人材不足に悩む多くの企業が、「ベトナム人材は本当に自社に合うのか」「現地でのベトナム人の平均年収はどれくらい?」「適正な給与水準はどれくらいなのか」といった疑問をお持ちではないでしょうか。
本記事では、ベトナム人の平均年収の実態を基に、地域別最低賃金制度や業種別の賃金相場といったベトナムの経済状況や、採用戦略に役立つ情報をご紹介します。
さらに、ベトナム人材の面接時の見極めポイントや長期的なキャリアパス設計など、採用から定着までの実践的なノウハウもご説明します。
- ベトナムの平均年収と日本との差、地域による賃金格差の実態
- ベトナムの物価水準と経済成長に伴う賃金上昇の見通し
- 日本企業がベトナム人材を採用するメリットと採用時のポイント
1.ベトナム人の平均年収の実態

ベトナムの経済は近年成長を続けていますが、日本と比べると平均年収には大きな差があります。都市部と地方では賃金格差があり、生活水準にも影響を与えています。
また、最低賃金制度の導入により、賃金の上昇が進んでいる点も注目すべきポイントです。
ベトナム人の平均年収は46万円:日本との9倍の差
日本と比べるとベトナム人の平均収入はかなり低く、生活水準にも大きな違いがあります。
ベトナム統計総局によると、2022年のベトナム人の平均月収は660万ドンでした。2022年時点の為替レート(1ドン=約0.0058円)で換算すると約3万8,380円であり、年収にすると約46万円(7,920万ドン)です。
対して、日本の平均年収は同年で約458万円(国税庁調べ)、つまりベトナムと日本の年収には9倍近い差があることがわかります。
参照元:
日本貿易振興機構(JETRO)|雇用はサービス業中心に微増、平均月収の増加続く(ベトナム)
国税庁|令和4年分 民間給与実態統計調査
ベトナム人の平均年収は地域による賃金格差があることが前提
ベトナムでは、国内を第1~第4の地域に分類し、それぞれ異なる最低賃金が設定されています。
ブロック | 主な都市 | 最低賃金(日本円換算※) |
---|---|---|
第1地域 | ハノイやホーチミンの都市部など | 496万ドン(29066.57円) |
第2地域 | 第1地域の郊外やダナン市など | 441万ドン(25843.46円) |
第3地域 | フーリー市などの地方都市 | 386万ドン(22620.36円) |
第4地域 | 上記に含まれない農村部など | 345万ドン(20217.68円) |
※2025年3月レートで1ドン=0.0059円換算
また、都市部は製造業やサービス業、農村部は農林水産業が中心のため、業種による賃金格差もあります。
ベトナム統計総局の「2022年度版家計生活水準調査報告書」によると、都市部の平均所得は595万ドン、農村部は386万ドンで、農村部は都市部の約6割5分にとどまっています。
このように、地域による賃金格差はかなり大きいことが分かります。
参照元:
MINISTRY OF LABOUR|INVALIDS AND SOCIAL AFFAIRS-74/2024/ND-CP
JETRO|2022年版家計生活水準調査結果を公表、所得上昇で食生活に変化(ベトナム)
最低賃金制度の改正で近年のベトナム人の平均年収は上昇傾向にある
前述したとおり、ベトナムでは労働法により地域別最低賃金が定められています。
2022年7月には最低賃金が改定され、さらに時間単位の最低賃金も設定されました。これを受け、2024年7月からは地域別最低賃金が平均約6%の引き上げとなりました。
べトナム経済はコロナ禍により一時停滞していたものの、順調に成長しており、実質GDPも右肩上がりで上昇しています。
この好況を受け、外資の規制緩和などで経済が急成長した2010年代には及ばないとはいえ、地域別最低賃金も2018年度から2024年度まで毎年6%ほどの上昇を見せています。
2.ベトナムの生活水準と経済状況

ベトナムは急速に経済成長していますが、物価は日本の3分の1程度です。そのため、ベトナム人の平均年収の賃金は低めに見えますが、現地では一定の水準を維持することができます。
また、経済成長に伴い賃金も上昇しており、今後の変化が注目されています。
物価水準:日本の3分の1の生活費
ベトナムは日本と比べて物価が低く、物価は日本の3分の1ほどと言われています。
2025年度のNUMBEOのデータによれば、ベトナムでの生活水準は下記のとおりです。
ベトナムでの生活費用 | 平均金額(日本円換算※) | 日本での平均相場 |
---|---|---|
1食あたりの安価な外食費 | 5万ドン(約297円) | 1,000円 |
1月あたり光熱費(85平米) | 1,70万4,612ドン(約1万130円) | 2万5,839円 |
都市部の家賃(1ベッドルーム) | 9,23万2,417ドン(約5万4,864円) | 8万7,010円 |
※2025年2月レートで1ドン=0.0059円換算
これらの価格は地域や販売店により異なりますが、外食費は日本の約3分の1、光熱費は約半分、家賃も日本に比べ割安であることがわかります。
参照元:NUMBEO
Cost of Living in Vietnam. Prices in Vietnam. Updated Feb 2025
Cost of Living in Japan. Prices in Japan. Updated Feb 2025
経済成長による賃金上昇の見通し
ベトナム経済は近年好調で、2024年度は前年比7.09%の高成長を見せました。
特に製造業やサービス業の発展が顕著です。これにより、企業利益が増加し、労働者への賃金にも反映されることが予想されます。
実際にここ数年の平均所得は都市部・農村部のいずれも年々増加の一途をたどっています。
JETROビジネス短信レポートによると、ベトナム人の平均所得は2010年から2020年までの10年で約3倍の上昇となっており、高い経済成長率から今後もその傾向は続くと予測できます。
参照元:JETRO |2020年版ベトナム家計生活水準調査結果の速報を公表(ベトナム)
業種別の賃金相場

2022年度のベトナムにおける就業状況では、賃金労働者は5,030万人で、その内訳は農林水産業が27.7%の1,390万人、工業及び建設業が33.4%の1,680万人、サービス業が40%弱の1,960万人となっています。
業種別の賃金状態を見ると、農林水産業は月収約392万ドン、鉱工業・建設業は約766万ドン、サービス業は約797万ドンです。
製造業やサービス業はベトナム経済を牽引している業種であるため、今後も賃金上昇が見込まれます。
参照元:
国際労働財団|2022年 ベトナムの労働事情 (ラオス・ベトナムチーム)
JETRO|第3四半期の雇用と平均月収、鉱工業・建設業を中心に増加(ベトナム)
3.日本企業がベトナム人材を採用するメリット

ベトナム人材は勤勉で定着率が高く、日本の企業文化にも適応しやすい傾向にあります。また、日本との文化的な親和性もあり、スムーズなコミュニケーションが期待できます。
さらに、技能実習制度を経た人材は特定技能制度へ移行しやすく、即戦力として活躍できる点も大きなメリットです。
特定技能と技能実習の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
高い定着率と勤勉な国民性
ベトナム人は、儒教に根付いた温厚で勤勉な国民性をもっています。
向上心をもってスキル向上に努め、職場での人間関係も大切にする意識が強いことから、定着率も高い傾向にあります。また、ベトナム人は手先の器用な人が多いのも特徴です。
さらに、ベトナム人は日本への関心が高く、日本語を学びたいという意欲が高いです。2021年時点で、63省市のうち10省市の小中高校で日本語教育が行われています。
このため、日本での業務においてもコミュニケーションが取りやすいというメリットがあります。
参照元:在ベトナム日本国大使館|ベトナムの各地方及び学校における日本語教育実施状況(2021年2月時点)
日本との文化的親和性
日本とベトナムは同じアジアの国として共通する気質があり、これは両国の歴史における儒教の影響と関係しています。
日本では、年長者への敬意や集団の調和、家族を大事にする価値観が根付いています。ベトナムでも同様に、年配者を尊重し、礼儀やマナーを重んじる文化があります。
また仕事に対して真面目でコツコツ取り組む姿勢は両国共通であり、協力して働く上で重要な要素です。
技能実習制度から特定技能への移行のしやすさ
技能実習制度と特定技能制度は、どちらも日本で外国人労働者を受け入れるための制度です。
技能実習制度は、日本で技術や知識を学び、帰国後に自国の発展に貢献することを目的としているのに対し、特定技能は日本の労働力不足を補うことを目的としています。
特定技能には、高い日本語能力と専門的なスキルが求められますが、ベトナムでは日本語学習が進んでいるため、特定技能への移行がしやすい傾向にあります。
さらに、ベトナム人は勤勉で、時間を守り、指示に正確に対応できるため、特定技能制度の労働環境に適応しやすいです。
企業が労働力補充のためにベトナム人を採用する場合、特定技能への移行を視野に入れるのは非常に有効な選択肢になります。
▼あわせて読みたい
下記の記事では、特定技能の職種16分野について解説しています。外国人材雇用に必要な情報を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
4.ベトナム人材採用時のポイント

ベトナム人材を採用する際は、面接での見極めや適切な給与設定が重要です。
また、採用後の定着を促すためには、働きやすい環境づくりや長期的なキャリアパスの設計も欠かせません。
面接時の見極め
ベトナム人を面接する際、日本語能力の高さと仕事の能力が比例しているように考えてしまいがちですが、語学力と仕事力は必ずしも一致するわけではありません。
面接時にはその人の人柄をしっかりと確認することが重要です。
見極めのポイントは以下に挙げる2つです。
適切な給与水準の設定方法
ベトナム人材の給与水準を適切に設定するためには、まず労働基準法を遵守することが大切です。
最低賃金は技能実習生を含む外国人労働者にも適用され、同一労働同一賃金の原則も厳守しなければなりません。
語学力やスキルの違いがあっても、同じ仕事に対して賃金差を設けることは禁止されているので気をつけましょう。
地域や業界の給与水準を把握し、特に技術職や専門職では経験や資格を反映した給与設定を行うことが重要です。
厚生労働省の調査によると、2023年度の技能実習生の平均賃金は18万1,700円、特定技能の平均賃金は19万8,000円です。
また、外国人労働者にも雇用保険や厚生年金、所得税、住民税などを支払う義務が生じます。給与から控除される金額があることは説明しておきましょう。
参照元:厚生労働省「(8)在留資格区分別にみた賃金 」
採用から定着までのポイント
ベトナム人材を採用し、定着させるポイントは5点あります。

長期的なキャリアパスの設計
ベトナム人材採用の目的が労働力不足の解消である場合、長期的な視点でキャリア設計をサポートしなければなりません。
日本語学習サポートや、キャリアアップのための配置転換など、成長の機会を提供することでモチベーションを維持することができるでしょう。
ベトナム人材は勤勉で学習意欲が旺盛なタイプが多いため、企業側がしっかりとサポート体制を整えることで、スキルを身につけ特定技能として長期的な定着が期待できます。
日本での労働力不足が深刻化する中、ベトナム人材の採用は企業にとって有力な選択肢です。
ベトナムの国情や労働市場を理解し、適切な給与設定を行うことで、定着率の高い採用を実現しましょう。
5.ベトナム人材の特性を理解し、有益な関係を築いていこう

日本とベトナムには大きな賃金格差がありますが、その背景には経済発展段階の違いがあります。
ベトナム人材は勤勉で日本の企業文化にも適応しやすく、技能実習制度から特定技能への移行もスムーズです。
適切な採用プロセスと給与設定、働きやすい環境づくりにより、長期的な人材確保が可能になります。
日本の労働力不足が進む中、ベトナム人材の活用は両国にとって有益なパートナーシップとなるでしょう。