ベトナム人材の採用を検討する日本企業にとって、「英語力」は重要な関心事です。
ベトナム人はどの程度英語が話せるのでしょうか?実は、ベトナムの英語教育は近年大きく発展し、EF英語能力指数では日本よりも上位にランクされています。
本記事では、ベトナム人の英語力の実態と特徴、そして日本企業での活用方法について徹底解説します。
- ベトナムの英語教育システムと現状の英語力レベル(日本と比較して高い)
- ベトナム人の英語の7つの特徴と、彼らの英語学習意欲を支える文化的背景
- 日本企業がベトナム人材の英語力を活かす具体的な採用戦略と実践事例
1.ベトナム人の英語レベルと教育背景

ベトナム人はベトナム語を母国語としますが、日本人がコミュニケーションを取るとしたら英語が主体になる傾向があります。では一般的なベトナム人の英語力はどの程度なのでしょうか?
ベトナムの英語教育システムと近年の変化
ベトナムでは2011年から小学3年生からの英語必修化が実施され、早期英語教育への取り組みが進んでいます。特にハノイやホーチミンなどの大都市では英語スクールが急増中で、国際化の勢いを感じさせます。
この背景には経済的動機があり、外資系企業に勤めることで給与が2〜3倍異なるため、日本以上に英語教育に熱が入っていることが挙げられます。
国内ではまだ一次産業が中心ですが、英語力が経済的成功につながるという認識が、学習意欲を高めているのです。
EF英語能力指数からみるベトナム人の英語力
世界各国の英語力を測るEF英語能力指数によれば、ベトナムは全体(調査対象111カ国)の60位、アジア地域では24カ国中7位に位置しています。
この結果は、ベトナムが東南アジアで比較的高い英語力を持っていることを示しています。特に若年層での英語力向上が顕著で、教育改革の成果が現れています。
EF指数ではベトナム人の英語力は「中程度」と評価されており、日常会話や基本的なビジネスコミュニケーションは問題なく、専門的内容では課題が残る状況です。
日本人との英語力比較で見えるポテンシャル
同じEF英語能力指数で比較すると、日本は80位でアジア24カ国中14位と、ベトナムより20ランク低い結果となっています。この差には複数の要因があります。
ベトナムでは英語が経済的成功と直結しているという認識が強く、ローマ字を基本とするアルファベットの使用が英語学習において有利に働いています。
また、観光業の発展や外資系企業の進出により、日常的に英語を使う環境が広がっている点も大きな違いです。
このようなベトナム人の英語力ポテンシャルは、日本企業のグローバル展開において貴重な資源となり得ます。
2.ベトナム人の英語の特徴

ベトナム人の英語には独特の特徴があります。これらの特徴を理解することで、コミュニケーションをより円滑に進めることができるでしょう。
ここでは、ベトナム人の英語に見られる7つの特徴を解説します。
ベトナム人の英語発音の特徴と理解しやすさ
ベトナム人の英語発音には、母国語の影響が強く表れる傾向があります。特徴的なところは以下の点です。
ベトナム人の英語発音の特徴 | 解説 |
---|---|
単語末尾の音の省略 | 特に顕著なのが単語末尾の音をはっきりと発音しない傾向です。例えばfacebookと発音する場合、日本人がカタカナ読みをすると「フェイス・ブック」となりますが、ベトナム人の発音は「フェイ・ブッ」のように聞こえることがあります。 |
子音クラスターの単純化 | 英語には子音が連続する単語が多いですが、ベトナム語にはそのような構造が少ないため、「str」や「pl」などの子音の連続を単純化して発音する傾向があります。 |
声調の影響 | ベトナム語は声調言語であるため、英語を話す際にも不必要なイントネーションがつくことがあります。 |
th音の発音 | 英語の「th」の音(θ、ð)はベトナム語には存在しないため、「s」や「z」に近い音で代用されることが多いです。 |
これらの特徴は、慣れるまでは聞き取りにくいと感じる日本人も多いでしょう。
しかし興味深いのは、ベトナム人の英語発音は、他のアジア諸国と比較すると比較的理解しやすいという評価も存在することです。特に母音の発音が明瞭で、リズムパターンも英語に近い部分があるためです。
文法・語彙力の傾向と学習意欲
ベトナム人学習者の英語の文法・語彙力には以下のような特徴が見られます。

これらの特徴から、ベトナム人の英語学習者は基礎的な文法知識と実用的な語彙を効率よく習得し、コミュニケーションのためのツールとして英語を活用する能力が高いと言えるでしょう。
コミュニケーション時の文化的特性
ベトナム人が英語でコミュニケーションを取る際には、文化的な背景が影響を与えています。
ベトナム人の文化的特徴 | 解説 |
---|---|
遠慮と謙虚さ | ベトナムの文化では謙虚さが美徳とされており、英語でのコミュニケーションにおいても自己主張が控えめになる傾向があります。これは時に意見を述べることを躊躇させる要因となることもあります。 |
階層意識の反映 | 上下関係を重視するベトナムの文化的背景から、目上の人に対して敬意を示す言い回しを好む傾向があります。このため、ビジネス英語においても丁寧な表現を多用することがあります。 |
関係性構築の重視 | 英語でのコミュニケーションにおいても、まず人間関係を構築することを重視します。ビジネスの前に信頼関係を築くことを大切にする姿勢は、英語でのやり取りにも表れています。 |
間接的表現の好み | 直接的な拒否や批判を避け、婉曲的な表現を使うことが多いです。これは「No」と言うことを避ける文化的傾向の表れでもあります。 |
非言語コミュニケーションの活用 | 言語の壁を乗り越えるために、ジェスチャーや表情などの非言語的手段を積極的に活用する傾向があります。 |
これらの文化的特性を理解することで、ベトナム人との英語コミュニケーションをより効果的に行うことができるでしょう。
特に日本企業においては、ある程度遠慮がちなコミュニケーションスタイルは日本人にとって理解しやすい面もあり、文化的な親和性の高さを感じられる点でもあります。
3.ベトナム人の英語学習意欲を支える文化的背景

ベトナム人の高い英語学習意欲の背景には、様々な文化的・社会的要因があります。これらを理解することで、ベトナム人材の英語に対する姿勢をより深く知ることができるでしょう。
ベトナム人の英語圏への留学状況と国際志向
ベトナムでは英語圏への留学熱が高まっています。
ベトナム教育訓練省の統計によると、2016年時点でベトナムからの留学生は約13万人。最も多いのは日本(38,000人、29.2%)ですが、英語圏の国々への留学も盛んです。
オーストラリア(31,000人、23.8%)、アメリカ(28,000人、21.5%)、イギリス(11,000人、8.4%)を合わせると全体の42.2%に達します。

特にオーストラリアでは、ベトナム人留学生は4位(2万1千人)で存在感があり、日本からの留学生(8千人、16位)と比べるとその積極性が際立っています。この傾向からは、若年層の強い国際志向と英語習得への熱意が読み取れます。
参考元:Envision Recruit
経済発展と英語需要の相関関係
ベトナムの急速な経済発展と英語需要には密接な関係があります。
コロナ禍以前のGDP伸び率は平均6〜7%と高水準を維持し、東南アジアでも注目の成長国でした。
この成長を牽引する外資系企業の進出と輸出産業の発展により、国際的なビジネス環境で働くことが給与面で大きなメリットをもたらします。
実際に外資系企業では給与が2〜3倍になるケースも珍しくありません。このため、英語力は単なる教養ではなく経済的成功の鍵として認識され、特に都市部の若者たちの間で必須スキルという認識が広がっています。
また、増加する外国人観光客対応も英語需要を押し上げています。
参考元:HANOI TIMES Vietnam’s GDP growth in 2019 hits 7.02%: GSO
ベトナム人の平均年収がどの程度なのか、そして採用から定着までの実践的なノウハウを知りたい方はこちらの記事がおすすめです。
ベトナム政府の言語政策と将来展望
ベトナム政府は英語教育を国家戦略として位置づけ、2008年に開始された「国家外国語プロジェクト2020」を中心に政策を展開しています。
このプロジェクトでは、2025年までに全国の生徒が英語でコミュニケーションをスムーズに行えるようにすることを目標に、英語教師の質向上や最新教材の普及を進めています。
具体的には教員の海外留学支援やトレーニングプログラムの整備、教員要件の厳格化などが実施されています。
また、小学3年生からの英語必修化や大学入試での英語重視なども推進されており、将来的にはベトナム人の英語力がさらに向上すると期待されているのです。
4.ベトナム人の英語力を活かした採用戦略

ベトナム人材を採用する際には、その英語力を最大限に活かすための戦略的なアプローチが重要です。
適切な評価基準の設定や、職種に応じた英語スキルの見極め、効果的な面接プロセスの構築などが成功への鍵となります。
適性判断のための英語力評価基準
ベトナム人材の英語力を適切に評価するためには、以下のような基準を設けることが効果的です。
ベトナム人材の英語力評価基準
国際的な英語テストスコア
TOEIC、IELTS、TOEFLなどの国際的な英語テストのスコアは、基本的な英語力の目安として活用できます。例えば、ビジネスレベルのコミュニケーションであればTOEIC 650点以上、より高度な業務であれば800点以上などの基準を設けることが考えられます。
実践的なコミュニケーション能力
テストスコアだけでなく、実際のビジネスシーンを想定した会話力や理解力を評価することが重要です。例えば、業務に関連する状況設定での会話テストや、英語でのプレゼンテーションを課すなどの方法が考えられます。
読み書き能力と聞き話す能力のバランス
4技能(読む・書く・聞く・話す)のバランスを見ることで、実務での適応力を予測できます。特に、メールのやり取りやレポート作成など、書面でのコミュニケーションが必要な職種では、ライティングスキルの評価が重要です。
専門用語の理解と使用
業界固有の専門用語や表現の理解度を確認することで、業務への適応速度を予測できます。基本的な英語力が高くても、専門用語に慣れていなければ初期段階での困難が予想されます。
異文化コミュニケーション能力
言語能力だけでなく、異なる文化背景を持つ相手との効果的なコミュニケーション能力も重要な評価ポイントです。これには、非言語コミュニケーションの理解や、異文化への適応力なども含まれます。
これらの基準を組み合わせて総合的に評価することで、単なる語学力テストでは見えてこない実践的な英語コミュニケーション能力を判断することができるでしょう。
職種別に求められる英語スキルレベル
ベトナム人材を採用する際には、職種によって必要となる英語スキルのレベルや種類が異なります。以下に職種別の英語スキル要件を整理します。
職種 | 必要な英語力レベル | 重要な英語スキル | 目安となるTOEICスコア |
---|---|---|---|
製造業(工場作業員) | 基礎レベル | 基本的な指示の理解、簡単な報告 | 400〜500点程度 |
IT・エンジニア | 中〜上級レベル | 技術文書の読解、英語でのコーディング、チームコミュニケーション | 650〜800点以上 |
営業・マーケティング | 中〜上級レベル | 交渉力、プレゼンテーションスキル、文書作成能力 | 700〜850点以上 |
経理・財務 | 中級レベル | 財務用語の理解、レポート作成、数値コミュニケーション | 600〜750点程度 |
管理職 | 上級レベル | リーダーシップコミュニケーション、交渉力、プレゼンテーション | 800点以上 |
通訳・翻訳 | 最上級レベル | 高度な読解力、文化的ニュアンスの理解、専門用語の習熟 | 900点以上 |
特にIT分野では、多くのベトナム人エンジニアが高い英語力を持っています。
近年、IT関連のエンジニアを目指して訪日するベトナム人も増加しており、これらの人材は「読む・書く・聞く・話す」の4技能が一定レベルを超えていることが多く、実際に大卒のエリート層が多く含まれています。
一方、製造業などの現場作業では、業務に関連する基本的な英語コミュニケーション能力があれば十分なケースも多いでしょう。
ただし、チームリーダーなど責任ある立場に就く場合は、より高いレベルの英語力が求められます。
このように、職種や役割に応じた適切な英語力要件を設定することで、採用のミスマッチを防ぎ、ベトナム人材の能力を最大限に活かすことができます。
採用面接での効果的な英語コミュニケーション
ベトナム人材の採用面接を英語で行う場合、以下のポイントに注意することで、より効果的に候補者の能力を評価できます。

面接の構造化
英語での面接を体系的に行うために、あらかじめ質問リストを準備し、各質問の評価基準を明確にしておきましょう。これにより、複数の候補者を公平に比較することができます。
文化的背景を考慮した質問設計
ベトナムの文化では謙虚さが美徳とされており、自己アピールを控えめにする傾向があります。そのため、「あなたの強みは何ですか?」といった直接的な質問よりも、「これまでの仕事で最も難しかった課題は何で、どう解決しましたか?」のような具体的な経験を引き出す質問の方が効果的です。
専門知識と英語力の分離評価
英語力の不足が専門知識や能力の低さと誤解されないよう、両者を分けて評価することが重要です。
特に技術的な質問では、必要に応じて図や表を使用するなど、言語以外の手段でのコミュニケーションも取り入れましょう。
非言語コミュニケーションへの注目
言葉だけでなく、アイコンタクトや表情、姿勢などの非言語的要素も重要な情報源です。
特に言語の壁がある場合、これらの要素から候補者の熱意やコミュニケーション能力を読み取ることができます。
発音の特徴を理解する
前述のように、ベトナム人の英語には特有の発音傾向があります。これを理解した上で聞き取りを行うことで、コミュニケーションの質が向上します。
特に初めのうちは、単語の末尾の音が省略される傾向があることを念頭に置くと良いでしょう。
双方向のコミュニケーション
一方的な質問だけでなく、候補者からの質問も奨励しましょう。これにより、候補者の思考プロセスや関心事を知ることができるとともに、実際のコミュニケーション能力をより正確に評価できます。
フォローアップ文書の活用
面接後に英語でのフォローアップメールを送り、それに対する返信の内容や速さを評価することで、書面でのコミュニケーション能力も確認できます。
これらの戦略を採用プロセスに取り入れることで、言語の壁を超えた効果的な評価が可能になり、ベトナム人材の持つ潜在能力を最大限に引き出すことができるでしょう。
5.日本企業でのベトナム人材と英語活用事例

ベトナム人材の英語力を実際のビジネス現場でどのように活かしているのか、日本企業の具体的な事例を見ていきましょう。
これらの事例は、ベトナム人材の活用を検討している企業にとって、貴重な参考になるはずです。
株式会社マネーフォワード|グローバル展開を成功させた企業の人材戦略
株式会社マネーフォワードでは、グローバル展開を見据えたエンジニア組織の国際化を進めており、その中核を担うのがベトナム人エンジニアの存在です。
2018年にベトナムで現地法人を設立、2019年にはホーチミンに開発拠点を開設し、採用要件から「日本語力」を外して英語力重視の採用方針を打ち出しました。これにより、英語で業務遂行できる人材を世界中から積極的に登用。
社内公用語を英語とし、ベトナム人エンジニアが日本本社と現地法人、さらには英語圏のパートナー企業とのブリッジとして活躍中です。
バイリンガル人材の活用により、国境を越えたスピーディな開発体制を構築し、グローバル競争力を高める成功モデルとなっています。
参考元:レバテックLAB 【マネーフォワード】公用語完全英語化を実践するエンジニアチームに聞く、日本語がマイノリティー言語になったときに、現場はどうする?
HENNGE株式会社(旧HDE)|言語の壁を乗り越えた職場環境づくり
クラウドセキュリティサービスを展開するHENNGE株式会社(旧HDE)は、多様な国籍のITエンジニアを積極的に採用し、社内公用語を英語に統一しました。
ベトナムを含む多国籍人材が、国籍に関係なく対等に働ける環境を整えています。
Slackや社内イベントでも英語を用い、コミュニケーションの壁を排除。日本語を習得していない外国人社員でも活躍できる体制により、社員のエンゲージメントと定着率が向上しています。
HENNGEのこの取り組みは、言語・文化の違いを越えて、グローバルなチームビルディングを可能にした先進的な成功事例といえるでしょう。
参考元:HR NOTE 社内公用語英語化までの道のり|多国籍エンジニアが活躍できる環境づくり
6.日本企業がベトナム人材の英語力を最大化するための実践ガイド

ベトナム人の英語力は日本企業のグローバル展開における貴重な資源です。
彼らの高い学習意欲と実践的なコミュニケーション能力を理解し、適材適所で活用することが成功の鍵となります。言語の壁を問題ではなく多様性として受け入れ、相互理解の文化を醸成しましょう。
今後も成長するベトナムと日本の関係において、英語を介したコミュニケーション力はますます重要になっていくでしょう。