以内)、研修の必要性の合理的説明、日本人社員も同様の研修を受けること、研修後の専門業務への移行計画が必要です。
オーバーワーク・出席率不備など在留履歴の問題
留学生の在留状況に関する問題は、企業が見落としがちな重要な不許可要因です。 資格外活動許可の上限(週28時間)を超過した場合、ほぼ確実に不許可となります。
複数のアルバイトの合計時間が28時間以内である必要があり、長期休暇中でも制限は変わりません。
企業の事前確認方法
課税証明書による収入確認で、年収から逆算してオーバーワークの有無を判定します。時給1,000円×28時間×52週≒145万円が上限目安です。
全てのアルバイト先と勤務時間を詳細に聞き取り、在職証明書で時間を検証することが重要です。
また、専門学校・大学の出席率70%未満は不許可要因となります。出席率の正確な数値、欠席理由の合理性(病気、就職活動等)、欠席期間中の資格外活動の有無を確認すべきです。
書類不備・企業要件の不備
申請書類の不備は避けられる不許可要因ですが、実際には多くの申請で発生しています。
よくある書類不備
- 申請書記載では、職務内容の説明が抽象的・不十分、報酬額の計算間違い、企業情報の記載漏れ・間違いが頻発します。
- 添付書類では、取得から3か月を超過した書類の使用、和訳の添付漏れ、税務署受付印のない決算書の提出が問題となります。
- 在職証明書では、職務内容の記載が曖昧、必要記載事項の漏れ、証明者の署名・押印不備が見られます。
企業要件不備の対策としては、新設会社・小規模企業は詳細な事業計画書と資金調達状況の明確化が必要です。赤字企業は赤字の合理的理由説明と具体的な業績回復計画の提示が求められます。
成功率を向上させるためには、入管局への事前相談活用、類似企業の許可事例研究、専門家による書類チェック、補強資料の積極的添付などが効果的です。
5. 企業が守るべき法的義務と管理体制

技人国ビザ取得後も、企業には継続的な法的義務が課せられます。
不法就労助長罪などの重大なリスクを回避し、適法な外国人雇用を維持するため、在留カード確認から社会保険適用まで、企業が遵守すべき管理体制を詳しく解説します。
不法就労助長罪とは/違法パターンと罰則
不法就労助長罪は、企業が外国人を適法に雇用するために絶対に避けなければならない重大な法的リスクです。
不法就労助長罪の構成要件
不法就労であることを知りながら外国人を雇用、不法就労であることの過失により外国人を雇用、外国人に不法就労をさせるためのあっせんが該当します。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金、企業名の公表、社会的信用の失墜、今後の外国人雇用申請への悪影響といった深刻な結果を招きます。
これは違法就労の典型的パターンであり、 在留資格該当性違反では、技人国ビザ保有者に単純労働をさせる、専攻と関係のない業務に従事させる、研修名目で長期間単純作業をさせることが問題となります。
資格外活動違反では、留学生を週28時間超勤務させることが該当します。在留期間超過者の雇用や偽造書類による雇用も重大な違反行為です。
在留カード・資格確認義務
企業には外国人雇用時および雇用期間中を通じて、適法な就労資格の確認義務があります。

継続的な管理義務
月次で在留期間満了日の接近を確認し、3か月前から更新手続き開始を案内します。更新申請時は申請書提出の確認と申請受理証明書の写し取得、更新許可後は新しい在留カードの確認を行います。
転職・異動時は業務内容の変更適法性を確認し、必要に応じて在留資格変更申請を実施します。
社保・労基法の適用と外国人雇用状況届出
外国人労働者にも日本人と同等の労働法制が適用されます。
労働基準法・社会保険の適用
最低賃金の保障、労働時間・休日・休暇の規定遵守、割増賃金の支払い、年次有給休暇の付与、労働契約書の交付が必要です。健康保険・厚生年金保険、雇用保険、労災保険も適用事業所では原則加入となります。
外国人雇用状況届出
全ての事業主は外国人の雇入れ・離職時に届出が必要で、雇入れは雇入れの翌月末日まで、離職は離職の翌月末日までにハローワークへ提出します。届出違反には30万円以下の罰金が科せられます。
これらの法的義務を適切に履行することで、企業は安全で適法な外国人雇用を実現できます。
6. 技人国ビザ取得後に企業が行うべき対応

技人国ビザ取得は終着点ではなく、継続的な管理の始まりです。
在留期間の更新手続き、転職・異動時の適切な対応、永住申請への道筋など、長期的な外国人材確保のために企業が行うべき具体的な対応策を詳しく解説します。
在留期間の更新手続き
技人国ビザ取得後、企業は外国人社員の在留期間管理を継続的に行う必要があります。
更新申請のタイミング管理
在留期間満了日の3か月前から申請可能で、余裕を持って2か月前には準備を開始します。申請から許可まで2週間~2か月程度を要するため、適切なスケジュール管理が重要です。
初回更新時の注意点
初回更新(入社後1年目)は特に厳格に審査され、申請時の職務内容と実際の業務の整合性、報酬額の適正性、企業の経営状況の安定性、外国人本人の勤務態度・実績が重点的にチェックされます。

企業による更新支援体制
- 人事部門による期限管理システム構築
- 必要書類準備の支援
- 申請手続きの代理・同行
- 審査期間中の労働許可書対応
転職・部署異動時の届出と変更対応
外国人社員の転職や部署異動時には、適切な手続きが必要です。
転職時の手続き
外国人は転職後14日以内に所属機関変更届出を窓口、郵送、オンラインで提出する必要があります。
職務内容が大幅に変わる場合(エンジニア→営業、製造業→金融業など)は在留資格変更許可申請も必要となります。
企業の対応義務
転職者受入時は在留カード・資格確認の実施、職務内容と在留資格の適合性確認、必要に応じて就労資格証明書交付申請の推奨を行います。
転職者送出時は離職証明書の発行、外国人雇用状況届出の提出、在留資格に関する情報提供を実施します。
部署異動時の判断
同職種間異動は手続き不要ですが、異職種間異動は在留資格適合性の慎重な判断が必要です。管理職昇進は手続き不要ですが、報酬・職責の変更を次回更新時に反映させます。
リスク管理
職務内容変更による在留資格該当性の喪失、報酬水準変更による要件不適合、届出漏れによる法的リスクへの注意が重要です。
永住申請への展望(概要紹介)
技人国ビザから永住権取得への道筋を理解することは、長期的な人材確保戦略として重要です。
永住許可の基本要件
在留期間要件では原則として引き続き10年以上日本に在留が必要ですが、高度専門職は3年または1年、日本人・永住者の配偶者は3年となります。
素行要件では法律遵守と税金・年金・保険料の適正納付、重大犯罪歴がないことが求められます。
独立生計要件では公共の負担にならない安定した収入と資産の保有が必要で、年収300万円以上が一つの目安となります。
申請戦略
在留年数の積み重ねでは、更新時の在留期間を段階的に延長(1年→3年→5年)し、在留資格の安定的維持と転職回数の最小化が重要です。
社会貢献実績では地域活動への参加、ボランティア活動、専門性を活かした社会貢献が有効です。
企業による支援
長期雇用保障による在留安定性向上、昇進・昇格による年収向上支援、永住申請時の推薦状発行、申請手続きの情報提供・支援を行うことで、優秀な人材の定着と企業の国際化推進が実現できます。
7. 技人国ビザ申請成功のために企業が取るべき行動

技人国ビザの申請成功は、単なる手続き完了ではなく企業の持続的成長を支える国際人材確保の第一歩です。
適切な事前準備と専門知識に基づく申請により、成功率を大幅に向上できます。本記事の要点を参考に確実で適法な外国人雇用を実現し、グローバル競争力のある企業づくりを進めてください。
優秀な外国人材の力を最大限活用し、企業の国際化と成長を実現しましょう。
■就労ビザの申請を検討されているなら…
最速で就労ビザの申請をしたいなら行政書士法人バタフライエフェクトにお任せください。経験豊富な専門の行政書士がトータルでサポートいたします。