フィリピン人の採用を検討している企業が増えていますが、「時間にルーズ」「忘れっぽい」など、文化的な違いに戸惑う声も聞かれます。しかし、これらは「問題」ではなく「文化の違い」です。
本記事では、職場で起こる15の「あるある」と効果的な対処法を解説。
事前に理解することで、フィリピン人スタッフの高いホスピタリティや明るさを最大限に活かし、採用を成功に導けます。
※本記事で紹介する特徴は、あくまで文化的な傾向を説明するものであり、すべてのフィリピン人の方に当てはまるものではありません。
- フィリピン人の性格・生活習慣・コミュニケーションスタイルの15の特徴
- 職場で起こりうる文化的な違いへの具体的な対処法とマネジメント手法
- フィリピン人スタッフの強みを活かし、定着率を高めるための実践的なポイント
1.【性格編】フィリピン人の国民性に関する7つのあるある

フィリピン人の性格は、南国の気候や家族中心の文化、宗教的背景に大きく影響されています。
職場で特に知っておくべき7つの特徴をご紹介します。
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フィリピン人の採用を具体的に検討する前に、まずは外国人採用全体の流れを掴んでおきましょう。この記事では、採用プロセスを5つのステップに分け、各段階での注意点を網羅的に解説しています。計画的な採用活動の第一歩としてご活用ください。
明るくフレンドリー!初対面でも距離感ゼロ
フィリピン人の最大の特徴は、その明るさとフレンドリーさです。初対面でもすぐに距離を縮め、休憩時間には積極的に話しかけてきます。
ボディタッチも多めで笑顔が絶えず、職場全体の雰囲気を明るくしてくれるムードメーカー的存在になることが多いでしょう。
この性格は、フィリピンが大家族文化で人口密度が高く、幼い頃から多くの人とコミュニケーションを取りながら育ってきた背景があります。
職場での活かし方
- チームの雰囲気づくりやコミュニケーション活性化に最適
- 新人教育や他のスタッフとの橋渡し役として活躍
- 日本人の控えめな性格とのバランスが取れた職場環境を構築できる
ホスピタリティ精神が高すぎて接客業で大活躍
フィリピン人のホスピタリティ精神は東南アジアでも群を抜いています。カトリック教の「無条件の愛」が文化に根付いており、誰にでも明るく笑顔で接することができます。
「相手にとって心地よいコミュニケーション」を自然に取れる能力は、まさに天性のものと言えるでしょう。
この特徴は、カトリック教の教えである「無条件の愛」や「おもてなしの精神」が文化に深く根付いていることが背景にあります。
困っている人を見かけたら自然と手を差し伸べ、相手が喜ぶことに喜びを感じる国民性があります。
参考:外務省 フィリピン共和国(Republic of the Philippines)基礎データ
最適な職業
- 接客業(飲食店、ホテル、小売店など)
- 介護職(利用者への細やかな気配りが得意)
- サービス業全般
- カスタマーサポート
家族第一!仕事よりも家族の用事を優先する
フィリピン人にとって、家族は何よりも大切な存在です。「何があっても家族第一」という価値観は、日本人の想像を超えるほど強固です。
家族が病気になった、親戚の結婚式がある、子供の学校行事があるといった理由で、仕事を休んだり早退したりすることは、フィリピンでは当然のことと考えられています。
フィリピンでは10人前後の大家族が一般的で、親戚のつながりも非常に強いです。
さらに、離婚制度がないため家族の絆が切れることがなく、困ったときは家族が助け合うという文化が根付いています。
また、海外で働くフィリピン人の多くは、本国の家族に仕送りをしており、その額がフィリピンのGDPの約10%を占めるほどです。(世界銀行による調査)
参考:Personal remittances, received (% of GDP)
マネジメントのポイント
- 家族の事情での休暇申請には柔軟に対応する
- 残業を強制しない(家族との時間を大切にしたい)
- クリスマスや重要な家族行事の時期は帰国希望に配慮する
- 家族の話を聞いてあげることで信頼関係が深まる
時間にルーズな「フィリピンタイム」が存在する
フィリピン人と働く上で最も戸惑うのが、この「時間感覚の違い」かもしれません。
待ち合わせに30分から1時間遅れることは珍しくなく、「今どこ?」と聞くと「On the way na(今向かってるよ)」という返事が返ってきますが、実際はまだ家を出ていないこともあります。
これは「フィリピンタイム」と呼ばれ、現地では一般的な文化です。
この背景には、渋滞の多さ、公共交通機関の不確実性、そして「細かいことを気にしない」おおらかな国民性があります。
また、「時間を守る」という概念自体が日本ほど重視されていないという文化的な違いもあります。
また、厳格なスケジュールよりもその場の人間関係を優先する文化的な傾向や、経済状況に根差した『その日暮らし』の考え方も影響していると考えられます。
最初から日本人と同じレベルの時間厳守を求めるのではなく、段階的に改善していくようにしましょう。
職場での対策
- 重要な会議は時間厳守であることを明確に伝える
- 勤務開始時刻の15分前に出社するルールを設ける
- 遅刻の理由をヒアリングし、交通手段の改善を提案する
- タイムカードなど客観的な記録システムを導入する
- 時間を守れたときは積極的に褒める
「その日暮らし」の考え方
多くのフィリピン人は長期的な計画を立てることを苦手とする傾向があり、「今日を楽しく生きる」ことを優先する傾向があります。
「明日のことは明日考えればいい」「何とかなるだろう」というポジティブな楽観主義は、フィリピン文化の大きな特徴です。
この背景には、経済的に厳しい環境で育った人が多く、その日の生活を成り立たせることで精一杯だったという事情があります。
また、家族や親戚が助け合う文化があるため、「困ったときは誰かが助けてくれる」という安心感も影響しています。
ビジネスシーンでの的な対処法
- 大きなタスクは小さく分解して指示する
- 週単位での目標設定とフォローアップを行う
- 視覚化したスケジュール表を活用する
- 定期的に進捗確認の面談を設ける
- 計画的に進められたときは評価する
月曜日には前週のことを忘れていることも
フィリピン人スタッフと働いた経験のある日本人は口を揃えて、「金曜日に念入りに説明した業務内容も、週明けには記憶が曖昧になっていることが多々ある」といいます。
この背景には、フィリピン人の約9割がカトリック教徒であることが関係しています。日曜日は教会で祈りを捧げ、神の赦しを得ることで心がリセットされるという宗教的な習慣があります。
また、家族との時間を大切にする文化のため、週末は仕事から完全に離れてリフレッシュします。
職場での対策
- 重要な指示は書面やメール、チャットで残す
- 週をまたがない短期タスクに分解する
- 月曜日の朝にブリーフィングの時間を設ける
- チェックリストや業務マニュアルを活用する
- 同じことを複数回伝えることを前提とする
人前で叱られることを極度に嫌がる
フィリピン人と働く上で最も注意すべき点が、この「叱り方」です。
フィリピン人は人前で叱られることを極度に嫌い、公開の場で恥をかかされると、それを深刻な屈辱と受け止めます。
最悪の場合、翌日から出社しなくなったり、突然退職してしまうこともあります。
これは、フィリピン文化における「Hiya(ヒヤ=恥)」の概念が非常に重要視されているためです。
人前でメンツを潰されることは、日本人が感じる以上に深い傷となります。また、プライドが高く、自尊心を大切にする国民性もあります。
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フィリピン人の「あるある」は、採用活動の様々な場面で注意点となり得ます。こちらの記事で募集、面接、そして採用後という3つのステップで起こりがちな15の注意点を事前に把握し、採用のミスマッチを防ぎ、長期的な活躍をサポートしましょう。
2.【生活習慣編】職場で見かける5つの日常あるある

フィリピン人の日常的な生活習慣は、職場での行動にも影響します。実際に職場で見かける具体的な「あるある」をご紹介します。
とにかく食べることが大好き!1日5食も当たり前
フィリピン人は食べることを心から愛しています。1日の食事回数が5回以上になることも珍しくありません。朝食、午前のスナック、昼食、午後のおやつ、夕食、夜食という具合です。
食事は単なる栄養補給ではなく、コミュニケーションの場であり、楽しみの中心なのです。休憩室に電子レンジや給湯設備を設置し、昼食時間を十分に確保しましょう。
お米は必須!パスタやパンと一緒でもライスを食べる
フィリピン人のお米への愛は尋常ではありません。たとえ食事にパンやパスタ、スパゲッティがあっても、必ずご飯が登場します。マクドナルドにも「ライス」があるほどです。
「ご飯がないと食事した気がしない」というのがフィリピン人の本音です。
社員食堂では必ずご飯を用意し、弁当提供の場合はご飯多めのメニューを検討しましょう。食事環境を整えることは、定着率向上に直結します。
参考:海外情報ナビ フィリピンのお米事情|お米を中心に考える食事文化
歌とダンスが大好きで全員プロ級
フィリピン人は驚くほど歌とダンスが上手です。
ショッピングモールにカラオケ機器が売られているほどカラオケ文化が浸透しており、場所を問わず歌います。学校の廊下を熱唱しながら歩く先生、スーパーの警備員が商品のカラオケマシンで歌っている光景も日常的です。
パーティーも大好きで、きらびやかに着飾ってダンスや歌で盛り上がることが最高の楽しみです。地域のイベントでは「ズンバ」というダンスをみんなで楽しむ文化もあります。
芸術やエンターテインメントへの関心が非常に高く、自己表現を大切にする国民性があります。
参考:セブイクマガジン フィリピン人と音楽(歌や踊り)文化を紹介
自撮り(セルフィー)が大好きで常に写真を撮る
フィリピン人は「セルフィー」が大好きです。職場での休憩時間、ランチタイム、仕事終わりなど、あらゆる場面でスマートフォンを取り出して写真を撮影します。
これは、SNS文化が非常に発達していることと、家族や友人とのつながりを大切にする文化が背景にあります。撮った写真はすぐにFacebookやInstagramに投稿し、遠く離れた家族にも自分の近況を伝えます。
フィリピンはスマートフォンの使用時間が世界トップクラスで、常に誰かとつながっていたいという心情があります。
参考:TIME Magazine The Selfiest Cities in the World: TIME’s Definitive Ranking
甘いものが大好き!お茶にも砂糖たっぷり
フィリピン人は甘党です。料理全般に砂糖を多く使い、スイートな味付けを好みます。
特に驚くのが、アイスティー、紅茶、緑茶などのお茶にも大量の砂糖を入れることです。日本人が無糖のお茶を飲むのを見て、「砂糖を入れないの?」と不思議がることもあります。
デザートも非常に甘く、常夏の国のため糖分を多く必要としているという説もあります。
参考:U-GAKU 【最新版】フィリピン文化の特徴と日本文化との違いを体験談を交えて解説!
3.【コミュニケーション編】仕事で気をつけたい3つのあるある

フィリピン人とのコミュニケーションには、日本人とは異なる文化的背景があります。仕事上で特に注意すべき特徴をご紹介します。
「Yes」と言っても実は理解していない
「わかった?」と確認すると「Yes」と返事が返ってきますが、実際には理解していないことが多々あります。これは「相手を不快にさせたくない」という思いやりの精神からです。
「わからない」と言うことで、相手に迷惑をかけたり、自分の能力不足を露呈したりすることを避けたいという心理が働きます。
また、英語でのコミュニケーションの場合、実際には理解できていなくても、「わからない」と言うこと自体が難しいケースもあります。
効果的な確認
- 「では、この作業をどうやるか説明してもらえる?」と復唱させる
- 実際にやって見せてもらう(ロールプレイング)
- 「質問はある?」ではなく「ここまでで不明な点はどこ?」と具体的に聞く
- 作業手順を書いたマニュアルやチェックリストを渡す
- 最初の1回は一緒にやって確認する
直接的な否定を避けて遠回しな表現を使う
「Maybe」「I’ll try」「Difficult」といった言葉は、実質的に「できない」「やりたくない」を意味することが多いです。この背景には、相手との関係性を重視し、対立を避けたいという文化的価値観があります。
直接的な拒否は相手を傷つけ、人間関係にひびが入ると考えられています。また、先述の「Hiya(恥)」の文化とも関連しており、断ることで自分が恥をかくことも避けたいという心理が働きます。
言葉 | 実際の意味 | 対応方法 |
---|---|---|
“Maybe” | おそらく無理 | 「何が問題?」と具体的に聞く |
“I’ll try” | できないと思う | 「何があれば可能?」と支援を提案 |
“Difficult” | やりたくない | 理由を優しく尋ねる |
困っていても「大丈夫」と言ってしまう
困っている状況でも「大丈夫です」と答えることが多くあります。助けを求めることは弱さを認めることであり、特に上司に弱みを見せたくない心理が働きます。
また、「自分で何とかしなければ」という責任感から、問題を一人で抱え込んでしまうこともあります。
定期的な1on1ミーティングを設定し、「今一番大変なことは何?」と具体的に聞きましょう。相談しやすい環境を整えることが、マネジメントの鍵です。
4.【データで見る】「あるある」の裏側にあるフィリピンのリアル
フィリピン人の「あるある」行動の背景には、経済状況や若者の価値観、社会意識といった深い要因があります。ここでは客観的なデータから、彼らの行動の裏側を理解しましょう。
経済成長と根強い貧富の差
フィリピンは年5〜6%の経済成長を続け、2025年には上位中所得国入りの可能性があります。
しかし、国民の1%が国の富の半分以上を保有し、2021年の貧困率は18.1%。地方では61.3%に達する一方、マニラ首都圏は2.3%という極端な地域格差が存在します。
「その日暮らし」や「家族への仕送り」といった行動は、この経済格差が背景にあります。
参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)フィリピン経済の現状と今後の展望
若者たちの未来への期待と不安
2024年のUNICEF調査によると、フィリピンの若者の44%が「将来は悪化する」と予想する一方、37%は「より良くなる」と信じています。
最大の懸念は気候変動(26%)、教育(23%)、就職(22%)。興味深いのは72.3%が「SNSで社会問題に関心を持った」と回答し、調査国中で最高値を記録した点です。
明るく楽観的に見えるフィリピン人ですが、若者は将来への不安も抱えているのです。
参考:フィリピンの若者意識調査 by UNICEF(2024年) – フィリピン・アセットコンサルティング
高い社会貢献意識とサステナビリティ
電通と電通総研の「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」によると、フィリピンは東南アジアの中でもサステナビリティ意識が特に高い国です。
リサイクル行動を実践する人の割合が調査国中で最も多く、エコバッグの利用率と詰め替え商品の購入率がトップでした。
社会活動への関与状況を見ると、フィリピン人は環境問題解決などの社会活動に関与している国民が非常に多く、特徴的なのは、組織のリーダーではなく「サポーター」として日常的にサステナブルな行動をしている一般国民が多いことです。
参考:電通と電通総研、「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」を12か国で実施
5.フィリピン人との仕事を成功させるマネジメントのコツ
これまでの15の「あるある」を踏まえた、効果的なマネジメント手法をまとめます。
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6.フィリピン人あるあるを理解して採用を成功させよう
フィリピン人の「あるある」は、決して「問題」ではなく「文化的な違い」です。
適切な理解とマネジメントがあれば、彼らの明るさ、ホスピタリティ精神、英語力は大きな戦力となります。
本記事で紹介した15の特徴と対処法を社内で共有し、受け入れ体制を整えることで、採用後のミスマッチを防げます。文化的違いを「多様性の強み」に変え、グローバルな視点を持った強い組織を構築しましょう。