人手不足が深刻化する中、技人国ビザを持つ外国人材の派遣が注目されています。しかし「本当に合法なのか?」「どんなリスクがあるのか?」といった疑問を抱く企業も多いでしょう。
本記事では、技人国派遣の基本的な仕組みから避けるべき5つのリスク、成功のための実践ステップまで、最新の法改正情報に基づいて徹底解説します。
- 技人国派遣の合法性と他制度との違い
- 絶対に避けるべき5つのリスクと具体的な対策方法
- 成功のための5ステップ実践ガイドと企業事例
1.技人国派遣とは?他制度との違いを3分で理解

技人国派遣を検討する前に、まず基本的な仕組みを理解しましょう。
技人国ビザの対象職種から派遣が可能な理由、技能実習や特定技能との違い、そして派遣における三者の役割まで、安全な運用に必要な基礎知識を分かりやすく解説します。
技人国ビザの基本と派遣可能性
技術・人文知識・国際業務(通称:技人国)は、高度な専門性を持つ外国人材が日本で働くための在留資格です。
この在留資格では、派遣労働が明確に認められており、多くの企業が活用しています。
技人国ビザの対象職種(主要3分野)
- 技術分野
システムエンジニア、プログラマー、設計技術者、品質管理技術者 - 人文知識分野
企画・営業、経理・財務、法務、人事、マーケティング - 国際業務分野
通訳・翻訳、海外取引業務、語学教師、広報・宣伝
派遣が可能な理由は、技人国ビザが「活動内容」に基づく在留資格であり、雇用形態(正社員・派遣・契約社員)を制限していないためです。
ただし、従事する業務内容は必ず上記の専門的分野に該当する必要があります。
在留資格の比較表
技人国
- 派遣可否
- 対象業務 専門的・技術的業務
- 学歴要件 大学卒業程度
- 滞在期間 1〜5年 (更新可)
- 家族帯同
技能実習
- 派遣可否
- 対象業務 技能習得目的の実習
- 学歴要件 なし
- 滞在期間 最大5年
- 家族帯同
特定技能
- 派遣可否
- 対象業務 特定産業の現場業務
- 学歴要件 なし
- 滞在期間 1号:最大5年
- 家族帯同
技人国派遣の最大のメリットは、高いスキルレベルと即戦力性、そして長期雇用の可能性です。家族帯同も認められているため、安定した働き方を求める優秀な外国人材の確保が期待できます。
参考:出入国在留管理庁 在留資格「技術・人文知識・国際業務」
似たような在留資格では「特定技能」があります。技人国と特定技能の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
派遣の仕組みと三者の役割
技人国派遣では、以下の三者が関わります。
- 派遣元企業
- 派遣先企業
- 派遣労働者
それぞれの役割と責任を正しく理解することが、適法な運用の前提となります。
技人国派遣における三者の役割と責任
派遣元企業
- 労働者との雇用契約の締結
- 技人国ビザの申請・更新手続き
- 労働条件の設定と管理
- 社会保険の加入手続き
- 派遣先への業務報告と連絡調整
派遣先企業
- 派遣元との派遣契約の締結
- 具体的な業務指示と管理
- 労働安全衛生の確保
- 技人国要件に適合する業務の提供
- 労働者の就労状況の管理
派遣労働者
- 在留資格に適合する活動の維持
- 派遣先変更時の入管への届出
- 就労先・住居変更の適切な届出
- 在留期間更新の適切な申請
この三者関係において最も重要なのは、派遣先で従事する業務が技人国ビザの要件を満たすことです。
単純労働や技人国の範囲外業務に従事させた場合、派遣先企業も不法就労助長罪に問われるリスクがあります。
技人国のビザ申請については、こちらの記事で詳しく解説しています。
2.技人国派遣で絶対に避けるべき5つのリスクと対策

技人国派遣には法的リスクが伴います。
単純労働による不法就労助長罪から悪質派遣会社との契約まで、企業が陥りやすい5つの重大なリスクを具体例とともに解説し、それぞれに対する実践的な対策方法をご紹介します。
適切な予防策で安全な運用を実現しましょう。
リスク1:単純労働による不法就労助長
技人国派遣における最大のリスクは、派遣先で単純労働に従事させてしまうことです。これは不法就労助長罪(入管法第73条の2)に該当し、派遣先企業も刑事責任を問われます。
出入国管理及び難民認定法 第73条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
2 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
3 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者出典:e-GOV法令検索

グレーゾーンの判断基準
技人国業務かどうかの判断は「専門的知識・技術・経験を要するか」がポイントです。
例えば、同じシステム関連業務でも、要求定義や設計は技人国業務、単純なテストやデータ入力は単純労働と判断される場合があります。
職務内容チェックリスト
単純労働に該当しないか、以下の5つの視点で業務内容を確認しましょう。
リスク2:ビザ要件不適合による不許可
技人国ビザの申請要件を満たさない人材を派遣した場合、在留期間更新時に不許可となり、採用計画が頓挫するリスクがあります。
学歴・職歴要件の確認ポイント
- 学歴要件
4年制大学卒業または日本の専門学校卒業(2年以上) - 職歴要件
関連分野での実務経験10年以上(学歴要件を満たさない場合) - 専攻と業務の関連性
従事予定業務と大学での専攻分野の関連性

このリスクを回避するための対策として、以下のポイントに気を付けましょう。
- 学位記の原本確認と認証手続き
- 専攻分野と業務内容の関連性を文書で説明
- 前職の在職証明書・推薦状の取得
- 日本語能力試験(JLPT)N2以上の取得推奨
- 長期雇用を前提とした雇用契約書の作成
リスク3:変更届出の義務違反
技人国ビザ保持者は、就労先や活動内容に変更があった場合、入管への届出義務があります。
この届出を怠ると、在留期間更新時に不利になる可能性があり、最悪の場合は更新が不許可となるリスクがあります。
派遣という働き方の特性上、派遣先の変更は頻繁に発生するため、特に注意が必要です。
入管への届出が必要なケースと管理体制
届出が必要なケース
- 派遣先企業の変更
- 業務内容の大幅な変更
- 勤務地の変更(都道府県をまたぐ場合)
- 労働条件の重要な変更
- 派遣契約の期間延長
届出の方法
- 届出期限:変更から14日以内
- 届出方法:入管への「活動機関に関する届出」
- 必要書類:新しい派遣契約書、業務内容説明書 等
対策:管理体制の構築
- 派遣先変更時の届出フローの明文化
- 派遣元・派遣先での情報共有体制の構築
- 定期的な就労状況の確認とチェック
- 届出漏れを防ぐリマインダーシステムの導入
リスク4:労働条件の法令違反
技人国派遣においても、労働基準法等の国内法令が適用されます。特に「日本人と同等以上の報酬」という原則を守る必要があります。
同等待遇の原則と最低賃金
- 同種の業務に従事する日本人と同等以上の報酬
- 各都道府県の最低賃金の遵守
- 残業代・休日手当等の適切な支払い
- 有給休暇の付与と取得の促進

契約書のチェックポイント
適正な労働条件か、契約前に必ず確認しましょう。
リスク5:悪質派遣会社との契約
信頼性の低い派遣会社と契約した場合、法令違反やトラブルに巻き込まれるリスクがあります。派遣先企業も連帯責任を問われる可能性があるので警戒しなければなりません。
悪質業者の見分け方
- 許可証の掲示がない、または期限切れ
- 極端に安い派遣料金の提示
- 契約書の内容が曖昧または不備がある
- 労働者の在留資格確認を怠る
- 過去にトラブルや法令違反の履歴がある
優良派遣会社の見分け方

契約前に上記7つのポイントを必ず確認し、複数社から見積もりを取得して比較検討することが重要です。
また、実際に派遣された外国人材との面談機会を設け、派遣会社の対応状況を直接確認することも効果的です。
- 適切な許可
労働者派遣事業許可を取得している - 専門性
外国人雇用に関する専門知識を有している - 透明性
料金体系や契約条件が明確 - サポート体制
ビザ手続きや労務管理のサポートが充実 - 実績
同業種での派遣実績が豊富 - コンプライアンス
- 法令遵守体制が整備されている
- アフターサポート
派遣後の継続的なフォローがある
3.技人国派遣成功のための5ステップ実践ガイド

リスクを理解したら、次は実際の導入に向けた具体的なステップを確認しましょう。
社内体制の整備から派遣会社選定、人材選考、ビザ申請、受入れ後のサポートまで、技人国派遣を成功に導くための5つのステップを実践的に解説します。
ステップ1:社内受入れ体制の構築
技人国派遣を成功させるには、まず社内の受入れ体制を整備することです。経営層から現場まで、全社的な理解と協力体制を構築しましょう。
受入れ体制整備のポイント
- 経営層の理解促進
外国人材活用の意義と効果を経営陣に説明 - 現場責任者の選定
外国人材の指導・管理を担当する責任者を明確化 - 受入れマニュアルの策定
業務指導、コミュニケーション、緊急時対応等を文書化 - 社内研修の実施
多様性への理解、コミュニケーション方法等の研修 - 環境整備
必要に応じて多言語対応、文化的配慮等の環境整備
ステップ2:信頼できる派遣会社の選定
優良な派遣会社との連携が、技人国派遣成功の鍵となります。前章で説明した7つのポイントを基に、慎重に選定しましょう。
派遣会社選定の具体的手順
- 候補リストの作成
3〜5社程度の候補をリストアップ - 資料請求と初回面談
会社概要、実績、サービス内容の確認 - 詳細ヒアリング
具体的なニーズに対する提案内容の比較 - 契約条件の交渉
料金、サポート内容、責任範囲等の詳細交渉 - 最終決定
総合的な評価による最適な派遣会社の選定

ステップ3:要件を満たす人材の見極め
技人国要件を満たし、自社の業務に適した人材を選考します。書類審査と面接を通じて、多角的に評価しましょう。
書類審査のポイント
審査ポイント | 詳細 |
---|---|
学歴確認 | 大学の卒業証明書、学位記の確認 |
職歴確認 | 関連分野での実務経験の有無と期間 |
専攻と業務の関連性 | 大学での専攻分野と従事予定業務の関連性 |
日本語能力 | JLPT等の日本語能力証明書 |
その他のスキル | IT技術、語学力等の追加スキル |

ステップ4:スムーズなビザ申請のコツ
ビザ申請は派遣元企業が主体となって行いますが、派遣先企業も協力が必要です。申請の成功率を高めるため、以下のポイントを押さえましょう。
準備すべき申請書類 | 気を付けるポイント |
---|---|
雇用契約書 | 労働条件、業務内容等を詳細に記載 |
業務内容説明書 | 従事予定業務の専門性を具体的に説明 |
会社案内 | 派遣先企業の事業内容、規模等の資料 |
学歴・職歴証明書 | 本人の経歴を証明する書類一式 |
その他 | 必要に応じて推薦状、資格証明書等 |
申請のタイミング
- 在留期間更新
期間満了の3ヶ月前から申請可能 - 新規申請
就労開始予定日の2〜3ヶ月前に申請 - 変更申請
活動内容変更の場合は速やかに申請
ステップ5:受入れ後のサポート体制
技人国派遣は、受入れ後の継続的な管理が重要です。法的要件の遵守状況を定期的にチェックし、問題があれば速やかに対応しましょう。
定期チェック項目
- 業務内容の適合性
技人国要件に適合する業務に従事しているか - 労働条件の遵守
契約書通りの労働条件が守られているか - 届出義務の履行
必要な変更届出が適切に行われているか - 在留期間の管理
更新手続きのタイミングを逃していないか
定着促進の取り組み
外国人材の定着率向上は、企業にとって重要な課題です。以下の取り組みを通じて、働きやすい環境を整備しましょう。
定着促進策
- メンター制度
日本人社員がサポート役となる制度 - 定期面談
業務の悩みや生活面の相談に対応 - キャリア開発支援
スキルアップや昇進の機会提供 - 文化交流活動
社内イベント等を通じた相互理解の促進 - 生活サポート
住居、銀行口座開設等の生活面でのサポート
4.よくある質問:技人国派遣FAQ

技人国派遣の検討や運用において、企業から寄せられる代表的な疑問にお答えします。
契約期間や業務範囲、ビザ申請手続きから労働条件まで、実務で直面しやすい14の質問を厳選し、分かりやすく解説します。疑問解消にお役立てください。
契約・業務に関するFAQ
-
技人国派遣の契約期間に上限はありますか?
-
技人国ビザ自体に派遣期間の上限はありませんが、在留期間(通常1〜5年)の範囲内である必要があります。また、派遣法による同一の派遣先での就業期間制限(原則3年)が適用される場合があります。
-
時給制での雇用は可能ですか?
-
可能です。ただし、日本人と同等以上の報酬水準を維持し、各都道府県の最低賃金を上回る必要があります。時給1,500円以上が一般的な水準です。
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シフト勤務や夜勤は認められますか?
-
技人国の業務範囲内であれば可能です。ただし、労働基準法の規定(深夜手当等)を遵守し、健康管理に配慮する必要があります。
-
派遣先の変更は自由にできますか?
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可能ですが、変更後14日以内に入管への届出が必要です。また、新しい派遣先での業務内容も技人国要件を満たす必要があります。
-
複数の職種を兼務させることは可能ですか?
-
技人国の範囲内であれば可能です。ただし、主たる業務が技人国要件を満たし、兼務する業務も専門性を要する内容である必要があります。
-
研修期間中の業務内容に制限はありますか?
-
研修目的であっても技人国の業務範囲を逸脱することはできません。単純作業中心の研修は避け、専門知識の習得を目的とした内容にする必要があります。
-
技人国派遣社員に残業させることは可能ですか?
-
可能ですが、36協定の締結と労働時間の適切な管理が必要です。残業代の支払いも日本人と同等の条件で行う必要があります。
-
業務に必要な資格取得の費用負担はどうすべきですか?
-
法的な義務はありませんが、業務に直結する資格については企業負担とすることで、人材の定着とスキル向上が期待できます。
手続き・法的要件に関するFAQ
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ビザ申請は派遣元と派遣先、どちらが行いますか?
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原則として雇用主である派遣元企業が申請者となります。ただし、派遣先企業も業務内容説明書等の書類作成で協力が必要です。
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在留期間の更新手続きは誰が行いますか?
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本人が申請者となりますが、実務的には派遣元企業がサポートするケースが多いです。派遣先企業も必要書類の提供等で協力します。
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技人国派遣社員が退職する際の手続きは?
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派遣元企業は雇用終了日から14日以内に入管へ「活動機関に関する届出」を提出する必要があります。また、次の就職先が決まっていない場合の在留資格への変更についてもアドバイスが必要です。
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労働基準監督署への特別な届出は必要ですか?
-
技人国派遣に特化した届出は不要ですが、一般的な労働者派遣事業として労働局への事業報告等は必要です。また、外国人雇用状況の届出(ハローワーク)も必要です。
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社会保険の加入義務はありますか?
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日本人と同様に、雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険への加入が義務付けられています。加入手続きは派遣元企業が行います。
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入管の実地調査が入った場合の対応は?
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誠実に協力し、求められた書類や情報を提供します。普段から適切な書類管理と業務記録の保持をしておきましょう。そして派遣会社と連携して対応しましょう。
5.成功のカギを握って外国人材と次のアクションへ

技人国派遣は適切に運用すれば、企業成長と外国人材のキャリア発展を両立できる優れた制度です。
成功の鍵は法的要件の正確な理解、信頼できる派遣会社との連携、継続的なコンプライアンス体制の3つです。
まずは専門家への相談から始め、安全で効果的な技人国派遣により人手不足解決と企業成長を実現しましょう。