「ネパール人」と聞くと、どのようなイメージがあるでしょうか?温厚、勤勉、それとも「時間に少しルーズ」といった「あるある」でしょうか。
近年、日本の労働市場において、ネパール出身の方々が急速にその存在感を増しています。
彼らの文化や国民性を理解することは、多様な人材が活躍できる職場環境を整備し、採用を成功させる上で不可欠です。
この記事では、企業の人事担当者や経営者を対象に、ネパール人の「あるある」な特徴から、彼らの国民性、文化的背景、そして採用やマネジメントを成功に導くための具体的なポイントまで、公的なデータと実例を交えながら詳しく解説します。
- 公的データに基づくネパール人の国民性・7つの特徴
- 採用面接や労務管理で実践すべき具体的なポイント
- 牛肉や左手の使用など、絶対に避けるべき文化的タブー
1.ネパール人材が注目される理由

なぜ今、多くの日本企業がネパール人材に注目しているのでしょうか。その背景には、日本国内での急速な増加と、彼らが持つ強い労働意欲があります。
在日ネパール人の増加傾向と背景
まず注目すべきは、在日ネパール人コミュニティの急速な拡大です。
日本の出入国在留管理庁が公表した最新の統計(令和7年6月末現在)によれば、在留外国人数においてネパールは約27万3,229人に達し、国籍・地域別で第5位となっています。
特筆すべきはその増加数です。前年末からの増加数は+40,186人と報告されており、これは他の国々と比較しても極めて高い伸び率を示しています。
この背景には、日本政府の外国人労働者受け入れ政策(特定技能など)に加え、ネパール国内での日本への関心の高さ、そしてすでに日本で築かれたコミュニティの存在などが挙げられます。
この事実は、ネパール人材がもはや「珍しい」存在ではなく、日本の産業界にとって重要なパートナーとなりつつあることを示しています。
参考:出入国在留管理庁 令和7年6月末現在における在留外国人数について
日本で働く動機と家族への責任感
彼らが日本を目指す最大の動機の一つは、経済的な理由、特に「家族への仕送り」です 。
ネパールと日本の間には大きな賃金格差があり、日本で働くことは、本国の家族の生活を支え、より良い未来を築くための重要な手段となります。
この「家族を最優先する」という価値観(詳しくは後述します)は、彼らの仕事に対する強い責任感と勤勉さの源泉となっています。
単にお金を稼ぐためだけでなく、「家族を守るため」という明確な目的意識が、彼らの労働倫理を高く維持しているのです。
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日本でネパール人材が増えている背景には、特定技能制度の活用が大きく関わっています。ネパール人を採用する具体的なメリットや、特定技能制度を利用した受け入れ手続きの流れについて、こちらの記事で詳しく解説しています。
2.ネパール人の国民性:7つの特徴

ネパール人と一括りに言っても、多様な民族やカーストが存在するため個人差はありますが、文化的に共有されやすい「あるある」な国民性や価値観が存在します。
ここでは、採用やマネジメントに役立つ7つの特徴を解説します。
1. 家族を最優先する価値観
ネパール文化において、家族は個人のアイデンティティの中心であり、何よりも優先される存在です 。
彼らの多くが日本で働く動機が「家族への仕送り」であることからも分かる通り、家族の幸福や安定が彼らの行動原理の核となっています。
職場においては、例えば「家族が病気になった」という理由での急な欠勤や早退を申し出ることがあります。
これは、日本人にとっては「仕事への責任感が薄い」と映るかもしれませんが、彼らの価値観では「家族の危機に駆けつける」ことが最も重要な責任なのです。
この文化的な優先順位を理解することが、信頼関係の第一歩となります。
2. 年長者への敬意と礼儀正しさ
ネパールは、日本の外務省のデータによれば人口の約81.3%がヒンドゥー教徒であり 、その宗教的・文化的な背景から、年長者や目上の人を深く敬う文化が根付いています 。
これは職場において、上司や先輩の指示に素直に従う礼儀正しい態度として現れることが多いです。
彼らにとって、年齢や役職が上の人は尊重すべき対象であり、日本の縦社会の文化と親和性が高い側面と言えます。
ただし、この敬意が強すぎるあまり、後述する「謙虚なコミュニケーション」にもつながっています。
3. 勤勉さと責任感
「家族を支える」という明確な目的意識を持つネパール人は、非常に勤勉で真面目に働く傾向があります。
任された仕事は最後までやり遂げようとする責任感も強く、製造業やサービス業の現場で高く評価されることが多いです。
彼らにとって仕事は、家族の未来を背負う「使命」でもあります。そのため、スキルアップや学習意欲も高く、安定して長く働きたいという意欲を持つ人が多いのも特徴です。
4. 協調性と集団志向
ネパール人は個人主義よりも集団の調和を重んじる傾向があります。
助け合いの精神(パルマ)が根付いており 、コミュニティや職場の仲間との関係性を大切にします。 チームワークが求められる業務では、この協調性が大きな強みとなります。
一方で、集団の和を乱すことを極端に恐れるため、自分の意見を強く主張したり、他人と対立したりすることを避ける傾向も見られます。
5. 謙虚なコミュニケーション
年長者への敬意や集団の和を重んじる文化から、ネパール人は控えめで謙虚なコミュニケーションを取ることが多いです 。特に初対面や職場では、物静かで大人しい印象を受けるかもしれません。
彼らは「分かりません」と直接的に言うことをためらったり、不満があっても我慢してしまったりすることがあります。
マネジメント側は、彼らが意見を言いやすいように「何か困っていることはない?」と具体的に問いかけたり、1on1の場を設けたりするなど、安心して発言できる環境づくりが重要です。
6. 時間感覚の違い(通称:ネパリタイム)
これぞ「ネパール人あるある」の代表格と言われるのが、「ネパリタイム」と呼ばれる時間感覚です 。約束の時間に遅れることへの抵抗感が日本人よりも低い傾向があります。
彼らの文化では、時間は厳密に守るものというより、物事の「流れ」や「集まったタイミング」が重視される傾向があるためです。 もちろん、ビジネスの場では許容されません。
これは「怠惰」なのではなく「文化的な違い」であると理解した上で、「日本では時間は厳守することが信用の基本である」というルールを、なぜそうなのかという理由も含めて明確に指導する必要があります。
7. 適応能力の高さ
最後に挙げるのは、彼らの高い適応能力です。ネパールは多民族・多言語国家であり、異なる背景を持つ人々が共存する環境で育っています。
また、インフラが不安定な環境で培われた「何とかする力」も持っています。
日本という全く異なる文化や言語の環境に飛び込み、生活基盤を築いている事実そのものが、彼らの適応能力の高さを証明しています。
適切なサポートと教育さえあれば、日本の職場ルールや習慣にも柔軟に対応し、活躍してくれるポテンシャルを秘めています。
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ネパール人の国民性を理解することは大切ですが、同時に文化的なタブーを知らずに信頼を損ねてしまうケースもあります。こちらの記事では彼らと円滑な関係を築くために、特に注意すべき5つのタブーと、具体的なコミュニケーション方法をまとめました。
3.データだけでは分からない「ネパールあるある」体験談

公的なデータや一般的な特徴だけでは伝わりにくい、文化的な「あるある」も存在します。これらは個人ブログなどで語られる「本物らしさ」 の一端です。
逸話1:約束が流動的な「ネパリタイム」
「ネパリタイム」は、ビジネスシーンだけでなく日常生活にも現れます。
例えば、友人との待ち合わせで「エクチン(ちょっと)待ってて」と言われてから1時間以上待たされる、といった逸話はよく聞かれます 。
彼らにとって、約束は「そのうち会う」程度の意味合いを持つこともあり、悪気なく優先順位が変わることがあります。
逸話2:所有と共有の感覚の違い
個人ブログなどでよく語られるもう一つの「あるある」が、「所有と共有の感覚」です。
家族や親しい友人、同じコミュニティの仲間との間では、個人の所有物(衣服や食べ物、時にはお金)を断りなく共有することがあります。
これは「困った時はお互い様」という強い助け合いの精神 の表れですが、日本の感覚とは大きく異なる点です。
職場や寮生活においては、個人の所有物に関するルールを明確に定めておくことが、無用なトラブルを避けるために必要です。
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ネパール人あるあるとして「英語が堪能」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、その実態は様々です。こちらの記事では採用面接や現場でのコミュニケーションを円滑にするために、彼らの英語力の実態と日本語学習の意欲について解説します。
4.ネパール人雇用のメリット

ネパール人の国民性を理解すると、彼らを採用することには多くのメリットがあることが見えてきます。特に以下の3点は、日本企業にとって大きな魅力となるでしょう。
5.これだけはNG!宗教・文化に関する最重要タブー

採用・マネジメントにおいて、彼らのポテンシャルを活かす以前に、絶対に避けなければならない文化的・宗教的なタブーが存在します。
これらは信頼関係を根本から損なう可能性があるため、経営者から現場のスタッフまで全員が理解しておく必要があります。
食事(牛肉)
ネパール人の大多数(人口の約81.3%)はヒンドゥー教徒です 。ヒンドゥー教において牛は神聖な動物であり、食べることは固く禁じられています 。会社の飲み会や食堂で、牛肉を勧めたり、知らずに提供したりすることは絶対に避けてください。
左手の使用
左手は「不浄の手」とされています 。物の受け渡しや食事の際に左手を使うことは、相手に対して非常に失礼にあたります。マネジメント側もこの習慣を理解し、例えば名刺交換や書類の受け渡し時に意識することが望ましいです。
食事の共有
浄・不浄の観念から、他人が口をつけた大皿料理や飲み物の回し飲みに強い抵抗がある人が多いです 。宴会などでは必ず取り箸を用意し、個別に料理を提供するなどの配慮が求められます。
6.採用・マネジメントの実践ポイント

ネパール人の国民性やメリットを理解した上で、彼らの能力を最大限に発揮してもらうためには、文化的な背景に配慮したマネジメントが鍵となります。
面接時の確認事項
採用のミスマッチを防ぐため、面接時には以下の点を確認しましょう。
時間管理指導の工夫
入社後、特に重要なのが時間管理の指導です。
モチベーション維持と文化的配慮
彼らのモチベーションを維持し、安心して働いてもらうためには、相手に敬意をもって接することです。
7.ネパール人あるあるを理解し、ポテンシャルを最大限に引き出そう
「ネパール人あるある」として語られる「ネパリタイム」 のような特徴は、彼らの怠惰さではなく、日本とは異なる文化や価値観から生じています。
その一方で、彼らは家族を想う強い責任感 、目上を敬う礼儀正しさ 、そして集団の和を大切にする協調性 といった、日本企業が求める多くの美点を持っています。
ネパール人材の採用とマネジメントを成功させる鍵は、彼らの文化的な背景を「違い」として一方的に否定するのではなく、「なぜそうなのか」を理解しようとする姿勢にあります。
本記事で紹介した国民性の特徴と実践ポイントを参考に、日本のルールを明確に伝えつつ、彼らの価値観にも配慮する「相互理解」の職場づくりを進めることが求められます。
それが、ネパール人材の持つポテンシャルを最大限に引き出し、企業の新たな力となる確実な道筋となるでしょう。