2027年から特定技能制度に「物流倉庫管理」分野が追加され、倉庫業界でも本格的な外国人材活用が可能になります。
しかし制度開始まで残り約2年、今から準備を始めなければ優秀な人材確保は困難です。
本記事では最新制度情報から具体的な準備ステップまで、物流企業が知るべき外国人雇用戦略を完全解説します。
- 2027年開始の特定技能「物流倉庫」制度の詳細と現在利用可能な代替手段
- 外国人材受け入れに必要な企業要件整備から募集・選考までの具体的手順
- 成功企業の事例と課題解決策を踏まえた実践的な活用戦略
1.特定技能「物流倉庫」制度の最新動向

特定技能制度「物流倉庫管理」の制度開始までのスケジュールや対象業務の詳細、さらに制度開始を待たずに活用できる現在の外国人雇用手段についても解説します。
2027年開始予定の「物流倉庫管理」分野とは
政府は2025年5月、特定技能の対象分野として「物流倉庫の管理」「廃棄物処理」「リネン製品の供給」の3分野を追加する方針を発表しました。
これにより、現在16分野の特定技能制度が19分野に拡大されることになります。
制度開始までのスケジュール
2025年12月
閣議決定予定
2026年
詳細な運用要領の
策定・公表
2027年春頃
制度運用開始予定
物流倉庫管理分野が対象に選ばれた背景には、業界の深刻な人手不足があります。
倉庫業界における有効求人倍率は1.92倍と高い水準にあり、人手不足が深刻化している現状が考慮されました。
現在検討されている対象業務は以下の通りです。
物流倉庫の主な対象業務
入出荷業務
商品の受け入れ・出荷作業
ピッキング・梱包作業
注文に応じた商品選別と包装
在庫管理
商品の保管状況確認・データ入力
フォークリフト運転
資格取得後の機械操作
物流倉庫の管理業務
倉庫内の統括的な管理業務
受け入れ見込み人数については現在調整中ですが、業界の人手不足規模を考慮すると、相当数の外国人材受け入れが想定されています。
現在利用できる外国人雇用の代替手段
2027年の制度開始を待つ必要はありません。現在でも以下の方法で外国人材を雇用することが可能です。
特定活動(告示46号)による倉庫内作業
倉庫内作業として、商品の仕分けや梱包、在庫管理などが挙げられます。この業務の場合、「特定活動(告示46号)」の在留資格で外国人を雇用できる可能性があります。
特定活動46号の活用条件
- 日本の大学・大学院卒業者が対象
- 日本語能力試験N1レベルまたは大学等での日本語教育
- フルタイム雇用(週30時間以上)
- 日本人と同等以上の報酬
留学ビザアルバイトの活用方法
留学ビザを持つ外国人学生も、週28時間以内の労働が許可されています。留学生の活用は即効性が高く、多くの企業で実績があります。
自動車運送業分野との組み合わせ戦略
物流業界も対象業種のひとつであり、特にトラックドライバーとしての雇用が注目されています。
2024年3月から開始された自動車運送業分野では、外国人ドライバーの雇用が可能です。
組み合わせ活用例
- ドライバー業務80% + 倉庫内荷役業務20%
- 運転免許取得期間中の倉庫作業従事
- 繁忙期の柔軟な業務配分
これらの代替手段を活用することで、2027年の制度開始前から外国人材の雇用経験を積み、ノウハウを蓄積することが可能です。
2.ステップ1:受け入れ企業の基本要件を整備する

特定技能外国人を受け入れるには、企業側が法的要件を満たす必要があります。
労働条件の適正化から多言語対応、安全管理体制まで、外国人材が安心して働ける環境づくりの具体的な準備事項を詳しく説明します。
法的要件と労働条件の適正化
特定技能外国人を受け入れるためには、まず企業側が法的要件を満たす必要があります。以下の基本要件を確実にクリアしましょう。
受け入れ企業の基本要件
適法な事業運営
労働関係法令・社会保険関係法令の遵守
財政基盤の安定性
継続的な給与支払い能力の証明
過去の外国人雇用状況
技能実習での問題履歴がないこと
同等報酬の確保
特定技能制度では日本語能力試験の合格が必要であり、一定レベルの言語能力を有する労働者が確保されます。
そのため、日本人と同等以上の報酬を支払うことが義務付けられています。

労働基準法遵守と福利厚生の整備
外国人材だからといって労働条件を下げることは許されません。以下の点を徹底してください。
必須の労働条件整備項目
- 労働契約書の適正な作成(多言語対応)
- 法定労働時間の遵守(週40時間、1日8時間)
- 有給休暇制度の適切な運用
- 労災保険・雇用保険への加入
- 健康診断の定期実施
多言語対応と安全管理体制の準備
倉庫作業は安全性が重要な業務です。だからこそ言語の壁を越えた安全管理体制の構築が不可欠となります。
作業マニュアルの多言語化と視覚化
作業指示書を簡潔にしたり、イラストやピクトグラムを活用して、視覚的に理解しやすいマニュアルを作成することが効果的です。
安全教育プログラムの構築
物流センターの業務にはリスクが伴う作業もあるため、安全管理に関するトレーニングも欠かせません。以下の内容は確実に指導しておきましょう。

緊急時対応体制の整備
言語が通じない状況でも安全を確保できる体制作りを意識しましょう。
緊急時対応の準備項目
- 多言語での緊急連絡先一覧作成
- 避難経路の多言語表示
- 応急処置方法の視覚的マニュアル
- 通訳可能な管理者の配置
- 24時間対応の相談窓口設置
これらの基本要件を整備することで、外国人材が安心して働ける環境を構築し、企業としても法的リスクを回避できます。
準備期間を有効活用し、万全の受け入れ体制を整えましょう。
3.ステップ2:2027年制度開始に向けた準備

制度開始に向けて技能試験や日本語要件への対策、登録支援機関との連携体制構築を進めておくといいでしょう。
候補者の事前教育支援方法や自社支援と委託支援の選択基準など、効率的な準備戦略を具体的に解説します。
技能試験と日本語要件への対策
2027年の制度開始に向けて、技能試験と日本語能力試験の詳細を把握し、候補者の準備を支援する体制を整えておきましょう。
現在、詳細な試験内容は策定中ですが、他分野の特定技能試験の傾向から以下の内容が予想されます。
予想される試験項目
試験分野 | 出題内容 | 対策方法 |
---|---|---|
実技試験 | ピッキング作業の正確性・効率性 | 模擬倉庫での実習訓練 |
安全管理 | 安全規則・危険回避の知識 | 安全マニュアルの暗記 |
在庫管理 | データ入力・管理システム操作 | PCスキル研修の実施 |
品質管理 | 商品検品・不良品判別 | 品質基準の理解度テスト |
自動車運送業分野における特定技能評価試験は一般財団法人日本海事協会が実施します。物流倉庫分野についても、同様に専門機関による試験実施が想定されます。
参考:一般財団法人日本海事協会 特定技能試験専用のポータルサイト
特定技能の「陸上貨物運送分野」に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
JLPT N4レベル以上の日本語要件
特定技能1号の取得には、原則として日本語能力試験(JLPT) N4レベル以上の日本語能力が求められます。
これは日常会話と業務上の基本的なコミュニケーションができるレベルです。
N4レベルで求められる能力
- 読解
ひらがな・カタカナ・基本的な漢字で書かれた身近な話題の文章理解 - 聴解
日常的な場面で、やや遅いスピードの会話の要点理解 - 語彙
約1,500語程度の基本語彙 - 文法
基本的な文法項目の理解と運用
候補者の事前教育支援方法
海外にいる候補者の日本語学習を支援することで、優秀な人材を確保できます。
登録支援機関との連携体制構築
特定技能外国人の支援は企業の義務ですが、登録支援機関に委託することも可能です。
自社の状況に応じた最適な選択をしましょう。
自社支援vs委託支援の選択基準
項目 | 自社支援 | 委託支援 |
---|---|---|
適用企業 | 外国人雇用経験豊富 | 初回雇用・少数雇用 |
コスト | 人件費のみ | 月額3-5万円/人 |
専門性 | 社内で育成が必要 | 即座に専門知識活用 |
柔軟性 | 高い(自社基準) | 標準的サービス |
リスク | 法令違反リスク有 | 機関の品質に依存 |
登録支援機関によって委託費用が異なり、外国人1人あたり月額3-5万円が相場となっています。
登録支援機関選定のポイント
優良な登録支援機関を選定するため、以下の観点で評価してください。

また、登録支援機関との連携においては、以下の点で事前合意を取っておくことが重要です。
費用対効果の計算方法
委託支援の費用対効果を正確に把握するため、以下の計算式を活用してください。
費用対効果の計算方法
年間委託費用
自社支援コスト
委託効果
例:外国人5名雇用の場合
- 委託費用:4万円 × 12ヶ月 × 5人 = 240万円
- 自社対応:担当者年収400万円 + 研修費50万円 = 450万円
- 効果:450万円 – 240万円 = 210万円の削減
この計算により、委託支援の方が経済的であることが判明します。ただし、長期的な人材育成やノウハウ蓄積を考慮した戦略的判断も忘れないでください。
2027年の制度開始に向けて、これらの準備を計画的に進めることで、スムーズな外国人材受け入れが実現できます。
4.ステップ3:外国人材の募集・選考・雇用

優秀な外国人材確保には戦略的な募集と適切な選考をしなければいけません。
海外人材の募集ルートから技能評価のポイント、在留資格申請手続き、雇用後の管理・サポート体制まで、実務的な流れを段階的に説明します。
効果的な募集戦略と選考方法
優秀な外国人材を確保するためには、戦略的な募集と適切な選考プロセスを踏みましょう。
募集ルートの種類と特徴
募集方法 | メリット | デメリット | 適用場面 |
---|---|---|---|
人材紹介会社 | 事前スクリーニング済み | 紹介手数料が高額 | 急速な人材確保が必要 |
技能実習からの移行 | 既に日本での経験有り | 候補者数が限定的 | 継続雇用を重視 |
海外現地募集 | 採用コスト抑制可能 | 選考に時間・コスト | 大量採用の場合 |
日本語学校連携 | 日本語能力が保証 | 卒業時期に制約 | 計画的な採用 |

技能レベルと適性評価のポイント
特定技能の在留資格で働くためには、日本語能力水準・技能水準の両方の試験に合格する必要があり、言語や技能レベルの高い即戦力の確保が期待できます。
選考時の重要評価項目
技能面の評価
- 体力・持久力
長時間の立ち作業に対する適性 - 手先の器用さ
正確なピッキング作業能力 - 数的処理能力
在庫管理・データ入力スキル - 安全意識
危険予知能力と安全行動の習慣
人物面の評価
- 責任感
決められたルールの遵守意識 - チームワーク
他の従業員との協調性 - 向上心
業務改善への積極性 - 適応力
文化の違いへの対応能力
面接での確認事項
以下のような質問例を参考に、自社に合った質問を検討します。

質問例
「前職での困難な状況をどう乗り越えましたか?」
「チームでの作業で心がけていることは?」
「日本で働く目的と将来の目標は?」
「安全に関して気をつけていることは?」
在留資格申請の具体的手続き
在留資格申請は複雑な手続きのため、専門家と連携することが望ましいです。
雇用開始後の管理とサポート体制
雇用が開始された後も、継続的なサポートが外国人材の定着には欠かせません。
義務的支援の実施は受け入れ企業の必須事項となっており、具体的な支援内容や支援計画の手続きを知りたい方も多いのが現状です。
必須の義務的支援項目
支援内容 | 実施時期 | 具体的対応 |
---|---|---|
事前ガイダンス | 入国前 | 労働条件・生活情報の説明 |
入国時送迎 | 入国時 | 空港から住居・職場への案内 |
住居確保支援 | 入国時 | 住居契約の保証・手続き支援 |
生活オリエンテーション | 入国後1週間 | 銀行口座・携帯電話等の手続き |
定期面談 | 3ヶ月毎 | 生活・労働状況の確認 |
日本語学習支援 | 継続的 | 学習機会の提供・費用支援 |
相談・苦情対応 | 随時 | 24時間対応の相談窓口 |
職場定着と継続雇用のための取り組み
外国人スタッフの採用により、物流センターや倉庫業務は労働力不足の解消に加え、業務の効率化やチームの多様性も期待できます。
トラブル発生時の対応方法
外国人材の雇用においては、文化や価値観の違いからトラブルが生じる可能性があります。
事前の対応策を準備しておくと、外国人材と既存の従業員ともに安心できます。
よくあるトラブルと対処法
トラブル内容 | 原因 | 対処方法 |
---|---|---|
遅刻・欠勤の増加 | 生活習慣の違い | 生活指導・スケジュール管理支援 |
作業品質の低下 | 理解不足・慣れ | 再教育・個別指導の実施 |
他社への転職 | 待遇不満・職場環境 | 定期面談での不満察知・改善 |
生活上のトラブル | 地域住民との摩擦 | 地域との関係構築・マナー教育 |
緊急時対応体制
- 24時間対応の相談ホットライン設置
- 多言語対応可能な管理者の配置
- 行政機関・警察との連携体制
- 法的トラブル時の専門家ネットワーク
これらの体制を整備することで、外国人材が安心して長期間働ける環境を構築し、企業としても安定した労働力を確保できます。
外国人材を受け入れるための企業の取り組みについて、こちらの記事で数多くの事例を紹介しています。
5.ステップ4:外国人雇用成功事例から学ぶ実践的ノウハウ

ヤマト運輸やセイノーホールディングスなど先進企業の成功事例から実践的なノウハウを抽出。
中小企業でも実現可能な導入方法や定着率向上施策、よくある課題への対処法を具体的に紹介します。
先進企業の外国人雇用成功事例
実際に外国人材を活用して成果を上げている企業の取り組みから、実践的なノウハウを学びましょう。
ヤマト運輸の取り組み
ヤマト運輸は、2019年から特定技能外国人の採用を開始しています。
当初はトラックドライバーを中心に採用していましたが、現在は倉庫作業員や事務職なども対象となっています。
ヤマト運輸の成功要因
- 独自の日本語教育プログラム
業務に特化した実践的な言語教育 - 生活支援プログラム
住居確保から生活相談まで包括的支援 - 段階的な業務配置
能力に応じた適切な職務割り当て
セイノーホールディングスの取り組み
セイノーホールディングスでは、オンライン日本語学習システムを導入し、特定技能外国人の日本語能力向上を支援しています。
セイノーホールディングスの特徴
- ITを活用した効率的な教育
eラーニングシステムによる継続学習 - 進捗管理の見える化
学習状況をデータで管理・分析 - 個別サポート体制
一人ひとりの習熟度に応じた指導
これらの企業は、特定技能外国人の積極的な活用により、人手不足の解消、サービス向上、コスト削減などに成功しています。
6.ステップ5:制度活用による企業成長戦略

特定技能制度の活用は人手不足解消にとどまらず、企業の競争力強化につながります。
安定した労働力確保による経営効果から多様性がもたらす組織力向上、2027年までの準備ロードマップまで戦略的視点で解説します。
人材不足解消と競争力強化
特定技能制度の活用は単なる人手不足解消にとどまらず、企業の持続的成長と競争力強化につながります。
安定した労働力確保による経営効果
人材の安定確保により、採用コストの削減や業務の安定化、生産性の向上が期待できます。
定量的な経営効果
効果項目 | 改善幅 | 具体的メリット |
---|---|---|
採用コスト | 30-50%削減 | 継続雇用による採用頻度減少 |
研修コスト | 40%削減 | 離職率低下による教育投資効率化 |
生産性 | 15-25%向上 | 安定した人員配置による効率化 |
品質安定 | 不良率20%減 | 熟練作業者の継続雇用 |
生産性向上と事業拡大の可能性
安定した労働力の確保により、以下の事業拡大機会が生まれます。
多様性がもたらす組織力向上
異なる文化的背景を持つ外国人材が職場に加わることで、多様な視点や考え方がもたらされます。
これにより、業務改善のアイデアや職場の活性化につながる可能性があります。

2027年までの準備ロードマップ
制度開始に向けて、計画的な準備を進めることが成功の鍵となります。
制度変更に対応するための情報収集体制
制度の詳細は今後順次発表されるため、継続的な情報収集が重要です。
効果的な情報収集方法
公式情報源の定期確認
- 出入国在留管理庁公式サイト
- 厚生労働省の関連発表
- 国土交通省物流政策情報
業界団体・協議会への参加
- 物流倉庫分野特定技能協議会(設立予定)
- 日本倉庫協会の関連情報
- 地域の物流事業者団体
専門家ネットワークの活用
- 行政書士・社会保険労務士との連携
- セミナー・勉強会への積極参加
- 先進企業との情報交換
定期的な制度見直し
月次:最新情報のチェック・整理
四半期:制度変更の影響評価
半年:準備計画の見直し・調整
年次:全体戦略の再検討
この戦略的なアプローチにより、2027年の制度開始時には完全な準備体制で外国人材の受け入れを開始し、競合他社に先駆けて人材確保による成長を実現できます。
7.まとめ:今すぐ始める特定技能「物流倉庫」雇用準備

物流業界の深刻な人手不足解消に向け、2027年開始の特定技能「物流倉庫」制度は大きな転機となります。
成功の鍵は早期準備にあり、制度開始を待たずに現行制度を活用した経験蓄積が重要です。
本記事で紹介した5ステップの準備計画を実行し、競合他社に先駆けて安定した労働力確保を実現してください。
※本記事は2025年8月時点の情報に基づいて作成されています。特定技能「物流倉庫管理」分野は2027年開始予定の新制度のため、今後の政府発表や関係省庁の検討により、制度内容や運用要領に変更が生じる可能性があります。
最新の正確な情報については、出入国在留管理庁や厚生労働省の公式発表を必ずご確認ください。
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