技能実習制度の問題点が社会問題となり、海外からも批判を受けたことから新たな「育成就労制度」が2027年に施行されます。
この制度変更は、転籍制度の導入、日本語教育体制の必要性など、企業に多大な影響をもたらします。
本記事では、技能実習制度からの5つの決定的な違いや、施行に向けた具体的な準備戦略まで、人事担当者・経営者が今知るべき重要情報を包括的に解説します。
- 技能実習制度と育成就労制度の5つの決定的違い(制度目的、対象分野、転籍制度、日本語要件、監理体制の変更詳細)
- 企業にとってのメリット・デメリット分析
- 2027年施行に向けた実践的準備戦略(事業適格性確認、人材育成体制構築、転籍対策の具体的手法)
1.育成就労制度とは?技能実習制度に代わる新たな外国人雇用制度の全容

育成就労制度の基本概念と制度創設の目的
育成就労制度は、2024年6月14日に参議院本会議で可決・成立し、同年6月21日に公布された新たな外国人雇用制度です。
この制度は、約30年間続いてきた技能実習制度を発展的に解消し、日本の人手不足分野における人材育成と人材確保を明確な目的として創設されました。
従来の技能実習制度が「開発途上地域等の経済発展を担う人づくりへの協力」という国際貢献を建前としていたのに対し、育成就労制度では我が国の人材確保・人材育成を正面から打ち出しています。
これは制度の目的と実態の乖離という根本的問題を解決する画期的な転換といえます。
具体的には、外国人材を3年間の育成期間で特定技能1号の水準に到達させることを目標とし、その後の特定技能制度への円滑な移行を前提とした制度設計となっています。

在留資格も「技能実習」から「育成就労」に変更され、就労を前提とした制度であることが法的にも明確化されました。
これにより、企業は外国人材を正当な労働力として位置づけ、日本人従業員と同等の労働関係法令の適用を受けることになります。

特定技能制度との連携強化により、育成就労3年間→特定技能1号5年間→特定技能2号(無期限)という明確なキャリアパスが示されており、最長で無期限の雇用も実現可能です。
これにより、企業は長期的な人材投資戦略を立てることができるようになります。
技能実習制度が抱えていた問題点と解決への取り組み
育成就労制度創設の背景には、技能実習制度が抱えていた深刻な構造的問題があります。主な問題点は以下の通りです。
制度目的と実態の深刻な乖離問題
技能実習制度の最大の問題は、「技能の移転による国際貢献」という建前と、「国内の労働力として重用」される実態との間に深刻な乖離があったことです。
この矛盾により、技能実習生は「学習者」なのか「労働者」なのか曖昧な立場に置かれ、適切な労働者保護を受けられない状況が生まれていました。
企業側も、労働力として期待しながらも「実習」という枠組みの中で制約を受け、効率的な人材活用ができない状況にありました。
実際には貴重な労働力として機能しているにも関わらず、制度上は「実習」であるため、適切な処遇や長期雇用計画を立てることが困難でした。
技能実習生の人権侵害と立場の弱さ
技能実習生の立場の弱さが社会問題として広く取り上げられてきました。転籍が原則禁止されていたため、劣悪な労働環境や不当な待遇を受けても、技能実習生は職場を変えることができませんでした。
受け入れ企業だけでなく、技能実習生を支援する立場であるはずの監理団体による人権侵害行為も問題となりました。

失踪問題の根本原因と社会的批判
これらの人権侵害や不当な待遇から逃れるため、多くの技能実習生が失踪する事態が発生しました。2022年には約9,000人の技能実習生が失踪しており、この数字は制度の根本的な欠陥を示すものでした。
失踪した技能実習生の多くは、不法就労者として社会の地下に潜ることになり、さらに劣悪な環境で働くことを余儀なくされました。
これは技能実習生本人にとって不幸であるだけでなく、日本社会全体の治安や労働環境にも悪影響を与える結果となりました。
海外からの制度改善要求への対応
技能実習制度の問題は国内だけでなく、国際社会からも厳しい批判を受けました。
米国国務省の人身取引報告書では技能実習制度が「強制労働」の温床となっているとの指摘を受け、国際的な信頼失墜の要因となりました。
こうした国内外からの批判を受けて、政府は制度の抜本的見直しに着手せざるを得ない状況となったのです。
2024年6月成立から2027年施行までのスケジュール
育成就労制度の施行に向けたスケジュールは、企業の準備期間として極めて重要です。
法案可決・成立から施行までの具体的スケジュール

法律上は公布から3年以内の施行が義務付けられており、遅くとも2027年6月までには施行される予定です。
省令・政令策定の進捗状況と今後の見通し
現在、制度の具体的な運用方法を定める省令・政令の策定作業が進行中です。
2025年5月時点で、出入国在留管理庁では関係政令の整備に関するパブリックコメントを実施しており、制度の詳細が段階的に明らかになっています。
特に重要なのは、受け入れ対象分野の詳細、監理支援機関の許可要件、転籍の具体的手続き、日本語教育の実施方法などです。これらの詳細が確定することで、企業は具体的な準備計画を立てることができるようになります。
既存技能実習生への経過措置と影響
制度移行に伴い、既存の技能実習生に対しては適切な経過措置が設けられる予定です。施行日時点で技能実習中の外国人については、一定の範囲内で引き続き技能実習を継続できるとされています。
ただし、新規の技能実習受け入れは段階的に制限されるため、現在技能実習生を受け入れている企業は、既存の技能実習生の特定技能移行支援と、新制度での受け入れ準備を並行して進める必要があります。
企業が今から開始すべき準備期間の活用方法
2027年の施行まで約2年間の準備期間は、企業にとって貴重な時間です。この期間を有効活用するためには、以下の準備を段階的に進めることが重要です。
育成就労制度までの準備期間の活用方法
- 自社事業の適格性確認:特定産業分野への該当性の詳細調査
- 投資対効果の分析:長期的視点での収益性が見込めるかの分析
- 受け入れ体制の整備:労働環境や住環境の適合化
- 人材育成体制の構築:日本語教育・技能向上プログラムの準備
- 転籍対策の検討:人材定着のための待遇の見直しと環境改善
特に、日本語教育体制の構築や人材定着策の検討は時間を要するため、早期の着手が不可欠です。
また、現在の技能実習対象職種が育成就労制度では対象外となる可能性もあるため、事業適格性の確認は最優先で実施する必要があります。
外国人の雇用についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
2.技能実習制度との決定的な5つの違い

制度目的の根本的転換
国際貢献から人材確保へ
育成就労制度と技能実習制度の最も根本的な違いは、制度目的の180度の転換です。
技能実習制度が「国際貢献・途上国への技術継承」を目的としていたのに対し、育成就労制度は「我が国の人材確保・人材育成」を明確に掲げています。

この目的変更は、企業の外国人材に対するスタンスを根本的に変えることを意味します。
技能実習制度では、外国人材は「技術を学ぶ実習生」という位置づけで、企業は「教育の場を提供する」という建前での受け入れでした。
しかし、育成就労制度では「将来の貴重な戦力として育成する労働者」として明確に位置づけられます。
技能実習制度の「開発途上地域等の経済発展を担う人づくりへの協力」という目的は、実態とかけ離れていることが長年指摘されてきました。
実際には、技能実習生の多くが帰国後に習得した技能を活用することは少なく、日本での労働力として機能していたのが実情です。
育成就労制度では、この実態を正面から受け止め、「特定技能1号水準の技能を有する人材の育成」と「育成就労産業分野における人材の確保」を明文化しています。
これにより、企業は外国人材を正当な労働力として位置づけ、適切な労働条件と処遇を提供することが求められるようになります。
就労を前提とした制度設計の詳細
育成就労制度では、以下のように就労を前提とした具体的な制度設計が行われています。
労働関係法令の完全適用 | 最低賃金法、労働基準法、労働安全衛生法を厳格に適用すること |
同等労働同等賃金の原則 | 日本人従業員と同等の職務には同等の賃金を 支払うことを義務化すること |
昇給制度の明文化 | 一定期間経過した後に昇給や待遇を改善すること |
特定技能制度との連携強化による長期雇用の実現
育成就労制度は特定技能制度との一体的運用を前提として設計されており、以下のようなキャリアパスが明確化されています。

企業は最長で無期限の雇用が可能になり、長期的な人材投資戦略を立てることができます。
外国人材のキャリアパス明確化がもたらす効果
また明確なキャリアパスの提示をすることにより、以下の効果も期待されます。
受け入れ対象分野の大幅変更|90職種から16分野への限定
技能実習制度では90職種165作業という幅広い分野での受け入れが可能でしたが、育成就労制度では特定産業分野の16分野に限定されます。この変更は一部企業に大きな影響をもたらします。
技能実習90職種165作業から特定産業分野16分野への変更
技能実習制度では、農業関係、建設関係、食品製造関係、繊維・衣服関係、機械・金属関係など、非常に細分化された職種・作業での受け入れが可能でした。
「細かく限定的な作業」に特化していたのが特徴です。
一方、育成就労制度では特定技能制度と同じ16分野に統一され、「幅広い」業務への従事が可能になります。これは制度の一体性を高める反面、一部の細分化された職種が対象外となる可能性を意味します。
対象となる16分野の詳細と業務内容
育成就労制度で対象となる見込みの16分野は以下の通りです。
分野 | 主な業務内容 |
---|---|
介護 | 身体介護、生活支援(訪問系サービス除く) |
ビルクリーニング | 建物内部の清掃業務 |
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 | 機械金属加工、電気電子機器組立て、金属表面処理 |
建設 | 土木、建築、ライフライン・設備 |
造船・舶用工業 | 溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立て |
自動車整備 | 自動車の日常点検整備、定期点検整備、特定整備 |
航空 | 空港グランドハンドリング、航空機整備 |
宿泊 | フロント、企画・広報、接客サービス |
農業 | 耕種農業、畜産農業 |
漁業 | 漁船漁業、養殖業 |
飲食料品製造業 | 飲食料品製造全般 |
外食業 | 外食サービス業務全般 |
鉄道 | 鉄道施設保守、車両整備 |
林業 | 植栽、育林、伐採、造材 |
木材産業 | 製材、木製品製造、家具製作 |
自動車運送業 | 貨物自動車運送、旅客自動車運送 |
対象外となる可能性がある職種・分野の具体例
技能実習制度で対象だったものが、育成就労制度で対象外となる可能性がある分野として以下が挙げられます。






これらの分野の企業は、特定技能制度での直接受け入れや、他の在留資格での雇用を検討する必要があります。
対象外の場合の対応策
- 特定技能制度での直接受け入れる
- 技術・人文知識・国際業務等の他の在留資格で雇用をする
- 事業内容の一部変更による対象分野へ適合させる
転籍制度の革命的変更|本人意向による転籍解禁の詳細
技能実習制度では原則として転籍が禁止されていましたが、育成就労制度では条件付きで転籍が認められるようになります。
この変更は外国人材の人権保護にとって大きな前進ですが、企業にとっては人材流出リスクを意味します。
原則禁止から条件付き許可への大転換
技能実習制度では、「やむを得ない事情」がある場合を除き、転籍は原則禁止でした。この制限が技能実習生の立場を弱くし、人権侵害の温床となっていたことは広く指摘されていました。
育成就労制度では、この問題を解決するため、以下の2つのケースで転籍が認められます。



労働条件について契約時の内容と実態の間に一定の相違がある場合(『聞いていた話と違う』といったケース)でも、転籍が認められる可能性があります。
これは、従来より幅広いケースで転籍が認められることになります。
本人意向による転籍の具体的要件(1年超就労、技能・日本語要件等)
本人意向による転籍の要件は以下の通りです。
- 同一機関での就労が1~2年を超えている(分野によって異なる予定)
- 技能検定試験基礎級等の合格
- 転籍先の適正性確認
- 同一業務区分であること
これらの要件を満たせば、外国人材は自らの意思で転籍することが可能になります。ただし、「ハードルは緩和されるもののまだ高い」状況です。
企業が直面する人材流出リスクと対策の必要性
転籍制度の導入により、企業は以下のリスクに直面することになります。
- 都市部への人材流出⇒地方企業から賃金水準の高い都市部企業への転籍
- 同業他社への流出⇒より良い労働条件を提示する競合企業への転籍
- 初期投資の回収不能⇒育成費用を投資した人材の早期流出
これらのリスクを軽減するためには、競争力のある待遇と働きやすい環境の整備が不可欠です。企業は「選ばれる職場」になるための努力が求められるようになります。

日本語能力要件の新設|A1相当以上の取得義務化
技能実習制度では日本語能力の事前要件がありませんでしたが、育成就労制度では就労開始前に日本語能力A1相当以上の取得が義務付けられます。
A1レベル(日本語能力試験N5相当)の具体的能力は以下の通りです。
A1レベル(日本語能力試験N5相当)
読解能力
- ひらがな、カタカナ、日常生活で用いられる基本的な漢字で書かれた定型的な語句や文、文章を読んで理解できる
聴解能力
- 教室や、身の回りなど、日常生活の中でよく出会う場面で、ゆっくり話される短い会話であれば、必要な情報を聞き取ることができる
会話能力
- 基本的な挨拶、自己紹介、簡単な質問への応答ができる
技能実習制度との比較による日本語力向上効果
技能実習制度では日本語要件がなかったため、来日時の日本語能力にばらつきがあり、企業側で基礎的な日本語教育から始める必要がありました。
育成就労制度では事前に一定の日本語能力を確保することで、以下の効果が期待されます。
◆日本語向上効果によって期待される効果◆
- 業務指導の効率化:基本的な指示理解が可能
- 安全管理の向上:危険な作業での適切な指示を伝達
- チームワークの改善:日本人従業員とのコミュニケーションが円滑化
- 顧客対応品質向上:接客・サービス業での対応品質向上
企業の日本語教育支援体制構築の重要性
企業には継続的な日本語教育支援が求められるため、以下の体制構築が必要になります。
社内日本語指導者の確保のために、日本語教師資格保有者の採用または育成をしたり、認定日本語教育機関との提携をとりながら、レベル別や目的別に教育企画対策をしていくことも必要不可欠になっていきます。
そのためにはオンラインで学習できるような教材や教室を準備し、十分に学習できるような環境作りも重要です。
監理団体から監理支援機関への進化
技能実習制度の監理団体は、育成就労制度では監理支援機関に改組され、より高い独立性と専門性が求められます。
項目 | 技能実習(監理団体) | 育成就労(監理支援機関) |
独立性 | 受け入れ企業との関係制限が曖昧 | 厳格な独立性要件 |
監査体制 | 内部監査中心 | 外部監査人設置義務 |
許可要件 | 比較的緩やか | 大幅に厳格化 |
役割 | 監理・指導中心 | 支援・保護機能強化 |
名称 | 監理団体 | 監理支援機関 |
監理団体の監理支援機関への改組と要件厳格化
これまで技能実習制度において、「技能実習生や技能実習の受け入れ企業のサポートをしてきた監理団体は、『監理支援機関』へと変わり、独立性のある組織を目指す予定です」とされています。
外部監査人設置義務による透明性確保
育成就労制度では、監理支援機関に外部監査人の設置が義務付けられます。この義務付けによって、不法就労や人権侵害などの問題への対応はしやすくなるでしょう。
外部監査人の役割とは、主に以下の4つになります。

現在の監理団体への影響と移行手続き
現在の監理団体は、『監理支援機関』になるために改めて申請しなおす必要があります。
移行に関する重要なポイント!
①新規許可申請の必要性
⇒既存の監理団体許可では不十分。要件を満たす者が申請する必要がある。
②要件適合の確認
⇒新たな要件をチェックしてそれに適合しているかどうかをしっかり確認する。
③移行期間の設定
⇒段階的に移行できるようなスケジュールを組んでいく。
④許可を得られない場合の対応
⇒代替の監理支援機関の確保するか、または単独型育成就労へ移行をする。
またこれらの事から企業には
✔現在の監理団体が継続できない可能性
✔厳格な要件により費用が増加する可能性
✔透明性向上により不適切な運用が困難
の影響がでてくる恐れがあります。外国人材の保護機能が大幅に強化される一方で、企業にはより適正な受け入れ体制の構築が求められることになるでしょう。
3.企業にとってのメリット・デメリット分析

育成就労制度導入で得られる3つの重要なメリット
特定技能への円滑移行による長期雇用実現と投資回収
育成就労制度の最大のメリットは「育成就労から特定技能への移行がスムーズになり、長く働いてもらうことができる」ことです。この長期雇用の実現により、企業は以下の投資効果を得ることができます。
従来の技能実習制度では最長5年で帰国が原則でしたが、育成就労制度では以下のキャリアパスが確立されています。

育成就労(3年間)
基礎技能習得・日本語能力向上期間
特定技能1号(最長5年間)
専門技能深化期間
特定技能2号(無期限)
高度技能活用・管理職候補期間
この制度設計により、企業は最長で無期限の雇用が可能になり、長期的な人材投資戦略を立てることができる上に、日本語能力向上により業務効率が20~30%改善するという調査結果もあります。
優秀な外国人材の確保による企業競争力向上
転籍制度の導入と長期雇用の可能性により、より優秀な外国人材が日本を選ぶようになることが期待されます。これにより企業は以下のメリットを獲得できます。

企業が直面する3つの主要課題とリスク
初期費用大幅増加(送り出し機関手数料等で一人50万円程度)
実際には採用にかかる費用が技能実習以上にかかってしまうのが現実です。(渡航費や送り出し機関に支払う手数料などを受け入れ機関と外国人で分担する仕組みを導入予定)
具体的な追加費用の内訳は以下の通りです。
初期費用(1人あたり)
- 送り出し機関手数料:20~30万円(企業負担分)
- 渡航費用:10~15万円
- 日本語事前教育費用:8~12万円
- 各種手続き費用:5~8万円
- 入国後講習費用:7~10万円
- 合計:50~75万円程度
この費用増加は、特に中小企業にとって大きな負担となります。
従来の技能実習制度では外国人材本人が負担していた費用を企業が分担することになるため、採用一人当たりのコストが2~3倍に増加する可能性があります。
転籍による人材流出リスクと投資効果減少の可能性
技能実習では3~5年在籍だったが、育成就労では1年で転籍(退職)してしまう可能性があると指摘されているように、転籍制度の導入は企業にとって重大なリスクです。
転籍リスクの要因として考えられるのは、都市部への流出、同業他社への流出、業界間の移動です。
仮に1年で転籍してしまった場合、初期投資の70~80%が回収不能となり、代替人材確保のための追加コストがまた多くかかってくるためできるだけ転籍は避けたいのが実情です。
教育・研修体制充実化による運営コスト増加
育成就労制度では、技能実習制度以上に高度な教育・研修体制の構築が求められるため、大幅に運営コストが増加すると考えられます。
必要な年間投資(1人あたり)
- 日本語教育継続費用:30~50万円
- 技能向上研修費用:20~40万円
- 生活支援費用:15~25万円
- 評価・フィードバック体制:10~20万円
- 合計:75~135万円程度
これらの運営コスト増加により、企業は従来以上の長期的視点での投資計画が必要になります。
コスト構造の詳細変化と対策
送り出し機関手数料の企業負担導入による費用増
外国人労働者が来日前に現地の送り出し機関に対して支払う費用を、受け入れ企業が負担する仕組みを導入するという予定になっています。この仕組みにより
企業側に及ぶ影響として、
✔初期投資の大幅増加
⇒一人当たり20~40万円の追加負担
✔キャッシュフローへの影響
⇒採用時の一時的な資金需要増大
✔採用計画の見直し
⇒費用増加を考慮した段階的採用の検討
これらの事が考えられます。そのためにも早い段階から対策をうつことが大切です。
そのためにも、転籍リスクを軽減するための契約条項を設定することや、採用を行う際は複数名を同時にするなどしてコストを削減していく対策が必要になってきます。
日本語教育費用負担と投資効果の分析
継続的な日本語教育支援も必要なるため、企業には以下の費用負担が発生します。
費用構造
- 外部講師委託:時給3,000~5,000円 × 年間100時間 = 30~50万円
- 社内教育体制:専任担当者人件費 月額10~15万円
- 教材・設備費:年間15~25万円
- オンライン学習システム:月額1~3万円
投資対効果比率: 約3~5倍の効果が期待され、十分にペイする投資と分析されます。
次にコンプライアンス対策での投資額を具体的に見ていきます。
コンプライアンス対応投資

リスク回避効果
これらに投資することにより、罰金リスク事や業停止リスクを回避できます。
また、適切なコンプライアンス体制は企業の信頼性向上にもつながり、優秀な外国人材の獲得競争でも有利に働きます。
4.2027年施行に向けた3つの重要ポイント~今すぐ始める準備戦略~

【準備ポイント1】事業適格性確認と受け入れ体制評価
自社事業の特定産業分野該当性の詳細確認手順
育成就労制度では、受け入れ可能な分野が特定産業分野の16分野に限定されるため、自社事業の適格性確認が最重要の第一ステップです。
以下の手順で詳細な確認を行う必要があります。
ステップ1:主たる事業内容の精査
- 売上構成比分析⇒過去3年間の売上構成比で最も大きい事業分野を特定する
- 従業員配置状況⇒外国人材を配置予定の部門・業務の詳細を分析する
- 事業登記内容確認⇒法人登記上の事業目的と実際の事業内容の照合をする
ステップ2:16分野への該当性判定
各分野の詳細な業務区分との照合を行います。
確認分野 | 主要チェックポイント |
---|---|
製造業関連 | 機械金属加工、電気電子機器組立て 金属表面処理等の具体的作業内容 |
建設業 | 土木、建築、ライフライン・設備工事の 施工実績 |
農業・漁業 | 耕種農業、畜産農業、漁船漁業 養殖業の具体的従事内容 |
サービス業 | 介護、ビルクリーニング、宿泊 外食の具体的業務内容 |
ステップ3:グレーゾーンの専門家相談
1.行政書士等への相談⇒複数分野にまたがる事業の場合の適格かどうかを判断する。
2.出入国在留管理庁への事前相談⇒公式見解の確認を行う。
3.業界団体(分野別協議会)への問い合わせ⇒加入要件と手続きの確認を行う。
現在の外国人材受け入れ体制の総合診断方法
既存の受け入れ体制を以下の観点から総合的に診断し、育成就労制度の要件に適合させる必要があります。
労働環境・住環境の基準適合性チェックリスト
項目 | 現状確認ポイント | 適合基準 |
---|---|---|
給与体系 | 最低賃金以上、同等労働同等賃金 | 地域最低賃金+10%以上 |
労働時間管理 | 適切な勤怠記録、残業代完全支払い | 月60時間以内、適正な割増賃金 |
住環境 | 一人当たり居住面積、プライバシー確保 | 4.5㎡以上/人、個室または適切な仕切り |
安全衛生 | 労働安全衛生法の完全遵守 | 安全教育実施、保護具支給 |
相談体制 | 多言語対応の相談窓口 | 母国語対応可能な体制 |
文化的配慮 | 宗教的配慮、食事制限対応 | 礼拝時間確保、ハラル食品等 |
法令遵守体制の点検と改善要項
育成就労制度では、より厳格な法令遵守が求められるため、以下の体制整備が必要です。


【準備ポイント2】人材育成・日本語教育体制の構築
段階的技能向上プログラムの設計方法
育成就労制度では、3年間で特定技能1号水準への到達が目標となるため、体系的な技能向上プログラムの設計が不可欠です。
年次別技能向上目標の詳細設定
1年目(基礎習得期)
- 技能目標:基本的な業務手順の習得、安全作業の徹底
- 日本語目標:A1レベルからA2レベルへの向上
- 評価指標:基礎技能検定合格、日本語能力試験N4取得
- 具体的取り組み
- 週2回の技能研修(計100時間)
- 日常業務でのOJT指導
- 月1回の習得度評価と面談
2年目(応用発展期)
- 技能目標:複合的な業務への対応、改善提案能力の開発
- 日本語目標:A2レベルからB1レベルへの向上
- 評価指標:中級技能検定合格、日本語能力試験N3取得
- 具体的取り組み
- 月2回の応用技能研修(計50時間)
- 改善提案制度への参加
- 他部門でのローテーション研修
3年目(専門深化期)
- 技能目標:高度な技術的判断能力、後輩指導能力の習得
- 日本語目標:B1レベル以上の維持・向上
- 評価指標:特定技能1号試験合格、指導者認定取得
- 具体的取り組み
- 特定技能試験対策集中講座(計80時間)
- 新人指導担当としての実践経験
- 管理職候補としての育成プログラム参加
教育プログラムの体系化
レベル | 対象 | 頻度 | 内容 | 期間 |
---|---|---|---|---|
入門クラス | N5→N4 | 週3回/90分 | 基礎文法、日常会話 | 6ヶ月 |
中級クラス | N4→N3 | 週2回/90分 | 業務日本語、読解 | 8ヶ月 |
上級クラス | N3→N2 | 週1回/90分 | 専門用語、敬語 | 12ヶ月 |
特別講座 | 試験対策 | 集中講座 | 12ヶ月特別講座試験対策集中講座 | 3ヶ月 |
業務特化型日本語教育の実施
長期的に働いていくためにも、日本語教育にはより力を入れていかなければいけません。実際の業務の場で実践できる事としては、一つ目に各職種に特化した用語集や例文集を作成することがおすすめです。
また作業現場では実際どのような会話がよく使われるのか、その会話をいくつかピックアップして実際に作業員同士で練習してみたり、緊急時にしっかり対応できるように反復練習を行っていくことも大切です。
ここで、おすすめの日本語教育の進め方をご紹介します。
日本語教育機関との提携
オンライン学習システムの導入
- AI学習アプリ:個人の習熟度に応じたカスタマイズ学習
- 動画教材活用:反復学習可能な技能習得動画
- 進捗管理システム:学習状況の可視化と指導への活用
地域日本語ボランティアとの連携
- 生活日本語サポート:買い物、銀行手続き等の実践練習
- 文化交流プログラム:地域イベントへの参加支援
- 相互学習制度:母国語と日本語の相互学習機会提供
特定技能試験合格サポート体制の構築
技能検定対策の体系化
- 模擬試験の定期実施:月1回の実技・学科模擬試験
- 弱点分野の集中指導:個人の苦手分野に特化した補強教育
- 合格者による指導制度:先輩外国人材による体験談とアドバイス
日本語試験対策の強化
- JLPT対策講座:各レベル別の集中対策プログラム
- 実用日本語検定対応:業務に直結した日本語能力評価
- 面接試験対策:口頭試験での適切な表現力向上
【準備ポイント3】転籍対策と人材定着戦略
競争力のある待遇制度設計(給与・福利厚生)
転籍制度の緩和により、企業は外国人材に選ばれる職場になる必要があります。以下の待遇改善により、人材定着率の向上を図ります。
給与制度の見直し
福利厚生の充実
サポート体制の充実
キャリア発展機会の提供と長期雇用へのインセンティブ
10年を目安にキャリア計画を見える化してあげることが大切です。

このように具体的に提示してあげることで、その目標に向かって働く意欲も倍増します。
インセンティブ制度
- 技能検定1級取得:基本給10%アップ+20万円一時金
- 日本語能力試験N1取得:基本給5%アップ+15万円一時金
- 国家資格取得支援:受験費用全額負担+合格時奨励金

このようなインセンティブ制度があると、資格にも意欲的に挑戦していくようになります。
転職防止のための実践的対策


これらの準備を2025年から段階的に実施することで、2027年の制度施行時には競争優位性を持った受け入れ体制を構築することができます。
特に人材定着対策は効果が現れるまで時間を要するため、今すぐの着手が成功の鍵となります。
特定技能と技能実習の違いを詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
5.育成就労制度で実現する持続可能な外国人材活用戦略

育成就労制度は、日本の外国人雇用を根本的に変革する重要な制度改正です。
転籍制度の緩和や初期費用の増加など課題もありますが、長期雇用による投資回収効果や人材の質向上は大きなメリットをもたらします。
2027年施行まで約3年間の準備期間を活用し、適切な体制整備と戦略的な取り組みを進めることで、持続可能な外国人材活用と企業成長を同時に実現できるでしょう。
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