インドネシア人採用が前年比320%増と急拡大する中、企業が直面する最大の課題がビザ手続きです。
他国と異なる15日間のビザ免除制度や特殊な申請手続きを理解せずに進めると、不法就労助長罪などの重大なリスクを招きます。
本記事では、短期滞在から就労まで企業が知るべき7つの重要ポイントを実務的に解説し、安全で効率的なインドネシア人材採用を実現する方法をお伝えします。
- インドネシア特有のビザ制度(15日間免除・IC旅券事前登録)の正しい理解と活用方法
- 技人国ビザと特定技能ビザの使い分けによる効率的な人材採用戦略
- 申請失敗を防ぐ具体的対策とインドネシア政府手続き(SISKOTKLN等)への対応法
1.インドネシア人の訪日ビザ制度の基本

インドネシアは日本にとって特別なビザ免除措置国ですが、他国とは大きく異なる制度を持っています。
企業が商用目的での招聘(しょうへい)や短期研修を検討する際、制度の特殊性を理解しないと思わぬトラブルに発展する可能性があります。
ビザ免除制度の概要と注意点
インドネシアは日本にとって特別なビザ免除措置国です。ただし、他のビザ免除国とは大きく異なる特徴があります。
インドネシア人のビザ免除条件
- IC旅券の所持: 国際民間航空機関(ICAO)標準のインドネシアIC旅券(旅券表紙にICロゴマーク入り)
- 事前登録: インドネシア国内の日本の在外公館(大使館・総領事館)での事前登録が必要
- 滞在期間: 15日間まで(他のビザ免除国は通常90日)

企業が商用目的でインドネシア人を招聘する場合、会議出席や工場視察などは可能ですが、報酬を伴う業務は一切禁止されています。
滞在目的別の主なビザ種類
インドネシア人が日本に入国する際のビザは、滞在目的と期間によって以下のように分類されます。
ビザ種類 | 滞在期間 | 主な目的 | 就労可否 |
---|---|---|---|
ビザ免除 | 15日以内 | 観光・商用・訪問 | ×(報酬なし) |
短期滞在 | 15日・30日・90日 | 観光・商用・招聘 | ×(報酬なし) |
技術・人文知識・国際業務 | 5年・3年・1年・3か月 | オフィスワーク | ○ |
特定技能 | 1号:通算5年 2号:更新回数上限なし | 特定産業での技能労働 | ○ |
技能実習 | 最大5年 | 技能習得・移転 | ○(制限あり) |
介護 | 5年・3年・1年 | 介護業務 | ○ |
企業の人事担当者は、採用予定者の業務内容と学歴・経験に応じて、適切なビザを選択することが重要です。
2.インドネシア人の就労ビザ|企業が押さえるべき主要2種類

インドネシア人の就労において最も重要なのが、技人国ビザと特定技能ビザの適切な選択です。
業務内容や人材のスキルレベルによって使い分けることで、採用成功率を大幅に向上させることができます。
技人国ビザと特定技能ビザの違い
インドネシア人の就労において最も利用される「技人国ビザ」と「特定技能ビザ」、この2つのビザについて、企業が理解すべき重要な違いを比較表で整理します。
項目 | 技術・人文知識・国際業務 | 特定技能1号 |
---|---|---|
対象業務 | オフィスワーク中心 | 現場作業中心 |
学歴要件 | 大学卒業または日本の専門学校卒業 | 不要 |
技能要件 | 学歴に関連する専門知識 | 技能試験合格または技能実習修了 |
対象業種 | 制限なし | 16分野に限定 |
在留期間 | 5年・3年・1年・3か月 | 通算最長5年 |
転職 | 同一業務範囲内で可能 | 同一分野内で可能 |
家族帯同 | 可能(条件あり) | 不可 |
永住申請 | 可能 | 可能 |

就労ビザの種類に関して、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事がおすすめです。
技人国ビザの申請実務と注意点
技人国ビザは最も汎用性の高い就労ビザですが、申請には厳格な要件があります。

特定技能ビザの制度概要と注意点
特定技能ビザは2019年に新設された制度で、インドネシア人の利用が急増しています。


インドネシア特有の手続き
インドネシア国籍の方をインドネシアから新たに特定技能外国人として受け入れるためには、在留資格認定証明書交付手続や査証発給手続といった日本側の手続が必要となります。
これに加え、インドネシア側でもインドネシア国籍の方の送出しに伴う一定の手続が必要とされています。
- IPKOL登録: 受入企業がインドネシア政府機関(労働省)に事前登録(所要期間:1-2か月)
- SISKOP2MI登録: 労働者がインドネシア政府の海外労働者管理システムに登録
- 推薦状取得: インドネシア政府からの推薦状(LOA)が必要
- PDKI加入: インドネシア政府指定の保険への加入義務
参考元:
法務省 インドネシア国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ
IPKOL、SISKOP2MI
特定技能外国人材を雇用した企業側には主要義務が発生します。義務の内容は以下を参考にしてください。
- 支援計画の作成・実施: 登録支援機関への委託または自社での支援体制構築
- 定期面談: 3か月に1回以上の生活相談・労働状況確認
- 生活支援: 住居確保支援、銀行口座開設、携帯電話契約等の支援
- 日本語学習支援: 業務に必要な日本語習得のための学習機会提供
- 定期報告: 出入国在留管理庁への四半期ごとの活動状況報告
3.就労ビザ取得に必要な手続きと書類

就労ビザの申請には、海外採用と国内での資格変更という2つのルートがあります。それぞれ手続きの流れや必要書類が異なるため、採用計画に応じた適切な選択が成功の鍵となります。
海外採用 vs 国内変更|申請フローの違い
インドネシア人の就労ビザ取得には、採用状況によって2つの申請ルートがあります。
海外採用(在留資格認定証明書交付申請)の場合

国内変更の場合(在留資格変更許可申請)

企業が準備すべき書類と体制
企業の規模により必要書類が異なります。出入国在留管理庁は企業を4つのカテゴリーに分類しています。
カテゴリー別必要書類
カテゴリー | 企業規模 | 主な追加書類 |
---|---|---|
1 | 上場企業等 | 四季報のコピー |
2 | 前年分給与所得の源泉徴収税額が1,000万円以上ある団体または個人 | 前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 |
3 | 前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表が提出された団体または個人 | ・カテゴリーを証明する書類 ・外国人本人の活動内容を証明する書類(職務内容説明書等) ・外国人本人の学歴や職歴などを証明する文書 ・企業の事業内容を明らかにする資料(会社案内等) ・企業の登記事項証明書 ・企業の決算文書の写し |
4 | カテゴリー1~3に該当しない団体または個人 | カテゴリー3の書類に加えて… ・前年分の給与所得の源泉徴収票等を提出できない理由説明書 ・新設企業の場合は、決算文書の代わりに詳細な事業計画書 ・資本金や経営者の経歴を示す資料 |
共通して必要な書類
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 雇用契約書または採用内定通知書
- 企業の商業・法人登記簿謄本
- 事業内容を明らかにする資料
申請代行を利用する判断基準は以下を参考にしてください。
- 自社対応: カテゴリー1・2で定型的な職種の場合
- 専門家依頼: カテゴリー3・4、複雑な職務内容、過去に不許可歴がある場合
4.インドネシア人アルバイト雇用時の注意点

インドネシア人留学生をアルバイトで雇用する企業が増加していますが、適切な手続きを怠ると不法就労助長罪の重大なリスクを招きます。法的制限を正しく理解し、コンプライアンスを遵守した雇用が必要です。
資格外活動許可と就労可能範囲
インドネシア人留学生や家族滞在者をアルバイトで雇用する場合、企業は法的制限を厳格に守る必要があります。
資格外活動許可の確認項目
- 許可証の有無: 在留カードの裏面または別途交付される許可書の確認
- 許可内容: 「包括許可」または「個別許可」の区別
- 許可期限: 在留期間と連動するため定期的な確認が必要
就労時間制限
在留資格 | 学期中 | 長期休暇中 | 備考 |
---|---|---|---|
留学 | 週28時間以内 | 1日8時間以内 | 学校の授業がある日の計算 |
家族滞在 | 週28時間以内 | 週28時間以内 | 通年同じ制限 |
留学生アルバイトでは風営法第2条に当たる風俗営業をはじめとした禁止業務があります。
- 風俗営業関連業務(パチンコ店・ゲームセンター・キャバクラ等)
- 単純労働への正社員登用前提の長期アルバイト
- 許可された範囲を超える業務
留学生アルバイトを禁止業務に就けた場合、企業へのペナルティは避けられません。

適正雇用のチェックポイント
- 月初に前月の労働時間集計と確認
- 学校の長期休暇スケジュールの把握
- 複数事業所での就労の有無確認(合算で28時間制限)
- 在留期間更新時の許可継続確認
企業は単なる労働力として活用するのではなく、将来の正社員候補として育成し、適切なビザへの変更を支援することで、長期的な人材確保につなげることが重要です。
留学生を採用する際の流れはこちらの記事で詳しく書かれています。
5.インドネシア人ビザでよくある失敗とその対策

多くの企業がインドネシア人のビザ申請で直面する典型的な失敗例があります。これらの失敗を事前に把握し、適切な対策を講じることで、申請成功率を大幅に向上させることができます。
書類不備・手続きミスの典型例
インドネシア人のビザ申請でよく見られる失敗例と、その予防策をご紹介します。
インドネシア特有の注意点と文化的配慮
インドネシア人特有の制度や文化的背景を理解した対応が成功の鍵となります。
SISKOP2MI登録の注意点
SISKOP2M(海外労働者管理システム)への登録は、在留資格認定証明書交付後に行う必要があります。パスポート、雇用契約書、健康診断書等の書類準備が必要で、登録完了まで2-4週間程度を要します。
最も重要な点は、この登録が完了するまでは日本への入国ができないことです。企業は入国スケジュールを立てる際、この期間を必ず考慮する必要があります。
宗教的配慮の必要性
インドネシア人の約87%がイスラム教徒であるため、宗教的配慮が不可欠です。
1日5回の礼拝時間への配慮が必要で、特に金曜日の集団礼拝(ジュムア)は重要視されます。ラマダーン期間中は日の出から日没まで断食を行うため、勤務時間の調整や体調管理への配慮が求められます。
また、ハラール食品への対応や、歓送迎会等でのアルコールや豚肉を使用しない配慮、イスラム教の祝祭日(イード等)への理解も重要です。
コミュニケーション上の注意
インドネシア人は面子を重んじる文化があるため、人前での叱責や直接的否定は避ける必要があります。建設的な指導を行う際は、個別に時間を設けて丁寧に説明することが効果的です。
また家族を重視する価値観が強く、家族の病気や重要な行事での急な帰国ニーズが生じる可能性があります。また、日本ほど厳格な時間管理でない文化的背景があるため、時間感覚の違いについて理解を示しつつ、徐々に日本のビジネス慣行に適応してもらう姿勢が大切です。
審査における文化的理解のアピール
ビザ申請書類には、宗教的配慮の具体的対応策を記載することで、審査官に対して多文化共生への企業の取り組み姿勢を示すことができます。既にインドネシア人社員が活躍している場合は、その事例を積極的に紹介し、受入れ体制の充実をアピールすることが効果的です。
これらの配慮は、単なる審査対策ではなく、実際の職場での円滑な人間関係構築にも直結します。
これらの失敗を避けることで、申請成功率は大幅に向上し、採用スケジュールの予見性も高まります。
6.インドネシア人採用の成功に導くポイント

ビザ取得は採用プロセスの始まりに過ぎません。
長期的な人材定着と企業の成長を実現するには、適切な支援体制の構築と継続的な制度理解が不可欠です。成功企業の実践例から学ぶポイントをご紹介します。
書類精度・専門家活用のメリット
適切な準備と専門家の活用により、ビザ申請の成功率と効率性を大幅に向上できます。
書類精度向上のポイント
- 職務経歴書の日本式フォーマット化: インドネシア式から日本の審査基準に適合した形式への変更
- 学歴証明書の完全性: 卒業証明書・成績証明書・シラバス等の包括的取得
- 企業説明資料の充実: 事業内容・組織図・既存外国人社員の状況等を詳細に記載
専門家活用の判断基準
状況 | 自社対応 | 専門家依頼 |
---|---|---|
企業カテゴリー | 1・2 | 3・4 |
職種 | 典型的なオフィスワーク | 複合的業務・新規業種 |
過去実績 | 外国人雇用経験あり | 初回または過去に不許可 |
緊急性 | 時間的余裕あり | 急ぎの採用ニーズ |
費用対効果の考え方
専門家活用の判断には費用対効果の検討が必要です。
行政書士費用は15-30万円程度ですが、自社対応の場合は人事担当者が約40-60時間を要します。
失敗時の損失を考慮すると、採用計画の遅延、再申請費用、機会損失は専門家費用を大幅に上回る可能性があります。
採用後の長期定着支援と制度理解
ビザ取得は採用の出発点であり、長期的な制度理解と支援体制が定着の鍵となります。
在留管理の継続的対応
在留管理は継続的な対応が必要な重要な業務です。在留期間更新は期限の3か月前から準備を開始し、必要書類の収集や申請手続きを計画的に進める必要があります。
転職が発生した場合は14日以内の届出義務があるため、人事システムで管理するのがいいでしょう。住所変更についても転居後14日以内の届出が法的義務となっているため、社員への周知徹底が必要です。

支援体制の構築
- メンター制度: 日本人社員との1対1サポート体制
- 日本語研修: 業務に必要な専門用語・ビジネス日本語の習得支援
- 文化理解研修: 日本のビジネス慣行・企業文化への適応支援
制度変更への対応
外国人雇用に関する制度は頻繁に変更されるため、入管法改正の動向把握しておくことをおすすめします。インドネシア政府の政策変更への対応や、二国間協定の変更に伴う手続き見直しにも迅速に対応する必要があります。
定着率向上の実績データ
実際のデータによると、適切な支援体制を持つ企業では3年定着率が85%以上を記録している一方、制度理解不足の企業では40%以下に留まっています。
継続的な制度理解と支援により、インドネシア人材の能力を最大限に活かし、企業の競争力向上につなげることができます。
7.インドネシア人ビザ申請成功のカギ

インドネシア人材の採用成功には、他国と異なる特殊なビザ制度への正しい理解が不可欠です。
15日間の短期免除から技人国・特定技能ビザまで、適切な手続きと文化的配慮により、優秀な人材を安全に受け入れることができます。
本記事のポイントを活用し、コンプライアンスを遵守した持続的な採用体制を構築して、企業の競争力向上を実現してください。