外国人材の採用で耳にする「送り出し機関」。その役割や監理団体との違いを正しくご存知でしょうか。
送り出し機関の選定を誤ると、高額な手数料の発生や、採用した人材の失踪リスクに直結する可能性があります。
本記事では、外国人材採用の成否を分ける「優良な送り出し機関」の見極め方を、7つの実践的なチェックポイントに基づき、トラブル防止の注意点まで解説します。
- 「送り出し機関」の正確な定義と、監理団体との法的な役割の違い
- 優良な送り出し機関を見極めるための、具体的な7つのチェックポイント
- 手数料トラブルや失踪リスクを未然に防ぐための交渉術と注意点
1.そもそも「送り出し機関」とは?監理団体との違い

まず、送り出し機関とはどのような存在で、どのような役割を担うのか、その基本を理解しましょう。
送り出し機関の定義と法的位置づけ
送り出し機関とは、一言で言えば「海外現地において、日本で働きたい外国人を募集・選抜し、必要な教育を施した上で、日本へ送り出す機関」のことです。
主に技能実習制度や特定技能制度において活用され、日本側の「受入れ企業」や「監理団体」と連携しながら、以下の業務を担います。
監理団体や受入れ企業との関係
これらの関係者は、特に技能実習制度(団体監理型)において以下のように連携します。
| 関係団体 | 解説 |
|---|---|
| 受入れ企業(日本) | 人材を雇用したい企業。 |
| 監理団体(日本) | 受入れ企業をサポートし、実習が適正に行われるか監督する非営利団体。 |
| 送り出し機関(海外) | 監理団体と提携し、現地で人材を募集・教育する機関。 |
法的な観点では、送り出し機関は現地の国の法律に基づいて設立されますが、同時に日本の制度とも密接に関連します。
特に技能実習制度では、日本政府(外国人技能実習機構:OTIT)が「二国間取決め(MOC)」を締結している国の政府によって認定された機関でなければ、原則として技能実習生を送り出すことはできません。
参考:送出国情報(二国間取決め) – 外国人技能実習機構(OTIT)
2.なぜ今、送り出し機関の慎重な選定が重要なのか?【公式データで見る3つのリスク】

送り出し機関の選定が重要な理由は、その選定が「採用の質」と「採用のリスク」の両方に直結するからです。
特に以下の3つのリスクには注意が必要です。
実習生が背負う高額な手数料と借金の実態
最も警戒すべきなのが、悪質な送り出し機関による「高額な手数料」の問題です。
出入国在留管理庁の調査によれば、技能実習生の約85%が送り出し機関に何らかの費用を支払っており、その平均額は52万円超にも上ります。
国別ではベトナムが最も高く、平均68万円超です。さらに深刻なのは、来日のために約55%の実習生が平均54万円超の借金を背負っているという実態です。
参考:出入国在留管理庁 技能実習生の支払い費用に関する実態調査の結果について
不十分な日本語教育と失踪トラブル
送り出し機関は、候補者の日本語能力や専門スキル、人柄を見極める最初のフィルターです。
特に重要なのが「来日前の日本語教育」です。教育体制がずさんな機関から採用すると、来日後に「全くコミュニケーションが取れない」という事態に陥り、現場の混乱や早期離職の原因となります。
また、前述の不当に高額な手数料や借金は、実習生の経済的困窮を招き、結果として「もっと稼げる場所へ」という動機から失踪する大きなリスク要因となります。
コンプライアンス違反による企業リスク
手数料の内訳が不透明であったり、候補者から法律で禁止されている「保証金(デポジット)」や不当な「違約金」を徴収したりする悪質な機関も存在します。
こうした不透明な金銭授受は、失踪リスクを高めるだけでなく、受け入れ企業も法令違反の片棒を担いだと見なされる重大なコンプライアンスリスクとなります。
つまり、送り出し機関の選定とは、単なる「紹介業者の選定」ではなく、法令を遵守し、倫理的な採用活動を行う「ビジネスパートナー」を選ぶことに他なりません。
この最初の選択が、数年間にわたる外国人材の受け入れの成否を決定づけるのです。
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本文で解説した手数料や失踪のリスク以外にも、技能実習制度にはいくつかの構造的な問題点が存在します。制度の全体像を把握し、受け入れ企業として取るべき具体的な対策をまとめたこちらの記事も、ぜひあわせてご一読ください。
3.優良な送り出し機関を見極める7つのチェックポイント
送り出し機関の重要性をご理解いただいたところで、次に「どうやって優良な機関を見極めるか」という、最も実践的な選定基準を7つのチェックポイントに分けて解説します。
1. 許可・認定の有無と取得年数
まず大前提として、その機関が合法的に運営されているかを確認します。
- 現地の許認可
送り出し機関を運営するための、所在国の政府からの許認可(ライセンス)を必ず確認しましょう。 - 日本の認定(特に技能実習)
技能実習制度を利用する場合、原則として日本政府と「二国間取決め(MOC)」を結んでいる国の、政府認定を受けた機関である必要があります。
確認方法
認定機関のリストは、外国人技能実習機構(OTIT)の公式サイトで公開されています。取引を検討している監理団体から紹介された送り出し機関が、このリストに掲載されているかをご自身の目で必ず確認してください。
また、許認可の取得年数も重要な指標です。設立から間もない機関よりも、長年にわたり安定的に人材を送り出してきた実績のある機関の方が、ノウハウの蓄積や信頼性の面で安心できると言えます。
2. 日本語教育の内容と実績
採用の質に大きく影響するのが日本語教育です。口頭で「しっかり教育しています」と言うだけでなく、具体的な内容と客観的な実績を確認しましょう。
可能であれば、オンラインなどで実際の教育風景を見学させてもらうのも良い方法です。
3. 送り出し手数料の内訳と妥当性
トラブルの大きな原因となるのが「お金」の問題です。手数料については、総額だけでなく、その内訳の透明性を徹底的に確認してください。
- 保証金(デポジット): 候補者やその家族から、失踪防止などを名目に保証金を徴収することは法律で禁止されています。
- 違約金: 本人の意思に反して労働を強制するような、不当な違約金契約を結んでいないか。
これらの不透明な金銭授受は、候補者本人に多額の借金を背負わせる原因となり、失踪リスクを高めるだけでなく、受け入れ企業も法令違反の片棒を担いだと見なされる重大なコンプライアンスリスクとなります。
4. 渡航前教育とトラブル対応体制
日本語教育以外にも、日本で円滑に生活・就労するための教育が充実しているかを確認します。
| チェックポイント | 詳細 |
|---|---|
| 生活指導 | 日本の法律(交通ルール、ゴミの分別など)、社会保険制度、生活マナーに関する教育が行われているか。 |
| 安全衛生教育 | 働く上での安全ルールや、職場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)などの基本教育があるか。 |
また、トラブル発生時の対応体制も重要です。
「内定者が出国直前に辞退した場合、どう対応してくれるのか?」「来日後に本人が『聞いていた話と違う』と主張した場合、どう連携してくれるのか?」など、具体的なケースを想定して、その機関の対応フローや保証内容(代替候補者の紹介など)を確認しておきましょう。
5. 日本国内の連絡担当者の有無
採用活動中、そして人材の受け入れ後も、送り出し機関との連携は続きます。その際、コミュニケーションが円滑に行えるかは非常に重要です。
監理団体任せにせず、受入れ企業からも送り出し機関の担当者と直接コミュニケーションが取れるルートを確保しておくことが望ましいです。
6. 帰国後のフォロー体制の充実度
特に技能実習制度は、本来「日本で学んだ技術を母国に持ち帰り、経済発展に貢献する」ことを目的としています。
送り出し機関が、この制度の理念を理解しているかは重要なポイントです。
- 帰国後のキャリア支援
帰国した実習生に対し、日本での経験を活かせる就職先の紹介やキャリアカウンセリングを行っているか。 - OB/OGネットワーク
帰国者同士のコミュニティ作りを支援しているか。
こうした帰国後のフォロー体制に力を入れている機関は、人材を「送り出して終わり」とは考えておらず、候補者の長期的なキャリアを支援する倫理観の高い機関である可能性が高いと言えます。
7. 採用側企業との情報共有の姿勢
最終的に、送り出し機関はビジネスパートナーです。信頼関係を築ける相手かどうかは、その「姿勢」に表れます。
契約前に、自社の採用方針や現場の状況を詳細に伝え、それに対して送り出し機関がどれだけ真摯に向き合ってくれるかを見極めましょう。
4.【2025年最新】データで見る日本の外国人材受入れ状況

外国人材の受け入れ状況は、国や分野によって大きく変動しています。
最新の公式データを基に、現在のトレンドを把握しましょう。発表によると、令和7年6月末時点での在留外国人数は395万6,619人に達し、前年末比で5.0%増加。過去最高を更新しています。
国籍別・受入れ人数ランキング TOP5
在留外国人の国籍・地域別のTOP5は以下の通りです。
TOP5には、送り出し機関との関連が深いベトナム、フィリピン、ネパールが含まれています。特にネパールは前年末比で約4万人(+17.2%)増加しており、著しい伸びを示しています。
またTOP5以下では、6位のインドネシア(約23万人、+15.4%増)、8位のミャンマー(約16万人、+19.1%増)も大幅に増加しており、アジア各国からの受け入れが活発であることがうかがえます。
出典:出入国在留管理庁 令和7年6月末現在における在留外国人数について
産業分野別・受入れ人数ランキング TOP5(特定技能)
在留資格「特定技能1号」に注目すると、特に人手不足が深刻な分野での受け入れが進んでいます。令和6年6月末時点での分野別ランキングは以下の通りです。
これらTOP5の分野で、特定技能1号在留外国人(336,196人(速報値))の約8割を占めています。
このデータから、生活に不可欠なインフラ分野や、国内の基幹産業である製造業において、外国人材が不可欠な存在となっていることがわかります。
出典:出入国在留管理庁 特定技能制度運用状況(令和7年6月末現在)
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本文では受入れが多い上位5分野を紹介しましたが、特定技能は現在16分野あります。自社がどの分野に該当するのか、全分野の具体的な仕事内容や対象業務を一覧で詳しく解説した記事がこちらです。あわせて確認しておきましょう。
5.送り出し機関との付き合い方と注意点

優良な送り出し機関を選定できたら、次は良好なパートナーシップを築き、トラブルを未然に防ぐための「付き合い方」が重要になります。
送り出し機関との交渉で押さえるべきポイント
送り出し機関(または仲介する監理団体)との契約前には、以下の点を曖昧にせず、書面で明確に合意しておくことが不可欠です。
1. 費用負担の明確化
前章のチェックポイントでも触れましたが、費用は最もトラブルになりやすい項目です。
- 受入れ企業が負担する費用
監理団体への費用、送り出し機関への費用(紹介料、教育費など)、渡航費など、企業側がどこまで負担するのか。 - 候補者本人が負担する費用
現地での日本語教育費や手続き費用の一部を本人が負担する場合、その上限額はいくらか。 - 「手数料の内訳」の確認
総額だけでなく、内訳を明確にし、不当な手数料や法律で禁止された保証金 が含まれていないことを徹底的に確認します。交渉の際は、単なる値引き要求ではなく、「候補者に過度な金銭的負担(借金)をさせない」という倫理的な観点を共有することが重要です。
2. 業務範囲と責任の所在
「言った」「言わない」のトラブルを防ぐため、業務範囲を具体的に定めます。
- 日本語教育のレベル
「来日時にN4レベルに達していること」など、求める教育レベルを具体的に合意します。 - 内定辞退・失踪時の対応
万が一、内定辞退や失踪が発生した場合、「いつまでに」「どのような(代替候補者の紹介、費用の返金など)」対応をしてもらえるのか、保証内容を明確にします。 - 病気や怪我の対応
来日前の健康診断の基準や、来日直後に病気が発覚した場合の責任分界点を定めます。
トラブル防止のためのコミュニケーション術
送り出し機関や監理団体を「下請け」として扱うのではなく、事業を成功させるための「パートナー」として尊重する姿勢が、良質なコミュニケーションの土台となります。
- MUST/WANTの整理: 「絶対に譲れない条件(MUST)」と「あれば嬉しい条件(WANT)」を明確に分けます。
- 業務内容の正確な伝達: どのような環境で(暑い、寒い、重いものを持つなど)、どのような作業を、どのレベルまで求めるのか。良い面だけでなく、仕事の厳しさも正直に伝えることが、来日後の「こんなはずじゃなかった」というギャップを防ぎます。
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送り出し機関との連携は、外国人採用プロセス全体の一部です。こちらの記事では募集から面接、内定、そして入社後の手続きまで、採用活動の全体像を7つのステップで解説します。各段階での注意点や成功のコツを把握しておきましょう。
6.送り出し機関に関するよくある質問(FAQ)

-
送り出し機関は必ず利用しなければなりませんか?
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在留資格によって異なります。
「技能実習制度」のうち、監理団体を通じて受け入れる場合(団体監理型)は、各国の政府機関に認定された送り出し機関の利用が制度上必須です。
一方、「特定技能」の場合は必須ではありません。しかし、海外での募集や複雑な手続きをご自身で行うのは現実的ではないため、多くの場合は送り出し機関や日本国内の登録支援機関を利用するのが一般的です。
-
送り出し機関に支払う費用は、企業と候補者のどちらが負担するのですか?
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送り出し機関が候補者(技能実習生)本人から手数料を徴収すること自体は、禁止されていません。ただし、その場合は「手数料の算出基準を明確に公表し、本人に十分理解させる」ことが法律で厳しく定められています。
一方で、候補者やその家族から「保証金」や「違約金」といった不当な名目での金銭を徴収することは固く禁じられています。トラブル防止のため、企業側も契約時に費用の内訳を詳細に確認することが重要です。
7.ケーススタディ:優良送り出し機関選定の成功事例

ここでは、送り出し機関の選定に成功し、外国人材の受け入れによって課題を解決した企業の事例を紹介します。
田中産業株式会社の人材育成とキャリアパス構築
精密板金加工から組立までワンストップで対応する田中産業株式会社(静岡県三島市)は、グローバル化への対応と、安定した人材確保が課題でした。
特に以下の取り組みが、外国人材の定着と活躍の鍵となっています。
結果
現在、全従業員65名のうち29名(45%)がベトナム人スタッフという体制を構築。送り出し機関や現地法人と長期的なパートナーシップを築き、採用後の育成・評価制度を充実させることで、ダイバーシティ経営の推進に成功しています。
参考:モノづくり企業の挑戦 | 外国人雇用による社内活性化事例(株式会社アマダ)
医療法人愛信会の人手不足解消と特定技能の活用
医療法人愛信会が運営する「介護老人保健施設 愛の里」(福岡県)は、地域の「安心・安全な施設」という使命を果たすための人材採用に苦戦していました。
過去に日本国籍を持つ外国人材を採用した際に、言語や文化の違いから既存スタッフと上手くいかなかった経験もあり、日本人スタッフでの運営を望んでいましたが、人材不足の解消が急務でした。
結果
仕事の大変さを理解した上で「それでも日本で介護を学びたい」という意欲の高い人材を採用することに成功。来日後のギャップが少なく、早期離職率が大幅に低下しました。
倫理的な採用プロセスを経たことで、候補者も安心して同法人で働き続け、今では日本人スタッフと利用者の双方から厚い信頼を得ています。
参照元:医療法人愛信会 介護老人保健施設 愛の里様の導入事例(株式会社スタッフ満足)
8.外国人材の定着率を高める受け入れ後の育成ポイント
外国人材の採用成功は「送り出し機関」選びが鍵です。
本記事で解説した7つのチェックポイントで、高額な手数料や失踪リスクを回避し、倫理的なパートナーを選びましょう。ただし、採用はゴールではありません。
信頼できる機関と「良い採用」を実現し、受け入れ企業として「良い育成」を整えて初めて、彼らの定着と活躍が実現します。