製造業の深刻な人手不足を解決する手段として注目される特定技能制度。
2019年の創設以来、製造分野では45,183人の外国人材が活躍し、今後5年間で173,300人の受け入れが見込まれています。
しかし、10の業務区分や複雑な要件、協議会加入など、制度理解には専門知識が必要です。
本記事では、特定技能工業製品製造業分野(製造業)の全体像から具体的な採用手続きまで、企業が知るべき最新情報を体系的に解説します。
- 特定技能工業製品製造業分野の10業務区分と受け入れ要件の詳細
- 協議会加入から就労開始までの具体的な手続きの流れ
- 紡織・縫製分野の4つの追加要件と採用時の注意点
1.特定技能「工業製品製造業」分野(製造業)の概要と特徴

工業製品製造業分野(製造業)は日本経済の基幹産業でありながら、少子高齢化により深刻な人手不足に直面しています。
この課題を解決するために2019年に創設された特定技能制度において、製造分野は最大の受け入れ見込み数173,300人を誇る中核分野です。
ここでは制度創設の背景から現在の「工業製品製造業」への変遷まで、基本的な枠組みを解説します。
制度創設の背景と目的
特定技能製造業分野は、日本の深刻な人手不足を背景に2019年4月に創設されました。
少子高齢化により労働力不足が顕著な製造業において、一定の専門性・技能を持つ外国人を即戦力として受け入れることを目的としています。
この制度により、これまで外国人の就労が制限されていた製造現場でも、技能を有する外国人材の活用が可能となり、企業の持続的な成長を支える重要な人材確保手段として位置づけられています。
最大受け入れ見込み人数/業界別人材ニーズ

製造分野で働く特定技能外国人は現在45,183人(2024年12月末時点)となっており、特定技能の対象業種の中でも最大規模のセクターです。
出入国在留管理庁が公表している今後5年間での受け入れ見込数は173,300人で、全産業分野の中で最も多い受け入れ人数が予定されています。
この数字は製造業の深刻な人材不足を反映しており、特に中小企業を中心とした人材確保の必要性が高まっています。
「工業製品製造業」へ名称変更の経緯
当初製造業は「素形材産業分野」「産業機械製造業分野」「電気・電子情報関連産業分野」の3分野に分かれていましたが、産業機械製造業での受け入れ人数が上限を超えたため、2022年5月に統合されました。
その後「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」を経て、現在は「工業製品製造業」として運用されています。この統合により、より柔軟で効率的な外国人材の受け入れが可能となりました。
2.受け入れ可能な業務と対象技能の分類

特定技能「工業製品製造業」分野では、全10の業務区分が設定されており、それぞれに対応する技能業務が明確に定められています。
2024年の制度改正により7つの新区分が追加され、より幅広い製造業での外国人材活用が可能となりました。ここでは各区分の詳細と対象技能を体系的に解説します。
機械・電子・金属分野の代表業務
工業製品製造業分野では、現在10の業務区分が設定されています。この中でも特に中核となるのが、以下の3つの基本区分です。
業務区分 | 代表的業務 |
---|---|
機械金属加工区分 | 金属・プラスチック素材の成形・加工 など |
電気・電子機器組立て区分 | 産業用機械・電子機器の組立・製造 など |
金属表面処理区分 | 金属製品の表面処理・強化 など |
機械金属加工区分の詳細技能(12技能)
- 鋳造、機械加工、ダイカスト、金属プレス加工
- 鉄工、仕上げ、工場板金、機械検査、機械保全
- 電気機器組立て、プラスチック成形、塗装、溶接、工業包装
- 金属熱処理(NEW)、強化プラスチック成形(NEW)
電気・電子機器組立て区分の詳細技能(10技能)
- 機械加工、仕上げ、機械検査、機械保全
- 電気機器組立て、電子機器組立て、プラスチック成形
- プリント配線板製造、工業包装、強化プラスチック成形(NEW)
2024年追加の7区分とその背景
2024年3月29日の閣議決定により、製造業分野に7つの新しい業務区分が追加されました。
この拡大の背景には、各業界からの強い要望と深刻な人材不足があります。新規追加された7区分は以下となります。
紙器・段ボール箱製造区分
- 対象技能:紙器・段ボール箱製造
- 背景:ECの普及による包装資材需要増加
コンクリート製品製造区分
- 対象技能:コンクリート製品製造
- 背景:インフラ整備・維持需要の高まり
RPF製造区分
- 対象技能:RPF(固形燃料)製造
- 背景:循環型社会・脱炭素社会への対応
陶磁器製品製造区分
- 対象技能:陶磁器工業製品製造
- 背景:伝統産業の技能継承問題
印刷・製本区分
- 対象技能:印刷、製本
- 背景:デジタル化による業界再編と人材流出
紡織製品製造区分
- 対象技能:紡績運転、織布運転、染色、ニット製品製造、たて編ニット生地製造、カーペット製造
- 背景:繊維産業の海外移転と国内生産維持の必要性
縫製区分
- 対象技能:婦人子供服製造、紳士服製造、下着類製造、寝具製作、帆布製品製造、布はく縫製、座席シート縫製
- 背景:アパレル産業の国内回帰と高付加価値化
対象となる技能の体系(技能検定との対応)
特定技能の対象技能は、技能検定制度との整合性を図りながら設定されています。特定技能1号は技能検定3級相当、特定技能2号は技能検定1級相当の技能レベルが求められます。
また、関連業務として原材料の調達・運搬、前後工程の作業、クレーン・フォークリフト操作、清掃・設備保守なども付随的に従事可能ですが、これらの業務のみを行うことは認められています。
特定技能2号についてもっと詳しく解説している記事は、こちらの記事になります。
3.受け入れ企業が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、企業が満たすべき3つの必須要件があります。日本標準産業分類への該当、原材料による製造実績、協議会への加入がその柱です。
これらの要件を満たさない場合、受け入れが認められないため、事前の十分な確認と準備が不可欠です。
該当産業分類の確認方法
特定技能外国人を受け入れるためには、まず自社の事業が日本標準産業分類の対象業種に該当することを確認する必要があります。
製造業分野では、特定技能1号のみ受け入れ可能な事業所と、1号・2号両方を受け入れ可能な事業所に分類されています。

原材料と製品出荷実績の条件
受け入れ企業は、事業者が所有する原材料によって製造し、製品を出荷している実績が必要です。
製造品出荷に該当する例
- 同一企業の他事業所への引き渡し
- 自家使用された製品(事業所内での最終製品使用)
- 委託販売に出した製品(返品除く)
この要件により、単純な加工請負や組み立て作業のみの事業所は対象外となります。製造業としての実体を持つ企業のみが特定技能外国人を受け入れることができます。
協議・連絡会への加入とその役割
特定技能外国人を受け入れる企業は、経済産業省設置の「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」への加入が必須です。
参考:経済産業省 製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会(協議会)
加入手続きのポイント
- 在留資格申請前の加入が必要
- 申請から完了まで通常2ヶ月程度
- 多くの事業所で1〜2回の修正対応が発生
- 構成員名簿への掲載により正式完了
協議・連絡会は、適正な受け入れの推進、情報共有、制度の円滑な運用を目的としており、企業にとって重要な情報源となります。
4.特定技能1号・2号取得ルートと試験制度

特定技能の取得には複数のルートが存在し、1号と2号でそれぞれ異なる要件が設定されています。試験合格による取得、技能実習からの移行、さらに2号では高度な技能検定ルートも用意されています。
各ルートの特徴と要件を理解することで、効果的な人材確保戦略を立てることができます。
試験ルート:技能評価+日本語試験の詳細
特定技能1号取得には、技能評価試験と日本語試験の両方に合格する必要があります。
製造分野特定技能1号評価試験の概要
項目 | 内容 |
---|---|
試験区分 | 全10区分(業務区分ごと) |
試験時間 | 学科・実技合わせて80分 |
実施方式 | CBT方式(国内外で実施) |
合格基準 | 学科65%以上、実技60%以上 |
試験水準 | 技能検定3級相当 |
日本語試験
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
いずれかに合格すれば日本語要件を満たします。
技能実習2号からの移行ルート
技能実習2号を良好に修了した外国人は、技能評価試験と日本語試験を受験することなく、特定技能1号へ移行することができます。
これは現在最も一般的な取得ルートとなっており、特定技能外国人の約7割がこの方法で移行しています。
移行の条件
- 工業製品製造業分野に該当する職種での技能実習2号を良好に修了
- 技能検定3級等の技能評価に合格
- 素行が善良であること
- 日本語能力の要件も免除

移行手続きは在留資格変更許可申請として行われます。
技能実習生は現在の「技能実習」の在留資格から「特定技能」への変更を申請し、許可を得ることで特定技能外国人として継続して日本で働くことができるようになります。
この移行ルートの大きなメリットは、既に日本での生活経験と一定の技能を有しているため、企業にとって即戦力として期待できることです。
また、日本語能力についても実習期間中に向上しているケースが多く、職場でのコミュニケーションも比較的スムーズに行えます。
ただし、移行対象職種であることの確認は慎重に行わなければなりません。技能実習で従事していた職種・作業と、特定技能で従事予定の業務との整合性について、事前に関係機関への確認を取ることが重要です。
適切な移行手続きにより、企業は優秀な外国人材を継続して活用することが可能となります。
特定技能2号の評価試験ルート/技能検定1級ルートとの比較
特定技能2号には2つの取得ルートがあります。
比較項目 | 2号評価試験ルート | 技能検定1級ルート |
---|---|---|
試験難易度 | 中程度 | 高難易度 |
受験機会 | 年数回実施 | 年1-2回実施 |
対象技能 | 3区分 | 19技能 |
合格率 | 比較的高い | 低い |
どちらのルートも3年以上の実務経験が必須であり、企業の協力が不可欠です。
5.特定分野(紡織・縫製)で追加される4つの要件

紡織製品製造・縫製分野では、過去の技能実習制度における労働問題を踏まえ、一般的な要件に加えて4つの特別要件が設定されています。
人権基準の遵守、勤怠管理の電子化、パートナーシップ宣言、月給制の義務化により、適正な労働環境の確保と外国人材の権利保護が強化されています。
人権・認証/勤怠管理/パートナーシップ宣言
紡織製品製造・縫製分野では、過去の労働問題を踏まえ、以下の追加要件が設定されています。
①国際的な人権基準の順守
対象となる監査・認証制度は以下になります。
- GOTS(オーガニック繊維製品の世界基準)
- OEKO-TEX STeP(繊維製品の持続可能性認証)
- Bluesign(化学物質管理システム)
- Global Recycled Standard(リサイクル繊維基準)
- JASTI(日本アパレル工業組合の行動規範)
企業は上記認証のいずれかを取得し、84項目の監査要求事項をクリアする必要があります。
参考元:一般財団法人カケンテストセンター
②勤怠管理の電子化
登録システム一覧に掲載されたシステム、または同等の自社開発システムの導入が必須です。
要件として、電子的出退勤記録、手作業を介さないデータ送信、打刻修正の適正管理などが求められます。
③パートナーシップ構築宣言
企業は取引先との共存共栄を目指す宣言を行い、専用ポータルサイトで公表する必要があります。サプライチェーン全体の価値向上と適正な取引慣行の遵守が主な内容です。
月給制の義務化
特定技能外国人の給与は月給制が義務付けられています。これは季節や受注量による収入変動を防ぎ、安定した生活を保障するためです。

この要件により、外国人労働者の労働条件改善と生活安定が図られ、適正な雇用環境の構築が促進されます。企業は代表者名での誓約書提出も必要となります。
6.採用手続きの流れと注意点

特定技能外国人の採用は、事前準備から就労開始まで複数のステップを踏む必要があります。
協議会加入、登録支援機関の選定、支援計画の策定、在留資格申請など、各段階で適切な手続きが求められます。成功の鍵は計画的な準備とトラブル防止策の徹底にあります。
事前準備(協議会加入/体制整備)
特定技能外国人の採用を成功させるためには、十分な事前準備が不可欠です。特に協議会加入は時間を要するため、計画的な進行が求められます。

特定技能外国人材の受け入れのポイントは、こちらの記事でご紹介しています。
登録支援機関の選定と契約
企業が直接支援を行うか、登録支援機関に委託するかの選択が重要です。

選定時のチェックポイント
- 製造業での支援実績
- 対応可能言語の範囲
- 24時間相談体制の有無
- 料金体系の透明性
- 継続的な支援体制
委託費用は月額2-5万円程度が相場ですが、サービス内容により大きく異なります。
登録支援機関についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
支援計画策定と雇用契約の締結
特定技能1号外国人を受け入れる際は、法律で定められた支援計画の策定と適切な雇用契約の締結が必須です。支援計画は外国人材の生活基盤確立から職場定着まで包括的な内容が求められます。
1号特定技能外国人支援計画の策定は以下になります。


雇用契約締結のポイント
- 日本人と同等以上の報酬
- 労働時間・休日の明確化
- 社会保険加入手続き
- 契約内容の母国語での説明
在留資格申請・就労開始までのステップ

注意点(分類の確認/トラブル防止策)
特定技能製造業での外国人材採用において、最も注意すべき点の一つが産業分類の確認です。
製造業分野は他の特定技能分野と比較して条件が複雑であり、一見製造業に見える事業でも対象外となるケースが多数存在します。
産業分類確認の重要性について、具体的な例を挙げると、ドアノブを製造する事業所は特定技能外国人が従事できる産業分類には該当しないため、申請後に協議会加入が認められないという事例があります。
また、単純な組み立て作業のみを行う事業所や、他社製品の梱包・包装のみを行う事業所なども対象外となる場合があります。
このため、企業は自社の事業内容が日本標準産業分類のどの項目に該当するのかを詳細に確認し、製造品出荷実績についても適切に整理しておく必要があるでしょう。
トラブル防止策
- 契約内容の母国語での十分な説明
- 定期的な面談による状況把握
- 文化的相違への配慮
- 適切な労働環境の維持
- 早期の問題発見・解決体制の構築
企業は継続的な支援と適切な労働環境の提供により、外国人材との良好な関係構築を図ることが成功の鍵となります。
7.今後の制度動向と企業が取るべき対応策

特定技能制度は継続的な見直しが行われており、2024年以降も重要な改正が予定されています。
技能実習制度の廃止、育成就労制度の創設、審査の厳格化など、大きな変化に対応するため、企業は戦略的な体制構築が必要です。制度変更を先取りした対応策を解説します。
2024年以降の制度改正の方向性
特定技能制度は運用開始から5年が経過し、現場のニーズと制度運用の実態を踏まえた継続的な改良が進められています。
2024年以降の主要な改正方向性を把握することで、企業は戦略的な対応を準備することができます。

人材確保数の上限管理/審査の厳格化
特定技能制度では、各分野において受け入れ人数の上限が設定されており、その管理が年々厳格化されています。
製造分野においては、今後5年間で173,300人という受け入れ見込み数が設定されており、この数字は特定技能全分野の中で最大の規模となっています。
出典元:出入国在留管理庁 特定技能制度の受入れ見込数の再設定(令和6年3月29日閣議決定)
上限管理の動向
上限管理の現状について、出入国在留管理庁は四半期ごとに特定技能外国人の在留者数を公表しており、各分野の受け入れ状況を詳細に監視しています。
製造分野では2024年12月末時点で45,183人が在留しており、上限に対する進捗率は約26%です。しかし、この数字は急速に増加傾向にあり、企業は戦略的な採用計画を立てる必要があります。
上限接近時の措置として、受け入れ見込み数に近づいた場合、新規の在留資格認定証明書の交付が停止される可能性があります。
過去には産業機械製造業分野において、受け入れ人数が上限を超えたため新規入国が一時停止となった事例があります。
出典元:出入国在留管理庁 特定技能「産業機械製造業分野」における在留資格認定証明書交付の一時停止措置等について
このような措置は企業の採用計画に大きな影響を与えるため、早期の手続き開始が重要なポイントとなります。
審査厳格化のポイント
受入企業の適格性審査
- 労働関係法令違反歴のより詳細な調査
- 財務状況の継続的なモニタリング
- 過去の外国人雇用実績の評価
- 支援体制の実効性確認
外国人材の要件確認
- 技能試験の不正受験対策強化
- 日本語能力の実用性重視
- 送出国での経歴確認厳格化
- 入国後の定期的な能力確認
企業が構築すべき対応体制
特定技能制度の継続的な変化に対応し、安定した外国人材の受け入れを実現するために、企業は戦略的かつ持続可能な対応体制の構築が不可欠です。
制度変更への対応体制
- 最新情報の継続的な収集体制
- 行政書士等専門家との連携
- 内部担当者の育成・教育
- 業界団体との情報共有
持続可能な受け入れ体制
- 外国人材の長期雇用を前提とした人事制度
- 日本語教育支援の充実
- キャリアアップ支援体制
- 職場環境の多様性推進
リスクマネジメントの観点では、法令違反の未然防止体制として、
- 定期的な法令遵守状況のチェック
- 内部監査の実施
- 問題発生時の迅速な対応手続きの整備
などが重要です。労働基準法、入管法、その他関連法令の遵守状況を継続的に監視し、違反の兆候を早期に発見・対処する仕組みを構築する必要があります。
企業は単なる人材確保手段としてではなく、長期的な成長パートナーとして外国人材を位置づけ、持続可能な受け入れ体制を構築することを心がけましょう。
8.特定技能・工業製品製造業の雇用は企業発展成功のカギ

特定技能製造業の採用成功には、制度の正確な理解と計画的な準備が不可欠です。協議会加入は6ヶ月前から開始し、産業分類の確認や支援体制の構築を怠らないことが重要です。
紡織・縫製分野では追加要件への対応も必要ですが、適切な準備により優秀な外国人材の長期確保が実現できます。
制度変更に対応しながら、単なる人材確保を超えた戦略的活用により、企業の競争力向上と持続的成長を目指しましょう。
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