外国人を雇用する際に必ず提出が必要な「外国人雇用状況届出書」。
提出を怠ると30万円以下の罰金が科される可能性があるこの手続きは、多くの企業が頭を悩ませるポイントです。
本記事では届出書の基本情報から記入方法、提出期限まで、人事担当者が知っておくべきポイントを完全網羅し、スムーズな手続きをサポートします。
- 外国人雇用状況届出書の提出が必要な対象者と提出期限、提出方法がわかる
- 雇用保険加入の有無による提出書類の違いと正確な記入方法を理解できる
- 提出忘れを防ぐためのスケジュール管理と不法就労防止のためのチェックポイントを押さえられる
1.外国人雇用状況届出書とは?制度の概要と目的

外国人雇用状況届出書は、外国人労働者を雇用する事業主が提出する義務がある書類です。
この制度は2007年に義務化され、外国人労働者の雇用の安定と改善、そして再就職支援などを目的としています。
届出書には、外国人の雇用や離職の状況と共に、氏名や在留資格などの情報を記載します。
厚生労働省による「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」には、この届出制度とともに、雇用管理の改善と再就職支援の重要性も明記されています。
第五 外国人労働者の雇用状況の届出
事業主は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第二十八条第一項の規定に基づき、新たに外国人労働者を雇い入れた場合又はその雇用する外国人労働者が離職した場合には、当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等の一に掲げる事項について、二に掲げる方法により確認し、三に掲げる方法及び期限に従って、当該事項を当該事業主の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に届け出ること。
外国人雇用状況の届出が法律で義務付けられている理由
外国人雇用状況の届出が法律で義務付けられている主な理由は、国が各事業所で働く外国人労働者の雇用状況を正確に把握するためです。
これにより、外国人労働者の雇用の安定と改善、再就職支援などを効果的に行うことができます。
「労働施策総合推進法」では、すべての事業主に外国人雇用状況の届出を義務付けています。
労働施策総合推進法とは
労働施策総合推進法とは、かつて「雇用対策法」と呼ばれていた法律が、働き方改革の一環として2018年に「労働施策総合推進法」へと改正されたものです。
パワハラの防止も規定されているため、「パワハラ防止法」とも呼ばれていますが、同法ではフリーランスや時短労働など多様な働き方の普及、育児・介護・治療などと仕事の両立という目標が立てられています。
労働施策総合推進法の中には、外国人労働者に関する情報の適切な把握・管理も含まれており、その一環として「外国人雇用状況の届出」が義務付けられています。
日本社会において外国人が在留資格の範囲内で適切に就労し、その能力を十分に発揮できるようにするため、事業主はこの制度の目的を理解し、法的義務を果たすことが求められています。
この届出制度は、外国人労働者の権利を守り、適切な雇用環境を整備するための重要な取り組みの一つと言えるでしょう。
参考元:e-GOV 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
届出の対象となる外国人と対象外となる外国人
外国人雇用状況届出書の提出が必要な対象者と、対象外となる方を正確に理解しておくことが重要です。
また、派遣形態で雇用している場合は、派遣元が届出を行うため、派遣先企業が対応する必要はありません。
雇用保険の被保険者になる場合は、雇用保険被保険者資格取得届が外国人雇用状況の届出を兼ねるため、別途届出の必要はありません。しかし、それ以外のケースでは必ず提出が必要です。
2.外国人雇用状況届出書の提出方法と流れ

外国人雇用状況の届出方法は、オンライン提出と事業所を所轄するハローワークへの窓口提出の2種類があります。
雇用形態や雇用保険の加入状況によって提出方法や使用する様式が異なるため、自社の状況に合わせた適切な方法を選択することが重要です。
ハローワークへの窓口提出の手順と必要書類
ハローワークへの窓口提出の場合、以下の手順で行います。

窓口提出の場合、不明点があればその場で担当者に質問できるというメリットがあります。
外国人雇用状況届出システム(オンライン)での提出方法
オンライン提出を利用する場合は、厚生労働省の「外国人雇用状況届出システム」を使用します。
手続きは以下の流れになります。

オンライン提出のメリットは24時間いつでも手続きができること、窓口に出向く必要がないことです。
特に複数の外国人を雇用している場合や、ハローワークまでの距離が遠い場合に便利です。
雇用保険加入の有無による提出書類の違い
雇用保険の加入状況によって、提出書類や手続き方法が異なります。
以下の表で違いを確認しましょう。
ー | 雇用保険の被保険者ではない (雇用保険に加入しない) | 雇用保険の被保険者 (雇用保険に加入する) |
---|---|---|
様式 | 外国人雇用状況届出書(様式第3号) | 雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)※外国人は17~23の欄も記載 |
届け出を行う人 | 雇用主 | 雇用主 |
届出先 | ハローワーク(公共職業安定所)、外国人雇用状況届出システム(インターネット) | ハローワーク(公共職業安定所)、電子政府の総合窓口「e-Gov」(インターネット) |
提出期限 | 雇入れ日の翌月末日まで | 雇入れ日の翌月10日まで |
雇用保険に加入する場合は、雇用保険被保険者資格取得届の提出が外国人雇用状況の届出を兼ねるため、別途届出は不要です。
ただし、外国人に関する追加情報(17~23欄)の記入を忘れないようにしましょう。
3.外国人雇用状況届出書の提出期限と注意点

外国人雇用状況届出書の提出には厳格な期限が設けられており、これを守らないと罰金などのペナルティが課される可能性があります。
雇用時だけでなく離職時にも提出義務があるため、両方のケースについてしっかりと理解しておきましょう。
新規雇用時の提出期限(翌月末日または10日まで)
外国人労働者を新たに雇用した場合の提出期限は、雇用保険の加入状況によって異なります。
- 雇用保険の被保険者ではない場合(雇用保険に加入しない): 雇入れ日の翌月末日までに提出する必要があります。例えば、4月15日に雇用した場合、5月31日までが提出期限となります。
- 雇用保険の被保険者の場合(雇用保険に加入する): 雇入れ日の翌月10日までに提出する必要があります。例えば、4月15日に雇用した場合、5月10日までが提出期限です。
期限が異なるため、特に両方のケースがある企業では混同しないように注意が必要です。
カレンダーに記しておくなど、期限管理の仕組みを作っておくと安心です。
離職時の提出期限と必要書類
外国人労働者が離職した場合も届出が必要です。
雇用時同様、雇用保険の加入状況によって提出書類や期限が異なります。
ー | 雇用保険の被保険者ではない(雇用保険に加入しない) | 雇用保険の被保険者(雇用保険に加入する) |
---|---|---|
様式 | 外国人雇用状況届出書(様式第3号) | 雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号)※外国人は14~18の欄も記載 |
届出の作業をする人 | 雇用主 | 雇用主 |
届出先 | ハローワーク、外国人雇用状況届出システム | ハローワーク、電子政府の総合窓口「e-Gov」 |
提出期限 | 離職日の翌月末日まで | 離職日の翌日から10日以内 |
離職時の届出も在留資格や在留カード番号などの記載が必要です。記入の際は必ず在留カードを手元に用意し、正確な情報を記入しましょう。
提出を怠った場合の罰則と対処法
外国人雇用状況の届出は法律で義務付けられており、届出を怠ったり虚偽の報告を行ったりすると、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
これは「雇用対策法第28条」に基づくものです。
「届出書の提出を怠ったり虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金が科せられます。(労働施策総合推進法第40条第2項)」
万が一提出を忘れてしまった場合は、以下の対処法を取りましょう。
- 速やかに提出: 期限を過ぎていても、できるだけ早く届出を行うことが重要です。
- ハローワークへの相談: 事業所を管轄するハローワークに連絡し、指示を仰ぎましょう。
- 再発防止策の検討: 期限管理の仕組みを見直し、次回以降の届出忘れを防止する対策を取りましょう。
罰則を受けるリスクを避けるためにも、提出期限は必ず守るよう心がけてください。届出忘れのリスクは企業の評判にも影響する可能性があります。
4.外国人雇用状況届出書の正確な記入方法

外国人雇用状況届出書を正確に記入することは、提出の遅延や記入ミスによる差し戻しを防ぐために重要です。
雇用保険加入の有無によって使用する様式が異なりますので、それぞれの記入方法を確認しましょう。
雇用保険被保険者の場合の記入例と注意点
雇用保険の被保険者になる場合、雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)を使用します。
外国人に関する情報は17~23欄に記入が必要です。

記入時の注意点
- 17~23欄は外国人のみ記入が必要な欄です
- 2020年3月より在留カード番号の記載も必須になりました
- 在留カードやパスポートから正確に情報を転記します
- 外国人の氏名はアルファベットで正確に記入します
- 在留資格と在留期間を正確に記入します
- 資格外活動許可の有無を確認して記入します
記入に際しては特に難しい内容はありませんが、在留カードの情報を正確に転記することが重要です。
不明点があれば、事前にハローワークに確認しておくと安心です。
出典元:厚生労働省 雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)
雇用保険被保険者でない場合の記入例と注意点
雇用保険の被保険者ではない場合は、外国人雇用状況届出書(様式第3号)を使用します。
2020年3月1日から様式が変更されているため、必ず最新の様式を使用してください。

記入時の注意点
- 「様式第3号電子媒体」という名前のファイルを使用します
- 1ページ目を表、2ページ目を裏に印刷する形式です(別々の紙に印刷しないよう注意)
- 外国人の氏名はローマ字とカタカナのふりがなで表記します
- ミドルネームは氏と名の後ろに記載します
- 雇入れ年月日を正確に記入します
- 届出年月日と雇用保険適用事業所番号など事業主・事業所に関する事項も記入します
- 在留カード番号の記載が必要です
様式が比較的新しく変更されているため、古い様式を使用していないか確認することも重要です。
在留カード番号など必須項目の確認方法
外国人雇用状況届出書を記入する際は、以下の必須項目を在留カードから正確に確認し記入します。

確認すべき必須項目
- 在留カード番号: 在留カードの表面右上に記載されている12桁の番号
- 氏名: ローマ字表記(パスポートと同じ表記)
- 国籍・地域: 出身国
- 在留資格: 「技術・人文知識・国際業務」など
- 在留期間: 「5年」「3年」など
- 在留期間の満了日: 在留カードに記載された期限
- 資格外活動許可の有無: 許可を受けている場合は「有」
在留カード番号は2020年3月から記載が必須となった項目です。届出書への記入漏れが多い項目ですので、特に注意が必要です。
在留カードは必ず本人から借りて記入し、記入後は速やかに返却してください。複写を取る場合は個人情報保護の観点から、本人の同意を得るようにしましょう。
5.外国人雇用に関する本人確認書類と管理方法

外国人を雇用する際には、在留カードなどの本人確認書類の確認が必要です。これらの書類は個人情報を含むため、適切な管理が求められます。
ここでは、書類管理の注意点とデジタルツールの活用方法、そして不法就労を防止するためのチェックポイントを解説します。
個人情報保護法に基づく適切な書類管理
外国人雇用状況の届出に関しては、在留カードなどの写しの提出は不要です。
ただし、他の手続きのためにコピーを取得・保管することが多いでしょう。これらは個人情報にあたるため、以下の点に注意して管理してください。
これらの対策は、個人情報の漏えいリスクを低減するだけでなく、従業員との信頼関係構築にも寄与します。
デジタルツールを活用した効率的な管理方法
外国人を雇用する際の書類作成や本人書類の管理には、デジタルツールの活用が効率的です。
デジタルツール | 特徴 |
---|---|
クラウド型人事管理システム | 雇用情報や各種届出の期限管理を一元化できるシステムを導入することで、届出忘れを防止できます。 |
スキャン・保存システム | スマホやタブレットなどで書類やカードを撮影して一元管理できるシステムを利用することで、必要な時にすぐに確認できます。 |
身元確認システム | 氏名・生年月日・住所などの身元確認、在留資格、就労制限を確認できるシステムを活用することで、雇用時のチェックが容易になります。 |
デジタルツールを導入する際は、セキュリティ対策が十分であることを確認し、適切な利用規約を設けましょう。
不法就労を防止するためのチェックポイント
外国人雇用において最も注意すべき点の一つが、不法就労の防止です。以下のチェックポイントを確認しましょう。

不法就労を助長したとみなされた場合、入管法第73条の2の第1項により、雇用主も3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
不法就労助長罪
働くことが認められていない外国人を雇用した事業主や、不法就労をあっせんした者、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科
外国人の雇用時に、当該外国人が不法就労者であることを知らなくても、在留カードの確認をしていない等の過失がある場合は処罰の対象となります。又、その行為者を罰するだけではなく、その法人、雇用主等に対しても罰金刑が科せられます。
出典元:警視庁 外国人の適正雇用について
うっかりミスであっても罰則の対象となるため、細心の注意が必要です。
これ以外にも外国人労働者に関する問題は多くあります。その内容についてはこちら記事で詳しくご紹介しています。
6.外国人雇用を適切に行うための届出のポイント

外国人雇用状況届出書は、すべての事業主に義務付けられた重要な手続きです。
提出期限の管理、正確な記入、適切な書類管理を徹底することで、罰則リスクを避け、外国人雇用のコンプライアンスを確保できます。
届出は単なる義務ではなく、外国人労働者の雇用環境向上と企業防衛の両面で意義があります。法的要件を理解し、効率的な管理体制を構築して、外国人雇用を適切に進めていきましょう。