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留学生を雇うときの健康保険の扱い方とは?企業向けに徹底解説

外国人留学生の雇用が増加する中、健康保険の取り扱いで困惑する企業が急増しています。

「社会保険への加入義務はあるのか?」「国民健康保険からの切り替えはどうする?」といった疑問に加え、不適切な対応が在留資格の更新や労務監査に与える深刻な影響も見過ごせません。

本記事では、留学生雇用時の健康保険対応について、基礎知識から実務的なチェックリストまで、人事担当者が知っておくべき情報を完全解説します。

1留学生の健康保険制度とは?企業が知っておくべき基礎知識

留学生の健康保険制度とは?企業が知っておくべき基礎知識

外国人留学生を雇用する際に、企業の人事担当者が最初に理解しておくべきなのが、日本の健康保険制度の仕組みです。

留学生の健康保険対応を適切に行うためには、国民健康保険と社会保険の違い、そして留学生特有の事情を把握する必要があります。

国民健康保険と社会保険の違い

日本の健康保険制度は大きく「国民健康保険(国保)」と「社会保険(健康保険)」の2つに分かれます。この2つの制度には、運営主体、保険料負担、加入対象者に明確な違いがあります。

項目国民健康保険社会保険
運営主体の違い市区町村が運営協会けんぽ(全国健康保険協会)、健康保険組合、共済組合が運営
保険料負担の違い加入者が保険料を全額負担企業と従業員が保険料を半額ずつ負担
扶養制度の違い扶養という概念がなく、家族それぞれが個別に加入一定条件を満たす家族を扶養に入れることが可能

この違いを理解することで、留学生雇用時にどちらの制度が適用されるかを正しく判断できるようになります。

留学生が来日時に加入するのは基本「国保」

外国人留学生は来日時、基本的に国民健康保険に加入します。3ヶ月以上日本に滞在する予定で住民登録をした留学生は、すべて国民健康保険への加入が義務づけられています。

国保加入の手続きには以下の手続きが必要です。

  1. 居住地の市区町村役所で住民登録
  2. 国民健康保険課で加入手続き(在留カードとパスポートを持参)

加入は来日時点からが原則で、遅れて加入申し込みをすると過去分の保険料を請求される場合があります。企業側は留学生を雇用する際、既に国保に加入していることを前提として手続きを進めるようにしましょう。

国保の保険料について、留学生の国保保険料は前年の所得に基づいて計算されるため、来日1年目は所得が少なく、保険料の軽減措置を受けられる場合が多いです。

留学生の場合は保険料が減免される可能性があり、申請が必要なため、企業は留学生にこの情報を提供しましょう。

在学中のアルバイトでは社会保険加入義務があるか?

留学生をアルバイトとして雇用する場合、社会保険加入の義務が生じるかどうかは、労働条件によって決まります。

労働時間と労働日数が一般社員の3/4以上であれば、アルバイトでも社会保険への加入が必要です。具体的には、

  • 週の労働時間:正社員の3/4以上(通常30時間以上)
  • 月の労働日数:正社員の3/4以上

以上のような条件で分かれます。

しかし、留学生は「資格外活動許可」により週28時間以内の制限があるため、原則として健康保険・厚生年金保険の適用条件を満たしません。

このため、ほとんどの留学生アルバイトは社会保険の対象外となります。

各保険の適用状況

  • 健康保険・厚生年金保険:時間制限により原則適用外
  • 雇用保険:留学生は「昼間学生」に該当し、雇用保険の対象外 
  • 労災保険:雇用形態に関係なく、すべての労働者に適用

ただし、企業はアルバイトの雇入れ・離職時にハローワークへの外国人雇用状況届出が義務 づけられている点に注意してください。

このように、留学生の健康保険は国保が基本となり、アルバイト雇用では労災保険のみが適用されるケースが大半です。企業はこの基本的な仕組みを理解した上で、適切な雇用管理を行う必要があります。

外国人雇用に関する手続きは行政書士に任せることができます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

外国人雇用は行政書士に相談しよう!依頼すべき重要業務と選び方
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本記事では、外国人雇用において行政書士が果たす役割や依頼すべき具体的な業務、さらには信頼できる行政書士の見つけ方までを網羅的に解説します。
https://back-end.co.jp/media/contents/employment-of-foreigners-administrative-scrivener/

2. 雇用形態別|健康保険の取り扱いと企業対応

雇用形態別|健康保険の取り扱いと企業対応

留学生の雇用形態によって健康保険の取り扱いは大きく異なります。適切な判断を行うため、雇用形態別の対応を理解しましょう。

留学生アルバイトの場合:週20時間未満なら加入対象外

留学生のアルバイト雇用では、労働時間制限により社会保険の対象外となるケースがほとんどです。

基本的な取り扱い

  • 週28時間以内の制限により、4分の3ルールに該当しない
  • 「学生除外」により短時間労働者の特例も対象外
  • 国民健康保険に継続加入

企業が対応すべき事項

  • 労災保険は全労働者に適用(時間制限なし)
  • 外国人雇用状況届出をハローワークに提出
  • 労働時間の適切な管理(28時間以内の遵守)

インターン・パートタイムでの社会保険義務の有無

インターンシップやパートタイム雇用の場合も、基本的にはアルバイトと同様の扱いとなります。

但し、注意すべきポイントが幾つかあるので押さえておいてください。

  • 長期休暇中は1日8時間・週40時間まで可能
  • ただし、期間限定のため通常は社会保険加入に至らない
  • 就職活動の一環としてのインターンは週28時間を超える許可も可能

卒業後の就職(技人国等)では正社員同様の保険義務

留学生が卒業後に正社員として就職する場合、在留資格が変更され、社会保険への加入が必要となります。

卒業後の就職(技人国等)では正社員同様の保険義務

企業は被保険者資格取得届を入社から5日以内に提出し、健康保険証を交付するとともに、留学生に対して脱退手続きの案内を行う必要があります。

この一連の手続きを適切に行うことで、留学生の安定した就労と企業のコンプライアンス確保が実現されます。

配偶者ビザ・定住者など、他資格者の場合

在留資格によって健康保険の取り扱いが異なる点にも注意が必要です。

配偶者ビザ(日本人の配偶者等)

  • 労働時間制限がないため、条件を満たせば社会保険加入
  • 日本人配偶者の扶養に入っている場合もある

定住者・永住者

  • フルタイム勤務なら社会保険加入が一般的
  • 労働制限がないため、労働条件に応じて社会保険加入

3. 社会保険の加入条件と企業の法的責任

社会保険の加入条件と企業の法的責任

企業は社会保険の加入条件を正確に理解し、法的責任を果たす必要があります。

加入が義務となる条件

社会保険の加入条件は複雑ですが、以下の基準で判断します。

加入が義務となる条件

基本的な加入基準

70歳未満で週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員の4分の3以上

短時間労働者の加入基準(2024年10月改正)

  • 従業員数51人以上の企業
  • 週20時間以上の労働
  • 月額8.8万円以上の賃金
  • 2ヶ月超の雇用見込み
  • 学生でない

社会保険と雇用保険・労災保険の範囲

各保険の適用範囲は異なります。

健康保険・厚生年金保険

  • 基本的に連動して加入
  • 上記の加入条件を満たす場合

雇用保険

  • 週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み
  • 留学生は「昼間学生」として原則対象外

労災保険

  • すべての労働者に適用
  • 雇用形態や労働時間に関係なし

加入漏れによるリスク

社会保険未加入は深刻なリスクを伴います。

加入漏れによるリスク

労基署・年金事務所のチェックポイント

行政機関が重視する確認項目を理解しておきましょう。

年金事務所の確認事項

  • 従業員の労働時間・日数
  • 給与額と社会保険の整合性
  • 外国人従業員の適正な加入

労働基準監督署の確認事項

  • 労災保険の適用状況
  • 労働時間管理の適正性
  • 外国人雇用状況届出の提出

4健康保険未加入によるリスクとトラブル事例

健康保険未加入によるリスクとトラブル事例

留学生の健康保険対応を怠ると、企業は深刻なリスクに直面する可能性があります。予防的な対策が不可欠です。

入管への悪影響(更新時の審査材料)

3ヶ月を超えて日本に滞在する外国人は、国民健康保険に加入する必要があり、入管手続きにおいても、許可・不許可の大きな判断要素です。

在留資格の変更や更新許可を行う際には、出入国在留管理局で健康保険証の提示が求められ、企業の社会保険加入状況も審査に影響します。

健康保険未加入が理由で更新が認められないケースや、就労ビザ変更時に不許可となるリスクがあるため、企業は留学生の将来に責任を持たなければなりません。

労基署・年金事務所からの指導リスク

日本年金機構では社会保険未加入企業に対する強力な指導・取締を行っており、年金事務所が徹底調査しています。

社会保険の未加入が発覚し、強制的に加入させられた場合、過去2年間に遡って未納分の社会保険料を徴取されるリスクがあります。

社会保険に未加入の場合の罰則は「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」も定められています。

退職済み従業員分も企業が負担することになり、経営への深刻な影響は避けられません。外国人雇用企業への調査も強化されているため、適切な対応が急務です。

医療費負担・傷病手当のトラブル

業務中に従業員が死亡・発病したにも関わらず、社会保険に未加入だった場合、遺族厚生年金や傷病手当金が支給されず、従業員から訴えられた場合に受け取れた金額を支払う義務が生じる重大なリスクがあります。

健康保険未加入の場合、外来診療では通常の3倍以上、入院治療では数十万円から数百万円の高額な医療費を企業が負担することになります。

また、健康保険関連のトラブルは企業の評判に長期的な影響を与え、優秀な外国人人材からの敬遠や既存従業員の信頼失墜につながる可能性があります。

5.在留資格申請と健康保険加入の関係性

在留資格申請と健康保険加入の関係性

健康保険の加入状況は、留学生の在留資格に直接的な影響を与える重要な要素です。

健康保険未加入は就労ビザ変更・更新に影響することも

3ヶ月を超えて日本に滞在する外国人は、国民健康保険に加入する必要があり、入管手続きにおいても、許可・不許可の大きな判断要素となっています。

具体的な影響

具体的な影響

そして出入国在留管理庁は、外国人の適法な滞在を判断する際に以下を重視します。

主な確認事項

  • 健康保険への適切な加入
  • 保険料の納付状況
  • 医療機関での適正利用
  • 安定した生活基盤の存在

在留資格の変更や在留期間の更新許可を行う際にも出入国在留管理局で健康保険証の提示が求められるため、外国人労働者の在留資格の審査の際に勤務先の会社の社会保険加入も影響するのです。

留学生本人が知らないことを企業がフォローすべき理由

留学生は日本の複雑な保険制度を十分理解していない場合が多いため、企業による適切なフォローがなければいけません。

保険制度の基本説明、手続きの案内とサポート、定期的な加入状況確認、トラブル時の相談対応が企業側には求められます。

特に在留資格変更時には健康保険の切り替えが必要となるため、企業が主導的に情報提供と手続き支援を行うことで、留学生の安定した日本滞在をサポートできます。

適切なフォローにより、入管手続きでの不利益を防ぎ、優秀な人材の長期確保にもつながるのです。

入管への申請はオンラインでも可能です、オンライン申請の方法はこちらの記事で詳しくご紹介しています。

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6.健康保険対応の実務ポイント|チェックリスト形式で解説

健康保険対応の実務ポイント|チェックリスト形式で解説

実務で活用できるチェックリストにより、漏れのない対応を実現しましょう。

雇用前に確認すべき事項

基本情報確認チェックリスト

□ 在留カードの確認(有効期限含む)

□ 資格外活動許可の有無と内容

□ 現在の健康保険加入状況

□ 他のアルバイト先での労働時間

□ 卒業予定時期(該当者のみ)

労働条件確認チェックリスト

□ 週所定労働時間の設定

□ 雇用契約期間

□ 社会保険加入要件への該当性

□ 長期休暇中の労働時間変更予定

雇用後の対応

社会保険加入が必要な場合社会保険加入が不要な場合
□ 被保険者資格取得届の作成・提出□ 国民健康保険継続の確認
□ 国民健康保険脱退手続きの案内□ 労災保険適用の説明
□ 健康保険証の交付□ 外国人雇用状況届出の提出
□ 給与計算への保険料控除反映 □ 定期的な労働時間管理

登録支援機関との連携ポイント

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連携が必要な場面

□ 特定技能外国人の受入れ時

□ 在留資格変更サポート時

□ 生活支援の一環としての保険指導

□ トラブル発生時の相談・対応

□ 定期的な面談での状況確認

登録支援機関についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。

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7留学生採用では「保険対応」も人事の責任

留学生採用では「保険対応」も人事の責任

留学生の健康保険対応は、企業の法的コンプライアンスと優秀な人材確保の両面で重要な課題です。

適切な対応により在留資格への悪影響を防ぎ、労務リスクを回避できる一方、不備があれば深刻な経営リスクに直結します。

本記事で解説した基礎知識とチェックリストを活用し、専門家との連携体制を構築することで、安心して外国人人材を活用できる環境を整えてください。戦略的な健康保険対応が、企業の持続的成長を支える基盤となります。

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記事を書いた人
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行政書士法人バタフライエフェクト
行政書士法人バタフライエフェクトは、外国人の就労ビザ取得、相談のエキスパートです。上場企業様から小規模の会社様まで、これまで10,000件以上の案件を支援。就労ビザを踏まえた外国人雇用のコンサルティングも行っており、年間実績1,500件、ビザの専門家が多数在籍しています。
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