現在、日本の技能実習生の46.5%を占めるベトナム人技能実習生。なぜこれほどまでに多いのでしょうか。
これには、中国人技能実習生の減少、ベトナム国内の経済格差、そして97%という高い親日感情が主な要因です。
しかし、2027年の育成就労制度への移行や円安による送金メリット減少など、環境は大きく変化しています。
本記事では、ベトナム人技能実習生の受け入れ成功のための5ステップと最新動向を解説します。
- ベトナム人技能実習生が圧倒的に多い3つの理由と背景
- 受け入れ企業が成功するための具体的な5ステップ
- 育成就労制度への移行など最新の制度変更と対応策
1.ベトナム人技能実習生が圧倒的に多い3つの理由

日本の技能実習制度において、なぜベトナム人がこれほどまでに大きな存在感を示しているのでしょうか。
その背景には、いくつかの要因が作用しています。ここでは、データに基づいて3つの主要な理由を詳しく解説します。
理由1:中国人技能実習生の減少と代替需要の高まり
中国の経済発展による技能実習離れ
かつて技能実習生の出身国として最大のシェアを誇っていた中国ですが、2016年を境にベトナムにその座を譲り、以降は減少の一途を辿っています。この変化の根本的な要因は、中国の急速な経済発展にあります。
急成長を遂げた中国は、日本を抜いて世界第二の経済大国となりました。国内の賃金水準が大幅に上昇した結果、「同程度の賃金なら国内で働く」という傾向が強まったのです。
2011年東日本大震災以降の流れ
ベトナム人労働者が日本で急増したのは、2011年の東日本大震災以降のことです。
外国人労働者の最大供給国だった中国の経済成長によって日本で働くメリットが薄れた上、震災の影響で中国人の日本離れが進みました。
中国国内での大規模な反日運動もその流れを加速し、代わってベトナムが人材供給元の新たな「舞台」となったのです。
企業側のニーズシフト
中国人技能実習生の減少により、日本企業は新たな労働力確保先を求める必要に迫られました。
この時期に注目されたのがベトナムでした。ベトナムは中国と同じく社会主義国家であり、文化的な類似点も多いことから、企業側にとって受け入れやすい存在だったのです。
理由2:ベトナム国内の経済格差と外貨獲得政策
ベトナム国内賃金水準(月収約4万8千円)との比較
ベトナムの最低賃金は4つの地域に分けて示されており、4地域平均で月額417万ドン(日本円で約2万5千円)、平均月収は約788万ドン(日本円で約4万8千円)です。日本に比べて、平均賃金が低いことが分かります。
この賃金格差は技能実習生にとって大きな魅力となっています。
日本の最低賃金で働いたとしても、ベトナム国内の平均月収の3~4倍の収入を得ることが可能です。
技能実習生として日本で働けばベトナムで働くよりも短期間で多く稼げるため、外貨獲得の手段として技能実習制度を利用する人が多いといえます。
政府による海外就労支援政策
ベトナム政府は外貨獲得の手段として、ベトナム人の海外就労を支援しています。
世界銀行の統計データによると、海外のベトナム人による母国への送金額は約1兆8348億円で、ベトナムのGDPの6.4%に相当します。
この数字が示す通り、海外からの送金はベトナム経済にとって極めて重要な外貨収入源となっています。政府が国策として技能実習生の派遣を支援する背景には、この経済的メリットがあるのです。
家族への送金文化(GDP6.4%を占める海外送金)
家族とのつながりが強く家族のために仕事に励む傾向にあり、技能実習生の多くが母国の家族に仕送りをしています。
実際に、実習生の多くは月に10万円ほどを母国へ仕送りをしており、この送金が家族の生活を支える重要な収入源となっています。
GDP全体の6.4%という数字は、ベトナム経済における海外送金の重要性を明確に示しており、技能実習生の動機の強さを裏付けています。
理由3:日本への高い親近感と文化的親和性
外務省調査「信頼できる」97%の高親日感情
2023年に外務省が実施した「海外における対日世論調査」によると、「あなたの国の友邦として、今日の日本は信頼できると思いますか」という質問に対して、ベトナム人の68%が「とても信頼できる」、29%が「どちらかというと信頼できる」と回答しています。
合計97%というこの数字は、ベトナム人の日本に対する信頼度の高さを如実に表しています。
日本はベトナムに対してODAや交通インフラの整備、ワクチンの製造支援などさまざまなサポートをし、パートナーシップを強化してきました。そのため、ベトナム人の多くが日本に好印象を持っています。
参考元:海外における対日世論調査|外務省
日本企業の積極進出とアニメ文化の浸透
ベトナムの小学校や中学校、高校、大学では、日本語教育を行うところが少なくありません。
また、本田技研工業株式会社(Honda)やイオンモール株式会社など日本企業が多数進出しており、ドラえもんや名探偵コナンといった日本の漫画やアニメ作品も浸透しています。
日本企業の進出により、ベトナム国内で日本の技術や経営手法に触れる機会が増加しています。また、日本のポップカルチャーの影響により、若者世代を中心に日本への憧れが強まっています。
日系企業就職を目標とした技能実習参加
ベトナムにある日系企業に就職することを目標に、技能実習生になる人も少なくありません。
日系企業はベトナム企業よりも賃金が高い傾向があります。技能実習で技術や日本語を学べば就職の際のアピールポイントになるため、長期的な目標を持って技能実習生を目指しているのです。
このように、技能実習は単なる出稼ぎ労働ではなく、将来のキャリア形成のためのステップとして位置づけられているのです。
日本での経験や日本語能力は、ベトナム国内での就職において大きな競争優位となるため、向上心の高い若者が技能実習を選択する傾向にあります。
ベトナム人の平均年収や日本での雇用のポイントなどもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
2.ベトナム人技能実習生の基本情報と特徴

ベトナム人技能実習生を適切に受け入れるためには、まずベトナムという国の基本情報と、ベトナム人の特徴を正しく理解することが重要です。
ここでは、最新のデータを基に詳しく解説していきます。
ベトナムの国情と人口構成
平均年齢31歳の若年層中心社会
現在のベトナムの平均年齢は33.3歳で、平均年齢が48.4歳の日本と比べるととても若い国です。
ベトナムは国民の平均年齢31歳、15~59歳の占める割合が65%、中でも最も多い層が25~29歳と若者が多い活力にあふれた国です。
ベトナムの基本的な国情は以下の通りです。
項目 | 詳細 |
正式国名 | ベトナム社会主義共和国 |
面積 | 33万1346平方キロメートル(日本の0.88倍) |
人口 | 9890万人(2023年統計) |
首都 | ハノイ |
最大都市 | ホーチミン |
公用語 | ベトナム語 |
主要民族 | キン族(約86%)、その他53の少数民族 |
宗教 | 仏教、カトリック、カオダイ教など |
高い経済成長率(2024年第1四半期5.66%)
ベトナム経済の成長率は高く、近年の世界経済低迷の影響を受けて伸び幅が減少したものの、2024年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率は前年同期比5.66%です。
ベトナム統計総局長は「第1四半期の成長率5.66%は(通年のGDP成長率目標6.0~6.5%と比べ)高い成長率ではないが、世界経済が多くの不確実性に直面している中で、前向きな結果だ」と述べており、今後も持続的な経済成長が見込まれます。
このようなことから、日本を含めた海外企業が進出先としてベトナムに注目しており、今後各国の人材獲得競争が強まると考えられます。
大学進学率向上による技能実習希望者の変化
近年、ベトナム人の大学進学率が上がっていることが技能実習希望者が以前よりも減少している要因として考えられます。
日本などと比べるとまだまだ高くはないですが、大学進学率が現在では30%を超えていると言われています。
技能実習を希望するベトナム人は高卒以下の人が多いため、教育水準の向上による大学進学率増加で技能実習を希望する若者が減っているのです。
ベトナム人の国民性と職場での特徴
勤勉・向上心・家族思いの気質
ベトナム人技能実習生の最大の特徴は、その勤勉で向上心にあふれた国民性にあります。
国民性は勤勉と日本人と共通している他、器用な人が多いことが特徴です。細やかな刺繍がベトナムの代表的な伝統工芸であり、手先の器用さにつながっていると考えられます。
また、家族とのつながりが強く家族のために仕事に励む傾向にあり、技能実習生の多くが母国の家族に仕送りをしています。
ベトナム人は家族を非常に大切にし、特に両親を尊重します。そのため両親に何かあった場合、すぐに帰国を申し出ることもあるでしょう。
素直で責任感が強い性格
ベトナム人の技能実習生の特徴として、「素朴で素直」ということが挙げられるでしょう。
言われたことは、責任をもって指示通りにやってくれる人が多いです。素直な性格である人が多いため、職場の人間関係も良好に築ける人が多いのも特徴です。
また、褒めると非常に喜びます。承認欲求が強いので、機会を見つけては褒めてあげると仕事へのモチベーションが高まります。
一方で、ベトナム人は論理的に物事を考える人が多く、仕事に関して納得できなければ、フラストレーションを抱える傾向があります。
したがって、仕事を任せたときは、なぜこの仕事のやり方なのか、仕事の割り振り方についても、質問があるかもしれません。
手先の器用さと学習能力の高さ
プライドが高いことにも由来して、できないことを嫌う人が多く、新しい知識を求めて真面目に学習する傾向があります。
したがって、仕事を覚えるのが速く、技能実習生として評判がいいです。
ベトナム人技能実習生は若く、多く来日していることからしても、しっかりと真面目に勉強すれば、日本語の上達スピードに関しては心配することではないでしょう。
プライドが高いために、人前で叱られることを非常に嫌います。叱るときは、人がいない別室で叱るなどの配慮が必要でしょう。
来日前の準備状況
日本語能力試験N5レベルの事前学習
ベトナム人技能実習生は来日前に一定レベルの日本語教育を受けています。
研修中に、日本語能力試験N5合格レベルまでは勉強します。
さらに、基本的な日本語教育のみならず、日本の礼儀作法などや各企業様で使う専門用語などを事前に学習し、配属されてから困ることのないように、実用的な日本語教育を行なっております。
技能実習生は来日前に日本語の勉強はするものの、日本語での会話レベルはそこまで高くはありません。
日本語での会話がうまくできないと、受け入れ機関側の指示が通りにくいだけでなく、本人も言いたいことを伝えられずに、そのことがストレスとなって、最悪の場合、失踪につながるおそれもあります。
日本文化・礼儀作法の研修
ベトナムの小学校や中学校、高校、大学では、日本語教育を行うところが少なくありません。
このような教育基盤に加えて、技能実習生として来日する前には、日本の文化や礼儀作法についての研修も行われます。
日本語、日本の文化や生活、道徳、マナー、職業意識などの一般学習、また、受入企業様の現場に添った専門用語の事前学習です。学習の状況はいつでも学校で見学できます。
当協会のベトナム人技能習生は、全員、事前にベトナムで日本文化(礼儀作法や一般常識など)の研修を受けておりますのでご安心ください。
専門技能の基礎習得
技能実習生は単純労働者ではなく、特定の技能を習得することが目的です。
そのため、来日前には配属予定の職種に関する基礎的な技能研修も実施されます。建設・機械・金属・塗装・溶接・食品・繊維・農業・漁業など68職種126作業の職種・作業の技能実習生を受け入れ可能です。
これにより、来日後の職場での適応がスムーズになることが期待されています。
ベトナム人の特徴をもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
3.受け入れ企業が押さえるべき成功の5ステップ

ベトナム人技能実習生の受け入れを成功させるためには、適切な手順と準備が不可欠です。
ここでは、受け入れ企業が押さえるべき5つのステップを詳しく解説します。
ステップ1:受け入れ可能性の確認と事前準備
自社業種が91職種168作業に該当するか確認
技能実習生の受入れ可能職種は、2025年8月現在91職種168作業、さらに技能実習3号への移行対象職種は82職種153作業となっています。
参考元:エヌ・ビー・シー協同組合「技能実習生受入れ可能職種【職種別詳細情報】」
技能実習生を受け入れる前に、自社の職種がこれらに含まれているかどうかしっかり確認する必要があります。
実は技能実習生の受入れは、全ての職種で可能というわけではありません。
技能実習生を受け入れる前に、御社の職種が受入れ可能な職種かどうか、さらにその職種の中に制度で定められている「必ず従事しなければならない作業」が含まれているかどうかを確認する必要もあります。
主な分野としては以下のようなものがあります。
分野 | 主な職種例 |
農業関係 | 野菜の栽培管理、ぶどうの栽培、果樹の栽培管理 |
漁業関係 | 漁船漁業、養殖業 |
建設関係 | 建設機械施工、型枠施工、左官、とび、タイル貼り |
食品製造関係 | 食鳥処理加工業、加熱性水産加工食品製造業 |
繊維・衣服関係 | 織布運転、染色、婦人子供服製造 |
機械・金属関係 | 鋳造、鍛造、機械加工、金属プレス加工 |
その他 | 介護、宿泊、クリーニング |
受け入れ人数制限の把握
技能実習生の受け入れには、企業規模に応じた人数制限があります。
- 常勤職員数301人以上:常勤職員数の20分の1
- 常勤職員数201~300人:15人
- 常勤職員数101~200人:10人
- 常勤職員数51~100人:6人
- 常勤職員数41~50人:5人
- 常勤職員数31~40人:4人
- 常勤職員数30人以下:3人
社内体制の整備と責任者の決定
技能実習生を受け入れる企業は、以下の責任者を配置する必要があります。
配置する必要のある責任職
- 技能実習責任者:技能実習の進行を統括管理する責任者
- 技能実習指導員:技能実習生に直接技能指導を行う責任者
- 生活指導員:技能実習生の生活面をサポートする責任者
これらの責任者には、それぞれ法定講習の受講が義務付けられています。
ステップ2:適正な送り出し機関の選定と契約
ベトナム政府認定送り出し機関の確認
ベトナム人技能実習生を受け入れるためには、ベトナム政府から正式に認定を受けた送り出し機関と契約する必要があります。
悪質な送り出し機関との契約は、後々のトラブルの原因となるため、慎重な選定が重要です。
各国の政府より認定を受けた、技能実習生を日本へと送り出す認可機関。主な業務としては、技能実習候補者の募集、選考、入国前の日本語・日本文化、日本の生活習慣等の教育、実習生の入国後の生活の支援などがあります。
MOC(協力覚書)の重要ポイント
MOCは、2019年にベトナムと日本の間で取り交わされた「協力覚書」です。
この覚書は、日本で働く労働者のサポートや、悪質な労働仲介業者を排除するために取り交わされたもので、運用内容に反して雇用することは禁じられています。
すべての内容を把握するのは大変ですが、受け入れる側としてMOCの重要なポイントは押さえておきましょう。
この覚書は、日本で働く労働者のサポートや、悪質な労働仲介業者を排除するために取り交わされたもので、運用内容に反して雇用することは禁じられています。
すべての内容を把握するのは大変ですが、受け入れる側としてMOCの重要なポイントは押さえておきましょう。

契約内容の詳細確認と費用の透明化
送り出し機関との契約では、以下の項目を明確にする必要があります。
送り出し機関との契約で明確にする必要のある項目
- 技能実習生の選考方法と基準
- 来日前教育の内容と期間
- 費用の詳細内訳と支払い条件
- トラブル発生時の対応体制
ベトナムでは口約束で仕事を受ける場合も多いのですが、ベトナム人と契約する際は、しっかりと契約書を作るようにしましょう。
ベトナム人の技能実習生は多いので、他の技能実習生から聞いて、「他はもっといい待遇だったから」といった理由で、あとから色々と契約とは異なることを言ってくることもあります。
ステップ3:受け入れ費用の算出と予算確保
初期費用62.5万円~177万円の内訳詳細
ベトナム人技能実習生の受け入れには、段階的に様々な費用が発生します。
技能実習生を1名受け入れる際にかかる費用は、給与を含めますと3年間で900万円前後です。大きな金額にも見えますが、1年あたりでは300万円、時給に換算すると1,500円前後になります。
初期費用の詳細な内訳は以下の通りです。
事前準備費用(約10~30万円)
- 監理団体への入会費:5~10万円
- JITCO年会費:5~15万円(任意)
- 面接費用(現地訪問の場合):20~30万円
入国準備費用(約30~50万円)
- 在留資格認定証明書申請費用:5~10万円
- 現地での研修費用:10~20万円
- 渡航費用:5~10万円
- ビザ申請費用:2~3万円
- 健康診断費用:2~3万円
入国後配属まで費用(約20~40万円)
- 入国後講習費用:15~25万円
- 講習手当(研修期間中の生活費):10~15万円
- 健康診断費用(国内):3~5万円
継続的な監理費用の把握
技能実習開始後は、以下の継続費用が発生します。
- 監理団体への月額監理費:3~5万円
- 送出機関への月額管理費:1~2万円
- 技能検定受験料:2~3万円(年1~2回)
- 保険料:月額数千円
住居・生活環境整備費用の算出
技能実習生には適切な住居環境を提供する必要があります。
- 住居確保費用:敷金礼金・家具家電購入で20~50万円
- 1人当たり3.3㎡以上の居住スペース確保が法的義務
- 水道光熱費・インターネット環境整備:月額2~3万円
ステップ4:労働環境と法的義務の整備
最低賃金以上の適正な賃金設定
「外国人だから」「技能実習生だから」といった理由で、不当に安い賃金に設定することは認められません。技能実習生にも日本の労働関係法令が適用されるため、賃金は最低賃金以上、同一労働同一賃金を遵守しましょう。
人事評価による昇給や賞与などの支給についても、不合理な待遇差を設けないよう注意してください。
参考元:厚生労働省「労働基準に関する法制度」
技能実習生の賃金設定における重要なポイント
項目 | 内容 |
最低賃金の遵守 | 各都道府県の最低賃金以上の支払い義務 |
同一労働同一賃金 | 同じ業務を行う日本人労働者との待遇格差の禁止 |
残業代の適正支払い | 労働基準法に基づく割増賃金の支払い |
賞与・昇給 | 不合理な差別の禁止 |
社会保険加入と労働関係法令の遵守
実習実施期間は、受け入れた技能実習生に関して、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法、雇用保険法、健康保険法、国民健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法等、労働者に係る諸法令が適用され、一般の日本人労働者とまったく同様となります。
技能実習生は日本人労働者と同様に、以下の保険への加入が義務付けられています。
- 健康保険・厚生年金保険(企業規模により国民健康保険・国民年金)
- 雇用保険
- 労災保険
住居環境の整備(1人当たり3.3㎡以上)
技能実習生一人当たり3.3m2以上の広さが必要です。住居環境については、以下の基準を満たす必要があります。

ステップ5:効果的な指導・コミュニケーション体制の構築
文化的違いを理解した指導方法
ベトナム人は論理的に物事を考える人が多く、仕事に関して納得できなければ、フラストレーションを抱える傾向があります。
したがって、仕事を任せたときは、なぜこの仕事のやり方なのか、仕事の割り振り方についても、質問があるかもしれません。
言語バリア対策と日本語学習支援
技能実習生は来日前に日本語の勉強はするものの、日本語での会話レベルはそこまで高くはありません。
日本語での会話がうまくできないと、受け入れ機関側の指示が通りにくいだけでなく、本人も言いたいことを伝えられずに、そのことがストレスとなって、最悪の場合、失踪につながるおそれもあります。
人前での叱責を避けるなど配慮事項の徹底
プライドが高いために、人前で叱られることを非常に嫌います。叱るときは、人がいない別室で叱るなどの配慮が必要でしょう。
また、褒めると非常に喜びます。承認欲求が強いので、機会を見つけては褒めてあげると仕事へのモチベーションが高まります。
コミュニケーション上の注意点としては、
✔人前での叱責を避け、個別指導の実施をするようにする
✔成果や努力を常に認めるような積極的な称賛を心がける
✔日本とベトナムの文化の違いを相互理解しあうように努める
✔困りごとや要望の聞き取りなど、定期的な面談を実施する
技能実習生を受け入れる企業、特に直接指導に当たる担当者は、ベトナム人に関するこれらの情報を把握し、指導していく必要があります。
人前で叱らないなど日本人に対する対応とは違った対応を求められる場面もありますが、コミュニケーションを普段からとり、お互いの国の文化を尊重して相手を気遣いながら歩み寄っていけば、スムーズにより良い関係を築いていけることでしょう。
4.知っておくべき最新の制度変更と課題

ベトナム人技能実習生を取り巻く環境は、制度面・経済面の両方で大きく変化しています。
受け入れ企業にとって、これらの変化を正確に理解し、適切に対応することが今後の成功の鍵となります。
2024年育成就労制度への移行
技能実習制度廃止と新制度の概要
2024年6月14日、技能実習に代わる新たな制度「育成就労」を新設するための関連法の改正が、国会で可決・成立しました。(※2024年3月現在、外国人技能実習制度は新制度の「育成就労制度」へ将来的に移行することが決定済みです。)
従来の外国人技能実習制度1号〜3号は廃止となり、新たな制度として育成就労制度が創設されます。
育成就労制度の創設と特定技能制度の改正がスタートするのは、改正法の公布日(令和6年6月21日)から起算して3年以内に施行されることとなりますが、施行日は現時点では未定です。
つまり、2027年頃を目処に新制度への移行が開始される予定です。
従来の技能実習制度が国際貢献人材育成を目的としていたのに対し、新制度である育成就労制度は、「人材確保と人材育成」を目的としており、基本的に3年間の育成期間で特定技能1号の水準の人材に育成するとしています。
参考元:出入国在留管理庁「令和6年入管法等改正法について」
やむを得ない事情による転籍の拡大
技能実習制度でも、人権侵害などの「やむを得ない事情」がある場合には、受入れ機関の転籍が認められていましたが、育成就労制度では、労働条件が契約と実態で異なるなどの場合もその対象とするなど、「やむを得ない事情」の範囲の拡大・明確化と、転籍手続の柔軟化が図られることとされています。
本人の意向による転籍の新設
政府は、関係閣僚会議の決定で、3年間一つの受入れ機関での計画的な育成就労が効果的であり望ましいとの考えを示しています。
しかし、その一方で、育成就労法には、育成就労外国人による受入れ機関の変更希望の申出に関する規定が新設されており、一定の要件の下で、外国人本人の希望による転籍が認められることとなりました。
対象分野の変更
育成就労制度の受入れ対象分野と職種は、特定技能制度の受入れ対象分野の設定分野、いわゆる「特定産業分野」に限定される予定です。
現在、技能実習は90職種(165作業)での実習が可能ですが、これらも変更となる見込みです。
企業が準備すべき事項
新制度への移行に向けて、企業は以下の準備が必要です。
準備項目 | 具体的内容 |
制度理解の深化 | 育成就労制度の詳細な仕組みの理解 |
労働条件の明確化 | 契約書の詳細化と多言語対応 |
人材流出対策 | 転籍を防ぐための待遇改善 |
教育体制の強化 | 特定技能1号レベルへの育成プログラム |
コンプライアンス強化 | より厳格な法令遵守体制の構築 |
円安・インフレが与える影響と対策
送金額目減りによる日本離れの現実
2022年2月以前は1円=200ドンを上回っていましたが、その後円安が進行。
今年6月には1円=160ドンを切る水準にまで下がりました。実習生の多くは月に10万円ほどを母国へ仕送りをしており、円安による送金額の目減りは切実な問題となっています。
円安が進めば進むほど、日本円をドンに両替したときに得られる金額は少なくなります。母国の家族への仕送りを減らしたくない場合、より多くの時間働かなければなりません。
そのため円安の進行により、ベトナム人技能実習生にとって日本で働くメリットが大幅に減少しています。
従来であれば、日本円で得た給与をベトナムドンに両替することで、現地での購買力が大きく向上していましたが、現在はその効果が薄れているのが現状です。
韓国など他国への人材流出
韓国の外国人労働者の平均給与は製造業を中心に約28.5万円(23年)で、日本の実習生の平均月額賃金21.7万円を(23年)を大きく上回っています。
ベトナム人にとって韓国が「現実的な出稼ぎ先」となれば、留学と同様に逆転現象が起きることになります。
このような現状では、ベトナム人にとって日本での技能実習は魅力的に映らないでしょう。近年では、韓国への出稼ぎを希望する人が増えています。
韓国だけでなく、オーストラリアやカナダなども、ベトナム人労働者にとって魅力的な選択肢となっています。これらの国々は、より高い賃金と充実した社会保障を提供しているためです。
企業側が取るべき対応策
人材獲得競争の激化に対応するため、企業は以下の対策を検討する必要があります。
ベトナム国内情勢の変化
大学進学率上昇による技能実習希望者減少
近年、ベトナム人の大学進学率が上がっていることが技能実習希望者が以前よりも減少している要因として考えられます。
日本などと比べるとまだまだ高くはないですが、大学進学率が現在では30%を超えていると言われています。
技能実習を希望するベトナム人は高卒以下の人が多いため、教育水準の向上による大学進学率増加で技能実習を希望する若者が減っているのです。
ベトナムの教育水準向上は、長期的には技能実習生の質的向上をもたらす一方、量的には供給減少につながる可能性があります。
都市部雇用改善の影響
ベトナムのGDP成長率は2023年だと5.05%と伸びており、GDPの42.5%を占めるサービス業では6.82%と好調な伸びを見せています。
そのため、都市部を中心に雇用は増えており、若者が職業を選べる状況となっています。
2022年の調査によると、都市部の平均月収は595万ドン(約3万6千円)、農村部は386万ドン(約2万4千円)です。
2012年と比較すると、都市部は約2.0倍、農村部は約2.4倍平均月収がアップしています。
都市部であればある程度の収入が見込めるため、多くの費用を負担してまで日本に技能実習に出向く必要性は薄れつつあります。
高額な送り出し費用問題
出入国在留管理庁は22年、「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」の結果を公表しています。
来日前に母国で借金をする実習生は約55%。国籍別に見ると最も高額なのはベトナムで、平均67万4480円(約4700ドル)でした。
技能実習生は日本に来る前に、現地の送り出し機関や仲介者に手数料を払うのが一般的です。
ベトナムに関して言えば、手数料額の平均は688,143円と高額になっており、これらの高額費用を支払うために借金をする方も多いです。
ベトナム国内経済の成長から給与水準も上がっているため、わざわざ借金のリスクを取ってまで日本に来ることを敬遠する若者も少なくありません。
高額な送り出し費用は技能実習生にとって大きな負担となり、失踪の一因ともなっています。
新しい育成就労制度では、こうした費用負担の軽減も検討されており、企業側も一定の負担を求められる可能性があります。
これらの変化を踏まえ、企業は従来の「安価な労働力」という発想から脱却し、「技能を持った貴重な人材」として外国人労働者を位置づけ直す必要があります。
制度変更を機会と捉え、より魅力的な受け入れ体制を構築することが、今後の成功につながるでしょう。
5.失敗を防ぐための注意点とベストプラクティス

ベトナム人技能実習生の受け入れを成功させるためには、よくある失敗パターンを事前に把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。
ここでは、実際の事例を基に具体的な注意点と成功企業の取り組みをご紹介します。
よくある失敗パターンと対策
コミュニケーション不足による問題
最も多い失敗の原因は、言語の壁によるコミュニケーション不足です。技能実習生は来日前に日本語の勉強はするものの、日本語での会話レベルはそこまで高くはありません。
日本語での会話がうまくできないと、受け入れ機関側の指示が通りにくいだけでなく、本人も言いたいことを伝えられずに、そのことがストレスとなって、最悪の場合、失踪につながるおそれもあります。
具体的な対策とは?
- 多言語対応マニュアルの作成:重要な作業手順書をベトナム語に翻訳する
- 通訳者の定期配置:月1回以上の面談で通訳を介した意思疎通をおこなう
- 翻訳アプリの活用:スマートフォンの翻訳アプリを業務に導入する
- ジェスチャー・図解の活用:言葉に頼らない指導方法を確立する
労働条件の誤解から生じるトラブル
ベトナムでは口約束で仕事を受ける場合も多いのですが、ベトナム人と契約する際は、しっかりと契約書を作るようにしましょう。
ベトナム人の技能実習生は多いので、他の技能実習生から聞いて、「他はもっといい待遇だったから」といった理由で、あとから色々と契約とは異なることを言ってくることもあります。
採用の際は労働時間や賃金などを労働条件通知書に明記し、技能実習生に交付します。認識の食い違いを防ぐため、ベトナム語で作成するとよいでしょう。
具体的な対策とは?
- 詳細な労働契約書の作成:勤務時間、残業条件、休日などをしっかり明記する
- ベトナム語版契約書の準備:認識の齟齬を防ぐため多言語対応していく
- 定期的な条件確認:月1回の面談で労働条件への理解度をチェックする
- 同業他社との情報共有:地域の受け入れ企業間での待遇水準を確認しておく
文化的配慮不足による離職・失踪
プライドが高いために、人前で叱られることを非常に嫌います。叱るときは、人がいない別室で叱るなどの配慮が必要でしょう。
文化的な違いを理解せずに指導を行うことで、技能実習生のモチベーション低下や信頼関係の悪化を招くケースが多く見られます。
具体的な対策とは?
- 個別指導の徹底:人前での叱責を避け、プライバシーに配慮する
- 積極的な称賛の実施:成果や努力を認める場を定期的に設ける
- 文化理解研修の実施:日本人職員向けのベトナム文化を理解する研修をおこなう
- 宗教・食事への配慮:宗教的行事や食事制限への理解をし対応していく
成功企業の取り組み事例
定着率向上のための具体的施策
【事例1:製造業A社(愛知県)】
- 日本語学習支援制度:週2回の日本語教室を企業内で実施
- メンター制度の導入:日本人社員1名が技能実習生2名を担当
- 家族とのコミュニケーション支援:月1回のビデオ通話環境を提供
- 結果:3年間の定着率95%を達成
【事例2:建設業B社(東京都)】
- キャリアパス明示制度:特定技能移行後の昇進・昇給計画を事前提示
- 技能検定合格支援:受験費用全額負担+合格奨励金支給
- 文化交流イベント:月1回のベトナム料理パーティーで親睦促進
- 結果:技能実習生の85%が特定技能に移行希望
技能実習生との良好な関係構築方法
成功企業に共通する関係構築のポイントは以下の通りです。
生産性向上と人材育成の両立事例
【事例3:食品製造業C社(静岡県)】
取り組み | 内容 | 効果 |
OJT制度の体系化 | 3ヶ月・6ヶ月・1年の段階的評価 | 技能習得速度30%向上 |
改善提案制度 | 技能実習生からの業務改善提案を奨励金付きで募集 | 年間20件の有効提案獲得 |
多能工化推進 | 複数工程の技能習得を推進 | 生産性15%向上 |
プライドの高さへの適切な対応
論理的説明の重要性
ベトナム人は論理的に物事を考える人が多く、仕事に関して納得できなければ、フラストレーションを抱える傾向があります。
したがって、仕事を任せたときは、なぜこの仕事のやり方なのか、仕事の割り振り方についても、質問があるかもしれません。論理的であるために、周りからはプライドが高いと映るようです。
【効果的な説明方法】
- 5W1Hの活用:なぜ(Why)を特に重視した説明
- 背景情報の共有:作業の目的や全体における位置づけの説明
- 質問歓迎の姿勢:「なぜこの方法なのか」への丁寧な回答
- 理由の文書化:重要な作業については理由を文書で説明
褒めることによるモチベーション向上
また、承認欲求が強いので、機会を見つけては褒めてあげると仕事へのモチベーションが高まります。
効果的な褒め方のポイントとは?
- 具体的な行動への称賛:「○○の作業が正確でした」など具体的にほめる
- 人前での表彰:月例会議などでの成果発表と表彰をする
- 成長の可視化:技能習得の進歩をグラフや証書で示す
- 同僚への紹介:他の職員にも成果を共有する
個別指導時の配慮事項
【プライバシーに配慮した指導環境】
- 専用の指導室の設置⇒他の職員の目に触れない空間での指導
- 時間帯の配慮⇒休憩時間やシフト終了後の個別指導
- 建設的なフィードバック⇒問題点と改善策をセットで提示
- フォローアップの実施⇒指導後の進捗確認と継続サポート
【文化的背景を考慮した指導方針】
- 面子を重視した対応⇒失敗を責めるのではなく学習機会として活用
- 段階的な責任付与⇒成功体験を積み重ねながら責任を拡大
- 同僚との関係性配慮⇒他の技能実習生との競争ではなく協力を促進
技能実習生を受け入れる企業、特に直接指導に当たる担当者は、ベトナム人に関するこれらの情報を把握し、指導していく必要があります。
人前で叱らないなど日本人に対する対応とは違った対応を求められる場面もありますが、コミュニケーションを普段からとり、お互いの国の文化を尊重して相手を気遣いながら歩み寄っていけば、スムーズにより良い関係を築いていけることでしょう。
これらのベストプラクティスを実践することで、技能実習生の定着率向上、生産性向上、そして企業と技能実習生双方にとって満足度の高い関係を築くことが可能になります。
重要なのは、一方的な指導ではなく、相互理解に基づいた人材育成の姿勢を持つことです。
6.持続可能なベトナム人技能実習生受け入れのために

本記事では、ベトナム人技能実習生が圧倒的に多い理由から受け入れ成功の具体的なステップまで、包括的に解説してきました。
最後に、これからの時代に求められる持続可能な受け入れ体制について総括します。
5ステップの要約
成功の5ステップの重要ポイント
ステップ | 重要ポイント | 成功の鍵 |
1. 受け入れ可能性確認 | 91職種168作業の該当性確認 | 事前の詳細調査 |
2. 送り出し機関選定 | MOC遵守と優良機関選択 | 透明性の高い契約 |
3. 費用算出と予算確保 | 初期費用62.5~177万円の準備 | 継続費用も含めた計画 |
4. 労働環境整備 | 最低賃金以上と法令遵守 | 日本人と同等の待遇 |
5. 指導体制構築 | 文化的配慮と効果的指導 | 相互理解に基づく関係構築 |
今後の展望と企業に求められる姿勢
制度変更への適切な対応
2027年頃から始まる育成就労制度への移行は、受け入れ企業にとって大きな転換点となります。
新制度では以下の変化に対応する必要があります。
- 転籍制限の緩和:人材流出リスクへの対策強化
- 特定技能1号への育成義務:より高度な教育プログラムの構築
- 対象分野の限定:特定産業分野への絞り込みへの対応
Win-Winの関係構築の重要性
技能実習生側のメリット最大化
2章の通り、ベトナム人技能実習生は母国の家族に仕送りする人が多く、技能実習先選びで賃金を重視します。
持続可能な受け入れのためには、技能実習生にとってのメリットを明確化し、継続的に提供することが不可欠です。
企業側のメリット最大化
企業にとっても明確なメリットを確保することで、持続的な受け入れが可能となります。
持続可能な外国人材活用戦略
受け入れ企業のコンプライアンス意識が高まり、日本が外国人労働者にとって安心して働ける国になれば、技能実習生を目指すベトナム人の増加につながるでしょう。
単なる労働力確保から、将来のパートナーとしての人材育成へ視点を転換することが重要です。個別企業の取り組みだけでなく、地域全体での連携による受け入れ環境の改善が求められます。
7.未来志向のパートナーシップへ。変化の時代におけるベトナム人材との共生

ベトナム人技能実習生の受け入れは、単なる労働力確保を超えた国際協力の取り組みです。
成功の5ステップを実践し、文化的配慮と法令遵守を徹底することで、企業と技能実習生双方が成長できる持続可能な関係を築けます。
変化を機会と捉え、今こそ適切な受け入れ体制の構築に取り組みましょう。
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