飲食業界では、多くのお店が深刻な人手不足に直面しています。なぜこれほどまでに人が足りなくなってしまうのでしょうか。また、どのようにすればこの状況を乗り越えられるのでしょうか。
この記事では、まず統計データ（ファクト）から飲食業界の人手不足の深刻さを確認します。その上で、現場で起こっている「7つの主な原因」を深掘りし、課題を明確にします。
そして最も重要な点として、単なる採用活動にとどまらない、「従業員の定着」と「採用の多様化（外国人材の登用など）」に焦点を当てた、明日から取り組める5つの具体的な解決策を、キャリア支援や法務・労務管理の視点から解説します。
- 飲食店の人手不足がどれほど深刻か（統計データ）
- 人手不足が起こる7つの主な原因
- 外国人材の登用や補助金活用を含む、5つの具体的な解決策
1．飲食店の人手不足は業界で最も深刻【統計データ】
現在感じている人手不足は、個々のお店だけの問題ではなく、業界全体が直面する構造的な課題です。
まずは客観的なデータから、その深刻さを確認しましょう。
帝国データバンク：「非正社員」の不足率は全業種中トップ
株式会社帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査（2024年10月）」によれば、非正社員の人手不足割合において、「飲食店」は64.3%と、全業種の中で最も高い数値を示しています。
出典：帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査（2024年10月）
これは、お店の運営に不可欠なパート・アルバイトスタッフの確保が、極めて困難になっている現状を裏付けています。
厚生労働省：平均賃金は全産業で最も低い水準
人手不足の背景には、賃金の問題があります。
厚生労働省の「令和5年 賃金構造基本統計調査」を見ると、「宿泊業、飲食サービス業」の平均賃金（月額）は259,500円と、全産業の中で最も低い水準にあります。
もちろん、業務内容や地域によって異なりますが、産業全体として、他の仕事と比べた場合の経済的な魅力が課題となっていることが分かります。
出典：厚生労働省 令和５年賃金構造基本統計調査 結果の概況 産業別
2．なぜ飲食店で人手不足が続くのか？7つの主な原因
統計データで見た「低賃金」以外にも、現場では複合的な原因が絡み合っています。
ここでは主な7つの原因を見ていきましょう。
飲食業界・人手不足の7つの構造的原因
原因1：賃金が低い（構造的問題）
データが示す通り、他産業と比べた賃金の低さは、募集をかけても人が集まらない大きな理由の一つです。特に最低賃金付近での募集となる場合、求職者にとっては他の業種や条件の良いお店に目が向きがちになります。
原因2：過酷な労働環境（長時間労働・マルチタスク）
飲食店、特に小規模なお店では、「ワンオペレーション」に近い状態や、少人数でホールもキッチンも対応する「マルチタスク」が常態化しがちです。これにより、一人ひとりの業務負担が重くなり、慢性的な長時間労働につながるケースも少なくありません。
原因3：休暇の取得が困難（ワークライフバランス）
「週末や祝日が最も忙しい」という業界特性上、カレンダー通りの休みが取りにくい傾向があります。また、ぎりぎりの人数で運営していると、急な病欠などの際に代わりを見つけるのが難しく、有給休暇の取得が進まないなど、ワークライフバランスの確保が課題となります。
原因4：キャリアパスの不透明さ（将来への不安）
「このままこの仕事を続けても、給与は上がるのだろうか」「店長になった後は、どのようなキャリアがあるのだろうか」。将来のキャリアプランが描きにくいことは、特に若手従業員が離職を考える大きな要因となります。
原因5：教育体制の不足と責任の重さ
人手不足の中で新しいスタッフが入っても、十分な教育・研修を行う余裕がないケースが見られます。結果として、十分なスキルがないまま現場に出され、失敗して自信を失ったり、過度な責任を感じたりして早期に辞めてしまうという悪循環が起こりがちです。
原因6：人間関係とクレーム処理のストレス
忙しさによるスタッフ間のいらだちや、お客様からのクレーム対応（カスタマーハラスメント）は、大きな精神的ストレスとなります。こうしたストレス要因への対処や、職場の風通しの良さ（心理的安全性）が、定着において非常に重要です。
原因7：コロナ禍による業界イメージの悪化
新型コロナウイルスの影響で、飲食店は休業や時短営業を余儀なくされました。この経験から、「飲食業は不安定かもしれない」というイメージが広がり、人材が他の安定した業界へ流出してしまった側面も、人手不足に拍車をかけています。
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3．人手不足を放置するリスクとは？顧客にも影響が
人手不足は、経営者や従業員が苦しいだけでなく、お店の存続そのものを脅かすリスクをはらんでいます。
サービス品質の低下と顧客満足度の減少
人が足りなければ、料理の提供が遅れたり、清掃が行き届かなかったり、注文ミスが増えたりと、サービス品質が直接的に低下します。
これは顧客満足度の減少に直結し、リピーターの損失につながります。
既存従業員の負担増と離職の悪循環
最も深刻なのがこの問題です。人が減れば、残った従業員の負担がさらに増えます。
その結果、心身ともに疲れ果て（バーンアウト）、新たな離職者を出すという最悪の悪循環に陥ってしまいます。
消費者も「値上げ」や「提供遅延」を実感
この問題は、すでに消費者側にも影響が出ています。鈴茂器工株式会社「飲食店の人手不足に関する調査2025」では、消費者の4割以上が「人手不足の影響を感じる場面が増えた」と回答。
具体例として「価格の高騰」や「料理の提供遅延」を挙げています。
4．飲食店の人手不足を解消する5つの対策ステップ
この深刻な状況を打開するためには、多角的なアプローチが必要です。
ここでは「採用」と「定着」の両面から、5つの対策ステップを提案します。
【対策1】採用：ターゲットの拡大（外国人材・主婦層・シニア層）
まずは、採用の門戸を広げる発想が重要です。意欲ある外国人材の雇用は、労働力不足の解消に直結する有力な選択肢です。
もちろん、受け入れにはコミュニケーションのサポートや労務管理の準備が必要ですが、例えば「人材確保等支援助成金（外国人労働者就労環境整備助成コース）」のように、外国人労働者が働きやすい環境を整備（例：翻訳ツールの導入、研修の実施）する費用の一部を支援する制度もあります。
参考：厚生労働省 人材確保等支援助成金（外国人労働者就労環境整備助成コース）
こうした公的支援を活用しながら、受け入れ体制を整えることを検討してみてはいかがでしょうか。
あわせて、子育てが一段落した主婦（夫）層や、元気なシニア層など、従来のターゲット層以外にも目を向けることが重要です。
【対策2】法務・労務：労働環境の整備と補助金の活用
採用した人材に長く働いてもらう「定着」のためには、安心して働ける環境が不可欠です。
まずは、労働基準法に基づき、労働時間や休憩、休日が適切に管理されているかを見直しましょう。
とはいえ、賃上げや環境改善にはコストがかかります。そこで活用したいのが公的な補助金・助成金です。
例えば、生産性を向上させつつ従業員の賃上げを行う場合に利用できる「業務改善助成金」や、ITツール導入を支援する「IT導入補助金」など、飲食店の経営改善に役立つ支援策は数多く存在します。
【対策3】キャリア支援：評価制度とキャリアパスの明確化
原因4で挙げた「将来への不安」を解消することも、定着の鍵です。従業員自身が「この店で働き続けることで成長できる」と感じられることが重要です。
大げさなものでなくても、「このスキルを身につければ時給が上がる」といった公正な評価制度を整えたり、アルバイトから正社員登用、さらには将来の独立支援など、個々の希望に応じたキャリアプランを一緒に考える仕組みづくりが求められます。
【対策4】心理的サポート：心理的安全性の確保
多様な人材（外国人材、シニア層など）が一緒に働く職場では、風通しの良さが特に重要です。
産業カウンセリングの分野で言われる「心理的安全性」（＝自分の意見や懸念を安心して発言できる状態）を確保することが、人間関係のストレスを減らし、早期離職を防ぎます。
忙しい中でも、日々のコミュニケーションを大切にし、困ったことがあればすぐに相談できる関係性を築くことが、結果として強いチームを作ります。
【対策5】業務効率化：DX・機械化の推進
人を増やすのが難しいのであれば、「少ない人数でも運営できる仕組み」を作るしかありません。
モバイルオーダーや自動予約台帳、配膳ロボットなどの導入（DX化）は、その強力な手段です。
「お客様が機械操作を嫌がるのでは？」という懸念もあるかもしれませんが、鈴茂器工の調査によれば、消費者の86.6%が飲食店の「機械化」に賛成しています。
ツールに任せられる作業は任せ、従業員は「おもてなし」など人にしかできない業務に集中することが、業務効率化と顧客満足度の両立につながります。
5．飲食店の人手不足に関するよくある質問（FAQ）
これまでの対策を検討する中で、特に「外国人材の採用」や「補助金の活用」といった具体的なステップに関して、さまざまな疑問点が出てくるかもしれません。
このセクションでは、そうした特に多く寄せられるご質問（FAQ）を取り上げ、一つひとつお答えしていきます。
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外国人材を採用する際の注意点は？
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在留資格の確認や適切な労働契約の締結など、法務・労務管理を正確に行うことが大前提です。それに加え、言語や文化の違いをサポートする体制づくりが重要です。記事で紹介した「人材確保等支援助成金（外国人労働者就労環境整備助成コース）」などを活用し、受け入れ環境を整えることをお勧めします。
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人手不足対策で使える補助金には何がありますか？
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目的によって様々ですが、主に以下のようなものがあります。
人材確保等支援助成金
外国人労働者などの就労環境整備を行う場合業務改善助成金
最低賃金を引き上げつつ、生産性向上のための設備投資（例：POSレジ導入）を行う場合IT導入補助金
予約管理システムやモバイルオーダーなど、業務効率化ツールを導入する場合（※年度によって要件や名称が変更になるため、最新の情報を確認してください）
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すぐに辞めてしまう場合、何から見直すべきですか？
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採用した人材がすぐに辞めてしまう場合、採用のミスマッチも考えられますが、多くは「内部環境」に原因があります。まずは以下の3点を見直してみてください。
労働環境
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6．人手不足を乗り越え、従業員が輝く職場をつくるために
飲食店の人手不足は、単に「人が足りない」という表面的な問題ではなく、「賃金」「労働環境」「キャリアへの不安」といった根深い原因が絡み合った構造的な課題です。
この問題を解決するためには、「採用ターゲットの拡大（外国人材など）」や「DXによる効率化」といった外的な対策と同時に、今いる従業員とこれから迎える従業員が安心して長く働けるための「内部環境の整備（＝定着化）」が不可欠です。
法務・労務の視点で労働環境を整え、キャリア支援の視点で将来像を示し、心理的サポートの視点で働きやすい職場を作る。この3つの内部改善を両輪で進めることが、人手不足という困難な時代を乗り越える、最も確実な道筋となるはずです。
