近年、グローバル化に伴い、外国人留学生の採用に関心を持つ企業が増えています。彼らは日本での生活に慣れており、優れた語学力や異文化理解力を持つ貴重な人材です。
しかし、採用には在留資格の変更や法的手続きなど、日本人採用とは異なる対応が必要となります。
本記事では、外国人留学生採用の方法から定着化まで、企業が知っておくべき重要ポイントを解説します。
- 外国人留学生を採用する際の在留資格変更手続きと法的要件
- 留学生採用のメリットと企業が直面する課題への対策方法
- 採用後の定着率を高めるための職場環境づくりと効果的なサポート体制
1.外国人留学生採用の現状と課題

近年、日本で就職する外国人留学生の数は徐々に増えています。
しかし、日本での生活にある程度慣れている留学生であっても、日本人学生を採用するのとまったく同じようにはいかないのが実情です。
日本における留学生の就職状況データ

出入国在留管理庁の2022年のデータによると、外国人留学生が日本企業で働くために、在留資格を「留学」から就労目的の在留資格(就労ビザ)へ変更する許可を受けた件数は33,415件にのぼりました。
この数は前年より4,441人(15.3%)増加しています。
特に割合が大きいのは、中国、ベトナム、ネパール、スリランカ、韓国からの留学生です。
参照元:外務省 令和4年における留学生の日本企業等への就職状況について
企業が直面する採用時の課題とは
多くの日本企業では、外国人留学生に対しても日本人学生と同様の採用基準を設けており、ビジネスレベルの高度な日本語能力を求めています。
しかし、実際には日本語能力が十分ではない留学生も多く、企業側の期待との間にギャップが生じがちです。
また、社内の受け入れ態勢が整っていないことも大きな課題として挙げられます。
留学生に限らず、外国人を雇用する際には、異文化理解や多様性への対応が求められますが、これが十分ではない企業も少なくありません。
留学生側も日本企業の働き方や企業文化に対する理解が足りていないケースが見受けられます。
2.外国人留学生を採用するメリット

グローバル化が進む現代のビジネス環境において、外国人留学生の採用は単なる人材確保策にとどまらない多くの戦略的メリットをもたらします。
彼らはすでに日本での生活経験を持ち、日本文化への適応力と母国文化の理解を兼ね備えた貴重な人材です。
国際競争が激化する市場で、こうした留学生が持つ多様な視点や語学力は、企業の成長と革新を促進する重要な原動力となるでしょう。
外国人留学生を採用することで企業側が得られるメリットについて具体的に解説します。
優秀なグローバル人材の確保
異国である日本で学んできた外国人留学生は、モチベーションが高く、勤勉な人材が多いのが特徴です。
また、日本の大学や専門学校で高等教育を受けているため、日本人の新卒と同等の専門的知識やスキルを持ち、即戦力としての活躍が期待できます。
グローバルな視点を持つポテンシャルの高い人材を求める企業にとって、外国人留学生の採用は魅力的な選択肢となります。
日本の生活に慣れている
学生時代を日本で過ごしているため、日本の生活や文化にある程度慣れている点も、外国人留学生を採用するメリットのひとつです。
来日したばかりの外国人の場合、日本語の習得や生活への適応に時間がかかりますが、留学生であれば比較的スムーズに日本の職場に溶け込むことが可能です。
語学を活かした業務を任せられる
語学力に優れている点も大きな魅力です。
外国人留学生は母国語と日本語の2か国語を話せるだけでなく、英語に関しても、たとえ英語圏出身でなくても、日本人学生よりも高いレベルで使いこなせる可能性があります。
この語学力は、通訳・翻訳業務、海外の顧客や取引先とのコミュニケーション、現地市場のリサーチなど、幅広い業務で活用できます。
3.外国人留学生を新卒で採用する方法

外国人留学生を新卒で採用する際には、在留資格の変更やハローワークへの届出など、必要な公的手続きを行う必要があります。
これらを怠ると、留学生が不法滞在となり、企業側も責任を問われる可能性があるため、十分に注意しましょう。
以下にある手続き内容をスケジュール感を持って取り組んでください。
在留資格の変更手続き
外国人留学生を新卒社員として採用する際には、まず留学生の在留資格を「留学」から就労目的の在留資格(就労ビザ)へ変更する必要があります。
この手続きは基本的に留学生本人が行いますが、企業側にも書類(カテゴリーによって異なる)の用意が必要です。
そのため、企業側も進捗状況を適宜確認し、必要な情報を提供するなどのサポートを行いましょう。
この変更手続きには通常1〜2か月程度の審査期間がかかります。4月入社を想定する場合は、1月末までに手続きを完了できるよう、早めの準備をおすすめします。
外国人雇用状況の届出
外国人留学生を採用した場合、企業はハローワークに「外国人雇用状況の届出」を行う義務があります。
この手続きは、新卒社員に限らず、パートやアルバイトなど、すべての外国人労働者が対象です。
届出の期限は、雇い入れた翌月の10日までと定められており、これを怠ると企業には最大30万円の罰金が科される可能性があります。
手続きはハローワークの窓口で行うほか、厚生労働省の「外国人雇用状況届出システム」を使ってオンラインで申請することもできます。
但し、以下のいずれかを提出することで、外国人雇用状況の届出を行ったこととなります。
- 雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)
- 雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号)
そのため、正社員の場合は実際には「外国人雇用状況の届出」を出さないことが多いです。
4.外国人留学生をアルバイトで採用する方法

アルバイトとして外国人留学生を採用する場合、正社員とは異なる手続きや規制が適用されます。
留学生本人と企業側の双方に不利益が生じないよう、以下のポイントを押さえておきましょう。
資格外活動許可と就労時間の管理
外国人留学生がアルバイトをする場合、「資格外活動許可」を取得している必要があります。
この許可は地方出入国在留管理官署に申請することで取得でき、許可済みの留学生の在留カード裏面にはその旨が記載されています。
採用の際には、在留カードを確認し、資格外活動許可があることを必ず確認してください。許可がない場合は、まず本人に申請してもらう必要があります。
また、資格外活動には労働時間の上限が定められています。
勤務期間 | 労働時間の上限 |
---|---|
通常期間(授業がある期間) | 週28時間まで |
長期休暇期間(夏休み・冬休みなど) | 1日8時間、週40時間まで |
参照元:出入国在留管理庁「『留学』の在留資格に係る資格外活動許可について」
留学生が複数のアルバイトを掛け持ちしている場合は、すべての勤務時間を合算して計算する必要があるため、他にアルバイトをしていないか事前に確認しましょう。
採用後の手続き
アルバイトとして採用した場合も、正社員と同様に「外国人雇用状況の届出」をハローワークに提出する必要があります。また、離職時にも必ず届出を行わなければなりません。
さらに、外国人留学生のアルバイトであっても、労災保険の加入手続きが必要となるため、採用時に適切な対応を行いましょう。
5.就労ビザの種類と選び方

外国人留学生を日本で正社員として雇用する場合、就労目的の在留資格(就労ビザ)の取得が必須です。
就労ビザには業種や職種に応じてさまざまな種類がありますが、ここでは特に「技術・人文知識・国際業務(技人国)」と「特定技能」の在留資格について解説します。
技術・人文知識・国際業務の特徴と取得要件
外国人留学生が就労ビザへ切り替える際、最も一般的に取得されるのが「技術・人文知識・国際業務」の就労ビザです。
この就労ビザは、留学生が大学や日本の専門学校で学んだ専門知識や技術を活かして日本企業で働くために必要になります。
主な取得要件は以下のとおりです。

参照元:出入国在留管理庁「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」
これらの要件を満たしていることを証明するため、申請時には本人・企業・学校側でさまざまな書類を準備する必要があります。
特定技能における留学生採用のメリット
「特定技能」は2019年に新設された就労可能な在留資格で、人手不足が深刻な特定分野で外国人労働者を受け入れるために設けられたものです。
この資格の大きな特徴は、学歴と業務内容の関連性が問われないため、「技術・人文知識・国際業務」の取得が難しい留学生でも採用できる点です。
また、在留資格には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。1号は最長5年の在留が可能で、2号は在留期間の上限がなく、家族の帯同も可能です。
ただし、「特定技能」の就労ビザを取得するには、日本語能力試験や職務に関連する技能試験などに合格する必要があります。
「特定技能1号」と「特定技能2号」について詳しく知りたい方は以下の記事がおすすめです。
その他の在留資格オプション
「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」以外にも、業務内容に応じたさまざまな就労可能な在留資格があります。例えば、以下のような在留資格が該当します。

挙げた在留資格はほんの一部ですが、このように業務内容に応じて適切な在留資格を取得することが重要です。
6.留学生採用時の注意点と対策

これまで解説してきた内容を踏まえ、留学生を採用する際に特に注意すべきポイントを以下にまとめました。
法的リスクを防ぐためのチェックポイント
留学生を正社員として採用する際は、法的リスクを回避するために、特に以下の点を入念に確認してください。

また、アルバイトで雇用する場合は、以下の点をチェックしてください。
- 「資格外活動許可」を取得しているか
- 他社でアルバイトをしていないか(労働時間を厳守するため)
- 掛け持ちを含め、労働時間が週28時間以内に収まっているか
- 雇用後、翌月10日までに「外国人雇用状況の届出」をハローワークに提出したか
なお、「資格外活動許可」や「留学」の在留資格には有効期限があるため、企業側でも更新時期を把握し、適宜確認してください。
待遇面では配慮すべき
「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」といった就労ビザの取得要件には、給与や待遇が日本人と同等以上であることが含まれています。
そのため、適正な賃金を設定し、労災保険や社会保険などの加入手続きを適切に行うことが求められます。
外国人だからといって、日本人よりも不当に低い待遇で雇用することは法的に認められていません。適正な労働条件のもと、適切な雇用環境を整えましょう。
職場での受け入れ態勢を作ろう
就労ビザの取得や法的手続きをクリアすることは最低限の条件です。しかし、外国人留学生が職場で十分に能力を発揮するためには、社内の意識改革や制度の整備も必要です。
留学生をオープンに受け入れつつも、異なる文化的背景を持つことを理解し、適切に配慮するバランス感覚が求められます。具体的な施策については、次段で解説します。
7.外国人留学生採用後の定着化施策

外国人留学生を採用しても、社内の受け入れ態勢が不十分だと、早期離職につながる可能性があります。そのため、以下に紹介する施策が重要です。
効果的なオンボーディングの方法
入社時には、期待する役割や成果を明確に伝え、留学生が将来のキャリアを具体的にイメージできるようにするオンボーディングが大切です。
特に、留学生が専門知識やスキルを活かせる業務を適切に割り振ることで、モチベーションの向上につながります。
また、評価基準についても、日本企業特有の年功序列ではなく、成果主義を取り入れることで納得感を高められます。

コミュニケーション面での工夫
異文化や言語の壁を克服するため、職場内のコミュニケーションを活性化させる工夫をしましょう。
例えば、ランチ会や懇親会を定期的に開催することで、社内の交流を深められます。また、ビジネス日本語の学習支援を行うことで、業務上のコミュニケーションのスムーズ化を図るのも有効です。
さらに、定期的な面談を実施し、業務面や生活面での不安をヒアリングすることで、問題を早期に解決しやすくなります。
長期定着のための環境整備
長期的な定着を実現するためには、多様性に配慮した制度設計が不可欠です。
以下のような施策を取り入れることで、留学生が安心して能力を発揮できる職場環境を実現できます。
8.未来を切り拓く!外国人留学生採用でグローバル競争力を高めよう
外国人留学生の採用は、グローバル人材確保の有効な手段ですが、在留資格の変更や法的手続きを正確に行うことが重要です。
また、採用後の定着には、明確なキャリアパスの提示や異文化への配慮、コミュニケーション支援が欠かせません。
適切な受け入れ態勢を整えることで、留学生の持つ語学力や多様な視点を最大限に活かし、企業の国際競争力向上につなげることができるでしょう。
