インドネシア人の採用を検討する際、「言語の壁」について不安を感じていませんか?
実は、インドネシアは500以上の言語が共存する多言語国家で、多くのインドネシア人は幼少期から複数言語を使い分けています。
この言語的特性を正しく理解し活用することで、優秀なインドネシア人材との良好な関係を築き、事業成長につなげることができます。
本記事では、雇用前に知っておくべき言語事情と実践的なコミュニケーション術を詳しく解説します。
- インドネシア人の複雑な言語事情:公用語のインドネシア語と500以上の地方語の使い分け
- 雇用前に確認すべき3つの言語チェックポイント:出身地・職種・宗教による配慮事項
- 効果的なコミュニケーション構築法:視覚的補助・やさしい日本語・基本フレーズの活用術
1.インドネシア人の母国語は何?多民族国家の言語事情

インドネシア人の採用を成功させるには、まず彼らの言語的な背景を理解することが重要です。
というのも、13,000以上の島々からなるインドネシアでは、公用語のインドネシア語と500以上の地方語が共存する複雑な言語環境があります。
しかし、この多様性こそが、インドネシア人材の強みでもあるのです。
インドネシア語が公用語となった理由
インドネシアの公用語はインドネシア語(Bahasa Indonesia)です。この言語が国語として制定されたのは1928年のことで、独立運動の中で民族統一の象徴として選ばれました。
もともとインドネシア語は、マラッカ海峡周辺で交易に使われていた「海峡マレー語」が基盤となっています。
13,000以上の島々からなる多民族国家において、各地域の異なる言語を統一する必要があったため、既に商業や交流で広く使われていたマレー語の一方言が採用されたのです。
興味深いことに、インドネシア建国時にインドネシア語を母語とする人口はわずか5%程度でした。つまり、多くの国民にとってインドネシア語は「学習して覚える第二言語」だったのです。
多言語国家インドネシアの実態
現在のインドネシアでは、公用語のインドネシア語と並行して、500以上の地方語が日常的に使用されています。
主要な地方語には以下があります。

- ジャワ語:約4割の人口が話す最大の地方語
- スンダ語:西ジャワ地域で広く使用
- バタク語:北スマトラ地域の言語
- ミナンカバウ語:西スマトラ地域の言語
- バリ語:バリ島で使用(ヒンドゥー教の影響あり)
インドネシア人は「公の言葉」と「私の言葉」を明確に使い分けています。
学校や職場ではインドネシア語、家庭や友人同士では地方語という具合に、場面に応じて瞬時に言語を切り替える能力を持っています。
出典:Bahasa dan Peta Bahasa di Indonesia
インドネシア人の「母国語」の定義とは
では、インドネシア人にとっての「母国語」とは何でしょうか。この答えは一概には言えません。
地方語が母国語のケース
多くのインドネシア人は、生まれてから最初に覚える言語は出身地の地方語です。家庭内ではジャワ語やスンダ語で会話し、学校に入ってからインドネシア語を学習します。
インドネシア語が母国語のケース
一方、ジャカルタなどの大都市では、インドネシア語を母語とする人が確実に増えています。特に都市部の若い世代は、インドネシア語で育ち、地方語は理解できても流暢に話せないケースもあります。
企業の採用担当者は、この複雑な言語背景を理解した上で、応募者の出身地域や家庭環境を確認し、その人の言語的バックグラウンドを把握することが重要です。
2.インドネシア人の言語能力とビジネス現場での特徴

多言語環境で育ったインドネシア人ですが、英語力はどうでしょうか?
英語力は、地域・世代・教育レベルによって大きな差があるため、採用時の適切な評価と配置が成功の鍵となります。
ここではビジネス現場で活かせる特徴を詳しく解説します。
バイリンガル・トリリンガルが一般的な環境
インドネシアでは「BHINNEKA TUNGGAL IKA(多様性の中の統一)」という国是の通り、幼少期からバイリンガルやトリリンガルが当たり前の環境です。
多くのインドネシア人は以下のような言語構成を持っています。

この多言語環境で育ったインドネシア人は、相手や状況に応じて言語を瞬時に切り替える能力に長けています。
例えば、ジャワ人同士がジャワ語で話していても、他の地域出身者が加わるとインドネシア語に、外国人が参加すると英語に自然に切り替わります。
ビジネス現場での活用メリット
- 多様な顧客層への対応が可能
- 言語の橋渡し役として機能
- 異文化コミュニケーション能力が高い
地域・世代・教育による英語力の違い
インドネシア人の英語力は、出身地域、世代、教育レベルによって大きく異なります。
企業の採用担当者は、この違いを理解して適切な配置を行う必要があります。
地域による違い
地域 | 英語力の特徴 | ビジネス活用度 |
---|---|---|
ジャカルタ・スラバヤ(大都市) | 高い英語力、国際的な環境 | ★★★★★ |
バンドン・ジョグジャカルタ(教育都市) | 学術的な英語力 | ★★★★☆ |
地方都市・農村部 | 基礎的な英語力 | ★★☆☆☆ |
教育レベルによる違い
- 大学卒業者:基本的に流暢な英語を話せる(TOEIC600点レベル以上が多い)
- 専修学校卒業者:日常会話レベルの英語
- 高校卒業者:簡単な英語での意思疎通は可能
世代による特徴
- 20-30代:デジタルネイティブ世代、オンライン学習で英語力向上
- 30-40代:ビジネス英語に慣れている
- 40代以上:英語よりもインドネシア語での対応を好む傾向
特に注目すべきは、ワーカーレベルの方は英語を話せない人が多いという点です。
現場や工場での直接的なコミュニケーションが必要な場合は、基本的なインドネシア語の習得が必須となります。
インドネシア人の英語力についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をお勧めします。
3.雇用前に確認すべき3つの言語ポイント

採用面接で言語能力を正確に把握することは、雇用後のトラブル防止と適材適所の人材配置に直結します。
表面的な語学力だけでなく、出身地域の文化的背景や職種別の言語要件を踏まえた総合的な評価が重要です。面接で必ず確認すべき3つのポイントを解説します。
出身地と業務に必要な言語レベルをチェック
採用面接では、応募者の言語的バックグラウンドを正確に把握することが成功の鍵となります。以下の質問項目を活用して、体系的に確認しましょう。
面接での確認項目
出身地域の確認
- 「出身はどちらですか?家庭では何語を話していましたか?」
- 「インドネシア語と地方語、どちらの方が得意ですか?」
- 「地方語での業務説明が必要な同僚はいますか?」
言語能力の具体的評価
- インドネシア語:読み書きレベル、ビジネス文書作成能力
- 英語力:TOEIC等の資格、実際の会話テスト
- 日本語力:現在のレベルと学習意欲
実務での言語使用確認
応募者に「前職では主にどの言語で業務を行っていましたか?」と質問し、実際の業務経験を確認します。机上の語学力と実務での使用能力は異なる場合があるためです。
インドネシア人の日本語能力と教育事情について知りたい方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
職種別に求められる言語スキルを理解する
業界や職種によって必要な言語スキルは大きく異なります。以下の基準を参考に、適切な人材配置を行いましょう。

宗教や文化による言語の配慮点
インドネシア人の86%以上がイスラム教徒であり、宗教的背景が言語使用や表現に影響を与える場合があります。
イスラム教徒への配慮
- 挨拶:「アッサラームアライクム」(平安があなたに)の理解
- 時間表現:「インシャーアッラー」(神の意志により)の使用
- 禁止表現:豚肉、アルコールに関する直接的な表現を避ける
ヒンドゥー教徒(主にバリ出身)への配慮
- 挨拶:「オンスワスティアストゥ」の理解
- 禁止表現:牛肉に関する表現への注意
- 文化的配慮:バリの伝統的な価値観への理解
言語使用での実践例
避けるべき表現 | 配慮した表現 |
---|---|
「豚肉入りの弁当はいかがですか?」 | 「ハラール対応の食事をご用意できます」 |
「絶対に明日までに完成させてください」 | 「明日までの完成を目標にしていますが、いかがでしょうか?」 |
これらの配慮により、宗教的な価値観を尊重しながら円滑なコミュニケーションが可能になります。
4.効果的なコミュニケーションの構築法

言語の違いを乗り越えて生産性の高い職場環境を作るには、具体的な手法とツールの活用が不可欠です。
視覚的補助、やさしい日本語、基本的なインドネシア語フレーズの3つのテクニックと、組織全体での多言語環境づくりについて、実践的な方法を詳しく紹介します。
言語の壁を超える3つの実践テクニック
言語の違いを乗り越えて効果的なコミュニケーションを実現するには、以下の3つのテクニックを組み合わせて活用しましょう。
言葉だけでは伝わりにくい内容も、視覚的な補助があることで理解度が飛躍的に向上します。
特に製造業では、危険作業の説明に視覚的補助は欠かせません。インドネシア語と日本語の併記により、理解度と安全性の両方を確保できます。
チームでの多言語環境づくり
組織全体で多言語環境を支援する仕組みを構築することで、インドネシア人材の能力を最大限に活用できます。

これらの取り組みにより、言語の違いを障壁ではなく、企業の強みとして活用できる環境を構築できます。
5.インドネシア人との言語トラブル回避法

インドネシア人特有の「断りにくい」文化的背景を理解せずに業務を進めると、重大な誤解やトラブルが発生する可能性があります。
例えば、彼らの「大丈夫です」が本当の意味を見極め、組織全体で統一されたコミュニケーションルールを設けることが重要です。
「大丈夫」の裏に潜む理解不足への対応
インドネシア人は相手との関係性を重視し、断ることに慣れていない文化的背景があります。
そのため「大丈夫です」「わかりました」という返答が、必ずしも完全な理解を意味するとは限りません。
真の理解度を確認する方法
1. 具体的な確認質問
避けるべき質問 | 効果的な質問 |
---|---|
「分かりましたか?」 | 「どのような手順で進めますか?」 「いつまでに完成予定ですか?」 「困ったときは誰に相談しますか?」 |
2. 段階的な確認
- 即座の確認:説明直後の理解度チェック
- 中間確認:作業開始後の進捗確認
- 最終確認:完成前の品質チェック
3. 非言語的サインの観察
- 表情の変化(困惑、不安の表情)
- 質問の頻度(理解不足のサイン)
- 作業スピードの変化
誤解防止のためのコミュニケーションルール
組織全体で統一されたコミュニケーションルールを設けることで、言語的な誤解を防ぐことができます。
報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の多言語対応

トラブル発生時の対処法
1. 感情的にならず冷静に対応
インドネシア人は人前で怒られることに慣れていないため、個別に冷静に話し合うことが重要です。
2. 原因の特定と対策
言語理解の問題なのか、文化的な違いなのか、技術的な問題なのかを明確に分けて対処します。
3. 再発防止策の共有
同様のトラブルが他のスタッフにも起きないよう、組織全体で学習し改善策を共有します。
6.インドネシア人の言語特性を理解し、雇用成功を実現しよう

インドネシア人材の多言語能力は、グローバル化が進む現代ビジネスにおいて大きな競争優位となります。
言語の違いを障壁ではなく企業の強みとして捉え、文化的配慮を重視したコミュニケーション環境を構築することが成功の鍵です。
まずは採用面接での言語確認から始め、段階的に多言語対応の職場環境を整備してください。
インドネシア人材が持つ豊かな言語的・文化的背景を最大限に活用し、共に成長する組織を目指しましょう。
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