日本の労働力不足を解消するために導入された「特定技能制度」。外国人労働者を受け入れるための在留資格として、技能レベルに応じた2種類の区分と16の産業分野が設定されています。
本記事では、特定技能1号と2号の違い、対象となる職種の詳細、そして企業が外国人労働者を受け入れる際の手続きについて解説します。
- 特定技能1号と2号の違いと、それぞれが対象とする16の産業分野の具体的な業務内容
- 2024年に新たに追加された自動車運送業・鉄道・林業・木材産業の4分野の概要
- 特定技能外国人を雇用するための申請手続きと今後の受け入れ見込み数の展望
1.特定技能制度の基本と対象職種について

「特定技能」は、日本で働く外国人労働者に与えられる在留資格のひとつです。この制度では、従事できる業種や業務内容が明確に定められています。
特定技能外国人を採用する際には、制度の中身を十分に理解し、自社が受け入れ可能な分野に該当しているのかを確認することが重要です。
特定技能1号と2号の違いと受け入れ可能な職種
特定技能には、特定技能1号と特定技能2号の2種類があります。
いずれも、所定の技能試験および日本語能力試験に合格した人材に対して与えられる在留資格ですが、その違いは主に技能習熟度にあります。
特定技能1号は、専門的な技能を持つことを求められますが、特定技能2号はさらに熟練した技能や管理能力を求められます。
そのため特定技能2号を持つ外国人は、1号に比べてより高度な業務に従事でき、受け入れ可能な職種や業務範囲も異なります。
また、在留期間にも違いがあります。特定技能1号では最長5年という在留期間の上限がありますが、2号では定期的に資格更新を行うことで上限なく日本に在留でき、条件によっては家族の帯同も可能です。
特定技能1号の受け入れ分野は12分野で、2号の受け入れ分野は、そのうち介護分野を除く11分野です。2024年には、1号にさらに4つの分野が追加されました。
各分野の詳細は後ほど詳しく解説します。
特定技能における職種と業務区分の関係性
特定技能の受け入れ可能な分野では、技能レベルに応じた業務区分や業務内容が詳細に定められています。
従事する職種に関連する作業であれば、業務範囲として認められ、運行管理者や国家資格保有者などの指導・管理の下で幅広い業務に従事できます。
例えば自動車整備の職に従事している場合、主な業務は点検整備ですが、整備内容の説明や洗車、ETCの取り付け、構内の清掃、設備機器の清掃作業なども関連業務に含まれます。
全く関連性のない業務は従事できませんが、定められた範囲において幅広く業務に対応できるのが特定技能のメリットです。
2.既存の特定技能12分野の詳細解説

特定技能の受け入れ分野は、特に労働力不足が深刻化している12の分野で定められています。
これらは「特定産業分野」と呼ばれており、それぞれ詳細な業務区分が定められています。
既存の12の特定産業分野
- 介護分野
- ビルクリーニング分野
- 工業製品製造業分野(素形材・電気電子情報関連製造業・産業機械分野)
- 建設分野
- 造船・舶用工業分野
- 自動車整備分野
- 航空分野
- 宿泊分野
- 農業分野
- 漁業分野
- 飲食料品製造業分野
- 外食業分野
以下にて、それぞれの分野について紹介していきます。
介護分野の業務内容と注意点
特定技能の介護分野は他の分野と異なり、現時点では特定技能2号の対象にはなっていません。
介護の高い技能を持つ外国人は在留資格「介護」を有しているため、介護分野での業務は、基本的に「特定技能1号」もしくは「介護」を有した人材によって担われます。
特定技能1号で介護分野に従事する人材は、介護業務および関連業務に従事し、食事補助や入浴補助などを行います。
ただし、業務は施設内に限定されており、訪問介護は対象外となるため注意が必要です。
建設分野における3つの主要業務区分
建設分野は、土木施設や商業施設、電気通信工事までさまざまな専門性を必要とする分野です。
そのため、主要業務を3つに細分化し、適切な技術を持つ労働者を配置できるように業務区分が設定されています。
区分 | 主な業務内容 |
---|---|
土木区分 | 土木施設の新設、改築、維持、修繕などに関する業務 |
建設区分 | 建築物の新設、増築、改築または移転、修繕などに関する業務 |
ライフライン・設備区分 | 電気通信、水道、ガス、電気その他ライフライン設備の整備、設置、修理などに関する業務 |
なお、すべての業務内容は指導者の指示や監督に基づくものとなります。
製造業3分野の統合と具体的な仕事内容
工業製品製造業分野は、これまで「素形材」「電気電子情報関連製造業」「産業機械」という独立した特定産業分野でした。
しかし、2022年5月に手続きの簡略化や受け入れ人数上限を増加させるため、これらの3分野が統合されました。
2024年には、特定技能1号が従事する業務区分に7区分が追加され、合計で10区分の業務が設定されています。
具体的な業務区分は次のとおりです。
- 機械金属加工
- 電気電子機器組立て
- 金属表面処理
- 紙器・ダンボール箱製造
- コンクリート製品製造
- RPF製造
- 陶磁器製品製造
- 印刷・製本
- 紡織製品製造
- 縫製
その他9分野の業務範囲と特徴
ここでは、その他9分野の業務区分と、主な業務内容を紹介します。
ビルクリーニング分野
- 建物内部の清掃
造船・舶用工業分野
- 造船区分/造船業務
- 舶用機械区分/舶用機械製造
- 舶用電気電子機器区分/舶用電気電子機器製造
自動車整備分野
- 自動車の点検整備、特定整備にかかる基礎的な業務
航空分野
- 空港グランドハンドリング区分/航空機の地上走行支援、手荷物・貨物取扱
- 航空機整備区分/機体・装備品の整備
宿泊分野
- 宿泊施設の受付、企画・広報・接客、レストランなどの宿泊サービス提供
農業分野
- 耕種農業区分/栽培管理・農産物の出荷・選別
- 畜産農業区分/飼養管理、畜産物の出荷・選別
漁業分野
- 漁業区/漁具の製作・管理、水産動植物の探索・採取・処理、漁労機械の操作など
- 養殖業区/養殖資材の製作・管理、養殖水産動植物の育成・管理・収穫・処理など
飲食料品製造業分野
- 酒を除く飲食料品の製造・加工、安全衛生確保
外食業分野
- 飲食物調理・接客・店舗管理
3.新規追加された4分野の概要

2024年4月には対象分野に自動車運送業・鉄道・林業・木材産業の4分野が追加され、各分野の受け入れ見込み人数も再設定されました。
追加となった4分野においては、特定技能1号のみ受け入れが可能です。
自動車運送業
自動車運送業は、車両の種類に応じて3つの業務区分に分けられています。
バス運転者区分
乗合バスや貸切バスなどの運行前後の車両点検、旅客の輸送、乗務記録作成など
タクシー運転者区分
タクシーの運行前後の車両点検、旅客の輸送、乗車記録作成など
トラック運転者区分
トラックの運行前後の車両点検、貨物の輸送、乗車記録作成など
鉄道
鉄道は専門性に応じて5つの業務区分が設定されています。
軌道整備区分
軌道などの新設や改良、修繕などに関する作業や検査業務
電気設備整備区分
電路設備、信号保安設備、踏切保安設備などの新設や修繕などに関する作業や検査業務
車両整備区分
鉄道車両の整備に関する作業
車両製造区分
鉄道車両、鉄道車両部品製造に関する業務
運輸係員区分
駅係員、車掌、運転士など
林業
林業は森林の樹木を育てて丸太を生産し、植林を行うなどの作業に従事します。
- 苗木を植え、木々を育てる業務
- 丸太を生産する業務
また、生産した丸太での加工作業や、樹皮や木のつるを使った製造なども関連業務として行うことが認められています。
木材産業
木材産業は、木材および木製品の製造・加工業務に従事します。
主な業務には、
- 製材
- ベニア・木材チップ・合板・集成材・銘木・床板の製造
- プレカット加工
があります。
また関連業務として、原材料となる原木や資材の仕入れや製品の検査、出荷作業なども行うことが認められています。
4.特定技能職種の選び方と申請時の注意点

特定技能外国人の雇用を希望する場合、まずは募集したい職務が特定産業分野に属する業務区分に該当するのかを確認する必要があります。
また、受け入れ企業となるためには、出入国在留管理庁の「特定技能外国人受入れに関する運用要領」に従い、一定の条件を満たす必要があります。
これには法令遵守をはじめ、1年以内に解雇者や行方不明者を出していないこと、欠格事由に該当しないことなどが含まれます。
受け入れ企業の要件を満たしている場合、最適な人物を選定した後に雇用契約を結び、地方出入国在留館局(入管)への申請を行います。
特定技能外国人を選定する際には、その人物が募集する業務に適した技能検定に合格していること、および日本語能力検定に合格していることを必ず確認しましょう。
参照元:出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」
業務区分の確認方法と申請準備のポイント
特定技能外国人を受け入れたい業務が、業務区分に該当しているかを確認するには、出入国在留管理庁のウェブサイトで「特定技能1号の各分野の仕事内容」を参照する方法があります。
特定技能外国人の受け入れの流れについて、国内に在留中の外国人を雇用する場合を例に解説します。
- 受け入れに関する事前確認を行う
・募集する業務区分が該当するか、受け入れ企業としての要件を満たしているかを確認します。 - 選定した外国人が特定技能外国人の要件を満たしているかを確認する
- 雇用契約を結ぶ
- 特定技能外国人支援計画の策定を行う(1号のみ)
- 入社準備を行う
・事前のガイダンスや健康診断を実施します。 - 入管へ在留資格変更許可申請を行う
- 資格変更完了後、受け入れを開始する
在留資格変更届には、外国人支援計画書や、技能検定および日本語能力検定の合格証、特定技能外国人受け入れに関する誓約書など複数の書類が必要です。
そのため申請が許可されるまでには、通常1カ月半から2カ月ほどかかります。書類に不備があると、さらに時間がかかる恐れがあるので注意しましょう。
不安な場合は、行政書士などの専門家に依頼する方法もあります。
自社で申請をしたいとお考えなら、入管オンライン申請について詳しく書かれたこちらの記事をおすすめします。
受け入れ見込み数の状況と今後の展望
特定技能制度では、特定産業分野ごとに5年間の受け入れ見込み数を設定し、それを受け入れ上限数として運用しています。
2024年4月に受け入れ見込み数再設定の時期を迎え、今後5年間の受け入れ見込み数が新たに設定されました。
再設定された数値は、ますます深刻化する労働力不足を見据えて、16分野合計で82万人の受け入れ見込み数(受け入れ上限数)が設定されています。
特に大きな受け入れ枠が設定されているのは、
- 工業製品製造業分野(5年間で173,300人)
- 介護分野(5年間で135,000人)
- 飲食料品製造業(5年間で139,000人)
です。
次に、これまでの特定技能外国人の受け入れ状況は、出入国在留管理庁「特定技能運用状況」によると、在留特定技能外国人の総数は2023年6月末で173,101人、2023年12月末で208,462人、2024年6月末で251,747人と上昇しています。
将来的には少子化による労働力の減少が影響し、さらなる対象業種の拡充や受け入れ人数の拡大が行われる可能性があります。
5.特定技能制度|多様な人材との共存が日本経済成長の鍵に

特定技能制度は日本の深刻な労働力不足に対応するため、今後さらに拡充される見込みです。
先述したように、2024年時点で16分野合計82万人の受け入れ見込み数が設定され、在留者数も着実に増加しています。
企業は自社の業種が対象分野に該当するか確認し、適切な手続きを踏むことで、技能を持つ外国人材の力を活かせます。
今後は、多様な人材との共存が日本の経済成長の鍵となるのではないでしょうか。