深刻な高齢化と介護人材不足に直面する日本。その解決策として注目されているのが「特定技能」制度です。
本記事では、特定技能「介護」の概要から取得要件、業務範囲、受け入れ施設の条件、他の在留資格との違い、さらには長期的なキャリアパスまで、制度を活用するために必要な情報を網羅的に解説します。
- 特定技能「介護」制度の仕組みと業務範囲(施設内介護は可能だが訪問介護は現状不可)
- 資格取得の4つのルート(試験、技能実習からの移行、養成施設修了、EPA候補者)と受け入れ施設の要件
- 長期就労を見据えた介護福祉士取得と在留資格「介護」への移行方法
1.特定技能「介護」制度の概要

日本では少子高齢化が進み、介護を必要とする高齢者が増える一方で介護人材の不足が深刻な課題となっています。
その解決策のひとつとして注目されているのが、特定技能「介護」制度です。
制度の目的と背景
特定技能制度は、国内の人材不足に対応するために導入された制度で、一定の専門性や技能を持つ外国人人材を受け入れるための在留資格を設けています。2019年に運用が開始され、特定技能1号と2号に分類されます。
特定技能の対象分野は、「建設」「ビルクリーニング」「自動車整備」「外食業」などの16分野です。
「介護」もそのひとつであり、深刻な人手不足の解消に貢献する制度として期待されています。
在留期間と更新について
特定技能「介護」の在留期間は最長5年と定められています。そのため、最長5年間は介護施設で就労できますが、原則としてそれ以上の継続就労はできません。
ただし、例外として在留資格「介護」へ変更することで、引き続き日本で働くことが可能になります(詳細は後述します)。
また、特定技能の更新が必要である点にも注意が必要です。特定技能1号の在留期間は4か月、6か月、または1年ごとに設定されており、通算5年までの範囲で更新手続きを行う必要があります。
2.特定技能「介護」の業務範囲と特徴

特定技能制度では、16の分野ごとに業務範囲が定められています。
介護分野において、特定技能の外国人人材がどのような業務を担当できるのか、夜勤対応や人員配置基準とあわせて確認しておきましょう。
実施可能な介護業務
特定技能「介護」の資格を持つ外国人人材は、ほぼすべての身体介護業務に従事できます。例えば、以下のような業務を担当できます。

基本的に、日本人の介護職員と同様の業務を担えます。
参照元: 出入国在留管理庁|介護分野
夜勤対応と人員配置基準
特定技能「介護」の資格者は、1人での夜勤業務が可能です。
多くのグループホームでは1ユニットにつき1名の夜勤者が配置されることが一般的ですが、人材不足が課題です。特定技能「介護」の外国人人材を受け入れることで、夜勤スタッフの不足を補えます。
一方、技能実習「介護」の場合は、1人での夜勤業務は認められていません。ただし、複数名での夜勤であれば可能です。
訪問介護の規制と今後の展望
特定技能「介護」の資格者は、施設内の介護業務には従事できますが、訪問介護業務には携われません。
そのため、高齢者の自宅を訪問してサービスを提供する訪問介護事業所や、重度訪問介護事業所では就労が認められていません。
しかし、政府は特定技能「介護」の資格者が訪問介護に従事できるよう、制度の改正を進めています。
2024年に厚生労働省が有識者検討会を実施し、2025年から特定技能「介護」の資格者が訪問介護業務を行えるよう要件や遵守事項を整理しました。
今後、訪問介護分野でも外国人人材が活躍する機会が広がる可能性があります。
参照元: 出入国在留管理庁|介護分野
3.特定技能「介護」の取得要件

特定技能「介護」を取得するためには、技能試験と日本語試験に合格する必要があります。
ただし、以下のいずれかの条件を満たせば、試験が免除されます。
- 技能実習「介護」2号を修了した場合
- 介護福祉士養成施設を修了した場合
- EPA介護福祉士候補者として在留期間を満了した場合
以下では、それぞれの取得ルートについて解説します。
参照元:厚生労働省|介護分野における特定技能外国人の受入れについて「技能試験・日本語試験免除対象者」
試験による資格取得ルート
特定技能「介護」1号を取得するためには、技能試験と日本語試験に合格する必要があります。
技能試験とは、「介護技能評価試験」で、介護に関する基礎知識やコミュニケーション技術、生活支援技術などが問われます。この試験は日本国内以外にも12の実施国で行われます。
開催国一覧
バングラデシュ、カンボジア、インド、インドネシア、日本、モンゴル、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカ、タイ、ウズベキスタン、ベトナム
受験可能な言語
日本語、英語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、ビルマ語、モンゴル語、ネパール語、クメール語、中国語、ウズベク語、ベンガル語
日本語試験は、以下の2つの試験に合格する必要があります。
介護日本語評価試験は日本語で実施され、介護に関連する用語・会話・文書の理解に関する問題が出題されます。
参照元:
厚生労働省「介護技能評価試験」試験実施要領
厚生労働省「介護日本語評価試験」試験実施要領
技能実習からの移行ルート
一定の条件を満たせば、技能実習「介護」から特定技能「介護」へ移行できます。移行の条件は以下のとおりです。
「技能実習2号を良好に修了していること」とは、技能実習を計画に従い、通算で2年10か月以上修了していることを指します。
参照元:出入国在留管理庁
外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組 p.26
特定技能制度に関すQ&A Q49
介護福祉士養成施設修了ルート
介護福祉士養成施設を修了した場合、介護技能評価試験や日本語能力試験を改めて受ける必要はありません。
養成課程を通じて、介護に必要な知識・技能や、日本語を用いたコミュニケーション能力を十分に習得しているとみなされるためです。
介護福祉士養成施設とは、介護福祉士の資格を取得するための、厚生労働大臣または文部科学大臣の指定を受けた高等教育機関です。
4年制大学、短期大学、専門学校、1年課程の専攻科が該当します。
EPA介護福祉士候補者ルート
EPA介護福祉士候補者とは、日本の介護施設で働きながら、介護福祉士の資格取得を目指す外国人人材です。
日本で4年間EPA介護福祉士候補者として「適切に就労した」場合、介護技能評価試験や日本語能力試験が免除され、特定技能「介護」を取得できます。
「適切に就労した」とは、直近の介護福祉士国家試験の結果通知書において、以下の条件を満たす場合です。
これらの条件を満たしているかどうかは、地方出入国在留管理官署で確認されます。
参照元:厚生労働省「在留資格『特定技能1号』への移行について」
4.受け入れ施設の要件と注意点

特定技能「介護」の資格を持つ外国人人材を受け入れるためには、施設が満たすべき要件があります。
スムーズな受け入れを実現するために、必要な基準や注意点をしっかり把握しておきましょう。
施設基準と必要な体制整備
特定技能「介護」の資格者を受け入れられるのは、介護業務を行う事業所に限られます。
主な業務内容は身体介護およびそれに付随する支援業務であり、訪問介護は対象外となる点に注意が必要です。
また、初めて特定技能「介護」の資格者を雇う場合、「介護分野における特定技能協議会」への加入が義務付けられています。在留資格を申請する前に、加入手続きを済ませておきましょう。
参照元:厚生労働省|介護分野における特定技能外国人の受入れについて「3.介護分野における特定技能協議会」
登録支援機関の活用方法
特定技能「介護」の資格者を受け入れる際は、支援計画書の作成が必須となります。
支援計画書には、以下のようなサポート内容や実施方法10項目を具体的に記載する必要があります。
支援計画書に記載する項目 | 内容 |
---|---|
支援責任者の情報 | 氏名・役職を明記し、支援の責任者を特定する。 |
登録支援機関 | 外部の登録支援機関に委託する場合、その情報を記載。 |
事前ガイダンス | 雇用契約締結後、在留資格申請前に、労働条件・業務内容・入国手続きなどを説明。 |
出入国時の送迎 | 入国時は空港から住居や勤務先へ、帰国時は空港の保安検査場まで同行。 |
住居確保・生活サポート | 住居の手配(社宅提供・保証人対応)、銀行口座開設、携帯契約などを支援。 |
公的手続きの同行支援 | 住民登録、社会保険、税金の手続きなどをサポートし、必要に応じて同行。 |
日本語学習支援 | 日本語学校の案内、学習教材やオンライン講座の情報提供を行う。 |
相談・苦情対応 | 職場や日常生活に関する相談・苦情を、理解しやすい言語で対応し、助言や指導を実施。 |
日本人との交流促進 | 地域のイベントや自治会活動の参加を支援し、地域との交流を促進。 |
転職支援(雇用契約解除時) | 企業都合での契約解除時に、新たな就職先の紹介や推薦状の作成、求職活動支援を実施。 |
定期面談と行政機関への報告 | 3か月に1回以上の面談を実施し、問題があれば適切な機関へ報告。 |
支援計画書の作成や支援の実施が難しい場合は、登録支援機関の活用を検討しましょう。
外部の登録支援機関に委託すれば、支援計画書の作成や各種申請手続き、実際の支援業務までを任せることが可能です。
受け入れ人数の上限規定
特定技能「介護」の資格者の受け入れには、上限規定が設けられています。
受け入れ可能な外国人人材の数は、日本人の常勤職員数を超えてはならないと定められているため、注意が必要です。
なお、この上限は事業所単位で適用されます。事業所ごとに受け入れ可能な人数を確認し、適切に運用しましょう。
参照元:出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」p.8 Q33
5.他の介護人材の在留資格との違い

介護人材の在留資格には、特定技能「介護」以外にも複数の種類があります。それぞれの違いを把握し、適切な受け入れを検討しましょう。
在留資格「介護」との比較
在留資格「介護」は、介護福祉士養成施設を修了し、国家資格である介護福祉士を取得することで得られます。特定技能とは異なり、訪問介護も可能です。
以下は、特定技能「介護」と在留資格「介護」の違いについて一覧にしたものです。
違い | 特定技能「介護」 | 在留資格「介護」 |
---|---|---|
目的 | 人手不足解消のため、即戦力となる介護人材を確保 | 専門職として介護業務を長期的に担う人材を確保 |
資格要件 | ①特定技能1号の介護技能測定試験に合格 ②日本語能力試験(N4以上)に合格 | ①介護福祉士の資格を取得 ②日本語能力試験の要件なし |
雇用形態 | 有期雇用(在留期間の上限5年、家族帯同不可) | 無期雇用(在留期間の制限なし、家族帯同可) |
業務範囲 | 身体介護、生活援助など、基本的な介護業務 | 身体介護、生活援助に加え、リーダー業務や指導も担当可能 |
家族帯同 | 不可 | 可能(配偶者・子ども) |
在留期間 | 1年・6か月・4か月ごとに更新(最長5年) | 1年・3年・5年ごとに更新(無制限) |
取得後のキャリア | 介護福祉士資格を取得すれば「介護」在留資格への変更が可能 | 継続して介護職に従事可能 |
参照元:出入国在留管理庁|在留資格「介護」
EPA介護福祉士候補者との比較
EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者は、インドネシア・フィリピン・ベトナムから、在留資格「特定活動」として介護施設で就労・研修を行いながら、4年以内に介護福祉士の合格を目指します。
試験に合格すれば在留資格「介護」への変更が可能です。
参照元:出入国在留管理庁|在留資格「特定活動」
技能実習「介護」との比較
技能実習制度は、日本の技術を海外に移転することを目的としています。
技能実習「介護」では、最長5年間の在留が可能ですが、母国への帰国が前提です。また、日本語能力試験(N4以上)や職歴要件を満たす必要があります。
技能実習2号を良好に修了すれば、特定技能「介護」への移行も可能です。
参照元:厚生労働省
「技能実習制度 運用要領~ 関係者の皆さまへ ~」
「技能実習生に関する要件」
6.特定技能「介護」のキャリアパス

特定技能「介護」のキャリアパスとして、介護福祉士を取得し、在留資格「介護」への移行が挙げられます。
長期的なキャリア形成を支援し、貴重な人材の育成・定着につなげることが可能です。
在留資格「介護」への移行方法
特定技能「介護」から在留資格「介護」へ移行するには、介護施設で働きながら、介護福祉士国家試験に合格することが必要です。
介護福祉士国家試験の受験資格には、以下のいずれかを満たすことが求められます。
参照元:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター|介護福祉士国家試験
介護福祉士資格取得支援
在留資格「介護」への移行には、介護福祉士の資格取得が不可欠です。
外国人人材に長く働いてもらうためには、事業所が積極的に支援を行うことが重要です。
支援の例として、以下のような取り組みが挙げられます。

介護福祉士は国家資格であり、十分な学習時間を確保しなければ合格が難しいため、働きながら勉強しやすい環境を整えることが大切です。
長期的なキャリア形成の可能性
外国人人材が日本で長く働き続けるには、将来のキャリアを描ける環境が必要です。
明確なビジョンが持てなければ、母国への帰国や他施設への転職につながる可能性があります。
介護業界では今後さらに人手不足が深刻化すると予測されており、人材確保の競争が激化しています。
慢性的な人手不足は、介護サービスの品質低下や職場環境の悪化につながるため、優秀な外国人人材を確保・定着させることが不可欠です。
そのためにも、キャリア形成を支援できる体制を構築し、外国人人材が安心して働き続けられる環境を整えることが重要です。
7.外国人介護人材の確保と定着に向けて

特定技能「介護」制度は、深刻化する介護人材不足を解消するための重要な施策です。
本記事で解説した制度の概要、資格取得方法、業務範囲、受け入れ条件を理解し、適切に活用することで、質の高い外国人介護人材の確保が可能になります。
さらに、介護福祉士資格取得支援を通じて長期的なキャリア形成を支援することで、貴重な人材の定着にもつながるでしょう。