人手不足が深刻な運送業界において、外国人ドライバーを採用できる特定技能「自動車運送業」が大きな注目を集めています。しかし「安全に運転できるか」「手続きが難しいのでは」と懸念されるケースも少なくありません。
この記事では、採用に必要な会社の要件やビザ取得の仕組み、そして事故リスクや言葉の壁を防ぐための具体的な育て方について解説します。
- 自動車運送業で特定技能が導入された背景と、外国人が担当できる3つの業務区分
- 外国人が特定技能1号を取得するための条件と、会社側がクリアすべき厳しい5つの要件
- 免許がない海外の人を呼び寄せる方法と、事故や言葉の壁を防ぐための現場の定着支援対策
1.自動車運送業の「2024年問題・2027年問題」と特定技能追加の背景

トラックやバス、タクシーの運転手不足は、日本の物流や移動を揺るがす重大な問題です。なぜ今、外国人材の受け入れが求められているのか、業界の現状と特定技能が導入された大本の理由について解説します。
運送業界が直面する構造的な人手不足と5年間の受入枠
2024年4月の時間外労働960時間規制の適用(いわゆる「2024年問題」)に加え、現役ドライバーの40〜54歳層が全体の45.2%を占めることから、大量退職期が重なる「2027年問題」が現実的なリスクとして迫っています。
こうした構造的な人材不足に対し、政府は2024年3月の閣議決定により在留資格「特定技能1号」の対象分野に「自動車運送業」を追加しました。
2029年3月末までの5年間における受け入れ上限は最大2万4,500人(トラック:1万9,000人、タクシー:4,000人、バス:1,500人)と設定されています。
参考:国土交通省 トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります!、働き方改革関連法に関するハンドブック
業界の実態:人手不足感と採用消極性のギャップ
株式会社Azoopが2025年9月に実施した運送事業者向け調査(回答111社)では、以下の実態が明らかになっています。

| 調査項目 | 結果 |
|---|---|
| ドライバー不足を強く感じている | 83.7% |
| 外国人ドライバー採用に消極的 | 64.8% |
| 具体的な採用準備に着手していない | 47.7% |
| 消極的理由の最上位(言語・運転技術への不安) | 66.2% |
参考:共同通信PR WIRE 株式会社 Azoop、運送従事者の実態調査を実施。「特定技能外国人ドライバー採用」は6割超が採用に消極的。
人手不足を強く認識しながら採用行動に移れない主因は、安全面・コミュニケーション面への具体的な懸念です。この記事では、こうした実務的な障壁の解消策も後段で詳述します。
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運送業界における深刻な人手不足と「2024年問題」の全体像をさらに深く知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。外国人材を有効に活用するための具体的な手法やアプローチを網羅して解説しています。
2.特定技能「自動車運送業」で外国人が従事できる業務と3つの区分
外国人のドライバーを雇うといっても、どんな車でも自由に運転していいわけではありません。
特定技能の制度では、仕事の内容に合わせて3つのグループ(区分)に分かれており、それぞれに厳しいルールが決められています。

トラック区分(貨物自動車運送事業)
緑ナンバー(営業用)トラックによる貨物輸送を主業務とし、荷物の積み込み・配送・荷卸し・日常点検等の付随業務を含みます。必要免許は車両区分に応じた第一種運転免許(普通・準中型・中型・大型)です。
バス区分(一般乗合・一般貸切旅客自動車運送事業)
路線バスや観光バス等、旅客を乗せて運行する業務です。乗客の安全確保、車内案内、乗車券確認、運行前点検・車両整備が業務範囲に含まれます。第二種運転免許(大型二種等)の取得が必須となります。
タクシー区分(一般乗用旅客自動車運送事業)
普通タクシー・ハイヤー・福祉タクシー等の運行業務です。接客対応・メーター管理・決済処理・運行記録の作成等を一名で担います。
こちらも第二種運転免許(普通二種)が必要であり、高水準の日本語コミュニケーション能力が実務上求められます。
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トラック・バス・タクシーそれぞれの区分における、就労ビザ取得の要件や流れを詳しくまとめたガイドがこちらの記事です。実務に直結する各資格の基準をより具体的に把握したい企業様は、ぜひご一読ください。
3.外国人が特定技能1号を取得するための3つの要件
外国人が日本でドライバーとして「特定技能1号」のビザ(在留資格)を得るためには、超えなければならない3つの大きなハードルがあります。これらのどれか1つでも欠けていれば日本で働くことはできません。

要件①:自動車運送業分野 特定技能1号評価試験への合格
従事する区分(トラック・バス・タクシー)ごとに設けられた評価試験(学科+実技)への合格が必要です。
試験は日本語のほか各国語での受験が可能ですが(タクシー試験については、第二種運転免許の学科試験に準拠した内容について現地語が併記される)、専門知識や業務知識が問われるため、事前学習が重要です。
一般財団法人日本海事協会が試験を実施しています。
2024年12月〜2025年6月末の累計実績(日本海事協会・NX総合研究所調査)は以下のとおりです。

| 区分 | 延べ受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| トラック | 2,167名 | 1,559名 | 72% |
| タクシー | 207名 | 137名 | 66% |
| バス | 238名 | 206名 | 87% |
参考:株式会社NX総合研究所 図で見る!トラックドライバーの外国人労働者の動向
要件②:日本語能力の証明(区分により異なる水準)
日本語能力試験(JLPT)または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)による証明が必要です。要求水準は以下のとおりです。
| 区分 | 求められる日本語水準 | 主な理由 |
|---|---|---|
| トラック | N4以上(JFT-Basic含む) | 荷主・運行管理者との基本的な意思疎通 |
| バス・タクシー | 原則N3以上 | 旅客対応・緊急時対応に高い会話力が必要 |
要件③:日本の運転免許証の取得(第一種または第二種)
他分野の特定技能と大きく異なる点として、公道での乗務に必要な日本の運転免許証を実際に保有していることが絶対条件となります。
母国での運転経験の長さに関わらず、日本の免許センターでの手続き(外免切替)または自動車教習所を通じた取得が必須です。
4.免許未取得の海外人材を受け入れる「特定活動55号」の活用と2段階フロー

日本の運転免許を持たない海外在住者を採用する場合、特定技能1号への移行前に「特定活動55号」を経由する2段階フローが必要です。手順と実務上の留意点を整理します。
特定活動55号(準備活動)と特定技能1号の主な相違点
海外にいる優秀な人材をドライバーとして採用したい場合、最初から「特定技能1号」のビザを申請することはできません。なぜなら、その外国人はまだ日本の運転免許を持っていないからです。
そこで登場するのが、「特定活動(55号・自動車運送業分野の特定技能1号移行準備活動)」という、いわば「準備期間のための特別なビザ」です。
この2つのビザの一番の違いは、「公道で一人で運転して、普通にお金をもらう仕事ができるかどうか」です。特定技能1号になれば、日本人と同じように一人のプロのドライバーとして働けます。
| 比較項目 | 特定活動55号(準備活動) | 特定技能1号 |
|---|---|---|
| 目的 | 日本での免許取得・研修期間 | 本格的な業務従事 |
| 公道での単独乗務 | 不可 | 可 |
| 滞在期限 | 最長1年(更新不可) | 通算最長5年 |
| 特定技能5年へのカウント | カウントされない | カウントされる |
最初は「特定活動55号」という臨時のビザで日本に入国してもらい、日本に来てから期限内に免許を取得し、免許の取得後に「特定技能1号」へビザを切り替える、という「2段階(二重のステップ)」のフローを踏むことになります。
参考:出入国在留管理庁 自動車運送業分野の「特定技能1号」になるための準備活動(日本の運転免許取得又は新任運転者研修の修了)を希望する場合(「特定活動」(特定自動車運送業準備))
海外から入国して一人乗務(独り立ち)するまでの4ステップ
海外から人材を呼び寄せて、一人のプロのドライバーとして独り立ちしてもらうまでの流れは、大きく分けて以下の4つのステップになります。

- 海外での選考・採用内定 → 特定活動55号のビザ申請・入国
- 入国後、自動車教習所への入校または外免切替手続きにより日本の運転免許を取得(期限:入国から1年以内)
- 評価試験・日本語試験の合格証とともに特定技能1号への在留資格変更申請
- 特定技能1号ビザ発給後、新任運転者研修を経て一人乗務開始
最多の申請不備事例:外免切替における「本国3ヶ月居住要件」の証明
外国免許を日本の免許に切り替える際、「当該外国免許取得後、その国に通算3ヶ月以上居住していたこと」をパスポートの出入国スタンプ等で証明する必要があります。
近年は自動ゲートの普及によりスタンプが取得できないケースも多く、母国の住民票・在職証明書・出入国記録証明書等の追加書類を現地から取り寄せる対応が必要となります。
採用決定前に、候補者のパスポートで居住期間の証明可否を必ず確認してください。
5.受け入れ企業(運送会社)がクリアすべき5つの要件

外国人を受け入れるには、企業側も法令上の要件をすべて充足している必要があります。未整備の項目があると申請自体が受理されないため、事前の自社チェックが不可欠です。
①緑ナンバー(自動車運送事業)の許可取得
一般貨物自動車運送事業、一般旅客自動車運送事業等の許可を国土交通省(地方運輸局)から取得していることが前提条件です。
申請の際には、会社が持っている「一般貨物自動車運送事業の許可書」などのコピーを提出し、公的に認められた会社であることを証明する必要があります。
②「働きやすい職場認証制度(一つ星以上)」または「Gマーク(安全性優良事業所)」の取得

受け入れ企業は、以下いずれかの第三者認証を保有している必要があります。
未取得の場合は、就業規則の整備・労働時間管理の適正化など、労働環境の整備から着手する必要があります。
| 認証制度 | 主な審査内容 | 管轄 |
|---|---|---|
| 働きやすい職場認証制度(一つ星以上) | 長時間労働の削減・賃金透明性・ハラスメント防止等 | 国土交通省・日本海事協会 |
| Gマーク(安全性優良事業所) | 安全運行への継続的な取り組みの評価 | 全日本トラック協会 |
③雇用形態:直接雇用・フルタイム限定(労働者派遣は一切不可)
自動車運送業における特定技能外国人の受け入れは、「直接雇用かつフルタイム(週5日・週30時間以上を原則)」に限定されます。
労働者派遣法上の許容の有無にかかわらず、派遣形態による受け入れは全面的に禁止されています。違反した場合、受け入れ資格の5年間停止等の制裁が科されます。
また、「フルタイム」とは、基本として週5日、週30時間以上、自社の日本人ドライバーと同じスケジュールでしっかり働くことを指します。アルバイトのような短い時間での雇用は認められません。
④「自動車運送業分野特定技能協議会」への加入(雇用開始から4ヶ月以内)
外国人の雇用開始後4ヶ月以内に、国土交通省等が運営する同協議会への加入が義務付けられています。
加入の手続き自体は、インターネットなどから行うことができますが、期限内の加入を怠ると在留資格の取り消しリスクがあるため、採用スケジュールと連動した手続き管理が必要です。
⑤新任運転者研修の確実な実施と記録保管
外国人ドライバーを一人乗務させる前に、道路交通法および運行管理規程に基づく新任運転者研修(座学・横乗り指導等)を実施し、その記録を保管することが法律上義務付けられています。
研修の省略・簡略化は行政処分の対象となります。
6.採用ルート別:期間・費用相場の比較(海外招聘 vs. 国内スカウト)

外国人ドライバーの採用ルートは大きく2つあり、期間・費用・リスクの特性が異なります。自社の採用計画や予算規模に応じて適切なルートを選定してください。
| 比較項目 | 海外招聘ルート(特定活動55号スタート) | 国内スカウトルート(在留資格変更) |
|---|---|---|
| 対象者 | ベトナム・インドネシア等の海外在住者 | 留学生・技能実習修了者・永住者等 |
| 採用〜独り立ちまでの期間 | 約10〜14ヶ月 | 約2〜4ヶ月 |
| 初期費用の目安(紹介費・ビザ等) | 50万〜80万円 | 30万〜60万円 |
| 教習所費用 | 30万〜50万円(要会社負担) | 免許保有の場合は不要〜20万円 |
| 主なメリット | 若手人材をゼロから自社文化で育成可 | 日本での生活・日本語に慣れており即戦力性が高い |
| 主なリスク | 免許未取得による期限内未完了リスク | 転職市場での競合が激しい |
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7.事故リスク・言語の壁・早期離職を防ぐ「現場定着のための3つの対策」

採用後の現場運用において、安全管理・コミュニケーション・定着率の3点が経営上の主要リスクとなります。各リスクへの具体的な対応策を実務的な観点から解説します。
8.制度を正しく理解し、外国人ドライバーを長期的な戦力として活用しよう
特定技能「自動車運送業」は、運行管理のルールや職場認証の取得など守るべき法律が多く、準備にも一定の費用がかかります。
しかし、2024年・2027年問題が課題の今、いち早く体制を整えて外国人材を迎えた会社こそが、長期的な人材確保と事業継続において重要な選択肢となります。
外国人ドライバーの採用は、単なる労働力の補填ではなく、事業の持続可能性を高める重要な戦略です。