日本の物流を支える運送業が、深刻な人手不足に直面しています。
ドライバーの高齢化やEC市場の拡大に加え、「2024年問題」(時間外労働の上限規制)がこの危機に拍車をかけています。
有効求人倍率は全職種の約2倍、9割以上の企業が人材不足を実感するなど、状況は深刻です。もはや国内人材の確保だけでこの難局を乗り切ることは困難と言えるでしょう。
そこで注目されているのが「外国人材の活用」です。これは単なる労働力の補充ではなく、企業文化を変革する「ダイバーシティ経営」への一歩です 。
外国人ドライバーをいかに採用し、育成し、定着させていくか。そのための具体的な6つの施策を詳細に解説します。
1.日本の運送業界を取り巻く深刻な人手不足の現状

運送業の人手不足は、もはや「懸念」ではなく、日々のオペレーションに支障をきたす「現実」となっています。
その深刻な実態を、データと構造的な問題から詳しく見ていきます。
ドライバー不足が物流を停滞させ経営を圧迫
運送業がいかに深刻な人手不足にあるかは、統計データに明確に示されています。
「トラック運転者」の有効求人倍率は2.58倍(令和7年9月)と、全職業平均(1.12倍)の約2倍を超える高い水準にあります。
これは、求職者1人に対して2件以上の求人があるという「圧倒的な売り手市場」を意味します。
出典:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和7年9月分)について
この深刻な人材不足は、同業者間での高待遇を提示した「ドライバーの引き抜き」という、消耗戦ともいえる事態を引き起こしており 、安定した経営基盤を揺るがす大きな要因となっています。
人手が足りなければ、当然ながら受けられる仕事量(輸送量)にも限界が生じます。
需要があるにもかかわらず輸送を断らざるを得ない「機会損失」が発生し、それは直接的に企業の売上減少と経営の圧迫につながります。
少子高齢化の進展でさらなる人材確保難に
なぜ、これほどまでに運送業は人材が集まらないのでしょうか。
その背景には、一朝一夕には解決が難しい、複数の構造的な原因が複雑に絡み合っています。
労働条件へのネガティブイメージ
人手不足の主要な原因として「低賃金・長時間労働」という労働条件の問題が共通して挙げられています 。全産業平均と比較して労働時間が長い傾向にあるにもかかわらず、賃金水準が低いという実態が、「きつい仕事」というイメージを定着させています。
ドライバーの高齢化と若年層の不足
現在、業界を支えているドライバーの高齢化が急速に進んでいます 。その一方で、10代、20代の若年層がトラック運転手を志望しなくなっているという問題があります 。
厳しい労働条件のイメージに加え、運転免許制度の改正(中型・大型免許取得のハードル) も、若者の新規参入を妨げる一因とされています。
EC市場拡大に伴う需要の爆発的増加
私たちの生活が便利になる一方で、EC(電子商取引)市場の急速な拡大は、宅配便の取扱個数を爆発的に増加させました 。特に小口・多頻度配送のニーズが高まり、ドライバー一人ひとりへの負担が集中しています。
固定化されたイメージと多様性の欠如
「ドライバー=男の仕事」という固定化されたイメージが根強く残っており 、女性の進出が他産業に比べて大幅に遅れています 。業界全体として、労働力人口の半分を占める女性を労働力として活用しきれていない現状があります。
「2024年問題」が人手不足に拍車をかける
こうした慢性的な人手不足に決定的な一撃を加えているのが、「物流の2024年問題」です。
これは、2024年4月1日から、トラックドライバーの時間外労働(残業)が「年間960時間」までに厳しく制限されたことを指します 。
同時に、ドライバーの健康を守るための「改善基準告示」(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)も改正され、1日の拘束時間は原則13時間以内、休息期間は継続11時間を基本(最低9時間)とするなど、より厳格なルールが適用されることになりました 。
2024年4月以降の改善基準告示
改正された改善基準告示の主な内容(2024年4月適用開始)
※1 労使協定により延長可(①②を満たす必要あり)
① 284時間超は連続3か月まで。
② 1か月間の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努める。
※2 1週間における運行がすべて長距離貨物運送(一の運行の走行距離が450km以上の貨物運送)で、一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合
※本表は概要です。特例の適用条件など詳細は必ず厚生労働省の最新資料や専門家へご確認ください。
この規制自体は、劣悪な労働環境の改善 と「ホワイト化」の推進 という観点からは非常に重要です。
しかし、運送会社の経営視点で見れば、ドライバー1人が1日に働ける時間(=運べる時間・距離)が短くなることを意味します。
結果として、従来の輸送量を維持するためには、より多くのドライバーを雇用するか、あるいは運賃を値上げして売上を確保するしかありません。
しかし、前述の通りドライバーの採用は極めて困難です。このジレンマが、運送業の経営をさらに圧迫しています。
この問題は、運送会社だけにとどまりません。全日本トラック協会(JTA)は、輸送キャパシティの不足により、
- 荷主(企業)の輸送が断られる
- 一般消費者のもとに当日・翌日配達が困難になる
- 新鮮な食品が手に入りにくくなる
といった深刻な影響が出る可能性を警告しています 。まさに社会全体の問題となっているのです。
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運送業界における外国人雇用の全体像や、ドライバー不足解消に向けた戦略的なアプローチについて、こちらの記事ではさらに詳しく解説しています。
2.外国人材の活用が運送業の人手不足解消の鍵

国内の労働力だけではこの危機的状況を打開することが困難である以上、私たちは視点を変え、新たな労働力の担い手に目を向ける必要があります。それが「外国人材の活用」です。
増加する在留外国人は貴重な労働力の供給源
日本の生産年齢人口(15〜64歳)が減少の一途をたどる中、国内に在留し、就労意欲を持つ外国人の方々は、日本経済にとってますます貴重な労働力の供給源となっています。
すでに介護、建設、製造業、農業といった分野では、外国人材が現場を支える不可欠な存在となっているのは周知の事実です。
運送業においても、人手不足対策を導入した企業の成功事例として、「DX導入」や「労働条件の見直し」と並んで「多様な人材採用(女性・高齢者・外国人)」が挙げられています 。
国内の若年層の確保が極めて困難になっている今、門戸を広げ、意欲ある外国人材を積極的に受け入れることは、人手不足解消のための最も現実的かつ効果的な戦略の一つと言えます。
言語や文化の壁を越えた外国人の採用と定着が課題
ただし、外国人材の活用は「誰でもいいから採用すれば解決する」という単純な話ではありません。そこには、乗り越えるべき特有の課題が存在します。
これらの課題を直視せず、単なる「労働力」としてのみ受け入れようとすると、ミスマッチが生じ、結果として採用コストだけがかさんでしまいます。
重要なのは、これらの課題を企業が能動的にサポートし、「仲間」として受け入れ、長く活躍してもらうための「仕組み」を構築することです。
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外国人をドライバーとして採用するための新たな在留資格「特定技能(自動車運送業)」について、こちらの記事で要件や手続きの流れを完全ガイドします。
3.外国人ドライバーの採用・育成・定着のための6つの施策

外国人材を「貴重な戦力」として迎え入れ、共に成長していくためには、場当たり的な対応ではなく、採用から育成、そして定着に至るまでの体系的な施策が不可欠です。
ここでは、そのための具体的な6つの施策を紹介します。
1. 多言語での求人広告とグローバル人材の活用
課題: そもそも日本語の求人票が読めなければ、応募に繋がりません。
施策: まず、採用の「入り口」を徹底的に広げることがスタートです。
求人票や企業の魅力を伝える採用ページを、英語、ベトナム語、ポルトガル語、中国語など、ターゲットとする人材の母国語に翻訳して発信します。
掲載先も、従来の日本の求人媒体だけでなく、外国人専門の求人サイト、FacebookやZaloなどのSNSコミュニティ、あるいは現地の送出機関と直接連携することも有効です。
求人広告でアピールすべきは、給与や待遇だけではありません。
「充実した教育制度」「運転免許の取得支援」「住宅サポート」など、外国人が日本で働く上での不安を解消する支援体制の手厚さを具体的に示すことが、他社との強力な差別化要因となります。
また、すでに活躍している外国人ドライバーのインタビューを掲載することも、応募者にとって大きな安心材料となるでしょう。
※国籍を限定した募集(例:「ベトナム人に限定」など)は、労働基準法における差別的取扱いに抵触する可能性があるため、表現には十分な配慮が必要です。
2. 外国人の即戦力化を図る教育・研修制度の構築
課題: 日本の交通ルールや業務フロー、安全意識をいかに身につけてもらうか。
施策: 採用後の教育体制こそが、戦力化と定着の最大の鍵を握ります。単に「見て覚えろ」という旧来型のOJTだけでは、外国人材は早期に脱落してしまいます。

安全・法規教育
日本の交通法規、特にトラック固有の規制(積載量、高さ制限など)や、改正された改善基準告示 (労働時間、休息期間)について、母国語の資料や通訳を介して徹底的に教育します。
運転技術研修
いきなり一人で運転させるのではなく、経験豊富な指導員が助手席に同乗する「側乗指導」を十分に行います。デジタコ のデータを活用し、急ブレーキや速度超過などの運転特性を客観的にフィードバックする指導も有効です。
免許取得支援
中型・大型免許の取得費用を会社が全額または一部負担する制度を設けます。教習所と連携し、外国人向けの指導に慣れた教官を配置してもらうなどの配慮も効果的です。
業務日本語教育
日常会話レベルの日本語力があったとしても、業務で使う専門用語(「点呼」「荷積み」「荷下ろし」「検品」など)や、荷主との丁寧なコミュニケーション(「お世話になっております」「承知いたしました」)は別途教育が必要です。
ロールプレイング形式で実践的に学ぶ機会を提供します。
キャリアパスの提示
競合調査レポートでも、人手不足対策として「若者への教育体制、キャリアパスの構築」が挙げられています 。これは外国人材にも同様に重要です。
単なるドライバーで終わるのではなく、将来的には「運行管理者」「リーダー」「後輩の指導役」といったキャリアパスを示し、日本で長く働くモチベーションを高めます。
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言葉や文化の壁がある外国人従業員に対して、現場でどのように仕事を教えればよいのか。こちらの記事では効果的な指導法と教育マニュアル作成のコツを解説します。
3. 生活サポートや社内コミュニケーション支援の充実
課題: 仕事以外の「生活」の不安が、仕事への集中力を奪い、早期離職につながります。
施策: 安心して仕事に打ち込んでもらうためには、生活基盤の安定が不可欠です。企業が「第二の家族」として機能するレベルのサポート体制が求められます。

サポート体制
- 生活インフラの整備
社宅や借り上げアパートの提供、あるいは不動産契約の連帯保証人代行。銀行口座の開設、携帯電話の契約、役所での住民登録やビザ更新手続きへの同行・代行支援。 - 生活ルールの指導
日本の細かいルール(ゴミの分別方法、騒音問題、地域の慣習など)を丁寧に教え、近隣トラブルを未然に防ぎます。 - メンタルヘルスケア
母国語で相談できる窓口の設置や、定期的な1on1ミーティング(面談)の実施。異国の地で働くストレスや孤独感を早期に察知し、ケアする体制を整えます。 - コミュニケーションの活性化
社内報の多言語化、日本人従業員との交流を促す懇親会(BBQ、スポーツイベントなど)の開催。社内での孤立を防ぎ、所属意識(エンゲージメント)を高めます。
4. 多様な価値観を尊重する組織文化づくり
課題: 外国人材を受け入れても、既存の日本人従業員側が壁を作ってしまう。
施策: 外国人材の受け入れは、受け入れる側(日本人従業員)の意識改革でもあります。
外国人材受け入れに向けた環境整備
異文化理解研修の実施
日本人従業員に対し、各国の文化・習慣・宗教(ハラル等)を学ぶ研修を実施。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を取り除き、相互理解の土壌を作ります。
「やさしい日本語」の推進
難解な専門用語を避け、シンプルで伝わりやすい「やさしい日本語」を社内公用語として推奨。コミュニケーションの壁を低くします。
評価制度の公平性
言語能力ではなく、安全運転の実績や業務の正確性など「成果」や「行動」を正当に評価。誰もが働きやすいインクルーシブな職場風土を醸成します。
5. ITツールを活用した業務の見える化と効率化
課題: 言語の壁や経験不足が、業務の効率や安全性を低下させる。
施策: テクノロジーは、言語や経験の差を埋める最も強力な武器です。事業者の多くが人手不足対策の切り札として「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を提案しています 。
外国人材に有効な効率化施策
DXツールの活用で言語の壁を越え、業務効率を最大化AIが最適なルートを自動作成。多言語対応のナビ連携により、土地勘のない外国人ドライバーでも道間違いを防ぎ、スムーズな配送の実現をサポートします。
遅延・負担削減運転日報の自動化で「2024年問題」に対応。言語の壁を超え、労働時間を客観的かつ正確に把握することで、適切な労務管理を行います。
コンプライアンス遵守請求書発行や運賃計算などの定型事務をロボットで自動化。事務負担を減らし、ドライバーが本来の運転業務に集中できる環境を整えます。
業務効率化紙のマニュアルを動画やデジタル形式へ移行。翻訳機能を備えたタブレット等で確認可能にし、言語による理解度の差を解消します。
教育コスト低減6. 行政や専門機関との連携による外国人材活用の推進
課題: 在留資格(ビザ)の管理や法務コンプライアンスが複雑で、自社だけでは対応しきれない。
施策: 外国人材の雇用には、出入国管理法や労働法規など、専門的な知識が不可欠です。すべてを自社で抱え込まず、外部の専門家の力を積極的に活用すべきです。
外部リソースを活用した支援体制の構築
専門家や公的機関との連携により、リスク管理と安定した雇用環境を実現します。
専門家との連携
(行政書士・社労士等)
- 法務・労務のプロによる支援
運送業専門の行政書士等が、業界特有の課題に対応。 - 在留資格の申請・更新
複雑な手続きを代行し、不法就労リスクを回避。 - コンプライアンス体制の構築
労働条件の適正化や働き方改革への対応を助言。
公的機関・支援機関
(技能実習機構・ハローワーク等)
- 豊富なサポート機関
技能実習機構、登録支援機関、国際交流協会などが存在。 - 情報と制度の活用
最新の雇用情報や助成金制度を積極的に活用。 - トラブル相談窓口
生活や雇用に関する問題を早期に解決する窓口を利用。
4.ダイバーシティ経営がもたらす運送業の持続的成長

外国人材の活用は、目先の人手不足を補うためだけの「対症療法」ではありません。
それは、企業が未来にわたって持続的に成長するための「ダイバーシティ(多様性)経営」そのものです。
外国人材の力を引き出すインクルーシブな組織へ
多様な背景、価値観、スキルを持つ人材が集まる組織は、均一的な組織よりも柔軟で強固です。
外国人材の視点や経験は、日本人だけでは気づかなかった非効率な業務プロセスの発見や、新たなサービス改善のアイデアをもたらす可能性があります。
重要なのは、単に多様な人材が「いる(ダイバーシティ)」だけではなく、その全員が尊重され、能力を最大限に「活かしている(インクルージョン)」状態です。
外国人材が働きやすいインクルーシブな組織は、結果として、若者や女性、高齢者など、すべての従業員にとって働きやすい職場環境へと変貌していきます。
グローバル市場の開拓で新たな事業機会の創出を
日本の国内市場が将来的に縮小していく中で、企業の成長にはグローバルな視点が欠かせません。
外国人材の存在は、その言語能力や母国のネットワークを通じて、新たなビジネスチャンスを生み出す起爆剤となり得ます。
例えば、越境EC(海外との電子商取引)に関連する物流業務の獲得、インバウンド観光客向けの輸送サービス、あるいは企業の海外進出時における現地パートナーとの橋渡し役など、外国人材がいるからこそ掴める事業機会が確実に存在します。
5.外国人材の活躍が運送業の未来を拓く
運送業界が直面する深刻な人手不足は、疑いなく「危機」です。しかし、この危機は旧来の業界体質や働き方を根本から見直す絶好の機会でもあります。
労働条件の改善やDXの推進といった「守り」の対策と同時に、外国人材の活用という「攻め」のダイバーシティ戦略を取り入れること。
それは、言語や文化の壁を乗り越えるための多大な努力と投資を企業に求めます。
しかし、その挑戦こそが、日本の物流という社会インフラを守り、運送業がこの難局を乗り越え、持続可能な未来を拓くための、最も確かな道となるはずです。