外国人労働者の受け入れを検討している企業の多くが「どんなリスクがあるのか」「失敗事例はないか」と不安を抱えています。
実際に外国人雇用にはコミュニケーションの壁、離職率の高さ、法的手続きの複雑さなど、避けられないデメリットが存在します。
本記事では、これらの課題を具体的な事例とともに解説し、リスクを最小化する実践的な対策方法をお伝えします。
- 外国人労働者受け入れで企業が直面する7つの主要デメリットと具体的リスク
- 実際に発生したトラブル事例と失敗の原因分析
- デメリットを最小化し安全な外国人採用を実現する5つの策方法
1.外国人労働者受け入れの7つの主要デメリット

外国人労働者の受け入れは人手不足解消に有効な手段ですが、企業が直面する課題も多く存在します。
ここでは、実際に外国人を雇用する企業が経験する7つの主要なデメリットを詳しく解説します。
① コミュニケーションの壁
外国人労働者受け入れで、最も頻繁に発生する問題がコミュニケーションの課題です。

日本語能力の個人差
同じ在留資格を持つ外国人でも、日本語能力には大きな個人差があります。特定技能の日本語試験に合格していても、実際の職場でのコミュニケーションが円滑に行えるとは限りません。日常会話は問題なくても、業務上の専門的な指示や細かいニュアンスの理解が困難な場合があります。
専門用語理解の難しさ
製造業の「品質管理」「工程管理」、建設業の「安全管理」「施工管理」など、業界特有の専門用語の理解に時間がかかります。これにより作業効率の低下や、重要な指示の見落としが発生するリスクがあります。
職場内の誤解リスク
日本特有の「空気を読む」文化や、曖昧な表現による指示は外国人には理解が困難です。結果として、期待した成果が得られない、指示と異なる作業を行うなどのトラブルが発生する可能性があります。
② 離職率の高さと人材の定着難
外国人労働者受け入れのデメリットとして一番懸念されることは、早期離職問題ではないでしょうか。外国人労働者の早期離職は多くの企業が直面する深刻な問題です。
技能実習生は原則として転職が制限されており、労働環境に不満があっても他社への移籍が困難です。一方で特定技能は転職が可能なため、より良い条件の企業への転職リスクが常に存在します。
外国人労働者も日本人と同様に将来への展望を求めています。昇進の可能性、スキルアップの機会、長期的なキャリア形成が見えない職場では、モチベーションの低下から離職につながりやすくなるのです。
特に優秀な人材ほど、より良い環境を求めて転職する傾向があります。
③ 労務・法令対応の煩雑さ
外国人雇用には日本人とは異なる複雑な手続きが伴います。
煩雑な手続きに追われる時間こそが外国人労働者受け入れのデメリットだと考えられます。手続きに関しては以下の例を参考にしてください。
複雑な手続き例 | 手続き内容 |
---|---|
雇用契約の翻訳 | 労働契約書、就業規則、安全マニュアルなどの重要書類を外国人が理解できる言語に翻訳する必要があります。翻訳費用だけでなく、内容の正確性確保も重要な課題となります。 |
在留資格の管理 | 在留期限の管理、資格変更申請、更新手続きなど、外国人特有の法的手続きが継続的に発生します。期限を過ぎてしまうと就労資格を失うため、人事担当者には高度な管理能力が求められます。 |
入管対応など人事の負担増 | 出入国在留管理局への各種申請、書類作成、面談対応など、外国人雇用に伴う業務は日本人雇用と比較して大幅に増加します。専門知識を持つ人材の確保や育成が必要となり、人事部門の負担は大きくなります。 |
④ 労使トラブルへの対応リスク
文化や制度の違いから、様々な労使トラブルが発生する可能性があります。
特に労働時間・残業代・住環境などで誤解が発生しやすいです。日本の労働慣行に慣れていない外国人労働者との間で、労働時間の考え方、残業の概念、有給休暇の取得方法などについて認識の違いが生じやすくなります。
また、会社が提供する寮や住居の設備・ルールについても、期待と現実のギャップからトラブルに発展するケースがあります。
⑤ 社内文化・価値観の衝突
異なる文化背景を持つ外国人との職場での摩擦は避けがたい課題です。
礼儀・上下関係・報連相への認識の違いや日本の職場文化である上司への敬語使用、年功序列の考え方、細やかな報告・連絡・相談の慣行は、多くの外国人には馴染みがありません。
これらの違いが誤解や対立を生み、職場の雰囲気悪化につながる可能性があります。
⑥ 社会保険・税務対応のミスが重大リスクに
外国人特有の社会保険・税務手続きでのミスは深刻な影響をもたらします。
社会保険料の未納や税務申告の不備は、外国人の在留資格更新や永住権申請時に不利に働きます。企業側のミスが原因で外国人労働者の将来に影響を与えるリスクがあります。
そしてどこまでが企業の責任で、どこからが個人の責任なのかが不明確になりがちです。
適切な指導を怠ると、後々のトラブルの原因となります。
⑦ 登録支援機関の活用にかかるコストと選定リスク
特定技能外国人の支援には専門機関の活用が一般的ですが、課題も存在します。
登録支援機関に依頼するネガティブ要素
支援費用の負担
登録支援機関への委託費用は月額3-5万円程度が相場ですが、この費用が継続的に発生します。複数の外国人を雇用する場合、年間の支援費用は相当な金額となります。
信頼できる機関の見極め
登録支援機関の質にはばらつきがあり、形式的な支援しか行わない機関も存在します。適切な機関を選択しないと、外国人労働者の定着率低下や法的リスクの増大につながる可能性があります。
2.実例に学ぶ:デメリットが顕在化した企業トラブル3選

外国人労働者受け入れのデメリットが実際にどのような問題として現れるのか、具体的な事例を通じて理解を深めましょう。
建設業:業務中の指示誤解で作業ミス→損害発生
建設会社A社では、技能実習生に対して「急いで基礎工事を仕上げて」と指示したところ、外国人労働者が品質確認を省略して作業を進めてしまいました。
結果として、基礎工事に不備が発生し、やり直し工事で約200万円の損失が発生しました。
製造業:複数人の技能実習生が一斉離職
製造業B社では、技能実習生5名が同時期に実習を中断して帰国するという事態が発生しました。
人材確保にかけた初期投資約500万円が無駄となり、生産計画の大幅な見直しが必要となりました。
飲食業:在留資格更新のミスで就労不可→営業停止寸前
飲食店C社では、特定技能外国人の在留資格更新手続きを忘れており、更新期限を2ヶ月過ぎてから気づきました。
該当する外国人は就労資格を失い、人手不足により店舗営業の継続が困難となる事態に陥りました。
3.デメリットを最小化する5つの対策方法

外国人労働者受け入れのデメリットは適切な対策により大幅に軽減できます。以下の5つの対策を実施することで、安全で効果的な外国人雇用を実現できます。
① 登録支援機関との連携を強化する
特定技能外国人の支援において、登録支援機関に全てを委託するのではなく、自社で対応すべき部分と外部に任せる部分を明確に分けることが望ましいでしょう。
日常的なコミュニケーションや業務指導は自社で行い、在留資格手続きや法的相談は登録支援機関に委託するという役割分担により、コストを抑えながら適切な支援体制を構築できます。
また、定期的に登録支援機関と情報共有を行い、外国人労働者の状況や課題を把握する体制を整えることで、問題の早期発見と対処が可能となるでしょう。
② 社内教育・OJTを外国人向けに最適化
言語の壁や文化的背景の違いを考慮した教育手法への転換が、外国人の早期戦力化と職場定着の鍵となります。
ピクトグラム活用
作業手順や安全注意事項を視覚的に伝えるピクトグラム(絵文字)を活用することで、言語の壁を超えた効果的な指導が可能となります。特に製造業や建設業では、危険箇所の表示や作業工程の説明にピクトグラムを使用することで、安全性の向上と作業効率の改善を図れます。
やさしい日本語
複雑な敬語や専門用語を避け、シンプルで分かりやすい「やさしい日本語」での指導を心がけます。具体的には、短い文章で区切る、カタカナ語は避ける、動詞を基本形で使用するなどの工夫により、外国人労働者の理解度を大幅に向上させることができます。
③ 日本語学習支援の導入
外国人労働者の日本語能力向上は、職場でのコミュニケーション改善と定着率向上に直結します。
地域の日本語教室への参加支援や、業務後に利用できる外部教室やeラーニングなどの提供により、継続的な学習環境を整備しましょう。
学習費用の一部を会社が負担することで、外国人労働者の学習意欲を高め、企業への帰属意識も向上させることができます。また、日本語能力の向上に応じた昇給制度を設けることで、学習インセンティブを提供することも効果的です。
④ 多文化共生の意識づけ
受け入れの前に日本人従業員に対する多文化理解研修を実施し、外国人労働者への偏見や差別を防止します。
異なる文化背景を持つ人々との協働方法、効果的なコミュニケーション手法、文化的違いを活かした業務改善などについて学ぶ機会を設けることが重要です。
そして外国人労働者の母国の文化や習慣を紹介するイベントの開催、多国籍料理の社員食堂での提供、各国の祝日への配慮など、職場全体で多様性を受け入れる雰囲気作りを進めます。
これにより、外国人労働者の孤立感を解消し、チーム一体感を醸成できます。
⑤ 雇用後の定期フォロー体制の確立
外国人労働者が抱える悩みや課題を早期に発見するため、定期的な個人面談制度を設けます。
月1回程度の頻度で、業務上の困りごと、生活面での問題、将来への不安などについて話し合う機会を作ることで、問題の深刻化を防げます。
また、母国語での相談が可能な窓口の設置や、通訳サービスの活用により、言語の壁に阻まれることなく相談できる環境を整備します。
さらに、技能向上のための研修機会の提供、資格取得支援、キャリアパスの明示により、外国人労働者の成長意欲に応える体制を構築することが定着率向上の鍵となります。
外国人労働者雇用問題における解決策や成功事例はこちらの記事でもご紹介しています。
4.受け入れ前に必ず確認すべき法的リスクと注意点

外国人労働者の受け入れには、日本人雇用とは異なる法的要件が数多く存在します。法的リスクを回避するため、以下の5つのポイントを事前に確認し、適切な準備を行いましょう。
就業規則の多言語化は済んでいるか?
外国人労働者に対しても就業規則の内容を理解させる義務があります。日本語のみの就業規則では、後々のトラブル時に「内容を理解していなかった」という主張をされるリスクがあるからです。
翻訳すべき重要書類
最低限、以下の書類は外国人労働者が理解できる言語に翻訳する必要があります。
- 就業規則
- 労働契約書
- 安全衛生に関するマニュアル
- 給与規定
- 懲戒規定 など
翻訳費用は初期投資として必要ですが、将来的なトラブル回避を考えると必要不可欠な経費といえます。
入管法・在留資格について人事が理解しているか?
外国人が日本で就労するためには、就労可能な在留資格を取得している必要があります。在留資格により従事可能な業務内容が異なるため、人事担当者は以下の点を理解している必要があります。
在留資格 | 条件 |
---|---|
技能実習 | 指定された職種・作業のみ従事可能 |
特定技能 | 指定された分野内での業務が可能 |
技術・人文知識・国際業務 | 学歴・職歴に応じた専門業務 |
身分系在留資格 | 就労制限なし |
コミュニケーション支援の仕組みがあるか?
外国人労働者が業務を適切に遂行するためには、以下のコミュニケーション支援体制が必要です。
- 通訳の配置または外部通訳サービスの契約
- 多言語対応の業務マニュアル
- 緊急時の多言語連絡体制
単なる業務指示だけでなく、外国人労働者の理解度確認、悩み相談、将来への希望聴取など、双方向のコミュニケーションを定期的に行う体制が求められます。
支援計画を作れる体制があるか?
特定技能1号の外国人労働者を雇用する場合、以下の支援を行う義務があります。


これらの支援を自社で行う場合は、専門知識を持つ担当者の配置と支援体制の構築が必要です。
自社対応が困難な場合は、登録支援機関への委託を検討しましょう。委託費用は発生しますが、専門的な支援と法的リスクの軽減が期待できます。
登録支援機関についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
特定技能省令改正(協力確認書等)の影響を考慮しよう
出入国管理法や特定技能制度は頻繁に改正されており、企業は常に最新の法的要件を把握する必要があります。近年の主な変更点には以下があります。
- 協力確認書の提出義務化
- 支援計画の詳細化
- 報告義務の強化
参考元:出入国在留管理庁 令和7年4月1日施行の省令改正について
法改正情報を適切に収集するため、以下の体制を整備することを推奨します。
- 出入国在留管理庁の公式情報の定期確認
- 行政書士等専門家との顧問契約
- 外国人雇用関連のセミナーへの参加
法的要件の見落としは企業に深刻な影響をもたらす可能性があるため、専門家のサポートを受けながら適切な管理体制を構築することが重要です。
5.デメリットを理解して安全な外国人採用を実現させよう

外国人労働者受け入れのデメリットは、事前の正しい理解と適切な対策により克服可能です。
コミュニケーション支援、法的要件の遵守、専門機関との連携を軸とした受け入れ体制を構築することで、企業と外国人労働者双方にとって有益な雇用関係を築けます。
リスクを恐れず、しっかりとした準備のもとで外国人採用に取り組みましょう。
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