日本社会全体で「人手不足」が深刻な課題となっています。多くの企業が採用難に直面する一方で、転職を考える求職者にとっては、これが「売り手市場」という機会なっている側面もあります。
しかし、人手不足の業界が必ずしも働きやすいとは限らず、企業側も従来のやり方では人材を確保できません。
この記事では、人手不足の現状をデータで確認し、企業と求職者それぞれの立場で今すぐ取り組むべき具体的な対策と視点を解説します。
- データに基づく、正社員・非正社員別の人手不足業界ランキング
- 少子高齢化やDX化など、人手不足を引き起こす3つの構造的な原因
- 企業側と求職者側、それぞれの立場から見た人手不足への具体的な対策
1.人手不足が特に深刻な業界は? まずはデータで確認
現在、特に人手不足感が強いとされているのはどの業界でしょうか。
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2025年7月)」によると、正社員の人手不足割合は50.8%となり、高止まりが続いています。

この調査結果について、「正社員」と「非正社員」それぞれの状況を分けて見ていきましょう。
正社員の人手不足が深刻な業界
正社員の人手不足割合が特に高いのは、以下の業界です。
- 1位: 建設 (68.1%)
- 2位: 情報サービス (67.6%)
- 3位: メンテナンス・警備・検査 (66.7%)
- 4位: 運輸・倉庫 (63.9%)
これらは専門スキルを要する業種や、「2024年問題」の影響を強く受ける業種が上位を占めていることが特徴です。
非正社員(パート・アルバイトなど)の人手不足が深刻な業界
一方、パート・アルバイトなどの非正社員では、以下の業界で不足感が際立っています。
- 人材派遣・紹介(63.3%)
- 飲食店(61.8%)
- 各種商品小売(59.7%)
これらは、私たちの生活に身近な対人サービス分野であり、需要の回復に対して働き手が追いついていない状況がうかがえます。
参考:帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2025年7月)
2.「人手不足」とは? 日本全体で起きていること

そもそも「人手不足」とは、企業が事業を行う上で必要とする労働力(需要)に対して、実際に働く人の数(供給)が足りていない状態を指します。
現在の日本で起きている人手不足は、一時的な景気変動によるものではなく、社会構造の変化によって引き起こされている点が特徴です。
単に「人が集まらない」という問題だけでなく、必要なスキルを持つ専門人材が見つからない「質的な不足」も同時に発生しています。
3.なぜ人手不足は起こるのか? 構造的な3つの原因
では、なぜこれほどまでに人手不足が深刻化しているのでしょうか。主な原因は3つあります。
原因1:少子高齢化による生産年齢人口の減少
最も根本的な原因は、日本の人口動態の変化、すなわち深刻な少子高齢化です。
労働力の中心的な担い手である「生産年齢人口」(15歳〜64歳)は、1995年をピークに減少の一途をたどっており、今後もこの傾向は加速すると予測されています。
働く人(供給)の絶対数が構造的に減り続けているため、経済活動を維持するために必要な労働力(需要)とのギャップが拡大しています。
特に、これまで若年層の労働力に依存してきた業界では、新規採用が極めて困難になっています。
これは一時的な景気の問題ではなく、日本の社会構造そのものに起因する、最も根深く、全産業に共通する人手不足の要因です。
原因2:DX需要とIT人材育成のミスマッチ
社会全体のデジタル化の進展に伴い、あらゆる産業でデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が喫緊の経営課題となっています。
参考:Nomura Research Institute (NRI) DX(デジタルトランスフォーメーション) | 用語解説
業務効率化、新規事業の創出、競争力の維持のために、AI、データサイエンス、クラウド技術などを扱える高度なITスキルを持つ人材の需要が急速に増加しました。
しかし、こうした先端技術の進歩は非常に速く、大学や企業内での人材育成が需要のスピードに追いついていない「質的なミスマッチ」が発生しています。
その結果、特に「情報サービス」業界を筆頭に、全産業で専門IT人材の深刻な奪い合いが起きており、これが深刻な人手不足を引き起こす主要な原因の一つとなっています。
原因3:「2024年問題」など業界特有の課題
業界固有の規制や構造的な問題も、人手不足に拍車をかける大きな要因です。その最も代表的な例が、物流・建設・医療業界などを直撃している「2024年問題」です。
これは働き方改革関連法に基づき、2024年4月からこれらの業界で時間外労働の上限規制が厳格に適用されたことを指します。
特に「運輸・倉庫」業では、トラックドライバー一人が運転できる時間が法的に制限されました。
その結果、従来と同じ物流量を運ぶためには、より多くのドライバーが必要となり、人材の需要が急激に高まったのです。
同様に「建設」業でも、工期を遵守するために必要な労働力が不足しています。
こうした法規制への対応という、企業の自助努力だけでは解決が難しい「構造的」な要因が、特定業界の人手不足感を高める要因となっています。
参考:厚生労働省 建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)
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本文でも触れた通り、「建設業」は特に人手不足が深刻な業界の一つです。建設分野で外国人材を受け入れる際に知っておくべき在留資格の種類や、特有のルール、リスク対策について具体的にまとめています。
4.【企業・人事担当者向け】人手不足への5つの対策

人手不足は、企業にとって「持続可能な職場環境への変革期」とも言えます。
従来通りの採用活動だけでは限界があり、人材が「集まり、定着する」ための根本的な対策が求められます。
対策1:労働条件の改善と福利厚生の充実
「給与が低い」「休みが取れない」といった環境では、人材は定着しません。まず取り組むべきは、魅力ある労働条件の整備です。
基本給のベースアップはもちろん重要ですが、同時に「同一労働同一賃金」の原則に基づき、非正規雇用者と正社員との間の不合理な待遇差を解消することも、組織全体の士気と法令遵守の観点から不可欠です。
また、社会保険の加入といった法定福利の徹底は信頼の基礎となります。その上で、
- 柔軟な働き方
フレックスタイム、テレワーク、時短勤務の導入 - 法定を上回る休暇制度
アニバーサリー休暇、リフレッシュ休暇など - 資格取得支援や奨学金返済支援
(例:日本学生支援機構の奨学金返還支援制度など)
など、従業員の多様なニーズに応える「法定外福利厚生」を充実させることが他社との差別化につながります。
これらは単なるコストではなく、人材定着と生産性向上への「投資」であるという経営判断が求められます。
対策2:DX推進とITツールによる業務効率化
人手が足りない業務を、テクノロジーで代替・効率化する視点です。
例えば、定型的な事務作業をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で自動化したり、飲食店でのセルフオーダーシステムや製造業での協働ロボットを導入したりすることが挙げられます。
ただし、重要なのは「ツール導入が目的化」しないことです。真の目的は、従業員を単純作業から解放し、その負担を軽減することにあります。
ITツールの導入によって生まれたリソース(時間や人員)を、より付加価値の高い企画業務や、AIでは代替できない「おもてなし」といった対人サービス、あるいは新しいスキルを学ぶための研修時間に再配分することが重要です。
ITに不慣れな従業員への適切な研修もセットで行うことで、組織全体の生産性を高め、従業員の「働きがい」の向上にもつなげることができるのです。
対策3:採用戦略の見直し(多様な人材の活用)
従来の「若手・男性・正社員」といった画一的な採用ターゲットから視野を広げ、多様なバックグラウンドを持つ人材(ダイバーシティ)が活躍できる環境を整備することが急務です。
具体的には、豊富な経験を持つ意欲あるシニア層、子育てや介護と両立しながら働きたい女性、そして専門スキルを持つ外国人材など、これまで十分に活用されてこなかった層へのアプローチが鍵となります。
ただし、単に採用するだけでなく、その人たちが能力を最大限に発揮できる環境が備わっていなければいけません。
「短時間正社員制度」の導入や、育児・介護休業の柔軟な運用、外国人材の在留資格管理といった労務管理体制の整備も必要です。
多様な人材がそれぞれの事情に合わせて安心して長く働ける職場こそが、結果として人手不足の解消につながります。
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人手不足対策として「外国人材の活用」は有効な選択肢です。多様な人材を受け入れることで得られる具体的なメリットや、採用を成功させるための体制づくりについて、こちらの記事で詳しく解説しています。
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外国人材を雇用する場合、企業には「外国人雇用状況届出書」の提出が義務付けられています。これは法律で定められた重要な手続きです。提出期限や具体的な書き方、万が一忘れた場合の罰則などを詳しく解説します。
対策4:アウトソーシングと外部人材の活用
社内の人材(リソース)は、企業の収益に直結する「コア業務」に集中させるべきです。
経理の記帳代行、給与計算、人事労務手続きといったノンコア業務(定型業務)は、専門の企業へ積極的に外部委託することを検討します。
これにより、社員はより専門性や創造性が求められる重要な業務に時間を使えるようになり、キャリアアップにもつながります。
また、プロジェクト単位で高い専門性が必要な場合は、フリーランスや副業人材といった外部のプロフェッショナルを一時的に活用することも有効な手段です。
その際、指揮命令関係が発生する「労働者派遣」と混同し、「偽装請負」とならないよう法務的な整理は必要ですが、外部の知見を戦略的に取り入れることで、社内の人材不足を補うことができます。
対策5:リスキリングによる社内人材の育成
人手不足の解決策は、外部からの採用だけではありません。今いる社員の能力を再開発する「リスキリング(学び直し)」も、極めて重要な戦略です。
例えば、アナログな受発注業務を行っていた事務職の社員に対し、データ分析やデジタルマーケティングの研修を実施し、DX推進部門へ配置転換するといった取り組みです。
ここで重要なのは、研修を受けさせるだけで終わらせないことです。
「キャリア面談」を通じて本人の意向を確認し、学んだスキルを活かせる具体的な「出口」(新しい部署や役職)を社内公募制度などで用意することが、本人のモチベーション維持に不可欠です。
「キャリア自律」を促すこうした取り組みは、結果として従業員の定着率を高め、変化に対応できる強い組織を作ります。
5.【求職者・転職者向け】人手不足をキャリア機会に変える3つの視点

人手不足の状況は、求職者にとって「戦略的なキャリア構築の機会」となり得ます。
ただし、やみくもに転職するのではなく、賢く立ち回るための3つの視点が必要です。
視点1:「人手不足=ブラック」とは限らない。求人票の正しい見極め方
「人手不足の業界は激務(ブラック)なのでは?」と不安に感じる方もいるかもしれません。
確かに、企業が何の対策も打たず、単に人手が足りない現場では、一人あたりの業務負担が重くなりがちです。
重要なのは、その企業が人手不足に対して「どのような対策を講じているか」を見極めることです。
求人票で「DX推進中」「フレックス導入」など、上記で挙げたような対策を具体的にアピールしているか確認しましょう。
特に注意したいのが給与欄の「固定残業代(みなし残業代)」の記載です。これは「一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含んで支払う」制度ですが、法的には「超過した分の残業代は別途支払う」義務があります。
「固定残業代=それ以上残業代が出ない」という誤解をしないよう、制度を正しく理解しておかなければいけません。
視点2:未経験でも採用されやすい「狙い目」業界を見つける
多くの業界が人手不足のため、「未経験者」の採用枠を広げている今、新しい分野に挑戦する絶好の機会です。
例えば、IT業界でもプログラマー以外の「ITコンサルタント」「プロジェクト進行管理」などは、異業種でのコミュニケーション能力や管理能力が高く評価される傾向にあります。
視点3:「狙い目」の企業かどうかを見極める(例:女性やシニアの活躍支援)
人手不足に対応するため、多くの企業が多様な人材の活用を急いでいます。これは求職者にとって、これまで以上に柔軟な働き方が認められやすい機会があることを意味します。
特に注目したいのが、女性やシニア層の活躍を支援する制度を具体的にアピールしている企業です。
例えば、求人票や企業の採用ページに、
- 「短時間正社員制度」の導入実績
- 「シニア層の再雇用実績(65歳以上も活躍中など)」
- 「育児・介護と両立するための柔軟なシフトやリモートワーク体制」
といった具体的な記述がある企業は、多様な人材が長く働ける環境整備に本気で取り組んでいる可能性が高いと言えます。
こうした企業は、結果として「視点1」で懸念したような過重労働のリスクが低い、「狙い目」の職場であると判断できるでしょう。
6.人手不足に関するよくあるご質問(FAQ)

ここまで人手不足の原因と、企業・求職者それぞれの対策について詳しく解説してきました。
最後に、このテーマに関して多くの方から寄せられる疑問や、知っておきたい関連用語について、Q&A形式で解説します。
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人手不足倒産とは何ですか?
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A1. 売上や利益は出ている(黒字である)にもかかわらず、従業員が確保できない、あるいは離職が相次いだことによって事業の継続が困難になり、倒産してしまう状況を指します。「後継者難」による倒産もこれに含まれる場合があります。
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今後、人手不足は解消されますか?
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少子高齢化という根本的な原因があるため、人手不足の基調は今後も続くと予想されています。AIやロボットによる自動化が進む一方で、それを使いこなす人材や、介護・医療など「人」でなければできない仕事の需要は高まり続けるため、社会全体での対策が必要です。
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人手不足の業界で働くメリット・デメリットは?
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メリット
未経験でも転職しやすい、採用のハードルが下がっている、需要が高いため給与や待遇の交渉がしやすい、などが挙げられます。
デメリット
企業が対策を怠っている場合、入社後に過重労働になるリスクがある、業務の仕組み化が進んでおらず負担が偏る可能性がある、といった点です。
だからこそ、「視点1」で解説した企業の「見極め」が非常に重要になります。
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人手不足で給与が高い(または『給与が上がりやすい』)業界はどこですか?
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労働力の需要が供給を上回る業界では、給与が上昇しやすい傾向です。特に専門人材が不足する「情報サービス(IT)業界」や、2024年問題に直面する「建設業」「運輸・倉庫業」は、人材確保のための賃上げが活発化しています。
ただし、給与は個人のスキルや経験にもよります。
7.人手不足という「機会」を活かし、次の一歩を踏み出すために
人手不足は、企業にとっては「従来の働き方や採用手法を見直す変革の時」であり、求職者にとっては「キャリアチェンジや待遇改善の機会」という二面性を持っています。
企業は、DX推進や労働環境の抜本的な改善といった持続可能な職場づくりが求められます。
求職者は、人手不足という状況を戦略的に捉え、企業の姿勢を見極め、自身のスキルを整理して交渉に臨むことで、より良いキャリアを築くことが可能です。